ダイナースクラブカードを運営するシティバンクが三井住友信託銀行の傘下に入った。
提携カードのウリである年会費無料特典の存続が危ぶまれていたところ、ついに条件変更の通知が届いた。
このまま無料で使い続けるには、年間のカード利用額が30万円→60万円も必要。
しかしこれはまだ終わりの始まりにすぎないのかもしれない。SMBCダイナースのサービス改悪はまだまだ続きそうだ。
ダイナースクラブカードとは
ダイナースクラブは入会審査が厳しく、年会費も2.2万円かかる準プラチナ級のクレジットカード。
鈍い光沢のあるシルバーの券面は高級感があるが、他社のプラチナカードほどのステータスはない。
さらに上級の年会費13万、インビテーション制のプレムアムカードはブラックカードと呼べるスペック。
ダイナースクラブは平カードやゴールドクラスが存在せず、
- 通常カード(自己申請可・年会費2.2万)=ゴールド以上、プラチナ未満
- プレミアムカード(招待制・年会費13万)=ブラック相当
という2段構成になっている。
ダイナースクラブは歴史的に戦後の米国でクレジットカードを発明した老舗とされている。
ただし現在の5大国際ブランドの中ではマイナーな方だろう。日本国内でも使えないお店はいまだに多い。
かつての厳しい入会条件
昔のダイナースクラブは「年齢33歳以上で自家保有、勤続10年以上の役職者か自営業」という入会基準があったらしい。
年齢と役職あたりはどうにかクリアできるとしても、自家保有という条件は厳しすぎる。今は高所得者でも一戸建てやマンションを所有せず、賃貸で暮らす人も多いだろう。
ダメもとでダイナースに入会を申し込んでみたら、あっさり一発で合格した。当時のスペックは以下のとおり。
- 年齢33歳未満
- 賃貸アパート住まい
- 勤続10年未満
- 零細企業の役員(いちおう役職者?)
※年収は人並みだが業績連動で不安定
ちまたに伝わる入会基準の中では「役職者か自営業者」という条件しか満たしていない。
それでも問題なくカードをもらえたのだから、ダイナースの審査は明らかにゆるくなっている。
ただし申し込んだのがプロパー(正規)ではなく、シティバンクとの提携カードだったからかもしれない。「提携枠なら身分が卑しくても審査に受かりやすい」という噂は聞いたことがある。
利用限度額の実際
ダイナースのクレジットカードは「利用限度額がない」といわれる。
実際に届いた書類を見ると、確かにショッピング枠の金額が明記されていなかった。
その一方でキャッシング枠の利用可能額は50万円。リボルビングの100万円というのが総利用枠に相当するのではないだろうか。
このあたりの限度額は一般的なゴールドカードと同等か、むしろそれ以下といえる。
ダイナースクラブに入会すれば、限度額がないのでプライベートジェットや戦車も買えるというのは都市伝説にすぎないようだ。実際にはユーザーのふところ具合をみて、適切な限度額が設定されている。
ダイナースを無料で持つ裏技
ダイナースは持っているだけで年間22,000円も取られてしまう高級カード。しかしこれを無料で手に入れる方法が存在した。
ダイナースクラブカードを発行するシティバンクに口座開設・引き落とし設定して、年間30万円以上決済する。
口座開設の手間はかかるが、年に30万なら払えないこともない。
提携カードの違いとしては、カードの右上にcitibankのロゴがあるだけ。それ以外のポイント還元率や空港ラウンジ利用権など、各種特典はすべてプロパーと同じだ。
券面を見せてシティバンクのロゴの有無に気づく人など稀だろう。海外で使う際などは、むしろ銀行名が印字されていた方が信用されるかもしれない。
プロパー/提携カードの見分け方
豆知識として、もし飲み屋キャバクラでDiners Club INTERNATIONALを見せびらかすオヤジがいたとしたら、右上のロゴをチェックしてみよう。
そこにcitibankと刻まれていたら、わりと安い方の提携カードだ。
券面がブラックのプレミアムカードでも、シティバンク提携なら年会費半額になる特典がある。条件は「預金残高5,000万以上」なので、せいぜいアッパーミドルな準富裕層という感じ。
色がシルバーでもブラックでも、シティバンクのロゴ付きダイナースはちょっと格が下がる。
現にかつての入会条件を満たしていない小者でも、提携カードならこうして保有できている。しかも工夫すれば年会費は無料。
