パソコンのグラフィックボードが壊れたので、AMDのRadeon RX570に交換した。
1万円台で買える手ごろなミドルレンジ製品として、わりとおすすめされているこのグラボ。性能は期待どおりだったが、いくつか気になった点を報告したい。
壊れたGeForce
壊れたグラボはNVIDIAのGeForce GTX 780 Ti。
2013年にFaith(現パソコン工房)で買ったBTOパソコンに付いてきた。当時はかなりハイエンドな製品で、単体でも8万円くらいする代物だった。
PassMarkにおけるGTX 780 Tiのスコアは8,887。現行製品のGeForce GTX 1060 3GB(8,990)と同じくらいの性能だ。ノートPC向けのMax-Q仕様と比べればGTX 1660 Ti(7,872)をやや上回る(スコアは2019年10月9日現在のもの)。
さすが高価なGTXシリーズだけのことはある。今なら中古1万以下で買えるので、あえて昔のハイエンド機材を選ぶのもありかもしれない。
ただしボードのサイズは特大で、手持ちのキューブ型PCにはギリギリ収まる感じ。自作で組み込むなら、ケースはミドルタワー以上がおすすめだ。排熱効率も考えると、なるべく空間にゆとりがあった方がいい。
図体がでかい分、グラボへの電源供給は必須。ファンの騒音も馬鹿でかい。自宅で使う場合は電気代が気になるところだ。
故障時の様子
3dsMaxというCGソフトで作業中、突然画面が固まった。OSごとフリーズしたように見えたが、ブルースクリーンやエラー画面が出るわけでもない。今考えると、グラボからの映像出力だけ止まっていたのだろう。
PCを再起動すると、画面上に怪しげなブロックノイズが出て、数秒後にブラックアウト。その後はメーカーロゴが出てBIOS起動するところまでいけるが、OSが立ち上がると何も映らなくなった。
マザーボードにあるDisplay Portにケーブルを差し替えてみると、低解像度ながら普通に起動できた。この時点で、モニタの故障やケーブル断線の可能性は低いと判断。状況からすると、原因はまずグラフィックボードだろう。
止まったときは3dsMaxのビューポートで、アンビエント・オクルージョンを有効化していた。さらに4Kモニタで全画面表示していたので、マシンには相当負荷がかかっていたと思われる。
推測される因果関係はその程度。思い返せば似たような感じでフリーズすることが、これまでにも何度かあったような気がする。
ハードディスクがクラッシュしたり、マザーボードが火を噴いたりするよりはましだ。グラボは比較的高価なパーツだが、部分的に代替可能で助かった。
ミドルレンジを選んだ理由
今使っているデスクトップPCに不満はないが、6年使うとOSもパーツもさすがに古くなってきた。これからグラボ以外のパーツも徐々に寿命を迎えて、次々壊れていくと予想される。
ゲーミングノートはまだ高い
次にマシンを買い替えるなら、そのまま外に持って行けるゲーミングノートにしようと考えていた。
仕事上GPUは必須だが、マシン1台で外でもデモできるなら便利だ。自宅で使うときはモニターやキーボード・マウスを外付けすれば、デスクトップと同等に使いこなせる。しかも省スペースで停電時も安心。
しかしそこそこ強いGPU付きラップトップだと、DellのGシリーズでも10万はかかる。一方で壊れたグラボだけ同スペックの現行機に差し替えれば、1~2万の投資でまだ数年は延命できそうだ。
これまで職場ではQuadroやGeForceの最高級機材を使わせてもらったが、さすがに10万以上する機材には手が出せない。
最近はほとんどゲームもしないし、CGソフトで作業するのもまれだ。個人用としてそこまで尖った性能は求めていないので、安いグラボで十分な気がした。電力消費も少ないので、ランニングコストも抑えられる。
個人用ならAMDでもOK
ここ20年くらいGPUはNVIDIA、CPUはIntelを使ってきた。あえてAMDやATIを選ぶのは、学生時代にPCを自作したとき以来だ。
研究や業務用途で考えると、多少値が張っても素直にNVIDIA・Intelを組み合わせる方が無難。信頼性やパーツ間の相性もあるが、まわりがみな使っているからトラブルシューティングしやすいという利点もある。
本業とは関係のない、機材がらみのエラーに時間を費やすリスクは避けたい。下手な安物を選んで不具合が出ると、物品調達や設備投資の責任を問われるおそれもある。
近年「AMDのRyzenがすごい」と噂は聞いていたが、会社用としては買い替える気にならなかった。しかし今、完全に個人用としてパーツを選ぶなら、コスパにすぐれたAMDに魅力を覚える。
ローレンジのグラボ
コスパを考えると、ファンレスで極小サイズの低価格グラボも興味深い。しかし統合型GPUの進化でローレンジ製品はほとんど見なくなってしまった。
探せばGeForce GT 1030やRadeon RX550~560という、1万円を切るエントリーグレードの製品もまだ残っている。だがベンチマークのスコアは、統合型のIntel HDやIrisと変わらないくらい。
