アシュフォードM5財布手帳レビュー、多機能ツールのジレンマ

ミニマリストがわずらう病気のひとつに「財布と手帳を一体化したい」というものがある。ミニ財布やミニ5穴手帳に切り替え、可能な限り道具をシンプルにしたら、今度は両者を統合できないかと悩むのだ。

長年迷ってアシュフォードの財布機能付きミニ5穴手帳を買ってみた。念願の製品を手に入れたときは、ついに理想のツール一体化を実現できたとよろこんだ。しかし実際に使ってみると、いろいろなデメリットに気づいて、1か月も経たずに分離スタイルへ戻してしまった。

なぜ手帳と財布の融合がうまくいかなかったのか、理由を振り返ってみようと思う。

(2020年2月2日更新)

ASHFORDのオイルソフトレザー

2014年に購入したアシュフォードの財布一体型手帳は「オイルソフトレザー」という名前だった。

MICRO5規格でリング径は11ミリ、当時の定価は8,000円。現在はすでに販売中止になっている。

アシュフォードのオイルソフトレザー

その後、革の素材が変わってトゥジュールというファスナー付きの同型品が発売された。

2020年2月現在は、定番ディープのバリエーションとして拡充されている。革の質感やステッチの入り方、価格帯を見る限り、ディープの方が旧オイルソフトレザーに近い。

ひと昔前に比べると、ASHFORDの名刺フォンは種類が増えた。その中でも「ミニ5穴で財布付き」というシステム手帳には、根強いニーズがあるようだ。

財布一体型ミニ5穴の特徴

オイルソフトレザーはその名のとおり、オイルがしっかり染み込んだ牛革で耐久性は高そうだった。

革はブラックを選べたが、ステッチは目立つ水色だった。そのため見た目はややカジュアルな印象を受ける。スーツというよりも、休日のジーパン・Tシャツに似合いそうなスタイルだ。

アシュフォードのオイルソフトレザー内側

手帳を開いて左側に、マチ付きの大きなポケットがある。これはアシュフォードこだわりの名刺入れだ。ビジネスマン必携の財布と手帳、さらに名刺入れまで合体させた、究極の多機能革小物といえる。

そして右側にはペンホルダーとカード入れ、あおりポケット。このあたりの構造は他のシステム手帳と変わりない。

特徴的なのは、手帳背面にお札の入る長いポケットがある点。がばっと開けば1万円札も納められる。

アシュフォードの財布付き手帳、札入れ部分

そして表側にジッパー付きのコインケースが合体している点だ。小銭入れはL字型にマチも設けられており、収納量はかなりある。

アシュフォードのオイルソフトレザー裏側

外から見れば、よくある二つ折りの革財布。しかし中を開ければシステム手帳という、二面性をそなえたアイデア商品だった。

手帳部分のリング径が11ミリあるので、リフィルの収納力も高い。ポケット型のリフィルで拡張すれば、カバーに収まらないカードや小物も格納できる。

手帳と財布を兼ねる問題点

アシュフォードの財布一体型手帳は、まるで多機能ペンのように男心をくすぐるツールだ。ミニマリストならずとも、ガジェット好きなら触ってみたくなる製品だと思う。

しかしこれまでに同じかたちの財布&手帳を持ち歩いている人は、ひとりも見なかった。そもそもミニ5穴手帳を使っている人自体が少数派。

職人的な工夫を詰め込んだ、きわめて合理的な商品だと思うのに、なぜそれほど流行っていないのだろうか。

中身を詰め込むとぶ厚くなる

手帳の収納力が大きい分、中身を詰め込むと相当厚みが出る。

もともとリング径が11ミリなので、同じミニ5穴でも8ミリ規格よりは厚みがある。これは現行品トゥジュールとディープでも変わらない仕様だ。

それまで使っていたKNOXの手帳がリング径8ミリだったので、アシュフォードは余計に大きく感じてしまう。革も丈夫でコシがある分、重ねるとどうしてもかさばってしまう。

