市場全体に広く分散投資して、TOPIXやダウ平均株価との連動を目指すインデックス投資。銘柄選択を思考放棄した究極の放置プレイともいえる投資方法だが、一部の投資家には根強い人気を誇っている。
インデックス投資を始める際に、参考にした書籍をまとめてみた。国内では有名な著者が似たような内容の本を複数出しているので、なるべく出版が新しくて代表的なものを選んだつもりだ。たまたま古本で安く手に入ったので情報が古いものもあるが、投資信託やETFの新商品については、最新刊やマネー雑誌を参照してもらえればと思う。
- 『ウォール街のランダム・ウォーカー』
- 『敗者のゲーム』
- 『全面改訂 ほったらかし投資術』
- 個人投資家の体験談に引き込まれる
- NISAは長期運用に向かない
- ドルコスト平均法の批判
- 格安投信の出現でETFのメリットが薄れた
- 『マイナス金利にも負けない究極の分散投資術』
- 金ETFにも投資するアグレッシブなポートフォリオ
- 『ものぐさ投資術』の同時出版は、ものぐさすぎ
- 『毎月5万円で7000万円つくる積立て投資術』
- 外貨建て資産形成のすすめ
- 老後資産を時間分散で取り崩す出口戦略
- 姉妹書『ETF投資入門』は貴重なテキスト
- 『3000万円をつくる投資信託術』
- 平易な語り口と説得力のある図表
- 『長期投資のワナ』
- インデックス投資の「気持ち悪さ」とは?
- アクティブファンドは市場の必要悪か
- 『将来が不安なら、貯金より「のんびり投資」』
- 株式投資について前向きに考えさせてくれる本
- インデックス投資の本はなぜ似たような名前ばかりなのか
『ウォール街のランダム・ウォーカー』
インデックス投資に限らず、株式投資に関わるすべての人が読んでおくべき古典的名作だ。バブルの歴史から行動経済学の知見まで、バートン・マルキール教授の講義を存分に堪能できる。初めて投資を試みる前に1週間くらい根詰めて本書に目を通しておけば、今後失うかもしれない数100万円をセーブできるかもしれない。詳細は別途レビューを参照。
『敗者のゲーム』
上記『ランダム・ウォーカー』がインデックス教の旧約聖書だとすれば、こちらは新約聖書に相当する名著。どちらも教義は同じだが、『敗者のゲーム』の方がコンパクトで読みやすい。長期運用の伝道師、チャールズ・エリス尊師のウィットに富んだ格言も満載だ。別途レビュー参照。
『全面改訂 ほったらかし投資術』
現在は楽天証券に所属の経済評論家、山崎元氏と、インデックス投資のブログ「梅屋敷商店街のランダム・ウォーカー」で有名な水瀬ケンイチ氏による共著。山崎氏の前著『超簡単 お金の運用術』もおもしろいが、これを最新情報でアップデートした内容になっており、読みごたえ十分だ。
『お金の運用術』は理屈抜きでいきなり具体的な投資信託商品のおすすめから始まるので、とにかく結論ファーストで情報を集めたい人には最適な資料であった。ただし出版から数年経ち、手数料最安の投資信託も入れ代わったので、最新情報はウェブか雑誌で調べた方がベターだ。
個人投資家の体験談に引き込まれる
序章で紹介される水瀬氏の遍歴がおもしろい。いわゆる普通のサラリーマン投資家が、デイトレーダーを卒業してインデックス投資家になるまでの過程で共感する部分が多い。「悪材料が出たら仕事中にトイレに駆け込み、ケータイで売却するトイレトレーダー」とか、ニヤリと思い当たる節がある人もいるだろう。その後『ランダム・ウォーカー』に出会って投資法を変えたと語られるが、やはり個別株投資で痛い目にあった人ほど、インデックス投資のありがたみを実感できる気がする。
NISAは長期運用に向かない
初心者向けにネット証券の口座開設方法なども解説されているが、DCとNISAの節税メリットに触れる中でNISAが長期投資に向かないデメリットも指摘されているのは好感が持てる。「期待リターンが高い資産を非課税運用口座で運用する」という基本も押さえてある。
ポートフォリオの構成として、現金と国内債券を「無リスク資産」としてまとめているが、債券は近年利回りが低すぎるので除外しても差し支えないとしている。そうすることで、生活防衛資金以外の投資用資産は国内外の株式だけで済ませるという単純な戦略だ。国内と海外株式の比率を5:5としたうえで、手数料が最安な「MAXISトピックス上場投信」と「ニッセイ外国株式インデックスファンド」が推奨されている。
ドルコスト平均法の批判
他の本では無批判に称賛されがちなドルコスト平均法について、給与天引き関する行動経済学的なメリットを認めるものの、まとまった運用資産があれば「どのみちいいタイミングなどわからない」と一括投資を勧めているのは興味深い。