ある程度年配の方にはダイナースを見せてハッタリが効くかもしれない。しかし今では広告の露出も増え「意外と入会しやすい」イメージが定着してきている。
ダイナースクラブカードを保有するステータスやありがたみというのは、だいぶ薄れてきているというのが実情だ。
年会費無料のハードルがアップ
時は流れて2015年。
リーマンショック後の経営不振で、不採算事業に大ナタを振るう米シティバンクグループ。その矛先がついに日本法人にも回ってきた。
リテール事業の日本撤退にともない個人部門は三井住友銀行、カード部門はSMBC信託銀行にそれぞれ売却された。
そしてダイナースクラブ提携カードの保有者には、「年会費無料特典は当面継続します。終わる場合は1年前に通知するから安心してください(→覚悟しておけよ)」というお知らせが来た。
恐々と御沙汰を待っていた無料ホルダーに届いた今回の通知は「年会費無料基準が年30万以上の決済から60万以上にアップ」とのこと。
いちおう約束どおり、新ルール適用まで1年間の猶予が与えられた。
カード払い年間60万の壁
年間利用60万というのは微妙なラインだ。
旧来の30万であれば、日ごろの買物や会社経費の立替、出張費などで軽くペイできそうに思う。
しかし60万となると年間の利用計画を意識しなければ、うっかり到達しないおそれがある。その場合のペナルティーは正規の年会費2.2万円…なかなか厳しい罰金だ。
あいにく今の賃貸アパートで、毎月の家賃はカード払いできる仕組みでない。
固定費の電気代やガス代・水道代も、ひとり暮らしなら微々たるもの。スマホやネットの通信費も格安サービスを利用しているので、たいしてかからない。
あとはAmazonや楽天のネット通販を利用したり、Yahoo!公金払いでふるさと納税したりするなど。
細かい支出をかき集めれば年間60万積めるかもしれないが、ほかのクレジットカードはほとんど出番がなくなってしまう。
ほかに金額の大きい支払いとしては、
- 過去に納付免除・猶予を受けた国民年金の追納
- 学生時代にもらった日本学生支援機構の奨学金返済
というものを思いつく。
しかしいずれもクレジットカードは使えない。銀行引き落としか現金納付が必要だ。
還元率が低いのも悩み
ダイナースクラブカードのデメリットは還元率が0.4パーセントと他社に比べて低い点にある。
海外利用の場合は1バーセントにアップするが、庶民としては利用する機会が少ない。
さらにSuicaなど電子マネーのチャージもポイント加算されない。
還元率2%の好待遇カードを60万使えば、1.2万のポイント収入を得られる。ダイナースの0.4%と比べれば、年間9,600円の差額が生じてしまう。
たとえシティバンク提携は年会費無料とはいえ、この金額の機会損失は馬鹿にならない。
ダイナースクラブカードの利点
利回りの低いダイナースを年間60万も使って維持すべきか。
それほど価値のあるカードかどうかは、付帯サービスの評価にかかっている。個人的に便利だと考えているダイナースクラブカードの特徴を挙げてみよう。
1. 海外空港のラウンジ利用
ダイナースにゴールドカード以上の価値があると認められる最大のポイント。それは利用できる海外空港ラウンジが多いという点だ。
すべての日本国内空港は当然として、海外でも意外と使えるところが多い(全世界で約600か所)。
さすがにプライオリティ・パス(900か所)にはかなわないが、シンガポールやハンブルクなど地域の拠点となるハブ空港はひととおり押さえられている。
これに比べて他社のゴールドカードでは、ハワイのホノルル空港でしかラウンジが使えないというケースもある。
海外の空港ラウンジは豪華すぎる
国内空港のラウンジは無料ドリンクが基本で、提供される食物はおつまみ程度。アルコール類は有料だ。
なかには焼酎が試飲できる鹿児島空港のような例外もある。羽田空港では時間帯によってクロワッサンを食べられることもある。
しかしこれらのカードラウンジと航空会社の提携する上級ラウンジの間には、明確な差が設けられている。
そして海外のカードラウンジは軒並み航空会社ラウンジ並みのクオリティーをほこる。空間がぜいたくなだけでなく、豪華なビュッフェも付いている。
トランジット中に仮眠をとることもできるし、ラウンジで食事を済ませれば割高な空港内のレストランを利用しなくて済む。出張のたびに、何回分か食費を浮かせられる計算になる。
