宮古島トライアスロンに参加後、石垣島に移動してから離島観光の最後に与那国島を選んだ。今回は石垣島のターミナルから一泊二日、フェリーで往復する計画を立てた。
いつも通り、宿で自転車を借りて島一周してみた。離島とは言えそこそこ大きな島なので、一周 25kmはある。しかも外周部はアップダウンが激しく、ママチャリではそれなりのトレーニングになった。
波照間島の最南端に続き、与那国島の最西端にも無事到達。台湾までは見えなかったが、日本最後の夕日を拝むことができた。
与那国島行きのフェリー
石垣島から与那国島へはフェリーで片道4時間。1日3便飛行機も飛んでいるが、フェリー代は往復6,750円で空路普通運賃の1/4で済む。
与那国島行きのフェリーは離島ターミナルの対岸から出港する。ターミナルには案内窓口がなく、この島だけ別扱いなので注意が必要。対岸まで歩いて15分はかかる。
乗り場にある福山海運の窓口で、朝8時からチケットが販売される。フェリーの予約はできず、支払いは現金のみ。
与那国島行きの大型フェリーは近年リニューアルされたらしく、他の離島行きとは一線を画する豪華なしつらえだった。乗客と一緒に生活物資が積まれていく。
日差しが強いのであまり外には出なかったが、最上部のデッキはまるでリゾートホテルのようだ。
二段ベットの仮眠スペースが2部屋16人分用意されており、早い者勝ちで使っていいようだ。ソファー席と雑魚寝スペースもあるが、料金は一律で等級もなかった。
今日の乗客は20名くらいだった。到着までの4時間、ソファーでくつろぐ人、雑魚寝スペースで酒宴や花札にいそしむ人、デッキで海鳥撮影など思い思いに過ごしていた。
船内を探検していると、トイレの中にお約束の嘔吐スペースがあった。多良間島フェリーのように、いかにも便器という外観でないのがせめてもの救い。手すりと傾斜がついて機能的にも進化している。
西表島の北側を過ぎるとやや揺れが大きくなってきたが、多良間島のフェリーと比べれば穏やかな方だ。最新鋭の船体のため、安定性も向上しているらしい。
船の後ろを見ると、巨大な海鳥が何羽か追ってきている。
誰かエサをやっている訳でもなく、水面のトビウオを狙っているようだ。フェリーに驚いてトビウオが出てくるのを待ち構えている。後で調べたらカツオドリという鳥だった。
与那国島の久部良港に到着
フェリーは遠回りして、西岸の久部良(くぶら)港に到着した。島全体がほぼ絶壁に囲まれており、ここくらいしか接岸できるところもなさそうだ。ちょうど港に入るときに、日本最西端の灯台が見えて船内が盛り上がった。
今夜の宿は「おじぃーの家」を予約。他にもよさそうなホテルや民宿はあったが、格安ラインでおもしろそうなところを選んでみた。
港にご主人が迎えに来てくれて、同宿の方と一緒に島中心部の祖内(そない)集落へ移動。広い母屋の他に、2つも別館があるらしい。自分は高台の建物、2階の部屋に案内された。
気前よく無料で自転車を貸してもらい、さっそく島一周の旅に出てみた。今回お借りできたのは、変速付きのママチャリだった。
倉庫の中から出てきた車体は、長い間使われてなかったようでほこりをかぶっていたが、コンポはシマノ製。海風で錆びつきながらも、バチバチ変速できた。
与那国島一周ツーリング
今回は集落の北にあるナンタ浜に寄ってから、時計回りに島内をめぐって夕暮れ頃、最西端に到達する計画を立てた。
浦野墓地~東崎
最初に見えてきたのは墓場。巨大亀甲墓群が見られるこの浦野墓地は、観光名所でもあるらしい。与那国島は昨年の台風21号、風速81mでトタン屋根がすべて吹き飛んだらしいが、コンクリート製の墓所はびくともしなそうだ。