ノーロードのインデックスファンドに比べてETFは売買手数料がかかるので、一括購入の方が有利なのは明らかだ。ここではもっと突っ込んで、積み立て投資は有利でも不利でもないと看破されている。「インデックス投資の退屈対策も兼ねて自分で注文を出すようにしています」というのがおもしろい。
インデックス運用については基本的なメリットを説明しながら、短所についても正直に触れている。
- お金を殖やすのに時間がかかる
- 退屈である
- ダメ企業にも投資してしまう
3番目は後述のセゾン投信・中野氏も指摘している問題点だ。しかしここでは「ダメ企業の株式は徹底的に売られて株価は地の底まで突き落とされているはずだから、インデックスに占める割合は微小」とフォローされていてるのが腑に落ちた。
格安投信の出現でETFのメリットが薄れた
他にも投資信託の隠れコスト、投信からETFへのリレー投資、インデックス vs アクティブ教の神学論争など、マニア向けの読み物が充実している。最近の格安インデックスファンドの登場でリレー投資の必要性が薄れてきているというのは同感だ。
日銀のETF買い入れがにわかに話題になったが、一部銘柄を除いた流動性の少なさを見ても、国内ETFはこのまあひっそり衰退してしまうのではと危惧している。著者も指摘しているように、ETFにリレー投資せずインデックスファンドのまま持ち続けてもデメリットは少ないといえる。
巻末に国内外の代表的なインデックス投資信託とETFにコメントが付けられていて、商品選択の参考になる。また、ETFのファンドマネージャーのインタビューで業界の内幕が語られていたり、初心者向けの投資指南からマニア向けのコラムまで幅広く押さえられている良書だ。
『マイナス金利にも負けない究極の分散投資術』
投資信託情報サイト、モーニングスター社長の朝倉智也氏による分散投資の参考書。投資信託より先に海外ETFだけの尖ったポートフォリオを紹介していたり、インデックス投資では「禁じ手」といわれるコモディティーの金や、投資適格社債、ハイ・イールド債、一部はアクティブファンドも組み込んでいる点に独自性を感じる。国内で出版されている長期分散投資を扱った本の中では上級者向けだが、個人的に一番読みごたえがある本だった。
冒頭1/3は、マイナス金利や量的緩和などリーマンショック後の世界経済の動向、少子高齢化・消費税増税・債務超過など日本経済の問題を一通り確認して、「銀行預金だけでは危ない」と読者の不安をあおる内容になっている。そして、市場のグローバル化により、国内・先進国・新興国の株式市場および債権市場の相関性が高まってきているので、従来型の主要4資産への分散投資も安泰ではないと警鐘を鳴らす。
次に、米国大学財団のうちイェール大学のポートフォリオが紹介され、3/4も不動産や中小株のオルタナティブ資産が占めている事実、(アクティブ型の)バランスファンドより高パフォーマンスであると指摘される。少し唐突な印象がするが、イェール大学といえば、かのチャールズ・エリスの出身校で投資委員会委員長も務めていた大学だから納得である。
金ETFにも投資するアグレッシブなポートフォリオ
「究極の分散投資」のポートフォリオとして、海外ETFと国内投資信託をベースにしたものが2種類紹介される。特徴的なのが、インフレヘッジとして金が10%組み込まれている点だ。REITと金で5%ずつでもいいと解説されている。海外ETFは王道のバンガードVTをはじめとして、SPDRバークレイズ・ハイ・イールド債権ETFなど、聞いたこともない商品が並べられていてわくわくする。ETF中心の信託報酬加重平均コストはなんと0.17%である。ただし、ETFの売買や為替手数料は含まれていないので、後に加重平均0.4%で紹介される投資信託中心のポートフォリオと単純に比較するのは不公平である。
投資信託のポートフォリオも、グローバル経済と連動性が低い分野として、国内/海外の中小型株式が含まれている。さすがにインデックス型のファンドは見つからないので、一部組み込まれたアクティブファンドが全体の手数料を押し上げているが、主要4資産以外に中小株、ハイ・イールド債、金を合わせて30%持たせるところが大胆だ。
インデックスファンドから連想される、「ほったらかし」とか「のんびり」投資という路線から外れて、商品選びはかなりマニアックに感じるが、こういうポートフォリオもあり得るのかという参考になる。必ずしも万人向けではないが、他の入門書を一通り読んでETFベースの投資法にも興味が出てきた人にはおすすめできる。
『ものぐさ投資術』の同時出版は、ものぐさすぎ
なお、PHPビジネス新書から出ている『ものぐさ投資術』という本は、本書と同時期の2016年5月に出版された簡易版だった。値段は安いが、ほとんど同内容の文章や図が初心者向けに大雑把にまとめられているだけなので、両方買う必要はない。
