前職の株式会社では弥生会計のPC版を利用していた。退職後の個人事業はMFクラウド確定申告(現マネーフォワード クラウド)のフリープランで間に合っている。
しかし2018年のサービス改悪により、入力できる仕訳が「年間50件」に削減されてしまった。さすがにMFクラウドを無料のまま会社の経理で使いまわすのは難しい。
新規設立した合同会社の経理用に、マネーフォワード以外の無料会計ソフトを調べてみた。クラウド型の円簿会計とダウンロード型のフリーウェイ経理Liteを比較して、選んだのは後者。
その後3年経って消費税の課税事業者になってからも、フリーウェイで問題なく仕訳入力できている。サービスの知名度は低いが、零細企業なら十分に使えるスペックだとわかった。
これまで使った弥生会計パッケージ版の利点と欠点、新規導入したフリーウェイ経理の使い勝手についてレビューしてみたい。
(2020年2月12日更新)
会計ソフトの相場を比較
流行りのクラウド系ならfreeeとマネーフォワードが二強。老舗の弥生会計もオンライン版のサービスを提供している。
各社の法人向け経理ソフトについて年間契約で最低価格を比べると、
- freee…ミニマム、月額1,980円(月払いだと2,380円)
- マネーフォワード…クラウド会計、スモールビジネス、月額2,980円(月払いだと3,980円)
- 弥生会計オンライン…セルフプラン、月額2,167円(年間契約のみ)
※価格はすべて税抜、1年契約の場合
2020年2月時点ではfreeeの月額1,980円=年額23,760円が最安。さすがに法人用は個人の確定申告用ソフトより相場が高くなる。
弥生会計デスクトップ版の魅力
以前経営していた会社では、長らく弥生会計のデスクトップアプリを使っていた。
スタンダードはセルフプランで27,200円~。オンライン版の年間26,000円より若干高くなるが、売り切りなので複数年にわたって使いまわすこともできる。
実際には消費税の増税など、法令改正のタイミングでソフトのバージョンアップが必要になる。数年おきに買い替えるとしても、ランニングコストはオンライン版より安くて済む。
複数の事業所データを扱える
弥生会計のパッケージ版が持つメリットは、単に値段が安いだけではない。
「1つのライセンスで複数の事業所を管理できる」という他社のクラウドサービスにない特徴をもっている。
会社の経理ソフトとして使いつつ、こっそり副業でやっている個人事業の確定申告を済ませることも可能。
役員として関わっている別の会社や事業組合など、PC版ならいくらでも事業所データを増やすことができる。中小企業の経営者にはよくありそうな話だ。
上記3社で複数データを扱えるのは弥生会計のパッケージ版のみ。念のため弥生会計に問い合わせたが、オンライン版は「1契約1事業所」の縛りがあるとの回答だった。
freeeやマネーフォワードは上位プランになるほど部門やユーザー・メンバー数を増やせる。しかし事業所のデータは基本的に1つしか持てない。別の会社や個人事業の経理も兼ねたい場合は、追加料金を払ってアカウントを追加するしかない。
扱う会社のデータが増えるほど、サーバやデータベースのリソースを消費して料金が高くなる。その意味でクラウドサービスは従量課金制に近い気もする。
弥生会計をPC2台で使う裏技
ただし弥生会計のパッケージ版は、パソコン2台以上で運用することができない。
この点に関してはネットにつなげればどの環境からでも利用できる、クラウドサービスの方が利便性で勝る。
しかし弥生のデスクトップ版は、予備として2台のPCにインストールすることが許されている。そして「同時に起動しなければ」バックアップデータをやり取りしつつ、両方のマシンで動かすことも可能。
ややグレーな裏技になるが、この方法で複数台運用しても問題は出なかった。経理担当スタッフと自分のマシンに両方ソフトを入れて、日々のレシート入力と決算作業など役割分担することができる。
