ハイレゾ仕様なのに1万円以下の投げ売りセール価格で入手できたエレコムのEHP-F/OH1000ASV。自宅でのPC作業中、BGMリスニング用にがんがん使ってきた。ケーブル長1.2mのコンパクト仕様なので、たまに外に持ち出してウォーキング中の音楽鑑賞にも活用したりした。
劣化が早かったエレコムのハイレゾ
使い始めてから1年くらい経つと、ヘッドフォンからの出力にジリジリいう雑音が混ざるようになってきた。プラグが半差しになっていたり、ケーブルが断線しているわけでもない。PCでもスマホでも同じ症状なので、再生デバイス側の問題でもなさそうだ。
ヘッドフォン本体内部のケーブルが切れかかっているのかと思ったが、たまにしか出ない症状なのでそのまま気にせず使い続けていた。片出しコードの仕様なので、取り回しが楽な分、本体内で断線するリスクは避けられないのだろう。
普段部屋でじっくり音楽を聴くというよりは、仕事中に単調作業をこなすときや、まわりの騒音がうるさいときに耳栓代わりに音楽を鳴らしている。もっぱら「ながら利用」なので、多少音質が悪くても気にはしない。しかも夏は暑くて蒸れるので、ヘッドフォンをするよりスマホのスピーカーから直に流している場合が多い。
ヘッドバンドが折れて壊れた
さらに使用して1年8か月経った頃、妙に着け心地がゆるいと思ったら、ヘッドバンドが折れていた。ヘッドフォンが壊れるときは、たいていケーブルがちぎれて音が出なくなる場合が多い。物理的にボキッと折れるケースは初めて見た。
安いわりに音質が良いと思って気に入っていたのだが、そこはエレコムの限界だろうか。コードの接続部分はしっかり補強されているのだが、肝心な基本構造の強度が足りていない。
バンドは折れていても、中のケーブルは完全に断線していないようなので、締め付けはゆるいが頭に乗せて使い続けることはできる。適当に針金でも買ってきて補強しようかと思ったが、さすがに音質の劣化も気になるのでヘッドフォンを新調することにした。
処分前に分解してみると、左右のユニットを連結するケーブルは、ヘッドバンドの金属板内に溝を掘って埋め込まれている。この構造ならケーブルだけ断線するという可能性は低そうだ。まさか金属パーツごと折れるとは…
安いとはいえ、8千円もした製品が2年も持たずに壊れてしまうのは残念だ。エレコムからはEHP-ON100Mシリーズという後継機が出ているが、ヘッドバンド部が相変わらず薄いので耐久性は疑わしい。
こちらは大幅にスペックダウンして2,000円程度で売られており、どうやらエレコムはハイレゾ仕様の高級機市場からは撤退してしまったようだ。
ATH-A500Zはよくできている
代わりのヘッドフォンを探しに家電屋を物色してみたところ、オーディオテクニカのインドア・オーバーヘッドタイプ、ATH-A500Zが気に入った。昔から出ている大型のアートモニターシリーズの中で、密閉型としては一番安いモデルだ。
ハイレゾ対応はうたっていないが、安いとはいえ1万円は超える中堅価格帯。独自のウイングサポートシステムで荷重を支える機構など、斬新なデザインで昔から憧れていたシリーズだ。
今までは家が狭くて大型のホームリスニング用ヘッドフォンを買う気になれなかったが、普段の使い方からすれば、外出時は手軽なインナーイヤー型で済ませている。自宅専用と割り切るなら、多少場所をとっても音質のよさそうな大口径ヘッドフォンを一度は試してみたい。
エレコムのヘッドフォンがやわだった反省で、A500Zの頑丈さに惹かれた。懸案のヘッドバンド部は2本の金属パイプでがっちり支えられていて、ちょっとやそっとでは折れ曲がりそうにない。
またハウジング部分の可動域が少ないという点もメリットに思われた。携帯性重視のヘッドフォンは側面の部分が回転して折りたためるものが多いが、家で使う分にはガチャガチャ変形して扱いにくいだけだ。
DJ用の製品でモニター用に180度反転する機能など、普通に音楽鑑賞する分には邪魔で仕方ない。可動部が多いということは、その分ヒンジが壊れやすいか、無駄に補強されて重量が増えてしまう。