『マイナス金利…』の方は思わず著者の力が入ってハードな内容に偏ってしまったので、初心者向けに『ものぐさ投資術』をやわらかい内容で書き直したような事情が推測される。後者はタイトルも安易で、毒にも薬にもならない中途半端な内容に感じるので、どちらか1冊選ぶなら単行本の方がおすすめだ。
『毎月5万円で7000万円つくる積立て投資術』
インデックス投資アドバイザーのカン・チュンド氏の代表作。2009年発行と少し古いのだが、平易な言葉でドルコスト平均法やインフレリスクが説明されている。具体的な積み立て方法やポートフォリオの構成例まで網羅されているので、初心者向けの入門書としては最適だと思う。ただし、金融商品や証券会社のデータはさすがに古いので、最新情報を調べた方がよい。
外貨建て資産形成のすすめ
本書の特徴として、今後長期的には円安になるという予測のもとに外貨建て資産が勧められている。2007年時点で、日本人の個人金融資産のうち3.4%しか外貨建てで保有されていないというのは衝撃だった。
チャールズ・エリスが「ほとんどの国のおいて、ほとんどの投資家が、ポートフォリオの大部分を自国証券に投資するという、ホーム・バイアスが見られる」と言っているのは真実だ。「投資先を国内に限定するということは、自国が他国より有利というアクティブな判断の結果なのだ」とうことは肝に銘じておきたい。
老後資産を時間分散で取り崩す出口戦略
もう一点、長期で積み立てたファンドを効果的に解約する出口戦略についてもフォローされているのが興味深い。毎年の期待リターンより1%少ない額を引き出して年金の足しにする(元本は崩さない)というのは、想定通りに老後7,000万円の資産があって5%の利回りが期待できるなら、理想的な撤退方法だろう。独り身で遺産を残す必要もなければ、老後は多少資産を切り崩して遊んでもよいと思うが、この点アメリカ人のチャールズ・エリスが、大学への寄付や社会貢献をアウトプットとして重視しているのは興味深い。
カンさんのブログは独立系の中立的立場で、証券会社のコラム記事のようにセールストークが少ないので参考になる。「NISAは長期投資に向かない」とか、銀行や証券会社には耳が痛い事実もバッサリ書かれていて読みごたえがある内容だ。著者は日本国内におけるETFの伝道者としても有名で、日経文庫から出ている『ETF入門』(2010年発行)は、今でも参考になる。
姉妹書『ETF投資入門』は貴重なテキスト
ETFについて調べようと思っても、これ以外には一般向けの詳しいテキストが存在しない。海外ETFも視野に入れれば、主要4資産以外のマイナーなアセットクラスも検討材料になる。アジア・パシフィック指数やロシア・東欧株式ETFなど、リスク高めの商品も含めた18ものポートフォリオ例が紹介されていて刺激的だ。
『3000万円をつくる投資信託術』
いくつも出ている竹川美奈子さんの書籍の中から、たまたまブックオフで100円で売られていたので選んでみた。2010年発行なのでこれも古いが、ほかの著作も基本的な内容は変わらないと思う。投資信託の仕組みや3つの手数料、各商品の目論見書や運用報告書を読むポイントなどが丁寧に説明されている。
平易な語り口と説得力のある図表
掲載されているデータとして、1994~2009年の各年で、国内/海外、株式/債権の主要4資産のリターンランキングを比較した表がおもしろい。モーニングスター朝倉氏の本にも同じ図が出てくるが、要するに「どの資産が優位かは予測できない」という教訓だ。またしてもチャールズ・エリスの名言を引用すると、
シャーロック・ホームズの小説で、犬が吠えなかったことが手がかりになったように、この表では「パターンの不在」がパターンなのである。
巻末の1、3、10年単位で4資産に分散投資した場合のリターン比較表も参考になる。1年だと39年中10年は元本割れするが、運用期間を延ばすほどパフォーマンスが上がって、10年単位だと元本割れする年がゼロになるという結論は説得力がある。
カンさんの「7000万」に比べて「3000万」と控えめな資産目標を掲げているが、EXITについても「目標達成したら8割は解約して現金化しましょう」とディフェンシブな主張が見られる。残り2割はインフレ対策という説明なので、一応インデックス投資のセオリーは抑えてある。
『長期投資のワナ』
セゾン投信社長、中野晴啓氏の著作。「ほったらかし投資では儲かりっこない」という挑発的なサブタイトルで、インデックス投資批判を試みた貴重なサンプルだ。著者自身がアクティブファンドを運営している立場でもあるので、どれほど痛烈な意見が読めるかと興味深々だったが、残念ながらそこまで刺激的なメッセージは読み取れなかった。
インデックス投資の「気持ち悪さ」とは?