問題点があるとすれば、パソコンが壊れたり買い替えたりしたときにライセンスの復旧・移行が面倒なことだ。お客様番号と製品登録番号の2つを届け出れば何とかなるが、運営会社とのやり取りに手間がかかる点は否めない。
クラウド版に比べるとPCクラッシュの危険性はある。しかしこれは回線トラブルで「ネットにつながらない」リスクと同じ。
非常時にはオフラインで作業できるのが、パッケージ版の地味なメリットといえる。
弥生のプロ版はダウングレードできない
ちなみに弥生会計はスタンダードからプロフェッショナルへと簡単にアップグレードできる。ただしダウングレードは不可能という点に注意が必要。
かつて売上が多かった年に、設備投資のつもりでプロ版に乗り換えてみた。しかし従業員数名程度の零細企業では、部門管理や経営分析など高度な拡張機能を使う場面はない。
唯一便利だったのはパソコン2台で同時運用できるのと、税務申告用に勘定科目内訳書と法人事業概況説明書を書き出せる点。当時はこれらを手書きしていたので助かったが、今は無料のe-Taxソフトを使って同じことができるとわかった。
一度プロ版にアップグレードしてしまうと、その後のバージョン更新で7万以上支払うことになってしまう。ランニングコストはスタンダードのほぼ2倍に相当する。
両者を使い比べてみて、ほとんどの中小企業はスタンダード版で間に合うと思った。弥生会計ソフトの買い替えは慎重に検討した方がいい。
完全無料の会計ソフト候補
退職して新しく始めた合同会社は役員ひとりだけ。たいして営業する予定もないので、経理にかけるコストは最低限で済ませたい。
今までどおり弥生会計のPC版を買えばそれ一本で済むが、さらに安い会計ソフトを使えないか試してみた。
マネーフォワードのフリープランは年間仕訳50件の縛りがあるため却下。毎月給与や保険料の仕訳が生じる法人では、さすがに使い物にならない。
Vectorから落とせるフリーソフトも調べてみたが、法人経理まで対応できそうなものはシェアウェア扱い。個人事業であれば、Excelマクロを使った無料の複式簿記ツールで間に合いそうだ。
調査した中で法人用に完全無料で使えるのは、フリーウェイ経理Liteと円簿会計の2つのみ。
どちらも聞き慣れないサービスだが、2020年になっても更新が続けられている。昨年の消費税改正にも問題なく対応している。
クラウド型の円簿会計を使うリスク
このうちフリーウェイは昔ながらのデスクトップ型、円簿会計はクラウド型という大きな違いがある。
円簿会計はYahoo! JAPANのIDでログインして使う仕組みになっている。オンラインで利用するため、名前やメールアドレスの個人情報を提供するのは少々気になる。
2016年にChromeブラウザからログインすると、なぜかフィッシング詐欺の警告画面が出てしまった。2020年現在は解消されたようだが、どうも怪しい印象がぬぐえず、使うのはあきらめた。
会計データがサーバ側にあるため、やめたくなっても自由に引き出せないのも不安要素。
運営会社が倒産したり突然有料化したりしても、他社サービスにエクスポートして逃げられないおそれがある。
フリーウェイ経理は登録の必要なし
フリーウェイ経理Liteを使ってみたところ、こちらは円簿会計と違ってそこまで個人情報を要求されない。
最初は公式サイトの「無料版ユーザーになる」を選んで会社名・氏名・メールアドレスを送ったが、実はその必要すらなかった。
フォーム送信後に届くメールには、「かんたん導入ガイドからファイルをダウンロードして…」と案内されている。
指示どおりに「かんたん導入ガイド」のPDFを見ると、冒頭の4ページ目にソフトのダウンロードリンクが記載されている。
フォームから申し込まずとも、ここからフリーウェイ経理は簡単に落とせる。
