非EXILEファンによるHiGH&LOW THE MOVIE辛口レビュー

テレビに出ている黒いダンサーといえば、ヒロとサムの見分けもつかないくらい芸能界に疎い。曲といってもZOO時代のチューチュートレインしか知らない。

にわかにEXILEに興味を持ち始め、ようやくアツシまでの初期メンバーは見分けがつくようになってきた。EXILE TRIBEとなると、三代目やGENERATIONSの区別もまだ難しい。

そんな中で、この7月に公開された映画『HiGH&LOW THE MOVIE』。メンバー総出演で「全員主役」とかいわれているので、これはエグザイルの勉強をするにはちょうどよいかと思い、映画館に足を運んでみた。

後から知ったが、EXILE以外の俳優も多数出演しているようだった。確かに鬼邪高校の関とか、見た目的にとてもEXILEでなさそうな役者も出ていた。

月刊EXILEとローリングストーン別冊で予習

家にもテレビを置いていないので、映画化前のHiGH&LOWドラマについてはまったく知識がない。本屋の雑誌コーナーに行くと、映画公開に合わせて芸能誌や男性ファッション誌は、のきなみEXILEに表紙ジャックされていた。

試しに月刊EXILEと、Rolling Stone JAPANのHiGH&LOW特集を買ってみた。

雑誌のHiGH&LOW特集

月刊EXILEの方の映画紹介は、冒頭のHIROインタビューと写真数ページだけだった。謎の不良チーム、明らかにマッドマックスのパロディと思われる武装トラックの集団とか、スチールがめちゃくちゃかっこいい。

ローリングストーンの方は主要キャストのインタビューのほかに、SWORDや敵対勢力の登場人物一覧・関係図があり、かなり勉強になった。巻末にLDHのデザイナー/コスチュームプロデューサーが、各チームの衣装コンセプトを解説している特集があって、非常に読み応えある。

ホワイトラスカルズの白づくめファッションは、やはりキューブリックの『時計じかけのオレンジ』がモチーフらしい。元ネタを知っている人には、一目で狂気の集団というイメージが湧くので、効果的な演出だったと思う。

達磨一家の和風な法被とか、カッコいいのかダサいのか微妙なラインだが、ヒップホップのMCや江戸時代にルーツがあるとか、うんちくが語られていた。さすがそのあたりはミュージックビデオで磨かれたセンスというか、EXILEの並々ならぬこだわりが感じられて、映画への期待が高まる。

キレまくりのギャング集団が仁義なき抗争に明け暮れる不条理な世界観…マンガでいえば『アキラ』や『TOKYO TRIBE』、映画なら『さらば青春の光』や『マッドマックス2』を彷彿とさせる世界観で、これをEXILEのクオリティで映画化するのだから、おもしろくないわけがない。

テレビドラマのストーリーは全然知らないが、雑誌やポスターのビジュアルで気分を盛り上げ、意気揚々と近所のMOVIXに向かった。

(以下ネタバレ)

上映開始10秒で出たくなった

毎月20日は1,100円のMOVIXデイ。平日だがレイトショーなので、仕事帰りの社会人や学生であふれかえっていることだろうと、早めにウェブ予約でチケットを押さえた。意外と中央寄りの見やすい席を取れたが、映画館に行ってみると、観客が10人くらいしかいない。

「土日興収4億8千万。週末邦画実写映画第1位」という触れ込みにしては、様子がおかしい。田舎の映画館だから案外空いているのだろうか…

HiGH&LOW映画ポスター

他の映画の予告編が終わって、本編開始。なにか朝の連ドラを連想させるようなチープな舞台セットが映って、突然爆発。キャーキャー逃げ惑う人々と、ララかナオミかE-girlsの藤井姉妹が困惑する演技が大根すぎて、これはヤバいと思った。

役者のセリフが少ないのはなぜ?

