町おこしも見た目が重要!『地域を変えるデザイン』レビュー

神山町の本に関連して、装丁がかっこよかった『地域を変えるデザイン』(監修:筧祐介)も借りてみた。地域の問題解決というと行政やアカデミック系の本が多いが、「デザイン」がテーマというのがおもしろそうだ。

パラパラと立ち読みして、各自治体の取り組みで今時風にかっこよくデザインされたポスターやチラシが目立つ気がした。やはり多少デザイナーに謝礼を積んででも「見た目かっこいい」というのは重要に思う。もちろん「問題の本質を捉え、調和と秩序をもたらす」という広義のデザイン行為について語られているのだが。

この本にしてもさすがデザインがテーマとあって、思わず手に取りたくなるイカした表紙だ。

意外と認識とずれていた統計数値

パート1のキーイシュ―で各分野の統計グラフがグラフィカルに紹介されている。地域というよりは日本全体の問題だが、現状認識として一通り目を通すと、意外と想像していたのと違った数値があった。

  • 2009年末で太陽光発電の世界シェアはドイツ、スペインに次いで13%と世界第3位
  • 食料自給率は先進国最低レベルとはいえまだ40%ある
  • 逆にエネルギー自給率は実際4%しかない
  • 2100年に総人口は5,000万人を割るが、明治維新の頃は3,330万人しかいなかった
  • 空き家率は2060年に50%越え
    (家を買うならあと40年待ってもよさそうだ。その頃にはタダでもらえるのでは…)
  • 自殺率は東北~北陸がダントツだが鹿児島・宮崎・高知・和歌山の太平洋側も意外と多い

各地の取り組み紹介からピックアップ

パート2は各地の取り組み30事例紹介。そのうち、神山町と並んで離島の復興事例としてよく聞く島根県の海士町は3つも登場していた。他はあえてマイナーなところから選んだのか、知らない事例ばかりだった。

個人的に面白いと思ったのは、岡山県の「和RE箸」。普通の割り箸にロゴを焼き印するだけで、なぜかデザイン商品として付加価値が付いて見える。補助金で間伐された劣性木材のうち、利用されない半分は森に放置されているらしい。運搬や加工のコストは相当だと思うが、割り箸でも燃料でも、なにか他で活用できれば有益だろう。

中国産の竹箸は安いが、防カビ・漂白加工されていると聞いてぞっとした。東急ハンズで50円くらいで買ったうちの箸は、すぐに湿気で黒ずんできたので、無添加の健全な竹箸だろうか。

北海道東川町の「君の椅子」は、生まれた子供に地元家具屋のハンドメイド椅子を刻印して贈る制度。著名デザイナーが関わっていて、見た目もかっこよく趣旨がわかりやすいので、いいプロジェクトだと思う。

大阪府大阪市の「路上脱出ガイド」。「空腹で弱っている人でも、残っているわずかな気力で読めるようにデザイン…」というのが、切迫した状況を想像させる。日雇いや生活保護など、しかるべきところに行けばセーフティネットは存在するが、それも知らずに行き倒れる若者が多いそうだ。確かに、いざ路上生活に陥ったらネット環境もないだろうし、役所がどこにあるかすらも調べられなくなりそうだ。

東京都豊島区の「スガモフラット」。住民同士の親密度が高いコレクティブハウスの実現例だ。庭や家電を共有するのはいいとしても、持ち回りで他の住人の食事も作らなければならない、というのはハードルが高い。10組以下の気が合う家族なら可能かもしれないが、外国人も含め入れ替わりが激しく独身者が多い状況で共同生活を送るなら、家電とインフラ・水回りだけ共有するシェアハウスの方が合理的だろう。

熊本城の「一口城主制度」。一口1万円で10年間に約2.7万人、12億600万円の寄付を集めて天守閣復元したらしい(約89億円の総費用の一部負担)。計算すると、1人あたり平均4.5万円くらいの寄付額になる。中には10万とか100万寄付した人もいるのだろう。死ぬ間際で身寄りもなく、特に使い道がない資産があったら地元の城に投資するのも一興かもしれない。京都の二条城や福井の小浜城でも「一口城主制度」が始まっているようだ。

地元の満足度向上より、外に打って出る戦略が必要

全体的に見て、いくつか企業主体のプロジェクト以外はボランティアベースで採算性・持続可能性に乏しいと感じた。住民が手作りで地元をちょっと盛り上げるイベント的なアイデアはいくつも紹介されているが、地域独自の価値を掘り起こして、首都圏や海外にも太刀打ちできる新しいサービスをつくれないだろうか。

その意味では、「健康的な田舎のITワークスタイル」というのを鮮明にアピールした神山町はやはり一つの成功例だ。二番煎じでもいいから、近所の山や実家の近くで、短期滞在できるシェアオフィスやシェアハウスが増えてくれるといいなと思う。