個人の確定申告で国税庁のe-Taxや「確定申告書等作成コーナー」を利用する場合、マイナンバーカードと独自ID・パスワードを使う2つの方式がある。
これまでは両者を取得して併用する必要があったが、2019年1月から「どちらかだけ」で済むようになった。
せっかくマイナンバーカードを作ってICカードリーダーも買ったのに、よくわからない利用者識別番号も使うのは長年不満だった。
複数IDについて混乱が生じた状況と、ついに一本化(並列・排他化)されたマイナンバー電子申告についてまとめてみたい。
利用者識別番号が不要になった
2020年にe-Taxで確定申告して気づいたのは、「利用者識別番号とパスワードが必要なくなった」ということだ。
マイナンバーカードさえあれば、いつもの数字16桁を入れなくても申告を済ませられるようになった。正確には2019年1月から、以下の2つの方式に分かれていたらしい。
- マイナンバーカード方式(e-Tax開始届出書の提出不要)
- ID・パスワード方式(ICカードリーダー不要)
すると昨年(2019年)もマイナンバーカードだけで電子申告できたはず。
しかし前回は例年どおり識別番号を入力したうえ、既存の番号が使えず税務署から再発行してもらうことになった。おそらく特殊なケースだが、昨年発生したトラブルの原因を推測してみたい。
複数発行される利用者識別番号の謎
現在、手元にある利用者識別番号は以下の4つ。
- 2010年、住基カード時代に発行してもらった番号
- 2016年、新設法人の申告用に取得した番号
- 2016年、e-Tax用に現自治体で発行してもらった番号
- 2019年、上記が通らず現自治体から再発行してもらった2つ目の番号
自分ひとりでやっている会社、法人用の利用者識別番号が別扱いなのはややこしい。
ただし個人の確定申告で法人用の番号を入れると、
「この利用者識別番号は法人の利用者識別番号のため、利用できません」
というエラーが出る。入力した時点でミスに気づくので、こちらはまだわかりやすい。
問題は個人用に複数の識別番号を取得することができて、どれを入れてもe-Tax上では申請が通ってしまうことだ。法人版のように、画面上にエラーが出ることもない。
申告後に税務署から電話あり
2016~2017年分の確定申告は、住基カード用の古い番号で間に合った。
2018年分の申告(2019年)になると、マイナンバーカードへの1本化でシステムが変わったのか、あるいは担当者が気づいたのか、申告後しばらく経って税務署から連絡があった。
電話の内容は「古い利用者識別番号を使っているので、新しいものでやり直してください」ということ。2016年に現自治体で新規発行してもらった、新しい方の識別番号を使えという意味だろう。
しかしこの新番号、2016年にハガキで届いたのだがパスワードがわからない。申請時に自分で設定したのかどうかも定かでなく、思いつく限りの暗証番号を入れても通らないので使えなくなっていた。
マイナンバーカードの暗証番号のように「5回間違うとロック」という制限はない。識別番号の場合は、以下のようなエラーメッセージが表示される。
「HJS0409E 入力された利用者識別番号又は暗証番号に誤りがあります。利用者識別番号の通知等を確認の上、再度入力してください」
結局2019年は新たに現自治体から識別番号を再発行してもらい、これを使ってe-Tax上で再申告を済ませることができた。
利用者識別番号の関連付け
2019年の確定申告を振り返ると、「マイナンバーカードと利用者識別番号の関連付け」という手続きがあった。
新しい「マイナンバーカード方式」で利用者情報の登録を行うと、これまでの利用者識別番号は使えなくなるらしい。
関連付けの際、念のため「利用者識別番号の通知」を希望しておいた。そのためか送信後の確定申告書には、以前の識別番号がそのまま記載されてしまう。
この関連付けを行うと、今後は利用者識別番号を使わずマイナンバーカードだけで申告手続きを完了できるはず。
昨年のデータ(2017年分の申告.dataファイル)を読み込ませると、提出方法が「e-Tax」から「マイナンバーカード方式」に切り替わった。
今回新たに2019年に申告した2018年分のデータを読み込ませると、両年とも「マイナンバーカード方式」に変わった。ついでに利用者識別番号も画面に表示され、最終的に申告書の送信票にも印字される。
