鹿児島市内の観光コンテンツといえば、猫も杓子も幕末・西郷どん。街を歩けばいたるところで、西郷隆盛の銅像や西南戦争関連の史跡に出会う。
一方、県北部の高原リゾート地、霧島エリアでは坂本龍馬の湯治ネタが中心である。寺田屋事件で傷を負った龍馬が、お龍をともなって訪れたといわれている。日本初の新婚旅行というキャッチコピーで宣伝されているが、歴史的にはどのくらい真実なのだろうか。
霧島温泉郷には龍馬の足跡が多く残っているが、歴史ファンなら一度は訪ねてみたいのが龍馬滞在の中心地、塩浸温泉だ。
山の中にこっそりある秘湯
塩浸温泉は霧島山中を通る国道223号沿いに位置している。周囲にいくつかある温泉街と違って、山道の中に忽然と現れる温泉施設。一度目は気づかずにそのまま通り過ぎてしまった。
少し北には「ラムネ温泉・仙寿の里」もあるが、小さい看板が出ているだけで非常にわかりにくい。商売っ気がまったくなく、この秘境感は何なのだろうと思ったが、龍馬資料館で説明を聞いてその理由が分かった。
塩浸温泉の駐車場は道沿いに数台程度あるが料金は無料。駐車時に切り返すスペースがなく危ないが、混雑する休日はスタッフが交通整理してくれる。橋を渡ると龍馬とお龍の銅像、資料館、無料の足湯とお土産コーナー、温泉施設がコンパクトにまとまっている。
特に龍馬とは関係なさそうだが、鴨が放し飼いされていて、100円のエサを買って与えることもできる。銅像の脇にある階段で川のそばまで降りられるが、奥の方にぬるい手湯があるだけで特に見どころはない。
背後の崖に「龍馬の散歩道」という階段があり、小さい社がまつられている。
がんばって上まで登ってみたが、別の道路に出るだけで特に見るべきものはなかった。かなりの高低差で汗をかくので、興味があるなら入浴前に登っておいた方がいい。この遊歩道を4km歩けば、犬飼の滝という名所に辿り着くらしい。
番台は温泉施設から離れた資料館の方にあり、ここで360円のチケットを買う。追加で200円払うと、龍馬資料館も見ることができる。
ガイド案内つきの龍馬資料館
資料館では、受付のスタッフさんがつきそって展示の説明をしてくれる。ボランティアのガイドなのかわからないが、かなり濃密なサービスだ。龍馬の生涯に沿って霧島関連のエピソードを紹介してもらい、大変勉強になった。
龍馬の滞在地としてなぜ地味な塩浸温泉が選ばれたかというと、薩摩藩の家老、小松帯刀が幕府の追ってからかくまうために選んだらしい。当時から有名だった霧島温泉に比べて発見されて間もない塩浸温泉は世間に知られていない。しかも当時は川沿いの道でなく、先ほど登った崖上がメインアプローチだったため、絶好の隠れ家だったそうだ。
とはいえ、龍馬はお龍を連れて霧島温泉一帯を行脚し、山頂の天逆鉾まで見に行っている。逃避行というよりは、のんびりした温泉旅行だったのかもしれない。おかげで翌年は京都に戻って近江屋事件で暗殺されることになる。
ちなみに龍馬が負傷した寺田屋事件とは、1866年の伏見奉行による襲撃事件の方を意味する。薩摩藩内で同士討ちした寺田屋事件は1862年の方で、同じ場所なのでまぎらわしい。4年前に殺戮があった物騒な寺田屋に泊まっていたというのだから、龍馬ものんきな性格だったのだろう。
展示物はすべてレプリカだが、龍馬の手紙は霧島の絵日記が描いてあったり、ほのぼのした内容だった。ヘタウマな平仮名で書かれているので、現代人でもある程度読むことができる。
塩浸しと鶴の湯
足湯だけなら無料だが、ここはぜひ本館の方にも入ってみたい。脱衣所は最近改修されたのか、わりときれいだった。塩浸しの湯と鶴の湯、源泉が2つあるがどちらも硫黄臭は強くない。むしろ鉄分が多くて金属臭がする。炭酸泉で、名前のように塩っ辛いわけでもなさそうだ。
男湯の方は窓越しに川を見下ろすことができる。とはいえ対岸の車や観光客が多くて、あまり落ち着かない。以前は別の場所にあったが、川沿いに道路が通るとのぞきが増えたので移築したそうだ。
価格的には鹿児島~熊本の公衆浴場と同レベル。石鹸・シャンプーの類も置いていない。湯船はさほど広くないが、種類の違った源泉を2つ楽しめるのが売りといえる。川沿いのロケーションは近くの妙見温泉、田島本館とよく似ている。
霧島~妙見温泉間の秘湯スポット
温泉そのものを楽しむなら素直に霧島温泉に行った方がいいだろう。霧島より鹿児島空港に近くてバスで来られるという意味では、地の利がある。この付近の移動手段はレンタカーになるだろうから、道沿いに塩浸~ラムネの湯とはしごしてもおもしろい。
南の妙見温泉に行く途中にも、300円くらいで入れる安い日帰り温泉が散在している。鹿児島の霧島エリアは、温泉好きには一泊しても回り切れないくらい、魅力的な温泉がそろっている。