久々にKNOXの古い手帳を取り出してみて、ミニ5穴手帳の良さをあらためて実感した。
ここ3年くらいの間に気になったシステム手帳の新製品を取り上げてみたい。アシュフォードのアイデアスケッチ、HUKUROの手帳カバー、エレンとその後継モデル、KNOXのルフトなど。
それらの共通点を考えると、今求めているのは太くて長いペンホルダー。そして机の上でパタンと開ける、フレキシブルな開閉機能だとわかってきた。
マイクロ5の規格で両方の性能を兼ね備えた製品は、残念ながらまだ見たことない。各モデルについて惜しいと思う点を、それぞれ検討してみたい。
アシュフォードのアイデアスケッチ
もうとっくに販売中止になってしまったが、2016年に発売されたIDEA Sketch(アイデアスケッチ)は興味深い新製品だった。
アシュフォードと文具ウェブマガジンのpen-infoがコラボした企画商品。サイズはミニ5穴のMICRO5(手のひらサイズ)一種類のみで、手帳というよりジョッター的メモ機能を強化している。
たまたま三越伊勢丹の店頭で、スムースレザーの別注モデルに触れることができた。ミニ5穴としては12,960円もする高級品。迷っているうちに実店舗でもネット通販でも在庫がなくなってしまった。
滑り止めスマホベースの是非
コンセプトは「スマホとの融合」。手帳の上にスマートフォンを安定して置ける、滑り止めのシートが表紙裏に縫い付けられている。
表紙の上にスマホを置けば片手で手帳と同時に支えることができる。空いた右手でスマホの画面を見ながら手帳にメモできるという画期的アイデアだ。基本的に右利き専用だが、手帳を逆さにすれば左利きでも使えると思う。
実際のところ、移動中にスマホを手帳に乗せて書き写す機会などそうそうない。もし電話番号などとっさにメモしたくなったら、座って膝やカバンの上にスマホを乗せるなど代替手段は思いつく。
ある程度訓練すればIDEA Sketchのスマホベースを展開して、素早くスタンバイできるようになるのだろう。しかし滑り止めの機能はスマホ側のケースに持たせてもよい。普通の手帳でも、やろうと思えば真似できる。
ミニマリストとしては、特定のシチュエーションを意識しすぎて余計なパーツが増えてしまったのが残念だ。もしこの手帳を買ったとしても、スウェードの折り返しページは自分で切って外してしまいそうな気がする。
紐のしおりはなくてもよい
IDEA Sketchはシステム手帳としてめずらしく、上部にヒモのしおりがついている。
しおりがデフォルトでセットされていれば、当日の予定をすぐに開ける。インデックスのリフィルが不要になり、クオバディスのようにページ右下をハサミで切り欠く手間もいらない。
しかしヒモのしおりは一見便利に見えて、開閉する際の動作が大げさになる。垂れ下がった紐をつかんで引き上げるという、2つのアクションが必要になる。
代りに目的のページにポストイットが貼ってあるか、インデックスのシートが挟んであれば、そこをつかんでワンアクションで開くことができる。
紙製の付箋でも同じ目的は達せられるが、どうしても開いたときに本や手帳から抜け落ちやすい。電車で立ち読みしていて、前に座っている人の膝元に付箋を落としてしまう失敗はよくある。
付箋より便利なポストイット
外出先で本を読むときなど、ひんぱんに開け閉めする際はページに直接付箋を貼った方が便利。たとえヒモのしおりが付いていたとしても、開閉用にポストイットを後付けしてしまう。
ページに対して横向きに貼れば、開ける際の勢いで紙が破れてしまう心配も少ない。逆に強粘着のポストイットだと接着力が強すぎて、紙面を傷つけてしまうおそれがある。
しおりに求められる粘着強度としてはノーマルタイプ、もしくは100均の格安ふせんくらいでちょうどよい。
本1冊読み終える間、20回くらい着脱してもぎりぎり貼りつく。元が安いので、粘着力が弱くなったら貼り替えればいい。
ノックスのミニ5穴手帳に対しては、3Mのポストイット「スリム見出しミニ」を使っていた。アイデアスケッチを持っていたとしても、おそらくヒモは使わず邪魔になってしまうと思う。
伸縮する大きめのペンホルダー
本製品、最大の魅力は大型のペンホルダーだ。
ミニ5穴サイズの上端~下端近くまで伸びている革製ホルダーのおかげで、中に納めるペンを安全に保護できる。背表紙から革を引き出せる機能も付いているので、ある程度太いペンにも柔軟に対応できる。
かつてKNOXの手帳を購入した際も、ASHFORDより大きいペンホルダーが決め手になった。後者の小型ホルダーでは差すペンが限られるうえ、ペン先が暴れてカバンやポケットの中で引っかかってしまう。