ATH-Mシリーズはおもしろみに欠ける
モニター用ヘッドフォンの最廉価ATH-M20xも、ヘビーデューティーなつくりで好感が持てる。しかし前回評価したように、音を聴き比べるとやはり平板すぎておもしろみに欠ける。
作曲や演奏用ならフラットな出力特性は必須かもしれないが、一般人にとってはメリハリのついた再生音の方が素直に楽しめる。添加物に慣らされてしまった身には、無添加食品が必ずしもおいしくないのと同じ理由だろう。
ウイングサポート不要論
店頭並んでいた視聴用のヘッドフォンをいくつか聴き比べて、試しにかけてみたJVCビクターのHA-RZシリーズが意外と良く感じた。オーディオテクニカのアートモニターシリーズと同じく、インドア用の大型ヘッドフォンでサイズや重量感は似ている。
違いとしては、RZ710/910は幅広のバンド部分で頭頂部の荷重を分散する仕組みになっているのだが、これがアートモニターのウイングサポートよりかけ心地良く感じた。
ウイングサポートの構造をよく見ると、バネのついたヒンジで上部に持ちあがるようになっている。ということは、ヘッドフォンの自重そのものを頭頂部に伝達する機能は果たしていない。あくまでハウジングで挟み込む摩擦力だけで指示していて、ウイングサポートはずれ防止というか安定性を高めるためのオプションだろう。
そのため、オーディオテクニカのATH-A500ZはJVCに比べてやや側圧が強いように感じる。密閉性・外部の遮音性という点ではメリットだが、300gもある重量をイヤーパッドだけで支えるというのは頭が疲れそうだ。その点はオンイヤーでなくオーバーイヤー型なので、耳全体を覆って接触面積を広く取り、荷重を分散される設計思想と思われる。
A500ZとRZ910を何度か着け比べていると、バンド全体で頭を押さえるJVCに比べて、オーディオテクニカのは頭頂部の接触点が局所的で、妙な違和感を覚えるようになってきた。頭の両側から不自然にバネで押さえつけられている感覚で、いったん気になるとイライラしてくる。
ウイングサポートは荷重を伝える機能がないなら不要でなかろうか。見た目はおもしろい機構だが、よくよく考えるとなくてもいい気がする。
安すぎるJVCのHA-RZシリーズ
不思議なことにJVCのHA-RZシリーズは見た目の質感に対して驚くほど安い。910>710>510と3種類あるのだが、最上位のRZ910でも5千円程度で買える。比較対象のATH-A500Zと比べて半額以下だが、ヘッドバンドの装着感は上である。イヤーパッドも低反発ウレタンで、側面のフィット感は同等だ。
アマゾン3千円台で買えるRZ710の方は、イヤーパッドのカバー素材が安っぽく、すぐにひび割れて劣化しそうに見える。低反発素材でもないので、わずか1,000円の追加で済むならRZ910の購入をおすすめしたい。ヘッドバンド部分も、RZ910の方は汗を吸わなそうな合皮素材なので、ウェットティッシュで拭いてメンテナンスしやすそうだ。
ヘッドフォンは大きい方が音がいい
肝心な音質という点では、A500ZもRZ910も甲乙つけがたい。ヘッドフォンに関しては素人だが、この2機は1万円以下のポータブルヘッドフォンに比べて明らかに音声の解像度が高いと感じた。
どうやらドライバーユニットの口径というのは音質にダイレクトに影響するようだ。今まで使っていた軽量小型のヘッドフォンに比べて、直径50mm以上のインドア用ヘッドフォンはまったく別物に思われてくる。再生周波数とかインピーダンスというスペック値よりも、「とにかく発音部品がデカい方が音がいい」という単純な法則があるように感じた。
アートモニターのボビン巻きボイスコイルや、JVCのサウンドスタビライザーなど、売りにしている独自機能も音質向上に寄与しているかもしれない。各パーツの有無を比べて厳密に評価したわけではないが、体感的にA500ZとRZ910はエレコムのハイレゾヘッドフォンよりすぐれている。店頭で視聴できた中では、1万円以上する他社製品と比べて同等かそれ以上のクオリティーと思われる。
アートモニターの素材違い
