クライム映画の傑作、オーシャンズシリーズの続編4作目として期待の大きいオーシャンズ8。作中に重要な伏線とサプライズが2か所くらい用意されている。ネタバレサイトは見ないで鑑賞した方が楽しめるだろう。
逆に歴代オーシャンズ11・12・13はチェックしておいた方が、この世界観に入っていきやすい。時間がなければ初代11だけでも十分参考になる。
(以下ネタバレ)
オーシャンズ48ではなかった
今回はジョージ・クルーニーもブラット・ピットも出ない「全員女性」という設定で、続き物とみなしてよいのかどうか迷った。結果的には旧作へのオマージュや再出演のサプライズが散りばめられていて、往年のファンにはうれしい作品だったといえる。
オーシャンズは11から13まで、「メンバーが増えるにしたがい劣化した」というイメージを持っている。そこはシリーズものの宿命として仕方ない。今回の女性版8はオリジナル11の設定に近く、おもしろさを11>12>13とすると11.5くらいの評価はつけてもいい気がする。
メンバーが女性だけということで、「オーシャンズ48」という無茶苦茶な設定もありだったと思う。48人の連係プレーというのは見ものだが、それだけ人数がいればもはや小隊レベルなので、肉弾戦に持ち込んでも勝てそうに思う。詐欺を企てるより武装して宝石店や美術館を直接襲撃した方が手っ取り早そうだ。
冒頭からオーシャンズ11そっくり
オープニングのタイポグラフィーがさりげない感じで、オーシャンズシリーズのセンスの良さは踏襲している。冒頭のBGMが11と似ているのはファンサービスだろう。似たような007やミッション・インポッシブルなシリーズと比べても、センスの良さはピカイチ。今回のサントラもおすすめだ。
ストーリーは主役のサンドラ・ブロック扮するデビー・オーシャンが出所するところから始まる。粛々とインタビューに答えていたかと思うと、5年の服役で反省したそぶりも見せずさっそく高級店でスリを働く。
オーシャンズ11のサントラ、1曲目の出所シーンはおなじみの会話も収録されている。もちろんセリフは異なるが、「懲りないコソ泥家業」というキャラ設定はこれで十分伝わった。11のサントラを聴いて、ぜひ予習しておきたい。
“Mr. Ocean, the purpose of this hearing is to determine, whether, if released, you are likely to break the law again…”
出所直後に、最近亡くなったらしい兄ダニーの墓を訪れて、そこで会うのはルーベン。旧作メンバーの中では良識派だったイメージそのまま、泥棒から足を洗うようにと忠告される。
まあダニーが簡単にくたばるわけはないので、これも新手の死亡詐欺だろう。本作のラストシーンも墓参りで、いよいよジョージ・クルーニーが出るぞ出るぞと盛り上げつつ「結局出ない」というのが本作最大のサプライズだった。ダニーの再登場は次回作オーシャンズ9にお預けだろうか。
化粧が濃いオバサンたち
旧作の詐欺師たちも、決してルパン三世のように紳士的という感じでなかった。それにしても今回のレディースは素行がひどすぎる。デビーも返品を装いつつ化粧品をくすね、高級ホテルの客になりすまして宿泊する。このあたりは大義名分も何もない。
相方のルーも「ウォッカを水で割る」商売に落ちぶれていて、しょぼい稼ぎをしていた11のブラッド・ピッドを彷彿とさせる。窃盗プロジェクトに勧誘する口説き文句が、ジョブズの「一生、砂糖水を売り続けたいのか?」に似ているところはおもしろい。
なんだか思っていたより役者の年齢層が高いし、『セックス・アンド・ザ・シティ』みたいなノリなので、男一人で観るのは厳しい。劇場の観客も大半が女性。このまま年増オバサンたちのヒステリックなドタバタ劇が続くかと思うとうんざりした。
みんな化粧が濃いし、目のまわりが黒くて怖い。ケイト・ブランシェットにいたっては『ブレードランナー』のダリル・ハンナにしか見えない。
デザイナーのローズがへぼいという伏線
さいわい、ローズ・ワイルという女性デザイナーが出てくるあたりからコメディー要素が増して楽しめるようになってきた。
時代遅れのファッションデザイナーで、借金で開催しているショーの舞台はエーロ・サーリネン設計の名作TWAターミナル。1960年代のリバイバル企画がまったくうけず破滅しかけたところを、ダニーに勧誘される。ダフネに着せるピンクのドレスも変だし、ガラパーティーのサングラスと頭に乗せた花輪とか、とにかく見た目がおかしく登場する度に笑わせてくれる。
このローズがプロの犯罪者でなく、明らかに演技もわざとらしいというのが伏線になっている。前半でターゲットのダフネ・クルーガー(アン・ハサウェイ)と絡む場面が多く、いろいろヘマして失笑を買うのだが、案の定ダフネがすぐに気づいて仲間になっていたというオチにつながる。
推理小説で「主要人物がグルでした」というのはイージーすぎる結末だが、魅力的な敵役が仲間入りするのはオーシャンズシリーズの伝統みたいなものだろう。まるで11・12・13の3作を一気に圧縮したようなストーリー展開だった。
13では宿敵テリー・ベネディクトとも手を組むし、次回作9(?)では、本作終盤でいい味出していたジョン・フレイジャーあたりが味方に付きそうだ。8の続編なら追加メンバーはもちろん女性だと思うが、東洋系、インド系と人種は網羅したので、そろそろLGBTが加わってもいい。