マイナンバーを使っているのに、相変わらず識別番号が紐づいてくるのは気持ち悪い。しかしウェブでの作業中に、マイナンバー以外のIDやパスワードを入力する手間はもう必要なくなった。
e-Taxソフト、WEB版、確定申告書作成コーナーの違い
国税庁のサイトを調べていて、「確定申告書作成コーナー」は厳密に言うとe-Taxでないことに気づいた。
e-Taxとはパソコン内のローカル環境にインストールする「ソフト版」と、ウェブブラウザで作業を完結できる「WEB版」に分かれている。
WEB版は簡易版という扱いで、法人税の申告まではできない。そのため会社の電子申告ではe-Taxソフトを使っていた。
一方、個人の確定申告はe-Tax(WEB版)と確定申告書作成コーナーのどちらから行うこともできる。画面上のチュートリアルが豊富なので、普通は後者の作成コーナーを使う方がいいだろう。
毎年のようにお世話になっている確定申告書作成コーナーをe-Taxだと勘違いしていた。
もちろんe-Taxソフトからも個人の確定申告は可能なので、慣れればソフト版で個人・法人とも手続きを一本化した方がスムーズかもしれない。
年に一度の作業を効率化するか否か
個人でも法人でも確定申告の問題点は、基本的に「年に一回しか必要ない」という点。1年後にはやり方をすっかり忘れてしまうので、毎回過去の作業メモを見直しながら試行錯誤する羽目になる。
しかも2019年から「マイナンバーカード方式」が登場したように、税制や申告方法もひんぱんに変わる。仮に自分が税理士で毎月のように確定申告するなら、こうした制度変更にも追従できると思う。
しかし素人が年に一回やるだけなら、どこまで作業をマニュアル化するかが難しい。
国税庁のサービスについて時間をかけて調べ、詳細な作業フローを確立、システム化したとしても利用頻度は低い。そして来年には使えなくなってしまうおそれもある。
そんな感じで毎年アドホックに対応してきたが、利用者識別番号の違いについてはだいぶ悩まされた。過去3年分の申告内容やキャプチャー画像を振り返ってみて、ようやく何が問題だったのか把握できた。
マイナンバーが普及しない理由
現在のマイナンバー普及率は12%程度。
2016年にカードを作った人は、2020年に電子証明書を更新する必要がある。試しにカードを作ってみたが、「使えない」と感じた人が更新を諦めれば、ますます利用者は減るだろう。
2018年まではマイナンバーカードを作っても税務署に申請して、e-Tax用の利用者番号を取得する必要があった。この二重認証とパスワード管理の手間が、マイナンバーの普及を妨げていたように思えなくもない。
カードとID用に暗証番号は合計3つ設定することになる。しかも利用者識別番号のパスワードは「なくてもよい」という曖昧なルールだった。
カードリーダー購入というハードル
そもそも確定申告を必要とするうえ、それをe-Taxで済ませる人も少数派。PC保有は当然として、ICカードリーダーへの追加投資も必要だ。
ICリーダー自体は単機能なら2,000円程度。4年前に買った最安のACR1251CL-NTTComでも十分間に合っている。カードの読み取りに不具合が出たこともない。
製品としての機能は十分だが、それだけのお金を払ってわざわざマイナンバーカードによる電子申告を実現するメリットがあるかどうかは疑わしい。
カードがあればコンビニで住民票を印刷できたりする。しかし戸籍証明書となると自治体によって対応状況はまちまち。結局、遠方の自治体から書類を郵送してもらうことも多い。
普通に考えると「あってもなくてもよい」マイナンバーカード。紛失・盗難などのリスクを考えると「持たない方がまし」と考える人がいても不思議はない。
カード保有のインセンティブを増やす
2019年のe-Tax利用簡便化でも、マイナンバーだけでなく従来からの利用者識別番号「ID・パスワード方式」が併存しているのは、また混乱の元になるだろう。
クレームが出ないよう中途半端なオプションを増やせば、いつまでたってもマイナンバーカードは普及せず、システムの維持管理コストも増え続ける。
青色申告特別控除のように「マイナンバーで申告したら税金控除額が増える」くらいのインセンティブを与えてもいいのではないだろうか。
とりあえず他のIDを必要とせず、マイナンバーのみで確定申告ができるようになったのはささやかな前進。「マイナンバーによる一本化」という本来のコンセプトに一歩近づいた。
来年もことさら意識することなく、カード1枚でスムーズに申告を終えられるようになることを祈りたい。