ATH-A500Zは1万円超という価格の分、ハウジングの外側が艶のあるプラスチックで高級そうに見える。アートモニターの上位機種は、ここの素材がアルミニウム~チタニウム~チーク~黒檀と進化していくのだが、実際のところ音質向上にはどこまで影響するのだろうか。
さすがに2万円を超える高級機はショーケースに入れられて手軽に視聴できなかったが、どちらかというと見た目と所有する満足感に関する部分が大きいのではなかろうか。ウェブのレビューを調べても、最廉価のA500Zは上位機種に劣らずコスパが抜群と評価されている。
1.2+2.3mの延長ケーブルが便利
ATH-A500Zの半額で、同等の音質を誇るJVCのHA-RZ910とは何者なのだろう。安いので失敗してもいいという気持ちで、今回はRZ910の方を購入してみた。
A500Zと比べて装着感は上だが、もうひとつ決め手になったのは、ケーブルが1.2mと2.3mに分割されている点だった。
狭い部屋で、パソコンやスマホに直差しして音楽を聴くので、アートモニターの3mもあるケーブルは邪魔になると思った。モニターヘッドフォンのATH-Mシリーズも同じくコードが3mある。
楽器を演奏したり、大画面のテレビで映画を観るには長いコードも必要だろう。PC画面で映画を観るときも、多少離れて鑑賞できるように100均で買い足した50cmの延長コードは持っている。
JVCのRZ910は、ヘッドフォン本体に1.2mのケーブルが付いていて、さらに予備コードで2.3m延長できるという仕様が実にありがたい。オーディオテクニカの方は、音質劣化のリスクを避けるために、あえて3mと長いケーブル1本で通しているのかと思う。
音質よりも使用時の利便性を優先して、ケーブルを分割できるようにしたJVC製品の方が、自分の趣味には合っていた。そもそもMP3で圧縮した音源を、ヘッドフォンアンプも通さずPC直差しで聴いているレベルなので、そこまで音質にうるさいわけでもない。
買って気づいたHA-RZ910の利点
家で数日試してみたHA-RZ910はなかなか好調だ。これまで使っていたエレコム製品やインナーイヤー型のヘッドフォンに比べると、素人でもわかるほど音像がはっきりして聴こえる。正直なところ、昔使っていた1万円以上するゼンハイザーのヘッドフォンよりも音がいい。
何度も聴いてきたお気に入りの曲で、「今まで聴こえなかった繊細な音が聴こえる」というのは感動的である。作業中にながらで聴くというより、夜部屋を暗くしてじっくり音楽を聴くという新しい楽しみができた。
例えばGentle Giantの”On Reflection”、冒頭の四声コーラスがまるで目の前でライブ演奏を聴いているかのように生々しく聴こえる。3次元的にステージ上の4人の立ち位置まで特定できそうなくらい、音場もクリアーに把握できる。
連日猛暑日で、エアコンをつけていてもさすがに蒸れて汗をかくが、その点はオンイヤーでもオーバーイヤーでも同じだ。RZ910は見た目に比べて、とりわけ暑苦しいという気はしなかった。
髪型が激しく乱れるのが難点
唯一の弱点は、大きなヘッドバンドが頭を押さえつけるので、せっかくワックスで立ち上げたソフトモヒカンのヘアスタイルが崩れてしまう点だ。装着感の良いヘッドフォンだが、接触面が広い分、髪型が乱れるのは仕方ないといえる。またバンド部分を上下にスライドさせる機構が、装着してからだとちょっと調整しにくい。
ハウジングの外側にメッシュ部分があるので、アートモニターのエアーダイナミック型のように音漏れが懸念されたが、そこはまったく問題なかった。静かな部屋で、大音量で音を流しても、特にメッシュパーツから音が出てくる気配はない。巨大なので持ち運びには向かないが、たとえ電車の中で使っても音漏れは問題ないレベルといえる。
アマゾンなら5千円以下で買える驚異のコストパフォーマンス。ビクターのHA-RZ910はよい買い物だった。大型でかさばる点に目をつぶれば、大口径ドライバーの音質は文句なくすばらしい。2万円を超えるハイレゾヘッドフォンに投資する前に、ベンチマークとしてRZ910を試してみることをおすすめしたい。