ここまでスペックを落とすと、わざわざデスクトップでグラボを差す意味がわからなくなる。また手持ちの4Kモニターに出力したいので、まともな解像度やリフレッシュレートで表示できるか心配だ。
1万円前後のミドルレンジなら、まだ選択の余地がある。そしてスペックも6年前のGTX 780 Tiと同じくらい。PCの延命目的で買い替えるには、ちょうどよさそうに思われた。
評価の高いRadeon RX570
各製品のレビューを調べると、2019年10月時点でRadeon RX570はかなりお買い得らしい。
ベンチマークを比べると、RX570は同じ値段のGeForce GTX 1050 Tiより性能が上。さらに実売価格2万超のGTX 1060と同等のスコアを出している。
製品によってはVRAMも上位機種と同じ8GB。メモリのサイズだけ見ても1050Ti(4GB)、1060(6GB)を凌駕している。
Radeonは消費電力が大きいというデメリットがあるが、これまで使っていたGTX 780 Tiを上回ることはないだろう。性能と価格からすればRX570の8GB版は、非常にコスパのよいグラフィックボードといえそうだ。
SAPPIREの8GB版を購入
最近のAMD製品を評価してみたいという興味もあり、今回はRadeon RX570を買うことにした。
注文したのはSAPPIREの8GB版バルク品。
同じRX570でVRAM4GBのバージョンが出回っている。さすがに搭載メモリが2倍も違うと、性能に差が出そうだ。少し高かったが8GBの方を選んでみた。
4K映像は出せるが30Hz制限?
廉価なバルク品だが、届いたパッケージはまともな箱入り。
2年間有効な保証書とドライバCD。日本語訳のマニュアルまでしっかり付いてきた。
さっそくPCI Expressのスロットにボードを差して、8pinの補助電源をつないでみた。
ミドルレンジとはいえ、グラボのサイズはそこそこある。大口径のファン2つと太いヒートパイプを備えており、冷却性能は高そうだ。
Dellの4KモニターにDisplay Portで接続すると、あっさり認識されて表示された。
描画性能は問題ない
とりあえず新しいグラボで3dsMaxを動かすと、旧製品より心持ち表示速度がアップしたように感じた。リアルタイムでソフトシャドウもプレビューできる。
4K解像度でフルスクリーン表示しても、以前のように動作に不安はない。メモリがGTX 780 Tiの3GBから8GBにアップしたので、そのあたりも効いているように思う。
実機でベンチマークは測っていないが、体感性能はPassMardに出ていたスコアどおりという印象を受けた。
ドライバーを入れる前でも、設定すれば3,840×2,160のフル解像度で出力される。ただしリフレッシュレートは30Hzに制限されて、ちらつきが目立つ。マウスカーソルやウィンドウを動かしたときに残像が残り、目がチカチカして疲れる。
さすがにこれでは厳しいので、付属のドライバーをインストールしようとしたら泥沼にはまった。最終的に60Hzで4K表示できるまで、問題解決に丸一日費やす羽目になった。
ドライバーがインストールできない
ひとまず手順どおり、付属のCDからドライバをインストールしようとしてみた。しかし途中で以下のエラーが出て、何度やっても先に進めない。
Error 182 – AMDインストーラーがAMDグラフィックス・ハードウェアを正しく検出できない
デバイスマネージャーや画面の詳細設定を確認すると、チップの種類はAMD ATOMBIOSと出ている。しかしアダプタの種類は「Microsoft 基本ディスプレイ アダプター」。
NVIDIAであれば、ここにGeForceなどグラボの製品名が表示されるはずだ。まさか最近のAMDグラボはマイクロソフトの基本アダプターで動かすのだろうか。
グラフィックスメモリは256MBしかなく、ビデオメモリにいたっては0MB表示…明らかに何かがおかしい。
映像信号は来ているのでパーツの初期不良ではなさそうだが、30Hzのまま作業するのはさすがにつらい。
販売元からWin8.1ドライバーを入手
RX 570のドライバー情報を調べると、アスク社のサイトに現在使用しているWindows8.1用のファイルが公開されていた。しかし以下のように微妙な注釈がついている。
※ Windows 8.1 64bitをご利用の場合は、下記のRadeon Software Crimson ReLive Edition 17.7.1をご利用ください。
Windows10や7のドライバーは普通に配布されているのに、なぜ8.1だけ別扱いなのだろう。本家AMDのサイトを調べると、やはりWin8.1用のドライバーだけ公開されていない。
ひとまずアスクのサイトから上記のファイルを落として入れてみた。今度は無事に最後まで進めたが、今度はインストールにかかる時間がやけに早い。
案の定、GPUのアダプターはMicrosoftのままだった。再起動してもリフレッシュレートは30Hzで変わらない。
ドライバーをクリーンアンインストールしてやり直しても状況は同じ。モニターの設定をいじって、Display Portの1.2をオン/オフしたりいろいろ試したが、それでも解決しない。
