この10年間、システム手帳はノックスのミニ5穴システム手帳を愛用してきた。手帳に合わせて、財布も同じ黒革のL字型ウォレットを持ち歩いていた。
ブライドルレザーで有名な英国スコットランドのGLENROYAL製。たまたまDELFONICSの店頭で見つけた別注モデルは、ミニマリスト向けの小型財布として出色の出来栄えだ。長年使い込んでわかったメリットとデメリットについてレビューしたい。
いまだに小銭が必要な理由
ミニマリストの携行品としてどうしても外せないお金。日本国内でどれほど電子マネーが普及しても、思わぬところでキャッシュが必要になる。田舎の民宿とか、クレジットカードすら使えなさそうなところは事前に察しがつくのだが、街中で急に小銭が必要になるときがある。
例えばスタバやカフェ・ド・クリエ、上島珈琲やコメダ珈琲などのカフェチェーンは、独自カードやポイント以外の電子マネーを受け付けていない。家や職場の近所で常連ならプリペイドの回数券を買ってもよいが、コメダ珈琲のコーヒーチケットは発行店舗でしか利用できないという縛りがある。
スタバくらい店舗数が多くて便利なチェーンなら、独自カードにチャージしてもいずれ元は取れそうだ。というより、スタバだけはこのポイント還元全盛期にも関わらず、一切キャッシュバックのないカードを発行している強気な企業である。
システム手帳にお札だけ畳んで入れておくとか、試行錯誤を繰り返してきた。今のところ、小型の財布に最低限のカード類と優待券、1万円・1千円札を1枚ずつ、そして100円・10円・1円の硬貨を1枚ずつ入れておくというスタイルに落ち着いた。
なぜ1円玉を携帯するかというと、お会計の端数が1円だったときにお釣りをたくさんもらうのが申し訳ない(面倒くさい)からである。さすがに高額決済用の新札は持ち歩いていないが、お金のやり取りにはそういう感情面もともなうので事情が複雑だ。
小型財布の流行
このくらいの用途なら、手のひらサイズの極小財布で十分に間に合う。むしろコインケースやカードケースで代用できるかもしれない。
数根前からabrAsusのような小さく薄い財布が流行ってきて、このジャンルの選択肢が大幅に増えた。先日の日経新聞土曜版の小型革財布特集では、日ごろウォッチしていたのに「こんな製品もあったのか」と驚かされる良企画だった。
No.1~3までのメジャー製品はよいとして、それ以降のブランドは知らないものばかりだ。毎週、観光地や温泉やお土産のベストテンばかりでマンネリ気味のNIKKEIプラス1コーナーだが、この回だけは記者の気合が入りまくっていた。
10年前はここまで極端なコンセプトの薄型財布というのが存在せず、せいぜいマネークリップに革のカバーが付いた程度だった。コインとカードを入れるスペースが付くと、とたんに分厚い普通の財布になってしまう。
今回紹介するグレンロイヤルにも、小銭とカード入れ付きのマネークリップというニッチな製品は存在する。ただし国内流通していない輸入品かコードバン製だからか、お値段は格別である。
そんな中で見つけたL字型のミニジップパースは衝撃的だった。こんなに薄くて本当に使えるのか半信半疑だったが、徐々に慣れて苦にならなくなった。今でこそL字方形の財布は標準化して類似品も多く出回っているが、当時は初めて見るデザインだった。
シンプルなL字型財布の魅力
構造的には2枚の革を縫い合わせてジッパーを付けただけである。マチもないが、中身を詰め込んでいると徐々に革が伸びて膨らんでくる。
硬質なブライドルレザーも、長年使い込んでいると多少は変形するようである。まるでペローニのコインケースのようなすべすべした凸面ができて、手触りがよい。もっと柔らかい革なら伸びすぎてシルエットを保てず、不格好になってしまったことだろう。
