エルメス手帳に合わせて、財布も革製に格上げする計画。最近出てきたミニ財布を一通り検討して、選んだのはVintage Revival ProductionsのAir Walletだ。当時はまだネットのレビューも少なかったので、実験してみたい気持ちもあった。
一見シンプルな小銭入れ付き二つ折り財布に見えて、実はいろいろ工夫が凝らされたアイデア商品といえる。単に薄型なだけでなく、財布本来の機能を改良する野心的な試みもみられる。
半年ほど使ってみたAir Walletの感想をまとめてみよう。
Vintage Revival Productions
発売元はヴィンテージ・リバイバル・プロダクションズという、やけに長い名前で香川県に工房を構える新興メーカー。岡山の倉敷がジーンズ製造で有名なこともあり、瀬戸内にはセンスのいい雑貨職人が多くいるように感じる。
今回選んだAir Wallet以外にもいくつか財布を出していて、中でもflatzip walletという長財布が興味深い。
お札以外の機能を外に出したユハクのアルベルテと逆に、1ポケットの中でいかに厚みを増やさないかという工夫がみられる。全体をジッパーで閉じられるのでカードが抜け落ちる心配もない。多少厚みが増しても、flatzipの方が使い勝手は上に思われる。
内側の革に設けられたスリット
薄型の二つ折り財布としては、FRUHが競合製品といえる。どちらも外観はオーセンティックな革財布だが、畳んだときに厚みが出にくい最新版だ。Air Walletの場合、屈曲部の内側の革に、大胆な切り込みが入っているのが特徴。
2枚合わせの革を曲げれば、当然内側の革がたるんでしわがよる。そのため二つ折り財布は通常、内側の革が外側より短く接着されていて、自然に自立させると「くの字」になる。180度は開かない代わりに、折りたたむ際、内側の革がよじれないための工夫だ。
Air Walletはさらに一歩進んで、革の中央と下端に2つスリットを設けている。内側の革は、両端の細い帯でかろうじてつながっているような状態。強度が心配されるが、本革なら繰り返し伸縮させても疲労がたまってちぎれる心配は少ない。また、内側のパーツなのでポケットやカバンと擦れて傷む懸念もない。
すでに意匠登録されたアイデアだが、ほかのプロダクトにも応用できる画期的な構造だと思う。ためしに手帳の内側に差し込む自作の札入れに適用してみたら、すんなり改良できた。
ヌメ革モデルの一部は合皮製
Air WalletもFRUHと同じくコードバン素材の高級版がラインナップされている。Airはブライドルやシュリンクレザーなど、革の種類がさらに豊富だ。たまたまセールで安くなっていたヌメ革のtanned leatherが1万円弱で手に入った。
本当はエルメスの手帳カバーに合わせて、シボの表情豊かなシュリンクレザーを試したかった。しかしライトブルー、オレンジ、レッドという変わった色しか品ぞろえがなく残念だ。ヌメ革のAir Walletは、トラベラーズノートの革カバーと一緒に持てば、統一感を出せそうに思う。
oil leatherでもないので、手に持った感触はパサパサした紙のようだ。しかし使い込むにつれて徐々に手の脂が染み込み、艶が出てきた。細かい傷がついても目立ちにくいのはヌメ革の強みだ。
値段相応に、縫製やコバの加工は店頭でチェックしたFRUHより精度が高い。閉じた状態で外から見れば、そこそこいいブランド品に見える。2万円以上出してコードバンやブライドルのバージョンを選べば、さらに革の経年変化を楽しめるだろう。
この製品、実は札入れの内側と、カード入れの2~3段目、小銭入れジッパーから反対の革を保護するパーツの3点が合皮になっている。よく見ると質感の違いが目立つので残念だが、これも全体を薄く軽く仕上げるための配慮なのだろう。ブラックカラーだとパッと見は気づかないくらいの違いだ。
小銭入れのサイズ感とジッパー金具
Air Walletは小銭入れが1/4サイズの円形になっているのも特徴といえる。ピザのようなコインケースは当然収納量も少ない。しかし、お釣りを詰め込めば革が膨らんでそこそこ硬貨が収まる。