この問題を自然なかたちで解決したのがIDEA Sketch。使い勝手を見ると、なぜ他の手帳もこの縦長ペンホルダーを採用しないのか疑問に思うくらいだ。
クリップやバンド型のペンホルダーも試してみたが、手帳本体から出っ張るとどうしても邪魔になってしまう。
やはりペンは手帳の表紙裏に納めるか、ダイゴーの鉛筆付きミニ手帳ジェットエースのように、背中の隙間に差し込むのがスマートだと感じる。
高級ペンの保護というニーズ
手帳にペンを挟みたいユーザーは多数派だと思う。
さらにミニ5穴の規格を選ぶような人は、すでにバイブルサイズや他の綴じ手帳を経てきた文具愛好家だろう。手帳用のペンとして、こだわりの一本を持っていておかしくない。
有名どころではモンブランのモーツァルト、ルイヴィトンのスティロアジェンダ、ファーバーカステルのポケットペン、カランダッシュのエクリドールXSなど、数万円もする高級ミニペンにたどり着く人もいる。
手帳本体より数倍高い、貴重なペンを保護する機能はニーズが高い。手帳自体が高級であるほど、完全防護型のペンホルダーを搭載する意義がある。
HUKUROの手帳カバー
小型サイズはダイゴーのハンディーピック、レイメイ藤井のグロワール専用となるが、HUKUROの手帳カバーに見られるペン収納のアイデアはおもしろい。
表紙の右側折り返しにスナップボタンが付いており、革の折れ目にペンを差し込む袋が設けられている。
見たところ直径の細いペンしか入らなそうだが、ペン先まで確実に保護してくれる。さらに右利きの場合は右手でボタンを外してそのままペンを引き抜けるので、開閉とペン取り出しが1回の動作で済ませられる。
素材は栃木レザーで革の品質は間違いなし。今のところはハンディーサイズ以外、文庫本、ほぼ日手帳からA5~A6まで、綴じ手帳の各種変形規格に対応している。
HUKUROのカバーがこの仕様でミニ5穴のシステム手帳に対応したら、ペン収納に悩むユーザーに売れそうな気がする。
アシュフォードのエレン
三越伊勢丹でアイデアスケッチを下見した際、同じくASHFORDのマイクロ5で「エレン」という新製品が展示されていた。
まるでハードカバーの本のような固い表紙だが、折り方に工夫があり180度ぱたんと開く。そしてリフィルの縁ぎりぎりまでカバーがそぎ落とされ、通常のミニ5穴よりさらに小型化している。
その分ペンホルダーは省略され、カードポケットも右側の裏にひとつだけしか付いていない。
この点はペンホルダーのリフィルを後付けすれば解消する。しかし市販品は表紙からペンがはみ出てしまうと思うので、ダイノックシートなどで細めに自作する方がいいと思う。
最初は不便かと思ったが、MICRO5本来の携帯性に特化した理想的な商品に思われる。固い革のソリッドな質感にもそそられる。
エレンの後継シリーズ製品
エレンといえば『進撃の巨人』の主人公。コラボ商品の多いアシュフォードだが、別にこのマンガは関係なさそうだ。
カラーバリエーションがオレンジがかかった茶色一色のみだったので、とりあえず購入は見送った。するとその後Time to Passという色違いの後継品が発売された。
ブラックだけでなくネイビーやベージュのネット通販限定品が次々と出て、2020年1月現在はYoue Time to Blossomという花柄のモデルが手に入る。
同じくフルフラットに開く「モダングレース」というモデルもあるが、こちらは横幅が1センチ増えてしまう。似たようなシリーズでもサイズ感が数ミリずつ異なるので、こだわる人は注意が必要だ。
そして『趣味の文具箱』とのコラボレ―ションにより、貴重なホーウィン社製シェルコードバンを用いたブルーのモデルも販売されている。こちらは価格が33,000円と高価なためか、今でもまだ在庫があるようだ。
ミニ5穴で3万以上するのは破格だが、同じくシェルコードバンでGANZOのM5ジッパーケースという10万近くする製品も存在する。今は品切れだが、もしこれを手に入れたら革の寿命も含めて一生ものになったと思う。
現行品レクタングル2種
名作エレンの後継バリエーションは増えているが、ビジネス用途に使いやすいのは定番モデルになった「レクタングル」。
デフォルトのリング径8ミリだけでなく「オルター」という大容量の11ミリ径もラインナップに追加された。
伊東屋の店頭で何度か触らせてもらったが、値段相応に革の質感は高い。見た目がフォーマルなだけでなく、パラフィン加工でブライドルレザーのように耐久性も高いと思う。
レクタングルの特徴は表紙の四隅に付いた金属製のカバー。
革保護も兼ねたデザイン上のアクセントになっているが、個人的にこれは不要でないかと思う。カバンやポケットから取り出す際に、金具の段差が引っかかりそうで気になる。
