シェアハウスと高齢者住宅について調べるうちに、将来この2つが合体して巨大なマーケットが生まれそうな予感がしてきた。
2050年以降に建築家が活躍できそうなフィールドとして、既存シェアハウスの介護対応リノベーションが流行るのではないだろうか。
シェアハウスが流行る理由
2000年代後半からシェアハウスの流行が始まった。一時期のブームは沈静化したが、その後も物件数はじわじわ増え続けている。
そして2018年前後に起こった「かぼしゃの馬車事件」は、シェアハウス業界のイメージダウンにつながった。
しかしこれはどちらかというと不動産の投資家側に関するトラブル。ほかの運営会社や利用者にとっては、とばっちりともいえる。
入居の理由は安いから
メディアで取り上げられるのは、個性的だったり大規模だったりハイスペックなシェアハウスが中心だ。運営会社も「異姓や外国人と交流できる」楽しい共同生活をアピールしようとしている。
しかし「かぼちゃの馬車」関連のニュースによって、脱法ハウスに近いローコストな狭小シェアハウスの需要もあるという事実が明るみに出た。
隣室との壁が薄かったり共用部が狭かったり、居住環境が劣悪でも安ければ住む人がいるのだ。
ひつじ不動産が公開しているシェアハウス関連の統計資料によると、入居者が物件をを選んだ理由は以下のとおり。
「ワンルーム賃貸でなく、ゲストハウスを選択した理由」
- 1位…家賃が安い
- 2位…初期費用が安い
共同生活の楽しさや安心感といったメリットよりも、経済的理由が多くを占めている。
実際は共用部の共益費が高いので、シェアハウスの月額費用は普通の賃貸物件と変わらなかったりする。
しかし敷金・礼金・更新料がかからない、もしくは少なくて済むという点は、仕事や学業の都合で流動性が高い若年層にとって大きな利点だ。
低料金な老人ホームのニーズ
2019年、雑誌の『新建築』に掲載された対談で、社会学者の上野千鶴子が次のように語っていた。
シェアハウスについて感じるのは、入居者たちがこのまま順調に高齢化し、要介護になり、外からサービスが付けば、そのまま高齢者向けグループリビングに軟着陸するのではないかという予感です。
高齢者向けの住居も経済状況によってピンからキリまである。
特別養護老人ホーム・介護老人保健施設・ケアハウスなど、公共施設は安く入れる代わりに競争倍率が高い。
民間の老人ホームやサービス付き高齢者住宅はサービス内容に応じて千差万別だが、総じて公的な高齢者住居より家賃が高い。
これから非正規雇用やフリーランスが広まり、満足に年金をもらえない層が増えるとシニアの所得格差は広がる。いわゆる生活保護レベルで暮らす『下流老人』の台頭だ。
民間老人ホームには入れず、公的施設からもあぶれた行き場のない要支援・要介護老人が、これからさらに増えると予想される。
シェアハウス住民の高齢化問題
婚活目的でシェアハウスに住む人もいるとはいえ、独身男女がそのまま数十年先に老後を迎えるシナリオも想像できる。
「家賃が安い」「話し相手がいる」「何かあれば助け合える」といった利点を考えれば、低所得の単身者がシェアハウスに住み続けるのは合理的選択だ。
台風や地震のような災害時にも、気の知れた隣人がいれば安心感につながる。何ならコレクティブハウスのように食事を共同でつくったり、互いに介護の面倒を見ることまで可能かもしれない。
中高年にシェアハウスがウケる理由
下世話な話だが、中高年のオッサンにとって女の子とおしゃべりできるサービスはお金のかかる。
居酒屋やキャバクラに行かなくてもトークを楽しめるのは、まぎれもないシェアハウスのメリットだ。もちろん何かしらの取り柄がなければ相手にされないが、近くに異姓の目があることはボケや老化の防止に役立つだろう。
- 居住スペースをシェア=固定費が安い
- 空調・水回り・通信回線のシェア=変動費が安い
- 同居人と交わるコミュニティー=交際費が安い
共同生活に関する不便をいとわなければ、単身者向け集合住宅よりシェアハウスの方が生活コストを下げられる。
そしてミレニアル世代はシェアリングエコノミーに慣れているので、他人と暮らすことにも抵抗感が少ない。
在宅介護のサービスも増えてきているので、低賃料のシェアハウスに介護を付ければそのまま格安老人ホームに変わる。