牧場を通り過ぎると東崎の灯台に到着。与那国馬が草を食む牧歌的な光景を見ながら、しばしクールダウン。最西端の島の東端には観光客もおらず、人気がないようだった。
灯台近くの路上に、いかにも危険な溝が掘られていた。テキサスゲートと呼ばれ、牛や馬が外に出られない仕組みらしい。石垣島の平安名崎灯台の前にあったのと同じものだ。自転車で乗りあげる際は用心しないと確実に転倒する。
軍艦岩~立神岩
与那国島は断崖が多いせいか、外周道路もアップダウンがすさまじかった。茂みのあるところではヨナグニサンがいないか探してみたが、滞在中に目撃することはできなかった。
東岸には軍艦岩や立神岩と呼ばれる奇岩がある。軍艦岩を眺めるサンニヌ台は台風被害でしらばく立ち入り禁止だったようだが、修理された展望台から岩を見下ろすことができた。
こちらは立神岩。遠くから見るとそれほどでもないが、高さは30mもあるらしい。
Dr.コトー診療所のロケ地
海岸の眺望もなく、森の中を果てしなく進む坂道に飽きてきたところ、ようやく島の南側にある比川集落に到着した。ここにはテレビドラマ、Dr.コトー診療所のロケ地跡がある。
入場料は300円。ドラマのためのセットとはいえ、台風にも耐えられるよう本格的にコンクリートでつくられている。中には診察室や入院用のベッドが一通りそろっており、手術室は立ち入り禁止。窓からビーチを眺められるこの病室はうらやましい。
ヤシガニラーメンやワラジなど小道具と一緒に、撮影で使われた自転車も展示されている。白衣を着て記念撮影もOK。
原作の古志木島は、鹿児島の下甑島(しもこしきじま)がモデルとされている。作中では「本土から船で6時間」という設定だったので、状況としては与那国島の方が近い。原作のマンガは全巻読んできたが、ドラマの方は1話しか予習できなかった。
Dr.コトーは医療漫画としても十分楽しめるが、漁師のしげさんや暗躍する代議士など、離島の人間模様が妙にリアルだ。デング熱やエキノコックスが蔓延して、島全体が度々ピンチに陥るというSF的なおもしろさもある。そして主人公の同僚、三上先生の死に際は、涙なしに語れない。
与那国馬~自衛隊駐屯所
牧場では与那国馬が道路をまたいで散歩中。他の離島に比べてヤギは見なかったが、野放しの馬が多い。
島の南側で、自衛隊駐屯所の建設が進められていた。
先月は工事関係者など400人で島がごった返し、一時的な食糧難に陥ったらしい。街中で多く見かける垂れ幕によると、誘致賛成と反対派で意見が割れているようだ。
日本最西端の石碑~久部良港
そうこうするうちに西崎の最西端に到達した。波照間島の最南端のように「民間人が行ける」という意味ではなく、ここが正真正銘日本の国境、最西端にあたる。
ここにあるのは石碑や灯台くらいだが、遮るもののない西日が美しい。天気が良ければ111km先の台湾まで見えるそうだ。
西崎から、先ほどフェリーが到着した久部良港に降りる途中にナーマ浜がある。ここはある意味、日本最西端のビーチ。海がきれいなのは言うまでもなく、灯台越しに夕日を眺められる贅沢なロケーションだ。
島の人々が、コンテナから出てきたクーラーボックスを仕分けて運んでいた。ちょっとした市場のような賑わいで、車に物資を積んで集落に帰っていく。
港を望む高台に登ると、「日本最後の夕日が見える丘」がある。場所的には最西端の方が最後と思うが、めったに観光客も来ないらしくまったり夕日を眺めるにはおすすめだ。
久部良割~与那国空港