システム手帳で傷みやすいのは、表紙の角というよりも背中の上下端。開閉時に伸縮するので難しいパーツだが、ここを保護する仕組みを考えるのが優先だ。
手持ちのKNOX手帳も経年変化で背の部分から革が分離してきた。
180度開くギミック
フットプリントの小ささがエレン~レクタングルの特徴だが、最大の売りは「180度開ける」機能だろう。
表紙と背の継ぎ目に「スクエアバック」という溝を2か所設けている。固めの革にヒンジを設けることで、筆記時の安定性とフレキシブルな開閉を両立。
トラベラーズノートのように、柔らかい革で360度折り返せる手帳とは真逆のコンセプトだ。レクタングルはしっかりした厚みのある革なので、立ったままでも紙がたわまずリフィルに書き込みやすい。
そして机の上に手帳を開いたままキープできるのがメリットだ。今日の予定やメモを見ながら、手帳を手で押さえることなく別の作業ができる。
自分の場合、寝る前に毎晩メモした体重・体脂肪を、翌朝Googleスプレッドシートに転記する。手帳の中身をパソコンに書き写したいときに、180度開いた状態を維持できると便利だ。手帳だけでなく本でも同じ。
今の気分としては、レクタングルのカチッとしたハードレザーより、Time to Passのシボ感のある革の方が好み。エイジングも早く楽しめそうな予感がする。
表紙の金具も省いたTime to Passのブラックモデルが再発売されたら、久々に手帳を買い替えてもいいかなと思う。レクタングルのディディールを削って、もう少し安く販売してほしい。
KNOXのルフトは360度開く
180度開ける手帳ということで、ノックスブレインが2015年から発売しているルフト(LUFT)も取り上げてみたい。
同じく株式会社デザインフィルが販売するトラベラーズノートを上品にしたようなモデルだ。サイズもトラベラーズと似た感じで、バイブルかナローの2択になる。
ルフトの革はスムース、ナチュラルシボ押し、シュリンク型押しの3種類あり、これに対して背中の金属素材もアンティークゴールド、マットブラック、クロムブラックの3種類選べる。
合計9種類の組み合わせを楽しめるカスタム性が特徴といえる。勢い余って数種類注文した人もいることだろう。発売時にロフトや東急ハンズで現物に触ったときは、そのくらいインパクトがあった。
なかでもシュリンク型押しのタイプは手帳としてめずらしい。エルメスやカミーユ・フォルネの高級レザーを連想させて、手触りも柔らかくてよさそうだ。
アシュフォードのレクタングルとは対極的に、フレキシブルな一枚革を用いることで180度開く性能を実現している。革が柔らかいため、180度といわず360度ぐるっと折ることもできる。
表紙がペラペラして頼りないともいえるが、逆に革そのものの存在感や、スウェード調の裏地手触りも楽しめる。
潔くポケットはまったく付いていない。必要ならリフィル側で追加すればよいだろう。
リング機構で汎用性が高い
トラベラーズがゴムバンドでリフィルを閉じる方式なのに対して、ルフトは従来型の6穴リング。
中身の差し替えが容易なシステム手帳の利便性を持ち合わせ、リング直径も8ミリなので厚みを抑えられる。
手帳の薄さを追求するなら、ドイツ製X47のように独自のバネ棒機構を搭載する手もある。
しかしリフィルの汎用性が失われるので、ユーザーとしては手を出しにくくなる。消耗品の国内流通が豊富で価格も安くなければ、新規格は流行らない。
背表紙のメタルは引っかかりが気になるが、革1枚プレートで挟んだだけのシンプルな構造には魅かれるものがある。製法が簡単なせいか、ルフトの値段はKNOXの他シリーズに比べるとずいぶん安い。
KNOXはすでにミニ5穴の規格をやめてしまったので、ルフトの極小サイズが出る望みは薄い。もしスーツや上着着用が必須な職場なら、内ポケットに納めやすいナローサイズの薄型ルフトはお買い得だと思う。
KNOXの軽量革バッグも気になる
ノックスの手帳はアシュフォードより革の質が高いというイメージがある。そしてこういう意欲的な新商品をたまに打ち出してくる。
超軽量な「エアリーレザー」のブリーフバッグも発売当時は画期的だった。自転車通勤用のショルダーベルトさえ付いていれば、間違いなく即買いしたと思う。
マイナーチェンジされた後継製品はハンドル取り付け部に補強のベルトが付けられ、耐久性がアップしている。
今はナイロンバッグで落ち着いたが、仕事用に革素材の軽量バッグが必要になったら購入検討したい候補のひとつ。
有名ブランドだがマチがなくて容量がミニマムなせいか、使っている人を他で見かけない。実際は「取っ手付きのドキュメントケース」といった取り扱いになるのだろう。
老舗の国内手帳メーカーがつくるバッグや革小物には、地味にすぐれた製品が多い気がする。