BRAUNアラーム時計AB40slレビュー、トグルスイッチの秘密

もう20年近く使い続けているBRAUNの目覚まし時計、AB40slをレビューしたい。

すでに廃番だが、実用性の高いトグル式のアラームスイッチをそなえたユニークな製品だと思う。つくりも頑丈で、長年ハードに使い込んだがまったく壊れる気配がない。

現行・歴代製品との違い

AB40slはディートリッヒ・ルブスによりデザインされ、1992年に発売されたモデル。同じ年に出たAB7とよく似ているが、上部のスイッチ形状が少し異なる。

BRAUN AB40sl

80~90年代にかけてブラウンは目覚まし時計を多く販売していた。中にはラジオやボイスコントロール機能(声を出してアラームを止める)を搭載したり、携帯用に前面カバーが付いたモデルもある。

角型・丸型を含めて10種類以上あるなかで、AB40slはアラームだけのシンプルなモデルといえる。一応ライトとスヌーズ機能は付いている。秒針はスイープや静音設計でなく、動作音は比較的大きい。

サイズは縦横7cmで、ラインナップの中ではちょうど中間くらい。文字盤はくっきり読みやすいため、6畳くらいの広さの部屋なら掛け時計の代わりにもなる。旅行用に持ち運べないこともない、絶妙なサイズ感だ。

そしてAB40slの最大の特徴は、本体上部に取り付けられた大きなボタンにある。

トグル式のアラームボタン

AB40slの上端には、シーソーのようなかたちをしたスイッチがついている。横長のバーを左右どちらかに倒してアラームを制御する仕組みだ。

BRAUN AB40slのアラームボタン

スイッチはオン/オフどちら側でも、ボタンを深押しするとライトが点く。オン側は同時にスヌーズ状態に移り、オフ側に倒すまで数分おきにアラームが鳴り続ける。

上面にon/off、snoose/lightなど小文字で説明がプリントされているのも、往年のブラウン製品を彷彿させる仕様でかわいらしい。

現行モデルはボタンひとつ

過去のモデルにはオン/オフ2つボタンが付いていたものがある。そして目覚ましを止める際に見分けやすいよう、オフ側のボタンは赤く塗られていた。

その後は改良が進んだのか、現行製品では単一のボタン型スイッチに統合されている。アラームをセットした際は、側面が緑色に塗られたボタンが上に飛び出る。パッと見ただけで、目覚ましのセット状態がわかるための工夫だ。

機能上はこれで十分。大きめのボタンひとつなので、見た目もシンプル。「余計なデザイン要素を減らす」という、ブラウンのポリシーにも合っているように思う。

トグルスイッチの利点

なぜ90年代の目覚まし時計AB7やAB40slには、大げさなトグルスイッチが付いているのだろう。長年使っているうちに、普通の押しボタン式にはない利点があるとわかってきた。

構造が単純で済む

目覚まし時計の動作切り替えは排他的な状態遷移だ。

「スヌーズ」という中間状態を想定しなければ、オンかオフのどちらかしかありえない。そのため、過去製品のようにオン/オフ2つのボタンが付いているのは冗長に思われる。

内部的には同時押しできない構造になっていたとしても、うっかり両方押し込んでしまう危険性がある。寝起きの操作ミス、あるいは子どもが遊んで壊してしまうなど、ヒューマンエラーは容易に想像できる。

すると2つのボタンを一体化させて「オン/オフどちらかしか選べない」トグル型にする方が合理的だ。

部屋の壁に付けられた照明用のスイッチが参考になる。繰り返し押しても壊れにくく、適当に叩いても反応する。さらに突起に引っかかって危なくないよう、平べったいシーソー型になっている。

ボタンひとつの場合は、アラーム設定中の状態を知らせるために、半押し状態を維持する必要がある。そのためノック式ボールペンのように、内部に複雑なカム機構が要求される。

一方でシーソー型スイッチは見た目が大げさになるが、機構としては可動接点の上で押棒を滑らせるだけ。構造がシンプルになり壊れにくく耐久性も増す。

耐久性が高い

目覚まし時計は毎朝過酷に扱われる製品だ。視認性やデザイン性よりも、頑丈で壊れないことが最優先になる。

「寝ている人を無理やり起こす」というミッションのため、恨みを買って投げられたりすることもある。大事にしているブラウンの時計でも、無意識に叩いて床に落としてしまうこともある。

「さすがにこれは壊したか」と思われるシチュエーションでも、AB40slは平気で動いている。この時計の耐久性は折り紙付きだ。

風防のプラスチックがやけにぶ厚かったり、スイッチ以外に壊れそうな突起部がない、という工夫も一役買っている。トグルスイッチは平べったいので折れたりしない。外から加わる衝撃にはかなり耐えられる。

