岐阜のデザイナーズ図書館。伊東豊雄設計のメディアコスモスを探訪

春休みは久々に18きっぷを買って、北は仙台から西は京都まで、東京起点に旅して過ごしている。岐阜駅近くの定宿、カプセルホテルのGANTに泊まったあと、余裕があったので近くのメディアコスモスという図書館に行ってみた。

伊東豊雄の設計で、名前からして仙台メディアテークに匹敵する名作な予感がする。わざわざ東京から見に来るというほどではないが、たまたま近くに寄ったついで、岐阜駅から2kmくらいの歩ける距離なので、話のネタにぜひチェックしておきたい。金華山の岐阜城に登る途中、長良川の近くに目指す建物はある。

外観は巨大なブラックボックス

全景は広大な敷地に黒っぽい直方体が置いてあるイメージ。一見したところ有名な建築家の作品といわれるほどのインパクトはない。近寄って見ると、壁の外側に黒ずんだ木材が貼ってあるが、カーテンウォール的な飾りにしか見えない。

ところどころマンガのチーズのようにかじられた形のテラスから、特独特の木造屋根が見える。エントランス横にタマネギ型の屋根をしたスタバが入っているのも特徴的だ。外から見た感じは、何となくちぐはぐな印象を受けるが、隈研吾のようにあえてインスタ映えしない、フォトジェニックでない現代建築というのがトレンドなのかもしれない。

黒子的な外観だが、実はかなり巨大なスケールの塊である。独特な曲面屋根にところどころ穴を開けて採光しているが、普通は中庭とか設ける規模だろう。でないと内部は真っ暗で人工照明に頼ることになりそうだ。

仕切りを使わず仕切るテクニック

正式名称か愛称なのか「みんなの森 GIFU MEDIA COSMOS」というサインがついている。内部の案内板や各部屋・スペースのネーミングも「ドキドキテラス」「おどるスタジオ」など、脱力感満載だ。

一見、通行の邪魔になりそうなこのオブジェだが、床面に円形の塗り分けがあるので、自然と避けられるようになっている。2階の読書スペースも同様に、「壁やパーティションを使わず、それとなく場をつくる」というのが、メディアコスモスの特徴に見える。

内部は1階も2階も特に写真撮影OKなようだ。メインエントランスの横に、屋根の網目状木材のサンプルが置いてある。断面を見ると50cmくらい厚みがある塊だが、2階の天井を見上げると軽やかなイントレチャートのように見える。お寺や神社のような銘木でなく、安い木材を規格化して組み立てているのが構造上の工夫なのだろう。

各種スタジオが配置された1階部分は天井も平たく、わりと普通な印象。防音が必要な部分はガラスやコンクリートブロックで仕切られているが、事務スペースはテーブルが丸見えのオープンなデザインだ。最近の市役所や公共施設は、差支えない範囲で管理部分を積極的に見せていこうという姿勢が感じられる。

圧倒的スケールの木造曲面屋根

エスカレーターで2階に上がると印象が一変して、うねうねした木の天井に圧倒される。まるで空港にいるようなスケール感だが、ランダムにぶら下がっている大きな傘みたいな覆いのおかげで、本の森にやってきたような感覚がする。

ところどころ立っている白い柱は、1階の打ち放しRCの円柱に比べると恐ろしいほど細い。天井との接合部もがっつり補強しているようには見えないので、本当にこんな柱で大屋根を支えられるのか不思議に思う。あとから設計者のインタビューを読むと、屋根が木造なので比較的軽くて済み、風や地震の水平力は周辺壁の鉄板で受け持っているとのことだ。

仙台のメディアテークも、スラブの鉄板を限りなく薄くしたり施工の苦労話を聞いたことがある。メディアコスモスも「森」というコンセプトを実現するために、見えない工夫がいろいろ施されているのだろう。