オイルソフトレザーは面積的にMICRO5だが、使用時の厚みは3センチ以上。ここまで立体的なボリュームがあると、さすがにズボンのポケットに収まりにくい。

スーツの内ポケットに突っこんだら、すぐに型崩れして生地が傷んでしまう。重さもそれなりにある。

ポケットよりバッグ収納を推奨

服のポケットでなくバッグに入れて運ぶことを前提とするなら、オーガナイザーとしての実用性は高い。お金も小物もポーチはひとつに統合した方が混乱を防げる。

財布付きの手帳とは、むしろ女性にふさわしいアイテムなのではないだろうか。

上着やパンツのポケット収納、手ぶら利用を前提とするなら、パスポートサイズくらいまで拡大して厚みを減らした方が収めやすい。そして財布と手帳に分離して複数のポケットに分けた方が、服への負担も少なく突っ張らずに動きやすい。

財布と手帳が分かれているのは、単に機能的な意味だけではないと気づいた。持ち物を分散させてポケットに入れやすくする、という効果もあるのだ。

カード類が取り出しにくい

ASHFORDのオイルソフトレザーは、手帳内側からカードを取り出しにくい問題がある。

開いて右側3枚分のカードホルダーは縦型なので、抜き差しするのに意外と時間がかかる。

アシュフォードのミニ5穴手帳、カード入れとペンホルダー

左の名刺用ポケットは収納量が多いが、ゆるすぎて中身が飛び出しやすい。スーパーのレジで手帳を開いた際、何度かカード類を床に落として恥ずかしい思いをした。

システム手帳のリフィル部分に、カード入れのポケットを付けて拡張することもできる。

しかしたいていのポケットリフィルはビニールやプラスチック製で、チャックを開け閉めしにくい。そして定期入れのようなカード入れリフィルは、中身が抜け落ちないようきつめに設計されている。

これらのポケットリフィルはあくまで予備収納。とっさの際にカードや紙幣を取り出すのにはむかない。

スーパーのレジ前でカードを取り出すのに手間取ると、後ろに並んでいる人の視線が厳しい。

手帳に書いた秘密がばれる

使う人によるとは思うが、変わった財布を使っているのを店員さんやまわりの人に見られると、ちょっと恥ずかしい。

仕事や何かで有名になったとしても、街中では匿名的に過ごしたい願望がある。どうでもいい場面で下手に注目を集めたり、店員さんに覚えられたりするのはデメリットしかない。別に犯罪者ではないが、ジョジョ4部に出てくる吉良吉影のように、ひっそりと暮らしたい。

人にお金を渡そうとして、手帳のスケジュールやメモ欄が見えてしまうのも難点だ。個人の予定というのは立派な企業秘密。うっかり個人的な趣味までばれてしまうかもしれない。

手帳を合体させた財布は便利な一面もあるが、社会的なマナーや世間体を考えるといまいちな存在だ。

人に見られると恥ずかしい

「人と同じものは持ちたくないが、変わった人とは思われたくない」…年齢的なものも関係していると思う。

昔はFINAL HOMEの服が好きだったので、服のポケットに財布や手帳が縫い付けてあっても、おもしろがって着こなしただろう。

最近はやりのミニ財布まではOK。しかし手帳付きの財布となると、個人的にはぎりぎりNGという予感がした。利便性より恥ずかしさの方が上回ってしまう。

現金払いは当面なくならない

コンビニや大手のスーパーでは、現金を出さなくてもほぼ電子マネーで決済できるようになってきた。スマホもしくはIC付きのクレジットカードがあれば、たいていの買物は済ませられる。

しかし旅先や公共施設で現金しか使えないところは、日本中にまだ多くある。

PayPayでもなければお店側に設備投資や決済手数料は必須。東京でも現金払いを条件に、他店よりディスカウントしているスーパーが存在する。

とっさに紙幣や硬貨を取り出す際は、やはり支払いに専用特化した財布の方がスムーズだ。手帳と合体させるとしても、財布をベースにミニ手帳やミニノートを組み合わせる方が無難でないかと思う。