よくわからない仕組みだが、無料版は広告が出るので個人情報を握らなくても売上が立つのだろう。
フリーウェイの有料版は月額3,000円と、弥生会計のパッケージ版よりも高い。導入のハードルを下げて、いずれは課金バージョンに誘導したいという思惑かもしれない。
電話番号はダミーでOK
ちなみにフリーウェイ経理では、初期設定で会社の電話番号を入れる欄がある。
営業用につくったIP電話の番号を入れてみたが、050~は使えないようだ。ためしに03-0000-0000というダミーの番号を入れてみたら、これであっさり登録できた。
運営元の株式会社フリーウェイジャパンには、メールアドレスだけでなく電話番号も知らせる必要がない。スパムメールは届かず、営業電話もかかって来ない。
特定の会社に依存せずこっそり使ってみたい人にはおすすめできるソフトだ。
広告表示は控えめ
画面の右側に常時広告が表示されるが、それほど気になるほどでもない。
数秒おきにバナー画像とお知らせ表示が切り替わる仕組み。目障りならウィンドウをデスクトップの右側に寄せて、広告領域を画面の外に追いやればいい。
無料で使える豊富な機能に対して、広告表示は許容レベルだと思う。
他社ソフトからのインポート
今回は合同会社の設立と同時にフリーウェイを使い始めたため、データの引き継ぎは必要なかった。
もし会期の途中で他社ソフトから乗り換えるなら、CSV形式のテキストファイルを介してフリーウェイに仕訳や科目残高をインポートすることができる。
有料のプロ版なら「他社会計ソフトデータ変換システム」という補助ツールが利用できる。
対応ソフトは弥生会計、勘定奉行、財務応援、PCA会計、JDLIBEXなどひと通り網羅されているが、freeeやマネーフォワードなどのクラウド系には使えない。
ただし変換システムのマニュアルを読む限り、やっていることはテキストファイルの入出力。ExcelでCSVのフォーマットを整えれば、無料ライト版でも問題なくデータを引き継げるはずだ。
補助科目のカスタム設定
公式サイトのマニュアルをじっくり読みながら、最初の設定を済ませてみた。
導入時のマスタ設定で、任意の科目を他社製ソフトからインポートできるようだ。たいてい使いそうな費目はプリセットされているので、デフォルトのままでも問題はない。
大項目以外の補助科目、部門、摘要辞書、課税区分は細かくカスマイズできる。このあたりの設定拡張性は、今まで使っていた弥生会計にも引けを取らない。
自分の場合は「預り金」の中に、健康保険料と厚生年金保険料の補助科目を自作する程度で済んだ。
科目名は数字で打ち込む
フリーウェイ経理の仕訳入力では、科目名の代りに数字4桁のコードを打ち込む。たとえば事務用消耗品=8550、長期借入金=5100といった感じ。
よく使う費目はそのうち数字を暗記できる。慣れるまでは別ウィンドウで表示されるガイド画面から、対象科目をマウスで選ぶかたちになる。
定型化した仕訳ならテキスト入力するよりも、数字の方が素早くタイプできる。
使いこなせばクラウド系サービスによくある簡単入力機能よりも、高速に仕訳入力できるようになると思う。
振替伝票の代りに諸口入力
フリーウェイ経理の問題点は、振替伝票が使えないところ。
今まで使った弥生会計やマネーフォワードには当然のように付いている機能で、複数行にまたがる仕訳を整理するには都合がよい。
その代りフリーウェイでは「000諸口」というダミー科目を使う。
諸口に入れた金額は、画面右上に「諸口差引金額」という欄に反映される。ここが差引ゼロになるようチェックすれば、複数行にわたる複雑な仕訳を入力することもできる。
毎月給与支払いの際は、各種保険料の控除を諸口入力するのが手間だ。フリーウェイの仕訳データ入力画面には、行をコピペできる機能もない。
固定仕訳マスタという裏機能
使い始めて3年経った頃、「固定仕訳マスタ」という便利機能が用意されていることを知った。