普段、小銭をもらったら家にある別の財布に移して、持ち歩くのは最小限のコイン4枚だけにしている。財布の小銭を毎日整理する習慣のある人なら、Air Walletのサイズで問題ないだろう。
小銭入れのジッパースライダーは、FRUHとまた違った特注タイプになっている。ヒンジにバネが仕込まれていて、片側にパチンと閉じるため財布を折ったとき邪魔になりにくい。
閉じた際、向かい側の革がジッパー金具で凹まないよう、合皮を当ててカバーしてある。小銭入れのファスナーを中途半端に閉めた状態だと、保護パーツを外れて思い切り革に傷がついてしまうのは難点だ。
取っ手がゴムで覆われたYKKの取っ手は、パタゴニアのフリース、R2ジャケットのメインジッパーにも採用されていた。5年くらい使うと割れて取れてしまったので、金属製より耐久性は低いと思う(現行R2は交換容易なひも型に戻っている)。
財布の小銭入れと上着のジッパー、開け閉めする頻度が高いのはどちらだろうか。引き手を樹脂製にした理由は不明だが、劣化の過程を観察してみたい。とりあえず半年使った限りでは、耐久性にまったく問題はなさそうだ。
札入れの中の予備ポケット
開いて左側、札入れの中にカードを入れる予備ポケットが隠されている。ここの仕様はAir Wallet2に見られる改良版だった。写真で見る初期バージョンより、角の部分にカードが引っかかる仕組みになっており、脱落防止に役立っている。
その分、中のカードは取り出しにくくなるが、使用頻度の高いカードは右側の3ポケットに差せばよい。財布の中身は減らしたいと思いつつ、どうしても近所のスーパーのポイントカードや株主優待券が増えてしまう。
Air Walletの内側ポケットは、たまにしか使わないカードや免許証を入れておくのに最適なスペースだ。カードより小さいサイズのイオン・エコスの株主優待券は、折りたたんでここにしまっている。
右側のカードポケット3つは、すかいらーくの優待券やQUOカードなど薄型のものを入れておくとかさばりにくい。あとはメインで使うクレジットカードを差しておくくらいで十分だろう。
フラップ状のオープンポケットが便利
使っていて意外と便利だと感じたのは、札入れの左側がオープンになっていて、小銭入れと一緒にがばっと大きく開く点だ。お店でもらったレシートやチケットを差し込む、簡易的なポケットとして活用できる。
財布に千円札と一万円札を1枚ずつ入れているが、高額商品はほぼカード決済するので小銭に比べて使用頻度が少ない。コンビニやスーパーも、ほぼ電子マネーに対応してきた時代。節約していると、お札を出す機会は1か月に1回くらいしかない。
そのため、紙幣は隠しポケットの内側に挟んでおくと、手前の収納スペースと干渉せず便利だ。フラップ状の隠しポケットが仕切りを兼ねて、札入れが2ポケットになっているともいえる。
奥に挟んだお札は取り出しにくいが、めったに使う機会はない。お札でお釣りももらったら、とりあえず手前の簡易ポケットに突っ込んでおいて、あとで奥側の定位置に整理することにしている。
地味だが使い続けると良さがわかる
ここ10年くらい、L字型~ミニ財布と経由してきたので、この手の二つ折り財布を使うのは久々だ。最初はでかいと思ったが、今は中身を取り出しやすいという便利さの方が上回る。もくろみ通り、お札に折り目を付けずに収納できるのも明らかなメリットだ。
強いて言えば、外観がごく普通の財布なので人に自慢できないのが寂しい。あれほどミニウォレットや極小財布を研究したので、こだわり抜いた逸品をまわりにアピールしたいと思う気持ちもある。
実際のところ、財布を見せてブランドや機構のうんちくを語る機会などそうそうない。今はむしろ、一見普通の財布に見えて中に驚くべき仕掛けを満載したAir Walletがかえって奥ゆかしく感じる。
ミニ財布の追及に疲れた人は、このくらいのサイズ感の二つ折り財布を持ってみると、いいリハビリになるかもしれない。強烈なインパクトはないが、じわじわ作り手の配慮や使いやすさがわかってくる。Air Walletはそういう侘び寂びタイプの商品といえる。