夕日が見える丘のすぐ近くに、久部良割(クブラバリ)と呼ばれる巨石がある。人頭税時代に妊婦に岩の割れ目を跳ばせて、墜落死するか流産するかで人口制限に使われたという。ほかにも与那国島には、人舛田(トゥングダ)という抜き打ち招集して遅れた者を打ち首にした場所がある。
沖縄の離島はどこに行っても人頭税がらみの悲惨な史実に遭遇する。琉球王朝時代に八重山諸島に課された重税で、とうてい生産・納期も間に合わない差別的な政策だったらしい。H・D・ソローが納税拒否して投獄されたという、アメリカの人頭税とは次元が違うようだ。
島の北西を回って祖内集落に戻る途中、与那国空港を通過した。他の離島の空港は日常的に使われている様子でなかったが、ここは頻繁に離着陸している。
さすがにフェリーで片道4時間かかる距離なので、石垣島から30分で来られる空路も需要があるのだろう。
ティンダハナタにプチ登山
街中を見下ろす巨大な岩山、ティンダハナタにも登ってみた。標高100m程度で祖内集落からも近く、散歩がてらに観光できる。自転車なら往復1時間くらいだった。
遊歩道の入り口までは車や自転車でアクセス可能。軽いヒルクライムになるが、外周道路の坂に比べればたいしたことはない。
遊歩道を歩いて進むと、巨岩の下まで潜り込める。伝説の族長サン・アイ・イソバの墓やイヌガン伝説の岩があり、岩肌から湧き水が流れている。
蚊が多いのであまりじっとしていられないが、集落を見下ろすベンチもある。最西端の島だからか、日が沈むのも本土よりだいぶ遅い。
下山してナンダ浜に寄ると、地元の家族連れが泳いでいた。沖縄の人は日焼けを避けて、夕暮れにTシャツを着て泳ぐ習慣があるらしい。
与那国島の居酒屋と焼酎
夕食は宿の主人に勧められた「女酋長」というお店へ。名前の由来は昔の族長イソバだろうか。
運よくカウンターに座れたが、後からどんどんお客さんが来店して大盛況だった。隣接する居酒屋「国境」も満員だったようで、自衛隊駐屯所建設の影響か島が活気づいているようだ。
島名物のカジキの刺身と、イカスミじゅーしーをいただいた。「じゅーしー」というのは沖縄の炊き込みご飯を指す。どんぶり一杯にこのボリュームのイカ墨はものすごい食べごたえだった。
アルコール度数60度の島名物、国境の酒「どなん」も置いてあった。43度の方は本土でもネット通販で購入できる。お土産としては、こちらの「クバ巻き」タイプが喜ばれそうだ。
居酒屋でマラソン大会のパンフレットを見つけた。島一周で25km、暑さだけでなく坂も多くてきついと思う。そういえばツーリング中にも練習中のランナーと何人かすれ違った。
腹ごなしに集落を歩いて浦野墓地まで出てみたが、さすがに怖くて引き返した。街灯はないが月が出ていて夜も明るい。
おじぃーの家、別館は網戸がないので窓から蚊が入ってくる。相談したら、ジャンボ蚊取り線香を20円で売ってもらえることになり、それでなんとか眠れた。母屋は下水が近いので、もっと蚊が多いらしい。
素泊まりで港の送迎、レンタサイクル込みの2,100円。蚊さえ気にしなければ、ご主人も親切でよい宿だったと思う。
与那国島の内陸部ツーリング
翌朝フェリー出港までに時間があったので、島の中心部も自転車で走ってみた。外周部だけでなく、内陸部も山がちで坂が多い。牧場が多く、のどかな景観を楽しめた。
最後はご主人に港まで送ってもらって、石垣島まで4時間の帰路についた。
与那国島の印象はビーチというより絶壁と奇岩。山と牧場だらけだった。観光的には海底遺跡が有名らしく、シュノーケルでも体験できるツアーがあるらしい。
せっかく最西端の島に来るなら、もう少し滞在日数を延ばしてレジャーを楽しんでもよかったかと思う。