本棚がコンクリート製の理由

本棚はよく見ると中央部分がコンクリート製の特注品である。友人の建築家の話では、本棚をコンクリートでつくることによって、防火区画の役割を持たせているらしい。よく見ると本棚の間にさりげなくデザインされた、薄型の消火栓が置いてあったりする。

確かにこれだけの大空間で木造屋根、さらに燃えやすい本が置いてあるスペースだから、火災対策は必須だろう。果たして本棚で区画というウルトラCがあり得るのかわからないが、プリツカー賞の建築家作品ともなれば超法規的措置も可能に思われる。100年くらいしたら、コルビュジェのように世界遺産になっているかもしれない建築だ。

森のキノコにトップライト

要所要所に散りばめられたテント状の覆いがある空間は、ソファーやテーブルが置かれた閲覧・自習スペースになっている。晴れていれば、ローマのパンテオンのようにトップライトから光が差し込みそうに見える。

しかしここは図書館ということもあってか、光を反射させて柔らかい間接光を導く仕組みになっている。ぶら下がっている球状のライトはなくてもよさそうに思うが、白い傘をぼんやり発光させるために必要なのだろう。

キノコ状スペースには、こんな巨大な藤製の椅子が置いてある。これだけで車が何台も買えそうなくらい高級そうな工芸品だ。大空間に置いてあるので違和感なく見えるが、もはやこれだけで巨大な彫刻作品のようである。

さすが建築に見合うよう、内部の家具や什器のデザインはこだわり抜かれている。映像鑑賞ブースにたくさん置いてある籐椅子も、エマニュエル婦人のそれなんかより何倍も高いデザイナーズ家具なのだろう。

プライベート利用の映像ブースにまったく仕切りがないというのも斬新だ。透け透けの籐椅子のおかげで、さらに抜け感が強調されている。

一部のテラスは閉鎖中で残念

一方で、後から追加されたらしき館内の案内表示も、なるべく建築のイメージを壊さないよう精いっぱいの配慮が見受けられる。エスカレーターの脇のフェンスには、「のらないでね たおれて けがをするよ」と、俳句みたいに練られたメッセージが貼られている。果たしてこんな警告が必要なのかわからないが、何かトラブルが起きたかクレームがついてこうなったのだろう。

トイレの横の給水器にも「まわす」という微妙なテプラがべたべた貼ってある。世の中押しボタン式のスイッチが多い中、あえて回すハンドル式にしたのは、バリアフリーとか操作しやすいとか何らかの設計意図があったのだろう。それでも使いこなせずこうなってしまうのが世の実情だ。

いくつかある2階テラスのうち、金華山の岐阜城を望む東側は眺めがよさそうだが、残念ながら閉鎖されていた。床が濡れているところを見ると、一部で雨漏りとか「屋根に水たまり」と報道されている話と関連するのだろうか。

デザインが尖った現代建築の雨漏り問題はよくある話だが、特に室内にバケツが置いてあるとか、応急処置の痕跡は見当たらなかった。さすがに図書館が雨漏りで蔵書が水浸しというのは厳しいから、ネットで大げさに取り上げられているのだろうか。

隣接して建設予定の新市庁舎

さて1階に戻ると、エントランス脇にこれから建築が始まる新市庁舎の広報ブースがある。メディアコスモスの南側の空き地に岐阜市役所が移転するらしい。

パースや模型を見る限り、低層部の屋根が曲面だったり高層棟の角にRが取られていたりするあたりはメディアコスモスとの連続性を感じさせる。ほかはいたって普通のオフィスビルという印象だ。

大胆な曲面屋根の雨漏り問題で岐阜市も懲りたということか。何となく山本理顕設計の福生市役所と似たように見えなくもない。せっかくならメディアコスモスと完全にくっつけるとか、コスモスの上にさらに大屋根をかけることにより雨漏りを解決するとか、大胆なデザインに挑戦してほしかった。

2階の閲覧室はとても快適だったので、近くに住んでいたら毎日でも通いたい図書館だと思った。毎日金華山にウォーキング登山して、健康的な暮らしができそうだ。