ちなみに国内空港の中でもダイナースで入れる成田・関空の大韓航空KALラウンジでは、おにぎりやカップ麺にありつける。海外ラウンジほどではないが、無料で利用できる貴重な補給スポットだ。
2. 海外旅行保険が最高1億円
ダイナースカードを利用した海外旅行において、保険が最高1億円もつく。実質無料のクレジットカードとしては破格の待遇だ。
対象は傷害死亡・後遺障害の場合。自動付帯5千万と利用条件分5千万を合わせた金額がマックス1億円。
ダイナースを使えば別途保険の手配をしなくても済む。ひんぱんに海外出張する人ならメリットを実感できるだろう。
3. ポイントを航空会社マイルに移行可
ダイナースの還元率は大きくないが、年間30万使っているとそこそこポイントが貯まる。
独自のリワードポイントでいろんな景品がもらえたり、Suicaや楽天ポイントに移行できたりする。
その中でも利回りが高いのが、航空会社マイルとの交換だ。ANAやデルタ航空に1,000ポイント=1,000マイルの高レートで移行できる。
グローバルマイレージの効率的利用法
交換条件としては年間6,000円の「グローバルマイレージ」というプランに申し込む必要がある。
ただしこれは1年だけ加入してすぐ脱退することができる。ダイナースのポイントに有効期限はないため、10年くらい貯めてから一挙に交換・脱退するのがお得だ。
一度試してみたところ、ウェブからは解約手続きができず電話で申し込む必要があった。その手間さえ惜しまなければ、高い還元率で汎用性の高いマイルを得ることができる。
実質的に有効期限のないユナイテッド航空も参加しているので、こちらのマイレージプラスに移行するのがおすすめだ。
結局のところ同じスターアライアンス系列なので、ユナイテッドを介してANAの国内線でもマイルを利用できる。
4. リージャスのゴールドカードが無料
全世界に展開するレンタルオフィスのRegus。ここの年会費57,600円もするゴールドカードを、ダイナース会員は無料で手に入れることができる。
ランクはビジネスワールド・メンバーシップで、カードの右下にダイナースのロゴが付く。
自分から申請しないとカードはもらえないので、知る人ぞ知る付帯サービスだ。
リージャスは東京都内だけでなく、全国の主要都市に拠点を構えている。
そしてゴールドカードがあれば、予約も必要とせず無料でラウンジや作業スペースを利用できる。お茶やコーヒー、ソフトドリンク、場所によってはおつまみ・お菓子も提供される。
これまでに利用したことのあるリージャスの使用感については、こちらのページにまとめてみた。
残念ながらシティバンクの事業売却にともない、ダイナースとリージャスの提携も終了してしまうようだ。
案内によると2015年3月26日をもって優待の新規受け付けは終了。そして2016年5月31日を最後に既存会員も使えなくなってしまう。
ノマドワーカーには利用価値の高いサービスだったので、残念でしかたない。
5. セレブな会員誌 SIGNATURE
ひそかに楽しみにしているのが、ダイナースクラブ会員に毎月無料で届く雑誌『SIGNATURE』だ。
独特なデザインのタイトルが好き。無料の会報誌にしてはデザインも装丁も凝っている。
なかでも読みごたえがあるのは伊集院静の連載エッセイ。
気のきいたイラストと一緒に、ちょっとした小話が披露される。最近の号では宮大工の西岡常一が弟子に語ったという、ちょっといいセリフが取り上げられていた。
これから一年、テレビ、ラジオ、新聞、仕事の本、そういうものにいっさい目を触れてはいけない。刃物研ぎだけをしなさい。
『SIGNATURE』2016年6月号より
1年間刃物研ぎ…きっと意味のあるプロセスだと思うが、生半可な覚悟で取り組めるものではない。
カードホルダーにお金を使わせる目的
『SIGNATURE』はその他の特集も、海外の観光地や名建築、美術館や演劇などがメインで文化度が高い。
要するに「ジャンジャン旅行してカードを使ってください」というのが編集のコンセプト。
伊集院静のエッセイも半分くらいは海外の有名ゴルフコースを紹介していたりする。いかにもダイナースクラブのカード保有者が好みそうなネタだ。
雑誌と一緒に、世にもめずらしいワインやチーズの定期購入案内チラシが挟み込まれていたりする。
そちらは速攻ゴミ箱行きだが、なるほど世の中にはこういう富裕層向けのサービスがあるのだとわかって勉強になる。
グルメ特典がいまいち使えない理由
ダイナースはその他グルメ系やゴルフ場の優待がウリだが、残念ながら利用したことがない。
