Airbnbで田舎の一軒家に民泊。スーパーホストのおもてなしに感激

仕事の用事で行った熊本のとある田舎町。近くの市中心部まで行けば温泉旅館や安宿はあるが、町の中にはまったく宿泊施設がない。たいした観光地でもなく、メーカーの工場とかあるわけでもなく、さらに近隣に巨大温泉街が控えているから、わざわざここに泊まる理由がない。

そんなときに重宝するのが民泊。Airbnbのサービスをはじめて試してみた。

Airbnbの読み方

Airbnbの公式的な読み方は「エアービーアンドビー」だが、長いのでみな適当に略して呼んでいるように思う。略称は「エアビー」とか「ビーアンドビー」が主流だが、後者はスポーツショップのB&Dと間違えやすい。

日本ではBed & BreakfastのB&Bという概念が浸透していないので、後半のbnbが日本語だと「ブンブン?ビンビン?」となんとも発音しにくい。個人的にはエアービー、エアビーくらいが妥当に思う。さすがに「エビ」と呼んでいる人は見たことがない。

民泊は決して安くない

これまでもときどきAirbnbを検索したことはあるが、家一棟貸しなど、いまいち料金が高くて一人旅にはマッチしなかった。普通のホテルと違って、風呂とか食事はどうなるんだろう?気をつかって疲れるんじゃないかとか、不安に思っていたこともある。別に宿は雨風しのいで寝られればそれでいいし、ホストとのコミュニケーションなど望んでいない。

今回はたまたま一緒のプロジェクトに取り組んでもらっている、取引先の人と泊まることができた。Airbnbも使い慣れているようで、うまく見つけた現地の民泊を予約してくれた。こちらはリマインダーのメールを受け取るだけで、お支払いも割勘、現金渡しで済ませた。

2階建ての農家の離れを貸し切りで、清掃料金・サービス料も合わせ1人6千円くらい。付近の宿泊相場よりは高いが、家の広さ・設備によっては割安かもしれない。最大人数9人、ベッドも6台あるので、どちらかというと家族でバンガローに泊まるような感覚だろう。

民泊向けに改修してある

同宿人を空港までレンタカーで迎えに行って、温泉街で食事してチェックインしたのは23時過ぎ。真っ暗な畑の中で道に迷い、遅くなってしまったが、ホストのご夫婦は深夜にも関わらず快く迎えてくれた。

宿は写真で見た通り、普通の家。特に古民家とかリノベーションとか凝ったつくりではなく、「親が亡くなって母屋に移ったから離れを貸し出している」とのことだった。東京あたりの狭い住宅よりは断然スペックが良く、キッチンやバスルームの設備は充実している。

最初に宿帳らしきものにサインしてから、各設備の使い方の説明。夜も遅いので、軽く雑談して、おやすみなさいということになった。やはり普通のホテルでなく人の家なので、どうやって使っていいのか(どこまで立ち入っていいのか)勝手がわからない。中には鍵がかかった開かずの間・押し入れなどもある。チェックイン時に、ホストの方が毎回案内されているようだ。

キッチンにワインや焼酎が備え付けてあり、自己申告制でチェックアウト時に料金精算する仕組みになっている。このあたりは妙に普通のホテルらしくて、ちょっとうける。

洗面所にも、使い捨ての歯ブラシ・歯磨き粉がちゃんと用意されている。

廊下の上に、普通の家にはまずなさそうな非常口の案内表示が設置されていた。このあたりは民泊としてやっていくために、最低限改修が必要な部分なのだろう。築年数は数十年ありそうだが、壁紙や設備は新しいので、民泊化にそなえてリノベーションしたのかもしれない。

利用者は外国人が9割

ご主人の話では、「利用者は9割がた外国人」とのこと。車がなければ来られないような、こんな場所によく泊まるなあと思ったが、たくましくレンタカーを借りて訪れるらしい。屋内の案内表示はすべて英語も併記してある。

Airbnbのサービス自体はもともと英語だから、われわれ日本人が『地球の歩き方』を頼りに海外旅行で安宿を探すようなものだろう。ウェブから検索できればダイレクトに予約してもらえる。楽天トラベルや旅行会社のパッケージとは、まったく別ルートのPeer to Peerなマッチング市場が用意されている状況だ。