上野千鶴子の指摘は的を射ていると思う。
未来の成長市場はシェアハウス
2010年代において、シェアハウスで暮らす年齢層は20~30代が中心だった。
生涯未婚率の上昇にともない、これらの居住者が単身のままシェアハウスで年齢を重ねるとしたら、40年後の2050年に彼らは60~70代になる。
平均寿命や健康寿命も延びるとしたら、60代ではまだシニアと呼ばれない時代になるかもしれない。
しかし住民の一部は確実に結婚しない。そしておひとりさまのまま高齢化する。
すべての建築がシェアハウスに変わる
シェアハウスの認知・普及にともない、これまで単身者向けの賃貸住宅で暮らしていた中高年の入居希望者も増えると予想される。
ローコスト共同住宅の需要が高まるにつれて、ありとあらゆる老朽化施設がシェアハウスに転用されるだろう。
使われなくなった企業の独身寮や老朽化した団地、売れなくなった中高層マンション、リゾートホテルのほか、予想もつかない大規模施設が介護付きシェアハウスに変わる可能性がある。
大規模建築の改装案
たとえばイケアがそのうち日本から撤退したら、巨大なショールームはそのまま集合住宅に転用できそうだ。
むしろイケア自体がシャアオフィスやシェアハウスサービスを始めないとも限らない。格安のドリンクバーで居座れるイケアのレストランは、すでにノマドワーカーの溜まり場と化している。
コストコも集合住宅にコンバージョンできたらおもしろそう。一戸あたり100平米の、ぜいたくなガレージ付きワンルームなんて実現できたらステキだ。
コレクティブ・タワーマンション
都心のタワーマンションは大規模修繕が難しく維持費もかさむので、老朽化とともに人気が落ちる可能性が高い。バブル期に建てられたリゾートマンションと同じく、30年後は廃墟化してもおかしくない。
「不動産の価値は9割立地で決まる」といわれるので、価値がゼロにはならないだろう。しかし投資商品としての魅力がなくなれば、一気に値崩れするおそれはある。
各住戸のnLDKを細分化して、シェアハウスに転用してはどうだろう。コンセプトはコレクティブ・タワーマンション。
高価なタワマンのなかには、大浴場やプールを備えた物件もある。もともと共用部が充実しているので、シェアハウスに転用しやすいはずだ。
シアタールーム、パーティールーム、ラウンジ、ジム、会議室、茶室…きっとユニークな物件が実現できる。かつて富裕層が買い漁った高級物件を、庶民がシェアして再活用すればいい。
令和元年の台風19号のような自然災害が増えてくると、地上に近くて非難しやすい低層階の方が人気になるかもしれない。余分にお金を払ってでも「地に足を着けて生きる」ニーズが高まると予想される。
家賃定額住み放題
全国の遊休不動産をシェアハウスに改築して、ADDressのように月定額で自由に移り住めるようにしたらどうだろう。
夏は湯沢のリゾートホテルで避暑を楽しみ、冬は熱海の温泉付きマンションでほっこり過ごす。仕事があるときだけ東京のハウスを借りる。
家具備え付けで清掃サービスも付いているシェアハウスなら、こうした気軽なノマドライフも実現できる。
零細設計事務所が生き残る道
人口減少を見据えたコンパクトシティ構想にともない、郊外の巨大モールや物流施設も余るようになるだろう。
適当に間仕切りを設けて居室を連ね、水回りを集約すれば何でもシェアハウスに用途変更できる。大規模シェアハウスは建築基準法上の寄宿舎に該当するが、ニーズが大きければ規制が緩和される可能性はある。
リノベーションのジレンマ
リノベーションの設計料は安くて作業もややこしいため、大手の設計事務所はやりたがらない。狭小・旗竿敷地のように、他社にさじを投げられた面倒な案件こそ小規模設計事務所の出番だ。
シェアハウスの住民にとって「35年ローンで家を買う」などもっとも縁が遠いカルチャー。建築も設備も、何なら家族もシェアして安く済ませたい。
この先も住宅の新築着工件数も減り続けるとすれば、小規模な設計事務所が関われるプロジェクトはますます少なくなる。
そのかわりに建築家が活躍できるのは、既存シェアハウスのバリアフリー改修、リノベーション物件の再リノベーションではないだろうか。
2050年になっても、何かしら建築家ができる仕事は残っていそうな予感がする。