ララ役の女の子については、ヒロインの一人的扱いで出番は多いが、最初から最後まで「お兄ちゃん…」しかセリフがなかったような気がする。基本的に各チームのリーダー役、ムゲン、雨宮兄弟以外の端役はセリフが少なく、ボロが出ないよう配慮されている気がした。山王連合会の総長コブラ(岩田剛典)も、SWORD連合の中では主役級の扱いなのだが、極端な無口キャラという設定で、なにか思案気な顔を映しているだけのシーンが多い。

一方で、琥珀(AKIRA)は映画・ドラマ出演豊富。九十九(青柳翔)も劇団EXILE出身ということで、この2人はセリフも演技も堂に入っていて安心して観ていられた。韓国マフィアの李(V.I from BIGBANG)も各国語を使い分け、なかなか演技がうまい。

無敵のヒール役、ICE(ELLY)は名演

ムゲンと雨宮兄弟のトラディショナル暴走族系に比べると、新世代のチーマー集団、White RascalsとMIGHTY WARRIORSがダントツでクールだった。ホワイトラスカルズはキューブリックのパクリなので、ずるい気もする。

マイティ―の方は「音楽・ファッションをリスペクトするチーム」という設定で、まさにEXILEの真骨頂。ほかのチームは演出上、学ラン・ミリタリー風も一通りバラエティー豊かに揃えてみた、という印象だが、マイティーウォリアーズのファッションはそのままEXILEのPVから出てきたようで様になっている。

ROCKY(黒木啓司)は、サングラスをずらして睨むポーズだけで十分にリーダーの貫録が感じられたし、ELLY演じるICEは自分的に一番ツボにはまった。雨宮広斗(登坂広臣)と互角に渡り合う強さもさることながら、常に余裕を感じさせる太々しい仕草がうまい。

これは新手のミュージカルか?

これだけ魅力的な舞台設定に関わらず、ストーリーといえるものはほとんどない。すべてが「龍也を死なせた琥珀の狂気」で片づけられ、それに便乗するヤクザ勢力と、街を守るため戦うSWORD連合、という構図になっている。

逆にいえば、事前にテレビドラマを観ていない自分でも、一通りSWORDの各グループとリーダー格くらいは把握できた。その意味で、キャラ立ては非常にうまくいっていたともいえる。

観ているうちに、そもそもこれは筋書よりも、単純にアクションやファッションを楽しむ映画だという気がしてきた。彼らがなぜ闘わなければならないのか、普段どんな仕事で稼いでいるのか、とか気にしてもしょうがない。鉄パイプで殴られ、ビール瓶で頭を割られ、刀で背中を切られても死なない不死身ぶり。

脚本よりも、歌と踊りで盛り上げる新時代のエンターテイメント。EXILEのハイセンスなミュージックビデオを、映画というフォーマットに落とし込んだ、「ダンスとMC中心のミュージカル」とでもいうべき、新たな表現ジャンルを切り開いている。

集団乱闘シーンのカメラワークが白眉

普段、ダンスを踊っているEXILEメンバーが、同じノリで乱闘してみた、という感じの集団バトルシーンが一番の見せ場だ。むしろ思う存分暴れたかったために、映画をつくったともいえる。

カメラが全体を俯瞰して数百人規模のスケール感を見せつつ、同時に主役キャラに寄って決め台詞を収める。吹っ飛ばされた敵役を追ってそのまま上空に上がってから、また全体を見せて次の役者にフォーカスする、というような、淀みない連続的なカメラワークが新鮮だった。

このあたりは、ミュージックビデオで培われたノウハウが存分に生かされている。

意味不明だがカッコいいMVのような映画

ところどころで、『ぼくらの七日間戦争』を連想するような、安っぽい仕掛けも出てきて、雨宮雅貴(TAKAHIRO)のギャグと、苺美瑠狂の狂言回しも余計に思われる。九龍グループと張城も、ほかのヤクザ映画に比べるとリアリティが希薄で、ステレオタイプな印象しか受けない。

ラストの琥珀と九十九・コブラ・ヤマトの格闘シーンは、やたら長くて中だるみする。これが『仁義なき戦い』なら、ドスかチャカで一瞬で片が付く。あくまで男はこぶしで語らないと、分かり合えないらしい。

とまあ、突っ込みどころは満載だが、振り返ってみれば、ビジュアル的にはカッコいい映画だった。事前に見た雑誌の写真が決まり過ぎていて、期待が高すぎたともいえるが、ファッションセンスやキャラの引き立て方には、他に例を見ないオリジナリティーを感じた。

そもそもストーリーなどあってないようなミュージックビデオの論理を駆使して、短時間で大勢の役者の見せどころをうまく紹介できていたように思う。

EXILEファンなら大満足間違いなし。メジャー系エンタメ映画の枠を超えるぶっ飛んだ演出に、ありきたりの映画を見飽きた客層にも意外と受けるかもしれない。そんな可能性を秘めたHiGH&LOW THE MOVIEは、ぜひ映画館の大画面で楽しもう。