「合理的根拠のない長期保有は投機と同じ」という見出しで、東京電力や旭化成建材のように不祥事を起こした株は売らなければならないと主張している。TOPIXには東芝のような低迷株も含まれているので「インデックス投資には清濁併せ呑む気持ち悪さがある」というのは確かに事実だ。この点は前述の『全面改訂 ほったらかし投資術』でも触れられている。
ただしそれでも市場全体を長期で見れば、年間5%くらいのリターンを得られたというのも歴史的な真実だから、ポートフォリオに多少の落ち度はあっても安打を打ち続けるというのがインデックス投資家の心構えであるべきだろう。
アクティブファンドは市場の必要悪か
中野氏がいうように、アクティブなマネージャーがいてこそ誤った株価が修正される(効率的市場)とか、株価形成のためにアクティブ運用はインデックス運用の補完的存在として存在し続けるというのは新鮮な見方だ。
インデックスファンドを買ってそのまま放置しているだけでは、長期投資家とは言えません。それは単なる思考停止した人です。
アクティブ投資派の名言だが、インデックス信者には「思考停止」こそ究極の褒め言葉ともいえる。その他、本書に出てくる銀行窓口やラップ口座、最近のフィンテックやロボアドバイザーの批判はインデックス投資家でも共感できる内容なので、読み物としておすすめだ。
『将来が不安なら、貯金より「のんびり投資」』
日経マネーにもコラム連載している、さわかみ投信会長、澤上篤人氏の書籍。類書はいくつもあるが、とりあえず2016年発行で新しいものを選んでみた。「セゾン投信の中野氏と同じく、アクティブファンドの経営者がいかに長期投資について語るかという興味深い内容だ。
株式投資について前向きに考えさせてくれる本
具体的なテクニックを紹介するというよりは、長期投資のマインドについて語る精神論が中心だった。殺伐とした株式市場において、「本来の投資はゼロサムでなくプラスサムであり、社会にお金を回して人々の生活が豊かになるのを手伝うこと」というポジティブな視点は目からうろこだ。
マネーゲームでなく実体経済を重視、気に入った企業を応援するつもりで株を買うとか、アクティブ vs インデックス以前に、これまで投資に縁のなかった人が預貯金以外で運用するために参考になりそうな話が多い。逆に厳しい表現では、「投資をしない人は明るい未来をつくることに関心がない。預貯金は無責任」とまで言われている。
時事的な話題では、債券市場から株式市場への資金シフト(グレートローテーション)や、株主利益偏重のROE経営批判も取り上げられていて参考になる。
アクティブ投信の信託報酬が年1%であっても、その投資信託の基準価額の値上がり率が年10%、片やインデックス投信は信託報酬が年0.5%しかかからないけど、基準価額が年2%しか上がらないとしたら、果たしてどちらを選ぶのかが賢明か、言うまでもありません。
アクティブファンドのマネージャーらしい自信たっぷりの発言だが、信じるかどうかはあなた次第だ。
インデックス投資の本はなぜ似たような名前ばかりなのか
「ほったらかし投資」「ものぐさ投資」「のんびり投資」というタイトルが続いたので、そのうち「ゆったり投資」とか「ぐうたら投資」というような本も出てくるに違いない。強気のアクティブ運用に比べて、インデックス投資のゆるさをアピールするには、気だるい形容詞がぴったりだ。もう少しひねって、「うんざり投資」とか「がっかり投資」というタイトルでも売れる気がする。
こうして比較してみると、書名だけでなく中身も似たり寄ったりなのはいただけないが、「適当な投資信託かETFに分散して積み立て投資すれば一丁上がり」という世界なのでしょうがない。あとは商品選択の範囲で、どの程度リスクの変動幅を認めるかという味付けのバリエーションがあるだけだ。
今回挙げた書籍は基本的にどれも同じ内容なので、やる気に応じて本の厚みと値段から1冊選んでも外れはないと思う。もしインデックス投資の原点を探るなら、おすすめはやはり、いちばん分厚い『ウォール街のランダム・ウォーカー』だ。