ウェブサイトのサービスに朝食は明記されていなかったので、まわりにコンビニもなくどこで調達するか悩んでいた。聞いてみると普通に朝食は含まれているそうで、家庭栽培の有機野菜を中心とした素朴な和定食をいただくことができた。

自家製ブルーベリーを乗せたヨーグルトは、パフェ風に盛り付けてくれておしゃれである。輪切りのレモンを浸したレモン水も地味においしく、何杯もいただいてしまった。

双方が交流を楽しめるかどうか

Airbnbでは、泊める方も泊まる方も初対面で慣れない中、使い方やルールを説明するという場面が出てくる。そのプロセスを楽しめるかどうかが民泊の試金石だろう。コストと効率重視の仕事の出張では、強いて民泊を利用する価値はない。

自分はサウナでもカプセルホテルでも快適に寝られさえすればOK。いちいち宿の主人や同宿人と交流などしたくない、という性格なので、民泊利用に向かないと思った。「離島でそこしか宿がない」とか、波照間島の「民宿たましろ」レベルの観光スポットなら、仕方なく泊まってみるという感じだ。

いっぽうホストの方も、外国人も含めたよくわからない物好きたちを家に泊めるという心理的ハードルがある。今回お会いしたご主人は、リタイアして田舎暮らししているが、もとは東京で働いて英語も堪能な方らしく、ゲストとの交流を楽しんでいる風だった。奥様も目の前の畑で自家栽培した、無農薬のハーブティーや野菜を振る舞ってくれて、おもてなしをエンジョイしているようである。

持て余している離れの住居を活用して1人1泊6千円の売上。さらに海外からのお客さんも合わせていろんな話が聞けるという意味では、性格的に合えば楽しい副業といえるだろう。退職して人との交流範囲が狭くなり、さらに空き家を使ってもらって傷むのを防げるという面で、金銭収入以外のメリットもありそうだ。

条件がそろえば手軽な副業になる

現段階で、民泊はゲストというよりホスト側の利点やモチベーションが大きいように感じた。泊まる側からすれば、民泊といっても楽天トラベルなどで検索する宿泊候補の一つに過ぎない。

繁忙期やイベント前とか、よほど悪条件が重なって他に宿がない…あるいは家族や仲間内でおもしろい宿に泊まってみたい…貸し切りで気兼ねなく騒ぎたい…そういう条件でしか選ぶ理由がない気がする。Airbnbは他のゲストハウスより決して安いわけではない。むしろ特殊な条件、ホストとの交流をプレミアムな価値として値付けしているように思う。

ホスト側からすれば、民泊サービスのおかげで今までなかった収益の機会を得られる。今回のように、空き家や余暇があって対応が面倒でなければ、手軽に始められるサイドビジネスといえる。ヤフオクやフリマアプリの延長で、家を貸し出す人も増えていくだろう。

実はスーパーホストだった

今のところ、おとずれる旅行者は海外客も含めいい人ばかりだという。宿に置かれた感想ノートにも、好意的なレビューがびっしり書かれていた。

なるほどAirbnbを使いこなしてこんな日本の奥地を訪ねてくるくらいだから、教育水準や流行感度は高そうだ。レビュー評価と性善説にもとづくシェアリングサービスとして、「中国人旅行客にテレビごと盗まれた」というような話は聞かない。

間違っても、酔っぱらった日雇い労働者がAirbnbの民泊になだれ込んでくることはないだろう。そのあたりはサービス利用者を選別する仕組みがうまくできている。

ホスト側も断片的にお伺いしたエピソードや、料理の盛り付けセンスからすると、趣味のよさそうなご夫婦だった。Airbnbのサイトで「スーパーホスト」と表示されていたから、最初からレベルの高いホストに巡り合えたということなのだろう。

スーパーホストの認定を受けるには実績やレビューに関して厳しめの条件があり、獲得しているのは全体の1割にも満たないといわれる。逆にホストがゲストをレビューできるようにして、マナーのよい宿泊者はスーパーゲストとして割引や特典を受けられるようになるとおもしろい。

Airbnb初体験としては、対応に慣れたスーパーホストさんのおかげで快適に過ごせたといえる。和室の床の間には花まで生けてあった。

一軒家を2人で使ったので、ほかの安宿に比べると割高ではあるが、静かな畑の中でのんびり過ごせた。さしあたって民泊ならではのトラブルや不便さは思い当たらなかったので、スケジュールに余裕があれば一人旅でもまた利用していいかと思った。