先日エレコムのハイレゾヘッドフォンが壊れたので、ビクターのHA-RZ910に買い替えた。家の中で使う前提の大型機だが、ユニットの口径が50mmもあるおかげで素直に音がよい。5千円程度なのにBOSEに匹敵するクオリティーで、日ごろの音楽ライフが格段にグレードアップした。
高級ヘッドフォンを持つ弊害
外出時はかさばらないインナーイヤー型のヘッドフォンを使っているが、RZ910に慣れると音質が物足りなくなってきた。特に高速バスで長距離を移動する間など、「半室内」と呼べる環境ではもう少しいいヘッドフォンが欲しくなる。
同じ曲でも、ヘッドフォンが良くなると今まで聴こえなかった音に気づいたりする。ビクターのおかげで、昔の曲をじっくり聴き直すという有意義な趣味ができた。そのあとにショボいヘッドフォンで聞くと、まったくスカスカに聴こえてしまうので、高級機とは罪なものだ。
主に長距離移動、また散歩やウォーキングのお供に、オーバーヘッドタイプのコンパクトなヘッドフォンを買い増すことにした。いくつか検討して選んだオーディオテクニカのATH-S100についてレビューしたい。
ATH-CK303Sはコードが短すぎた
比較として、現在使っているインナーイヤーヘッドホンはオーディオテクニカのATH-CK303S。2,500円程度の価格で再生周波数帯域は20~23,000Hzと、最安廉価品よりはちょっといいくらいのスペックだ。
スマホやガジェットについて来る安そうなヘッドフォンに比べれば、音質はともかくコードの素材、絡まりにくさなど、ハード面の性能は断然良い。4種類もついてくるイヤーピースのおかげで、エラストマーのフィット感も抜群だ。
実はCK330のうち、0.6mショートコードのSを買ったのが失敗だった。電車で音楽を聴く際に、ケーブルは短い方が扱いやすい。コードが擦れるノイズや音質劣化も避けられそうな気がする。上着やシャツの胸ポケットにスマホを入れれば、0.6mでも十分に耳まで届く。
しかし、夏場のTシャツや秋冬のセーターで、胸にポケットがないタイプだと端末の置き場に困る。ズボンのポケットに入れるとぎりぎり耳まで届かない長さなので、腰のベルトにスマホを挟むような、変なスタイルになってしまう。通年利用を考えると、ヘッドフォンのコードは無難に1m以上あった方が便利だと思った。
ATH-CM700(アルミ版)の思い出
音質についてそれほど不満はなかったが、ビクターRZ910と聞き比べるとやや物足りなく思う。ドライバーの口径が5倍も違うのだから当然といえそうだが、昔使っていたATH-CM700はその中間のφ15.4mm。現行CK303Sより音も良かった記憶があるから、やはりドライバー口径は音質に直結するのだろう。
かつてのCM700は最近主流の耳栓型(カナル型)でなく、耳のくぼみに引っ掛ける昔ながらのヘッドフォン。遮音性は劣るが、室内使用ならこちらの方が着脱便利で耳に負担も少ない。同型でチタン素材のCM700TIもラインナップされていた。鈍色に輝くチタンカラーに魅かれたが、さすがに高すぎるのでアルミで妥協した。
ソリッドな金属製ハウジングは剛性十分だったが、コード接続部の強度はいまいちだったようだ。2年ほど使ったらケーブルが断線して寿命を迎えた。オーディオテクニカのインナーイヤーはもう耳栓型しかないのかと思ったら、少数だが従来型の形状も販売されていることがわかった。しかも10月に発売されたばかりの、CM700を彷彿させるチタンモデルが出ていると知った。
後継機ATH-CM2000Tiは価格が異常
ATH-CM2000Ti、発売直後の価格を見ると50,000円くらい。桁を1つ見間違えたかと思ったが、カナル型の方はさらに高くて80,000円。意味不明な高価格で庶民はお呼びでないとわかった。ドライバー口径はCM700と同じφ15.4mmだが、ハイレゾ対応やコードの改良でここまで値上がりするのだろうか。
経験上、ヘッドフォンの音質はドライバーユニットの口径に直結する。CM2000Tiのサイズでどれだけがんばっても、価格1/10のビクター50mmにかなわないと思う。今までSHUREやBOSEのインナーイヤー高級機に興味を持てなかったのも、それが理由だ。
本当に極微細な違いがわかる、一部のプロやマニアだけが恩恵を受けられる製品なのだろう。音質はヘッドフォンだけで決まるものではない。電車やバスでスマホにつなげて雑に視聴するスタイルなら、廉価製品と体感性能は変わらないと思う。
街中でオーバーヘッドも違和感ない時代
ショートコードで失敗した反省を生かして、次に買うのはケーブル長さ1m以上。口径小さめでもよいので、小型・軽量なオーバーヘッドモデル。家電屋の店頭で何台か視聴したが、やはり使い慣れているオーディオテクニカの製品群が良さそうに見える。
コンパクトなオーバーヘッドタイプは、通勤・通学用のニーズが増しているように思う。スマホが普及したおかげで、iPodのようなMP3プレーヤーと携帯を2台持ちしなくても屋外で音楽を聴けるようになった。端末が便利になると、再生側のヘッドフォンもグレードアップしたくなるものだ。街中でみんながヘッドフォンを着けているから、ファッションとして差も出したくなる。