状態がわかりやすい

スイッチがトグル型だと、左右どちらに倒れているかでオン/オフ状態を見分けることができる。

BRAUN AB40sl

ボタンひとつの場合でも、突起の高さ(押し込み深さ)によって状態を判別することはできる。しかしたとえ現行製品のようにボタン側面に色がついていたとしても、暗闇では見分けることができない。

トグル型ならスイッチを触っただけで「左はオン、右はオフ」と直感的にわかる。指先で押しボタンの出っ張り具合を確かめるよりも確実だ。確認の際に、うっかりボタンを押し込んで目覚ましをオフにしてしまうミスも防げる。

AB40slの大型シーソースイッチなら、夜中に手探りでもアラームをセットしたかどうかがわかる。前面のプラスチック風防が盛り上がっていて、後方左右のエッジが丸くなっているのは、手触りで前後を判別させるためと思われる。

文字盤・ケースの特徴

文字盤はほかのモデルと同じく、黒い文字盤に太めの白い針が配置されている。

秒針はビビッドな黄色で塗られ、ほかの針と見分けやすくやすい。アラーム針は目立たない黒色で、先端部分だけ緑色に塗装されている。

軍用時計並みにコントラストの高い配色のおかげで、視認性は抜群だ。

BRAUN AB40sl

朝の戦場のような状況では、どんな間違いが起こるかわからない。ド派手なくらいの警戒色を塗って、寝ぼけまなこでも直感的に見分けられるようにした方が安全といえる。

細部のマイナーチェンジ

ブラウンの目覚まし時計はどれも同じに見えて、細かいところは時代に合わせてマイナーチェンジされている。

たとえばAB40slの針は角型だが、現行製品の針は先端が丸くなり、夜光塗料も入れられている。ただし他の腕時計や掛け時計とは違って、アラームだけ全モデルにBRAUNロゴ下のquartz表記がプリントされている。

BRAUN AB40slの文字盤

そして旧製品では数字のフォントが、ほんの少し丸みを帯びた書体になっている。特に2の数字を見ると違いがわかりやすい。現行モデルのフォントよりも、上の部分が大きく膨らんでいる。

BRAUN AB40slの数字フォント

さらに90年代のアラームには、文字盤の下の方にbcs(Battery Check System)という表示がある。電池残量が少なくなると、2秒ごとの運針で知らせてくれる機能だ。

BRAUN AB40slのbcs

発売当時はこれがセールスポイントだったのだろう。今はたいていのクオーツに搭載される基本機能になったせいか、現行機種では表示が省かれている。

裏側の操作部

AB40slの裏面には、電池収納部とスピーカー、時計とアラーム用の2つの調整ダイヤルがついている。このうちアラーム用は針の先端と同じ緑色に塗られているため、起床時間調整用のダイヤルということが目で見てわかりやすい。

型番の正式名称はType: 4 742 / AB 40 sl。

BRAUN AB40slの裏側

ダイヤルは薄型で、突起が2つ飛び出た独特の形状をしている。普通のツマミでないのは、ケース裏面をフラットにするための工夫だろう。

円盤が薄いため操作性は落ちるが、その代り「誤って回してしまう」ミスも減る。絶妙なバランスの設計だ。

電池カバーはかなり強固に固定されているため、うっかり外れて電池が飛び出してしまう心配がない。多少乱暴に扱われても、しぶとく動き続けて役目を果たそうとする健気な時計だ。

スマホ+掛け時計に交代

手回し調整式アナログ時計の宿命として、アラームが鳴る時刻はデジタル時計ほど正確ではない。手元のAB40slは、いつも2~3分早く目覚ましが鳴ってしまう。

最近はスマホのアラーム機能が便利なので、そちらをメインで使いようになった。端末内の音源から好きなBGMを選べるし、音量調整やスヌーズ設定も意のままだ。

一方で作業中の時間を測るには、アナログ時計の方がまだ便利。そう思って目覚ましの役目は終えても机の上に置いてきたが、そのうちこれも邪魔になってきた。置き時計を掛け時計に替えれば、その分デスク上のスペースを広く使える。

BRAUN AB40sl

結局同じBRAUNから出ているBC06という掛け時計を買ったので、AB40slは引退することになった。今は絶対に朝起きなければならない用事があるときだけ、スマホの予備としてセットする程度だ。

そもそも退職後は目覚ましをかけて起きる習慣がなくなったので、アラーム自体使う機会が少ない。疲労回復に必要な分だけ寝て体内時計で自然に起きられるなら、無理に起こされるよりもいい。