システム手帳をベースに財布をくっつけるというアイデアは、一見便利なようで使いにくかった。

マルチツールのジレンマ

これは十徳ナイフのようなマルチツールより、缶切り単体の方が有利なのと同じだ。昔からある道具というのは、特定用途にフィットするよう最適化されてきた。

アーミーナイフのドライバー機能を使ってみれば、すぐにその不便さに気づく。スイス製の高級製品より、100均で売っているドライバーセットの方がまだましという印象だ。

実際の作業では、左手にペンチをもってワイヤーを引っ張りつつ、右手でネジを締めるというような場面も出てくる。たとえば自転車のブレーキワイヤーを調整するときなど。

こういう複合的かつイレギュラーな動作において、分解できない多機能ツールはたいてい不便だ。

手帳を兼ねたスマホケースがあったとしても、「電話しながらメモを取れない」というジレンマが生じることは容易に想像できる。

非常用・サブ用途としては有益

各種の道具を一体化すれば持ち運びの手間は減る。しかしそれらはあくまで、サバイバル目的の非常用ツールという意味あいが強い。

例えばロードバイクでツーリングする際は、専用工具を持ち運ぶより小型軽量のマルチツールがあれば十分だ。

万が一のパンク修理など、利用頻度を考えればそれで十分。その場をしのいで本格的なリペアは自宅やショップで行えばよい。

するとアシュフォードの財布一体型手帳とは、防災グッズのようなものだろうか。あるいは海外旅行での現地通貨用財布など、サブ用途としては役立ちそうな気がする。

ビジネスマンの日常利用としては、帯に短し襷に長し。使えそうで使えない微妙な道具ということがわかり、勉強になった。

財布と手帳の一体化研究

その後アシュフォードの手帳&財布は人に譲ってしまい、ポーターの極小財布を経て現在はエアーウォレットとエルメスの手帳カバーで落ち着いている。

かつてはKNOXのミニ5穴手帳に紙幣や硬貨を入れて、自宅の鍵まで取り付けてみた。

ある程度は便利だが、普通の手帳を財布として使うと、お金を取り出しにくいのが難点。

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次にポーターのミニ財布にカードサイズダイアリーを差し込み、付箋でメモスペースを確保するやり方も試してみた。

見た目はカジュアルだが十分実用的。日ごろの予定が少なければ、これはひとつの完成形だと思う。ただしお札を折らなければ収納できないという問題がつきまとう。

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新しくエルメスの手帳カバーを入手して、何とか財布も挟み込めないかと工夫してみた。

市販品から自作までいろいろ試して検討したが、「この手帳に無駄なリフィルは似合わない」という結論に達した。機能と美観を両立するのは、なかなか難しい。

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結局今は単機能の財布と手帳を併用している。10年以上システム手帳やL型ミニ財布をいろいろ試してみて、ようやく適切なサイズ・品質の道具にたどり着いた感じだ。

いずれ生活スタイルが変われば、ジャストな道具もまた変わっていくと思う。ミニマリストの道具探求は終わらない。

ミニマリストの超整理術

財布と手帳の合体を考えるようになったのは、2007年に出た佐藤可士和の本を読んだ影響が大きい。気になる個所を引用すると、

ちなみに、僕はたいてい手ぶらです。持ち物といえば、

  • 携帯電話
  • 自宅の鍵
  • カードケース(中身はクレジットカード二枚、事務所のカードキー、紙幣数枚)
  • 小銭

この程度なので、分散してポケットに入れています。

『佐藤可士和の超整理術』

多忙なクリエイティブディレクターがこの程度の持ち物で済むなら、ヒマな自分はもっと減らせるのではないか。

結局のところ、佐藤可士和のような有名人には雑務をサポートする秘書やスタッフが付いている。著作で紹介されているスタイルを、一介のサラリーマンが真似するのはハードルが高かったようだ。

人件費が増えコミュニケーションの負担も増すが、他の人に作業をアウトソーシングするのも一種のミニマリスト戦略といえる。

本の自炊を外注するのに近い。ツールの極小化を考える前に、それを持たずに済ませられるなら、その方がスマートだ。