国内トップレベルの小屋ビルダー紹介、ヤドカリ本『アイムミニマリスト』

小屋つながりで読んでみたヤドカリのもう1冊の本『アイムミニマリスト』。

『未来住まい方会議』はその名の通りヤドカリの自伝的内容だったが、『アイムミニマリスト』の方は、4人プラスアルファ国内トップレベルとおぼしき小屋ビルダーとその自邸を紹介した本だった。取り上げられている小屋は、はっきり言ってモノマガジンに載っていそうな小屋キットとは次元が違うクオリティーだ。

日本漆喰協会の作品賞を取った伝統的工法のスモールハウスや、ステンドグラスから手作りされたストローベイル工法のオフグリッドハウスなど、小屋カルチャーの中でも最高水準に位置するあこがれの住まいといえる。しかも手掛けているのがどちらも女性で、かたや建築家、もう一人は農業から大工まで一人でこなす何でも職人というのがさらに衝撃的だ。万人が真似できるわけでないが、巻頭にカラー写真も豊富なのでプレミアムな小屋ライフを眺めて目の保養とするのもよいだろう。

小屋先駆者の思考を垣間見る

鈴木菜央さんのトレーラーハウスは『未来住まい方会議』の方でも取り上げられていて重複する部分があるが、建設過程よりそこに住むにいたった考え方がインタビューで述べられていて興味深い。「全部経済に置き換えてしまったら、子供を育てることが割にあわないことになってしまう」「小屋に住もうという話ではなくて、考え方として小さく暮らす」「資本主義もハックしてうまく使えばいいと思う」など、自分も日ごろ考えていたテーマで共感を持てた。あくまで経済合理性だけで判断すれば、子育ても小屋暮らしも二拠点住居も不経済かもしれないが、そこから得られる経験やコミュニティー全体への貢献など長期的な視野ではメリットがあるかもしれない。

長野の諏訪に暮らしている増村さんという女性は、味噌や醤油の食材だけでなく「着るものも綿から育てて…」と語っているのがすごい。半農半Xの著者も同じようなことを書いていたが、自給自足を極める人のバイタリティーは尋常でないと思う。

伝統工法で土蔵っぽい見た目の「六畳軒」

宮崎県、内田さんがつくられた「六畳軒(むじょうけん)」という小屋は、もはや作品と呼べるレベルのタイニーハウスだ。コンパクトな蔵のような住居の中に、珪藻土の土壁や筋交いなど、伝統工法と現代工法をミックスしたさまざまな技術が詰め込まれている。

もともとはシックハウス症候群の対策で新建材をあきらめたらしいが、小さい家だからこそ総額400万円という低予算で伝統工法を取り入れられたのだろう。「安い、掃除が楽」という一般的な小屋のメリットに加えて「健康的で身体にいい小屋」というのもテーマになりそうだ。体が元気であれば、ツリーハウスなど日常的に上り下りするだけでいい運動になりそうだし…。

佐賀の本山さんの住居は、小屋と呼ぶには拡張され過ぎて豪邸に見えるが、この規模でほぼすべて女性のDIY、しかも完全オフグリッドというのが驚きだ。ご本人の経歴をたどると、大工の学校に通って工務店で働き、農家に住み込みで自給自足を学んだとのことで、田舎暮らしのエキスパートともいえる。どこの農村にも「農機具の修理から小屋の建設まで何でもこなす達人的おじいちゃん」というのはいそうだが、それが若い女性というのが新しい。いずれ「小屋ガール」というカテゴリーも出てきそうだ。

カプセルホテルを渡り歩いて働く会社員

最後のおまけ的に、小屋ではないが都心のカプセルホテルやAirbnbを渡り歩いて一部上場企業に勤める、都市型ミニマリストな方が紹介されている。1泊3,000円の宿泊費とトランクルームで月10万円という居住コストで光熱費込みなので、都心で暮らすにしては安めかなと思うが、毎日宿を探したり荷物を切り詰めたりする手間を考えるとなかなかハードだ。

「入院・手術がきっかけでミニマルな生活に好奇心を持った」というのは共感が持てるが、家を捨ててカプセルホテル暮らしまで突き詰めるのが、さすがリクルートグループ社員という印象だ。実験的なミニマリスト生活を公言している以上、おそらく仕事に支障が出ないよう、きちっとスーツを来て出社する日もあるのだろう。自分はそこまで真似できなかったが、覚悟を決めればそこまでできるのか、という驚きを覚える。

『アイムミニマリスト』に紹介されている小屋ビルダーの方々は、自分の知る限り他のメディアや書籍に出ていない、とびきりの掘り出し物という印象だった。いつか小屋を建ててみたい人にとっては、「技をきわめれば女性一人でここまでつくれるのか」と視野が広がることだろう。装丁もシンプルで美しく書斎に飾ってさまになりそうなので、上級小屋ライフの参考に一読されることをおすすめしたい。