ダフネの演技がおおげさすぎるのも実は…
似たようなストーリーとして、カルティエ店長とか凄腕ガードマン、ときどき出ていたヴォーグ編集長がなぜか仲間だったという話でもよかったはずだ。ただ8人目で仲間入りする最後の大物としては、やはりアン・ハサウェイしか務まらない。
1人ずつ参加者を数えて「8に一人足りない」と違和感を覚えた人は、途中から気づけたかもしれない。映画のポスターでばっちりダフネが脇を固めているのは、すでにネタバレだったといえる。
振り返ってみれば、ダフネの演技は女優としては下手に大げさだし、トイレでネックレスを外されるときとか「どこかでターゲットが違和感を覚えてピンチに陥る」というシーンがないのは不自然だった。お人よしすぎるダフネの立ち回りは天然ではなく、演技だったのだ。
メンバーの参加動機を検証
犯罪チームに加わる動機として、メンバー6人は根っからのアウトサイダーなので特に疑問はない。サラ・ポールソンのタミーなど、普段はサバービアンのいいお母さんを演じていて宝石偽造用の3Dプリンターを調達するあたり、もはやサイコの域に達している。
デザイナーのローズがお金に困っていた、というのはいいとして、ダフネがチームに加わる動機はやや真実味に欠ける。正直、3,000万ドルちょっとの分け前で、大女優がわざわざ片棒担ぐというのも解せない。
スリルや刺激を求めていたといえば簡単だが、「同性の友達が欲しかった」というセリフは案外説得力があるのかもしれない。セレブは孤独なのだ。
差別的扱いのアジア人メンバーに見せ場も
今回、女性だけのメンバーということで見どころだったのが、すり替えたダイヤをバラバラに分解して各自が装着しつつ持ちだすシーン。本作シリーズで中国人やインド人は厨房で皿洗いしたりウェイターを務めたり、何となく差別的に扱われていた。ところがこの場面だけは、唐突にドレスアップして登場する。
アミータがトイレを改造した工房でダイヤを分解し始めたのは、普通に考えると「トイレに流すのか?」と推測する場面だったが、「小分けにしてメンバーに配る」というのは予想外だった。
「その場でダイヤをばらし、収益分配してお別れ」というのもクールだと思ったが、実は美術館の展示品まるごと強奪する別計画があったというのは、さすがにすごい。歴代オーシャンズシリーズの続編として、遜色ないプロットだ。
ギャラが安くて再出演できたイエン?
このオプション計画のために、旧作からイエンが登場する。ブラッド・ピットやマット・デイモンよりギャラが安かったのだろうか。荷物用のカートから登場するシーンは11のパロディーである。
今回はメンバーのハッカー役、リアーナのナインボールが神がかっていて、監視システム設計者のPCにまで侵入している。警備システムをまるごと解除するくらいは、お手の物だろう。ハッキング能力が強すぎて、何でもありという映画になってしまっている。
いかにもスパイ映画っぽい赤いレーザー光線をかいくぐって、イエンがアクロバットを披露するあたり、旧作シリーズの先輩に花を持たせた感がある。今どきドローンでもなく、潜水艦ラジコンで宝石をピックアップするのもしゃれている。
女性ならではのヒステリー攻撃
最後に出て来た銭形警部のような保険会社の調査員。実はオーシャン父子を追い詰めたという切れ者らしく、もう一展開あるのかとにおわせて、あっさり司法取引に応じてしまう。
デビーが服役する原因となった、裏切り者の元カレに復讐するという筋書きが意外としつこい。1.5億ドルのダイヤに比べれば、私怨などどうでもいい気がする。
デビーの得意技は「困ったらドイツ語でわめきちらして注意を引く」。これは女性にしかできない荒業だ。犯罪チームのまとめ役としてフロントで指揮を執りつつも、ピンチの際は体を張って窮地を救う。
思えばダニー・オーシャンもほかのメンバーに比べて明確なスキルがなく、何をやっているのか不明だった気がする。「無用の用」というピンチヒッターがリーダーの仕事なのだろう。ハッカーや軽業師など、個性際立つプロフェッショナルが存分に活躍できるフィールドを整えるのが、その役割といえる。
ダニーとミランダの「出る出る詐欺」
アン・ハサウェイが出てくるファッション映画とくれば、『プラダを着た悪魔 』『マイ・インターン』と続くビジネスコメディを思い出さずにはいられない。『インターステラ―』でもいい演技はしていたが、やはり彼女のはまり役は、やり手の秘書か女社長だ。
今回もメットガラの手配をしているのがVOGUEなので、「編集長!」と声がかかると銀髪のミランダが出そうな予感がする。劇中3回くらい、ヴォーグ編集長がチラッと見える場面があるが、『プラダ』のパロディー要素は特に感じられなかった。
ジョージ・クルーニーがラストに出ると思わせて出ない、メリル・ストリープも出ると思わせて出ない。別にカメオ出演を約束されていたわけではないのだが、「出る出る詐欺」とでもいうべきネガティブサプライズが、オーシャンズ8最大のトリックだったといえる。
この消化不良感は、ぜひとも次回作で回収してもらわないと収まらない。女性版オーシャンズ9で新たに加わるメンバーは、実は本作でも裏からお膳立てしていたという前置きで、ヴォーグ編集長メリル・ストリープで決まりだ。That’ all.