現在使っているモニターはDellのUP2414Q。2013年に買った廉価4Kの先駆けで、HDMIではフル解像度表示できない。
4Kで出せるのはDisplay Port1.2のみなので、端子やケーブルを替えて動作確認することは不可能だ。この時点で行き詰った。
DDUで旧ドライバを削除
しぶとく対処法を調べると、グラボを交換するときは旧製品のドライバーを消す下準備が必要だったようだ。今回はGeForceが急に壊れたので、元のドライバーが残ったままになっている。
そこでDDUというソフトを使い、OSをセーフモードにしたうえでNVIDIA関連のファイルを削除してみた。何も変わらないので、今度はAMDのドライバも削除して再インストール。しかし状況に改善は見られない。
GPU-Zというソフトでグラボの情報を確認してみると、GPUのメーカーやスペックは正しく表示される。
ただし名前は例のMicrosoft基本アダプターのまま。グラボ自体は正しく認識されているのだが、ドライバーだけうまくインストールできていない可能性が高い。
RadeonはWin8.1非対応だった
粘って調べたところ、なんとRadeonは2017年時点でWindows8.1のサポートを打ち切っていた。最新のWin10はいいとしても、8.1より古いWin7用のドライバが残っているのは不思議だ。
実は2019年8月時点において、Windows8.1のシェアは全OS中4.2%しかないらしい。それに比べるとWindows10は51%、Windows7は30.3%もあり、Mac・Linux勢を抑えてダントツで普及している(以上、Net Applications調べ)。
まさか買った当時最新だったOSが、いつの間にか絶滅危惧種になっていたとは知らなかった。
グラフィックボードというPCの根幹に関わるパーツとして、たかだか6年前のOSを見限ってしまうとは厳しい。それほどWin8.1への対応が困難なのだろうか。
グラボに同梱されているドライバーCDのラベルを見ると、「Driver Ver.: 13-096 (Win7 64bit/Win10 64bit)」と記載されている。よく見るとWin8.1だけこっそり除外されていた。
しかしアスクの製品紹介ページやパッケージ・マニュアル類には、Windows8.1非対応とどこにも書かれていない。
さすがにこれは不親切だ。全人口中4.2%のWin8.1ユーザーは確実にはまる。
代わりにWin7ドライバーを適用
試しにWin10や7用のAuto-Detectファイルを当ててみたが、「インストールできるコンポーネントがありません」と表示されて先に進めない。
Win8.1へはWin7のドライバが使える可能性があるという情報を得て、現在の安定版「win7-64bit-radeon-software-adrenalin-2019-edition-19.9.2-sep23.exe」を直接落として試してみた。
するとようやく数分かかってまともにインストールされ、アダプター情報にRadeon RX 570 Seriesと表示されるようになった。今度は専用ビデオメモリも8192MBと出ている。
そしてPCを再起動したら、やっとスペックどおりの60Hzで4K映像を出せるようになった。Radeonの設定ソフトでもグラボの仕様は正しく認識されている。
起動時に鳴るビープ音の正体
その後ひとつだけ気になることがあった。PCを立ち上げる際、たまに「ピー、ピッピッピ」というビープ音が鳴る。
どうやらこれは「ビデオRAMのエラー」を意味するBIOSの警告音パターン。原因を調べたところ、起動時にモニターの電源が入っていないと音が鳴ることがわかった。特にグラボやドライバーの不具合というわけでもなさそうだ。
非公式なドライバーを使用しているので、どこかで不具合が出ないか懸念は残る。軽くCGソフトで作業をしたり動画再生も試してみたりしたが、今のところ問題は出ていない。
SAPPHIREのグラボはバルク品とはいえ、保証が2年も付いている。ハードウェアの故障については安心だ。
やはりグラボはNVIDIAが無難
今回はまった「AMDのWin8.1非対応」はすでに広く知られた事実なのだろうか。
自分は価格.comの製品レビューなど検索しまくって、ようやく原因にたどり着いた。ミドルレンジの廉価機種ならともかく、高価な5700やVegaシリーズを買っていたら相当焦ったと思う。
もし今でもWindows8.1を使っている少数派なら、AMDのグラボは避けた方がいい。トラブルシューティングに長い時間を費やしたので、これが会社の仕事だったら大損害だ。
普通に動いているうちは気にならないが、いざ壊れると面倒なのがパソコンというもの。20年前に比べてパーツの耐久性・信頼性は向上したが、そのおかげで自作の勘が鈍ってしまった。
今回は趣味の買物なので、いい勉強になったといえる。しかし業務用にグラボを買うなら、やはりNVIDIA製が無難だと再確認した。
やはりRadeonは一筋縄ではいかない。予算に余裕があり無駄に苦労したくなければ、GeForceの方をおすすめしたい。