会社を退職する前から続けていた個人事業と、新しく立ち上げた合同会社を2つ運営している。
会社の会計にはフリーウェイ経理Liteを使っているが、無料版では1事業所しか登録できない。パソコンを2台使えばアカウントは増やせると思う。しかし仕訳のために別のPCを立ち上げるのは面倒だ。
個人事業用に他の無料会計ソフトを探したところ、MFクラウド(現在の名称は「マネーフォワード クラウド」)が条件付きで使えるとわかった。
流行りのクラウド会計ソフトを試してみたい気持ちもあり、MFクラウドに1年分の仕訳を入れてみた。さらに国税庁のウェブサイト「確定申告書等作成コーナー」を使えば完全無料で個人事業の青色申告を済ませることができた。
2020年2月におけるマネーフォワードおよびfreeeの最新状況、各社プランの微妙な違いについても検討してみたい。
(2020年2月12日更新)
無料版は仕訳数に制限あり
MFクラウドの無料版には、入力できる仕訳が「月に15件」という制約がある。2018年6月1日以降は仕様変更により「年間で50件」に変更された。
現在は月間平均4件までしか仕訳を登録できない仕組みなので、実用上は相当きびしい。フリープランはあくまで「お試し」という想定だろう。
自分の場合、ほとんどの経費は合同会社の方に入れている。個人事業の収入は、ちょっとした謝礼が年に数件程度。給与所得と損益通算して節税できるほどの支出もない。
そもそも売上が青色申告の特別控除分(65万)に満たないため、経費を計上しても意味がない。
仮にこういう状況なら、「年間仕訳50件まで」の上限があってもMFクラウドを無料のままで使いこなせると思う。
MFクラウドその他の特徴
銀行やクレジットカードと自動連携できるのがMFクラウドの長所。しかし個人事業とプライベートの口座やカードは使い分けていないので、この機能は不要だった。
同シリーズの給与・請求書サービスと連動した自動仕訳も可能だが、趣味レベルの個人事業ではこれも必要ない。
いちおう無料プランでも給与は1名まで、請求書は取引先3件まで登録できる。本格的に有料利用を検討しているなら、このあたりの便利機能を試してみてもいいだろう。
振替伝票が使えるのは便利
以前、弥生会計を使っていたときは、複数の関連仕訳をまとめて振替伝票でつけていた。
フリーウェイ経理Liteにはこの機能がないのが残念。給与支払と各種控除、振込手数料など定型的な処理が複数行に分かれて帳簿が読みにくくなってしまう。
その点、MFクラウドは弥生と同じく振替伝票が使えるので便利だ。「+行追加」のボタンを押せば任意行数の伝票を作成できる。
仕訳の入力方法が豊富
ちなみに1行で済むシンプルな仕訳であれば「手動で仕訳>簡単入力」が楽。マウス操作で取引の種類・内容・金額・日付を選び、摘要にメモすれば完了できる。
帳簿を見ながら直接入力する、昔ながらの「仕訳帳入力」も選べる。
「自動で仕訳」というのがクラウドサービスの売りだが、経理機能を単独で使う場合はあまり意味がない。旧来の会計ソフトに慣れた人なら、手動仕訳で十分だと思う。
青色決算申告の流れ
確定申告に向けて、MFクラウドから青色申告決算書のPDFを書き出せる。使いこなせば確定申告書のデータそのものや、e-Tax用のxtxファイルも出力できるらしい。
青色申告については「確定申告書等作成コーナー」の方が慣れている。とりあえず例年どおり、国税庁のサイトで申告作業を引き継いでみた。
作成コーナーにある「青色申告決算書・収支内訳書コーナー」というメニューから、「一般用(営業等所得)」を選ぶと損益計算書の画面が開く。
売上・経費などフォームの各欄にMFクラウドで集計した金額を転記する。ウェブ上で細かい費目を集計する機能は付いていないので、やはり別の会計ソフトでPLは仕上げておく必要がある。
同様に貸借対照表もブラウザ上で作成可能。
銀行口座に関しては、なぜかデフォルトで「当座/定期預金」しかオプションがなかった。また取引先で源泉徴収された分を入れる「仮払金」に相当する費目もない。これらは空欄に科目名称ごと追記しておいた。
引き続き納税地の住所や業種、屋号など必要情報を入力。作成コーナーから青色申告決算書のPDFを書き出し、MFクラウドのものと照合確認する。
青色申告のコーナーから確定申告書の方にデータを取り込み、その他の給与所得などを入力。マイナンバーカードを使って電子署名したうえ、オンラインで申告まで完了できた。
マネーフォワードでできること
仕訳件数の少ない個人事業なら、以下の流れでサービスを使い分けるのが便利だと思う。
- MFクラウドで日々の仕訳、帳簿作成