多少、髪型が崩れたりカバンの中でかさ張るデメリットはあるが、音質重視でオーバーヘッドのヘッドフォンをかけて歩く人が増えたように思う。30年前ならおかしい人と思われただろうが、今では自転車に乗りながらごついヘッドフォンをしている人も見るくらいだ(法律上はグレーだが、後ろの車に気づかず危ないのでやめた方がいい)。
ATH-ARシリーズの違い
2年前にヘッドフォンを検討した際、AKGのオンイヤータイプ、Y40とY50が価格・品質・デザイン面でバランス良く思われた。店頭を探してみたが、すでに生産終了で流通在庫のみなようだ。後継機としてBluetooth対応のY500 Wirelessが発売されたが、1万円以上する上、無線タイプは好みでない。
ソニーやパナソニックも、売れ筋のハイレゾ商品と別に、こっそり廉価版のオーバーヘッドタイプを出している。家電屋に並んでいる3,000円前後の商品だと、スマホをつないで視聴しても正直違いがわからない。
オーディオテクニカの製品群では、2016年に発売されたATH-ARシリーズが今回の目的に合致する。AR1、3、5とグレードが上がるにつれて値段も上がるが、サイズ的には口径40mmの1と3が候補だ。
AR1は最安・最軽量だが、コード片出しでないのがいまいち。AR3なら片出しの上、本体からコードを着脱できるので、断線時に交換できるメリットもある。外装パーツも最近はやりのマットな質感で高級感がある。
ATH-S100という最廉価の伏兵
一方、AR1の隣にさらに安いATH-S100という機種が展示されていた。ARシリーズに比べると、いかにもプラスチックというチープな見た目だが、重量110gで軽さは文句ない。ドライバーは口径36mm で一回り小さくなるが、手持ちのインナーイヤーより音は良く聞こえる。
S100はこの価格にしてコード片出し仕様のため、実用面からするとAR1よりスペックは高い。ハウジングはスイーベル機構でフラットに収納できるが、ARのように内側に折りたためない。逆にARは完全フラットにならないので、「平たくバッグに収納する」という意味ではS100の方が勝る。
イヤーパッドはすぐに劣化しそうなビニール製だが、この価格帯の商品に交換部品を用意しているのは、さすがオーディオテクニカだ。数年使ってパッドが傷むころには、ケーブルが断線したりあちこち故障が出てくるだろう。本体が2千円以下という格安品なので、使い捨てのつもりで実験してみるのもいい。
いずれAR3に買い替えるかもしれないが、激安・軽量ヘッドフォンの実力を評価してみようと思ってS100を購入してみた。この価格帯だと通販でも差額が小さく、たまたまヤマダ電機の株主優待券が期限間近だったので、半額程度に割引を効かせて店頭購入できた。
低音強調しすぎだが側圧は適切
とりあえずスマホに接続して、家の中や外を散歩しながらいろんなシチュエーションで視聴してみた。同メーカー、同価格帯のインナーイヤー型CK303よりは、予想通り音場豊かに聴こえる。しかし、どうも低音が強調され過ぎているようで、再生する曲を選ぶ。
Chick Coreaのピアノソロあたりは問題ないが、低音ブリブリのMassive Attackでも流そうものなら、頭の中でグワングワン響いてグロッキーになる。このあたりは好みによると思うので、逆に低音が好きでたまらないなら病的に気に入るかもしれない。
どうも安い価格のヘッドフォンは、低音強調して店頭視聴時のインパクト勝負という設計がなされているようだ。確かに屋外で雑に聴くなら、繊細な上音を拾うより、ベースがズシズシ響いた方が満足感を得られるだろう。
そういう意味で、外を歩きながら、また電車の中でカジュアルに楽しむなら、ATH-S100は必要十分のガジェットだといえる。Amazonのレビューなどで「パッドの締め付けが強い」というコメントもあるが、そもそもオンイヤー型なら側圧強めでないと安定しない。
圧力的に2時間映画を観るくらいが限度だと思うが、おかげで装着しながらジョギングもできるくらい安定感は抜群だ。それが嫌なら、もっと大口径で耳に外枠引っ掛けるタイプのオーバーヘッド型を選ぶのが筋だ。
2千円以下で試せるリファレンス機
スマホについてきたインナーイヤーのヘッドフォンで物足りなければ、グレードアップ候補としてS100はおすすめできる。何より2,000円以下の低価格で手に入るので、1万円を超えるインナーイヤーの高級機を買う前に、一度試してみるのもいいと思う。
ワインの評価と同じで、他人のヘッドフォンレビューも案外あてにならないものだ。目隠してしてATH-S100を着けさせられたら、素人目には「BOSEの3万円」と言われても違和感ないかもしれない。
マーケティング用語で、「価格が高いことで製品の効用も高まる」というヴェブレン効果がまさに当てはまるジャンルだと思う。ATH-CM2000がアホみたいに高いのも、販売戦略上の理由だと思う。加工の難易度はともかく、素材としてのチタンはそこまで高価でもない。