事前に予約すれば大幅な割引を受けられるとはいえ、もとの値段が高いので庶民には難しいサービスだ。
日ごろ高級店で飲食する習慣のある人には、役に立つ特典かもしれない。
だがそもそも上級クラスの人たちは「コース料理1名無料」やポイント還元率など、たいして気にしないのではないだろうか。
唯一使えそうなのはレストランでカード提示・サイン不要な「スムーズ ダイニング」というサービス。
しかしこれも事前の申請が面倒なうえ、対象店舗が限られる。交渉に手間もかかるので、忙しいビジネスマンには利用機会がなさそうに思われる。
ダイナースで値引きという矛盾
自分も興味本位で会社の接待や忘年会など企画してみようと思ったが、お店の格が高すぎて用途に合わなかった。
「ディカス・パリ」とか「ひらまつ」とか、そもそも知らないのでありがたみがわからない。
いろいろ考えるとダイナースクラブの割引特典というのは、ターゲットの顧客層があいまいだ。
本当にお金持ちなら、こんなささいな値引きを受けるためにお店側と交渉したりしないだろう。カードの利用でポイントを貯めることにも、それほど関心はなさそうに思う。
むしろひいきにしているお店なら、手数料のかかるクレジットカードより現金でお支払いするのが筋というものだ。
クレジットカードの本質
そして真に心が豊かな人であれば、カードのランクで見栄を張ったり、所有物でステータスを誇示したりはしないはず。
単にキャッシュレス決済できて、後からまとめて口座引き落としできるという利点がクレジットカードの本質。道具としての観点からすれば、国内対応店舗の少ないダイナースはJCBの一般カードに劣る。
そもそもプラチナ/ブラックカードを手に入れて承認欲求を満たそうという発想自体が煩悩のかたまりといえる。
ダイナースクラブがあえてセレブに憧れる平民をターゲットにしているならば納得がいく。そして「なんだかよくわからない高級レストランに半額で行ける」というサービスの存在意義もわかる。
わざわざ高い年会費を払って身の丈に合わないサービスを受けるのはナンセンス。自分でメリットを実感できるお店で、つつましくお金を使った方が消費活動としては合理的だ。
クレジット産業の歴史的発展を支えた貢献に敬意を表して、無料で持てるならコレクションに加えてもよい。ダイナースクラブとはしょせんその程度の存在だった。
その後も改悪が続くダイナース
振り返ってみると、リージャスの提携サービスが終わるというのは個人的にショックが大きい。
年会費60万は努力で克服できる余地があるが、さんざんお世話になったリージャスから追放されるのは残念でならない。
そして新たな通知により、9月から口座の維持手数料もかかると知った。
決済口座に残高50万のキープが必要とわかって焦ったが、よく調べるとeセービング口座は対象外とわかった。
ただし一連のサービス改悪から察すると、この例外もいつまで維持されるのかわからない。もはや運営会社とカードホルダーのチキンレースになりつつある。
振い分けられる無料ホルダー
三井住友信託銀行による今回の通知は、無料ダイナースホルダーにとって試練となる。
かつての提携カード乱発で劣化したダイナース会員をふるいにかけ、本来持つべき資格のある優良顧客層に絞りたいのだろう。
昨年のシティバンク買収時のニュースでも「ダイナースカードの富裕顧客層を取り込む」とうたわれていた。
とりあえず年会費や口座維持手数料でフィルターをかけてみて、効果が薄ければもっと締め上げてくるはずだ。
旧提携カードの希少性が高まる
しかし見方を変えてみると、新規申し込みが停止された旧シティバンク提携カードはレア度が増したともいえる。
もはやお金を積んでも持てないカードなので、一部のマニアにとってはダイナースプレミアムより価値が高い。
- このまま改悪が続いても、どこまで無料状態を維持できるのか
- どんな施策で利益貢献度の低いフリーライダーを排除しにかかるのか
クレジットカードの愛好家としては、こんな好奇心も芽生えてくる。
たとえプレミアムやブラックカードには手が届かなくても、5大国際ブランドを所有するのはカードマニアのよろこび。無料ダイナースの末期を見届けるのは、自分の使命でないかとすら感じる。
むしろカードでキャッシング。借金してでも年間60万の壁を乗り越えたい。
そんな倒錯した感情すら芽生えてくるのは危険な兆候だ。これも新生プレスティアの思惑どおりなのかもしれない。