- MFクラウドから青色申告決算書を書き出し
- 国税庁の作成コーナーで青色申告決算書を転記
- 国税庁の作成コーナーで決算反映して確定申告
MFクラウドからデータごと書き出せば、作成コーナーのフォームに転記する手間を省けるのだろう。
xtxファイルを出力すれば、さらに高度なe-Taxソフトと連携できる可能性もある。しかし取引の少ない個人事業でそこまでやるのはオーバースペックに思われる。
会計ソフトと国税庁サイトの役割分担
今回MFクラウドで決算・申告してみた感想としては、
- 仕訳はMFクラウド
- 申告は確定申告書等作成コーナー
ときっぱり使い分けた方が、トラブルが少ないと思う。
経験上、ひとつの経理サービスに依存するのはリスクが大きい。サービス内容が改悪されても他社に乗り換えできず、高額な利用料を払い続けるパターンもある。
MFクラウドから青色申告決算書をPDFで書き出せば、そこから先は国税庁の無料サービスで作業を引き継げる。
ウェブの「作成コーナー」はもう10年ほど使っていて、中身はそれほど変わっていない。急に廃止されるおそれもないだろう。
まずは可能な範囲で無料の行政サービスを使い倒す。それ以外の細かい経理作業は民間・フリーのツールを活用する。零細個人事業ならこの使い分けで十分だ。
無料版は仕訳データの書き出し不可
なお無料プランでは「仕訳データのエクスポート」まではサポートされていない。そのため後から他の会計ソフトにデータを移すのは困難だ。
逆に他社ソフトからデータをインポートするのは自由。競合サービスのfreee、弥生会計などメジャーなソフトからのデータ移行には対応している。
「インポートは自由だがエクスポートは条件付き」
これはフリーウェイ経理Liteでも同じ状況だ。明らかに各社の囲い込み戦略といえる。
会計ソフトはいったん慣れると他社サービスに乗り換えるのが面倒。給与計算や勤怠管理、請求書作成のようなどうでもいい部分は一社に依存せず、無料ツールを使う方が賢いと思う。
そのあたりの判断は事業規模や従業員数による。そもそも売上が大きければ、大手の関連サービスを連携させた方が生産性は上がるかもしれない。
MF有料プランとfreeeのスターター
2020年2月現在、個人事業用のMFクラウドは「マネーフォワード クラウド」の「クラウド確定申告」というサービスに引き継がれている。
久々にブラウザからログインしたら、古い仕訳も問題なく確認できた。名称が変わっただけで中身はそのままのようだ。
ただし「年間仕訳50件」の縛りは厳しい。この制約を外すには月額1,280円の「パーソナルライト」プラン。金額的にはfreeeの「スターター(月額980円)より割高に見える。
しかしfreeeのスターターは消費税の申告ができない。
これに対してマネーフォワード クラウドなら無料プランでも消費税計算は可能。
事業所設定で「簡易/原則課税(一括比例配分/個別対応方式)」を選択できる。
仕訳数と売上高による分類
この微妙な仕様の違いをどう捉えるか。年間の仕訳数と売上高で分類すると、以下のチャートが考えられる。
- 年間仕訳50件以下→MFクラウドの無料プラン
- 年間仕訳50件超で売上1,000万以下(免税事業者)→freeeのスターター(980円)
- 年間仕訳50件超で売上1,000万超(課税事業者)→MFクラウドのパーソナルライト(1,280円)
個人事業で課税事業者になるくらい売上が立つなら、節税上は法人成りを検討すべきだろう。
マネーフォワードのクラウド会計「スモールビジネス(月額3,980円)」や、freeeの「スタンダード(月額1,980円)」など上位プランを検討してもいい時期だと思う。
事業所ひとつならフリーウェイ経理
その後、税務署から指摘があり、切り分けの曖昧な個人事業は廃業することになった。現在は合同会社一本で通している。
会社や個人事業どれかひとつであれば、フリーウェイ経理Liteというソフトが完全無料で使える。決算時も国税庁サービスと連携して、法人税や消費税の申告まで済ませることができる。
フリーウェイのLite版は、クラウド機能も振替伝票も使えない古風なサービス。ただし2019年の消費税10%変更にも対応するなど、地味にバージョンアップが続けられている。
3年間使い続けて、今のところ致命的な不満は出ていない。画面に広告は表示されるが、無料でここまで使わせてもらえるのはなかなかすごいと思う。
知名度からすれば旧来の弥生シリーズや新興クラウド系がメジャーだが、月額980円でもお金を払うのはもったいない。自分ひとりで運営している零細事業なら、無料のフリーウェイで十分な気がする。