例えばグレゴリーの財布など、アウトドアブランドから類似品がいくつも出ている。しかし同じ構造でもナイロン製だと、使い込んだあとのくたびれた姿を容易に想像できてしまい、いまいちに感じる。
ナイロン財布の値段は安いが、革製でもこのサイズなら1万円以下の勝負なので、長く使うことを考えると多少投資してもよいだろう。
内部に最低限の仕切りあり
中にはもう1枚折りたたまれた革のパーツがあり、最初は何に使うのかわからなかった。使っているうちに、ここの小銭を入れておくと、ほかのカードや紙幣に当たらず、分類できて便利だとわかった。金属のコインでカードが傷つくのを防ぐだけでなく、両サイドにカードとお札を分けるための仕切りという役割も担っている。
大きさとしては、サイズの大きい1万円札を2つ折りにして、ぎりぎりジッパーが閉まるかというサイズだ。そこはデルフォニックスから出ているので、日本の紙幣サイズに合わせて設計されたのだろう。中身を詰め込んでくると、たまにジッパーにお札が挟まってちぎれてしまうことがあるので、できれば縦横もう3mmほど余裕があればよかった。
後発の超小型財布には、大きさ・軽さ・機能性の面でかなわないと感じる。しかし、マチがないのと硬くて厚めなレザーのおかげで、何年経ってもソリッドな外観をキープできている。ロウ引き加工のおかげか、上着やズボンのポケットに入れても出し入れしやすいと感じる(気をつけないと滑り落ちやすい)。
ブライドルレザーの耐久性を実感
使用中にロウの白い粉が浮いてくるのは、ブライドルレザーの楽しみである。磨けば普通の牛革よりも艶が出る。さすがに8年くらい経って黒い塗料が剥げてきたので、サフィールのクリームで補修しておいた。
素材的には必要ないかもしれないが、他の革製品と一緒にときどきモウブレイのデリケートクリームも塗っている。革のコバも摩擦で色が取れてきたが、革自体は劣化する気配がない。さすがグレンロイヤル、この先もう10年はメンテしながら問題なく使えそうである。
革自体は長持ちするが、先に縫製の糸がほどけてくるというのはKNOXの手帳と一緒である。同じくらい長く持ち歩いている革製品だが、革自体の耐久性はやはりブライドルレザーの方が上だった。
ピアスのバッファローカーフも同様にメンテしているが、ほとんど艶が消えて表面のひび割れも目立ってきた。実はコードバンの名刺入れも同じくらい長く使っていて、ブライドルレザーのロウ引き牛革よりさらに耐久性が高いとわかった。
機能性より単純性が勝るケース
L字型のウォレットは単純な構造だが、そのシンプルさのおかげで使い方に悩むことがない。居酒屋で酔っ払ってお会計するときも、うっかり落としてばらけたりすることもないし、ジッパーさえ締めておけば中身がなくならないという安心感がある。まさにロングライフなグッドデザインという印象を受ける。
バッグ類でも、やたらとポケットが付いた高機能モデルより、昔ながらの開け口一つのボンサックの方が実用的だったりする。「財布は小さければよいというものではない。過剰なギミックはかえって使用感を損なう」という洞察を授けてくれる製品だった。
寿命をまっとうせず引退
しかしながら、手帳をカードサイズダイアリーに替えたきっかけで、愛用のL字財布も別のミニウォレットに交換することになった。革製品は案外軽くてメンテで長持ちするのが好きだが、薄手のナイロン素材も試してみたくなった感じだ。最近はほぼスニーカーを履いて暮らしているが、一応革靴も一足だけキープしてある。
競合ひしめくナイロン製小型財布の中から選んだのは、ポーターの別注モデル。グレンロイヤルのL字よりフットプリントが小さい分、上着の小さい胸ポケットにも収まるようになった。革の魅力も捨てがたいが、防水性や軽さを優先するとナイロン製品に軍配が上がる。