あらかじめ複数行の定型仕訳を登録しておき、「メンテ>マスタ>固定仕訳マスタ」のメニューから行番号を選んで呼び出すことができる。使い方については以下のFAQページにある動画で詳しく説明されている。
これさえ使えば毎月複数行に定型処理を手打ち入力する必要はなかった。役員報酬など7行分の仕訳を一気に貼り付けできる。
弥生会計では振替伝票をコピペして済ませていたが、フリーウェイではこの方法で済ませられる。見た目は複雑だが、やっていることは変わらない。
データのバックアップ方法
フリーウェイはローカル環境にセットアップするため、データのバックアップ方法が気になるところ。
ログイン情報設定画面で「同期先ドライブ」(CやDなど)を選ぶと、ディレクトリ直下にKAIKEI_Kというフォルダが生成される。このフォルダごとコピーすればバックアップやバージョン管理は可能だった。
試しに別のパソコンにもソフトをインストールして、バックアップデータからの復元を試してみた。特にインポート・エクスポート操作する必要はなく、単純にKAIKEI_Kフォルダを上書きすれば最新状態を引き継げる。
フリーウェイ経理はデータの保存も複数台PCでの運用も自由自在。弥生会計のデスクトップ版に慣れた身としては、クラウド版より扱いやすくて助かる。
登録できるデータ数がひとつという制限はあるが、パソコンを分ければ複数の事業所を管理することも可能。うまく使えば弥生会計のように、法人・個人事業の帳簿を並行して記録することもできると思う。
無料版はデータのエクスポート不可
将来的に他社製ソフトに乗り換えることになった場合、仕訳や科目データのエクスポートはどうなるのだろうか。
どうやらこれらのCSV書き出しは有料版のみに備わっている機能らしい。無料のLite版では「ユーティリティ>テキストファイル変換」を選んでも、出力関連のボタンが表示されなかった。
これはよくある会計ソフトの落とし穴。いざとなったら1年だけ有料版を契約して、必要なデータをCSV形式で取り出すしかない。
仕訳帳のPDF印刷は可能
しかし無料版でも仕訳帳や決算表のPDF印刷はできる。
ともかくPDFで中身を書き出してしまえば、あとはテキスト変換して任意のCSVに整形し、他社ソフトにインポートすることも不可能ではないだろう。最悪PDFファイルから全仕訳を手打ちすれば、これまでの履歴を復元することはできる。
会計データのインポートは楽だが、エクスポートは制限付き。
フリーウェイ経理を使う上での注意点だ。
決算書は勘定式のみ作成可
ちなみに無料版では決算書のフォーマットが「勘定式」しか選べない。
「報告式」は有料版のみの限定機能だが、いまどきこちらを使っている人は少数派だろう。好みの問題なので実用上は支障ない。
どうでもいい機能だが、決算書の表紙にプリントされる飾り枠を5つのパターンから選ぶことができる。
こんな細かい部分でオプションを用意するよりも、仕訳入力画面のUI改良など優先的に取り組んでほしい。フリーウェイのデザインセンスは謎だ。
ちなみに無料のライト版では、合計残高試算表やキャッシュフロー計算書も印刷することができない。最低限の経理と税務申告を済ませるだけなら、これらの機能は不要だろう。
余興で楽しめるグラフ機能
BS構成や損益分岐、月別推移図表などは無料版でものグラフィカルに表示できる。
こちらは過去3期分のレーダーチャート。変動が大きすぎて線が枠外にはみ出てしまっている。情けないことに流動負債が突出していることだけはわかる。
資本金1円で赤字続きの会社なので、バランスシートをグラフ化しても繰越損失や固定負債しか出てこない。取引先や銀行に対して、財務状況はとても見せられたものでない。
暇なときにオプションのグラフ機能をいじってみるとおもしろい。無料版でも会期ごとにBS科目の推移を比較したり、ちょっとした企業分析を楽しめる。