トライアスロンのレース参加費は高い。しかも距離の長いレースになるほど費用はかさむ。毎年大会に参加することをもってトライアスリートと自認するなら、こればかりは避けようがない。
その一方で、機材にかけるお金や旅費は工夫すれば節約することができる。特に自転車は最大のコストファクター。TTバイクやエアロロードの広告は魅力的だが、パフォーマンス的にはそこまで必須というわけでもない。
バイクの改造にあまりお金をかけず、効率的にトライアスロンのタイムを縮める方法を考えてみたい。
TTバイクはいらない
タイムトライアル用でない普通のロードバイクでも、レースで十分活躍できる。最近出た大会では、フラットペダルに交換したエントリークラスのカーボンロードでもバイクパートで上位5%に入れた。
JTUのルールブック(第78・82条)では、「ドロップハンドルのロードレーサーが基本」とされている。レースによってはディスクホイールの使用も禁止。本格的なTTバイクはロングディスタンスでダメ押しのタイム向上を目指す、トップ選手向けの特殊機材という位置づけだ。
乗車時の前方投影面積を考えると、人体に比べてバイクの割合はごくわずか。高いお金を賭けてハンドルやフレームを扁平にするよりも、DHバーをアタッチした方が費用対効果は高い。
バイクは1台で使いまわす
エイジグルーパーでも、初心者のうちから1台目にTTバイクを買う人は少ないだろう。ミドルやロングを完走できるようになった頃に興味が出てきて、「ある程度経験を重ねた選手が2台目に買う」というイメージだ。
ブルホーンハンドルではヒルクライムやエンデューロに出られないし、2台持ちは保管場所もメンテのコストも余計にかかる。ただでさえトライアスロンは物が増えがちなので、せめてバイクは1台で済ませたい。
普段の練習で公道を走るのにTTバイクは扱いにくい。バイクを複数持っていても、ウェットスーツのようにレースのときしか出番がなくなるのは目に見えている。1台に絞るなら最近流行りのエアロロードが最適かもしれないが、普通のロードに比べると値段が高い。
エアロパーツの費用対効果
汎用性を持たせるなら、ドロップハンドルのロードをベースにコース距離に応じてTT装備を着脱するのがおすすめだ。これまで試した中で、コスパが高いと感じたパーツは以下の順番。
- サドルの後ろに取り付けるタイプのボトルケージ
- エアロヘルメット(ショートタイプ)
- エアロバー(ショートタイプ)
- ディープリムホイール(素材はアルミでOK)
エアロバーはどちらかというと空気抵抗削減より、肘を預けて上体を休ませるのが目的。短距離のレースなら重量も増えるのでいらないと思う。
よく言われるように、機材よりエンジン(身体能力)を鍛えた方が安上がり。コスパを考えれば機材にお金をかけるより、トレーニングする時間をお金で買った方が有益かもしれない。
重量はあまり関係ない
バイクのフレーム素材はアルミでもスチールでも構わない。レースで海沿いを走るので、「カーボンだと錆びにくそう」という程度。それでもボルトやニップルは金属なので、どうしても劣化が早まる。
平地走行が基本なため、車体の重量をそれほど気にしなくても済むのがこの競技の利点だ。パーツの重さは価格に直結するので、わずか数10グラムの軽量化を目指して細かい部分を改良する必要はない。
エアロバーは早まってDEDAのカーボンブラストを買ってしまったが、後から発売された安いメタルブラストで全然よかった。
正確に言えば、離島レースの外周道路は意外と起伏がある。さらには皆生のように、大山の途中までヒルクライムするコースもある。ただしレース中はエアロパーツや補給食・ボトルを満載して他が重くなるため、フレーム自体の重量差500gくらいは誤差の範囲だと思う。
フレームのジオメトリーに関して言えば、スプリントよりロングライド向けに設計されたものが向いている。デイブ・スコットが著作で力説しているように、トライアスロンはバイクの後にランが続く複合競技。トータルで考えると、「長時間乗っても疲れにくい」という特性の方が有利に働く。
例えばフラットペダルはビンディングに比べて、ペダルの踏み方を変えて足をほぐせるというメリットがある。おまけにランニングシューズのまま乗れば、トランジションの時間が少し短くなるという恩恵までついてくる。
前傾姿勢よりポジションの多様性
そう考えると、「ある程度は空気抵抗が増えてもアップライトな姿勢で乗った方がベター」という仮説も立てられる。平地・無風状態で巡航速度が40キロに達しないレベルなら、リラックスしたポジションでランに向けて体力温存した方が、総合タイムは縮まるかもしれない。
3種目を含めたパフォーマンスについて考えるのが、トライアスロンにおけるバイク改造の醍醐味だ。経験的にはいずれかのパートで突出するより、どの種目もそつなくこなした方が総合順位は上がる。これもまた「敗者のゲーム」なのだ。
ハンドルまわりのポジションの多さは疲労軽減に直結する。5時間以上に及ぶロングのバイクパートでは、なによりも「ずっと同じ姿勢でいる」ことがリスク。肩や腰など一部の個所に疲労が蓄積して、崩れたフォームで走ると痛みや炎症の原因になる。
「ポジションの多様性」という意味では、空気抵抗の少ないブルホーンよりドロップハンドルの方が適している。バーエンドコントローラーよりSTIレバーの方が、ギア変速の際のストレスも少ない。
極端な前傾姿勢は首が疲れるので、基本的にはブラケットを握ってスピードの出る区間だけ下ハンを握ればいいと思う。実際のところ、下り坂でDHバーを握って肩を狭めるのと、下ハンを握って深く前傾するのでは、速度があまり変わらなかった。
バイクの改造は趣味の世界
以上をまとめると、トライアスロンだからといって高価な機材が必要ということはない。ボトルケージやヘルメットといった地味なパーツの方が投資の優先度は高い。
どの大会のローカルルールを調べても、ドロップハンドルのロードバイクであれば問題なく出場できる。2万円台の格安バイクでもOKだし、中古ならもっと安く始められるだろう。
そうはいっても、バイクの改造には「趣味」という側面もある。せいぜい数十万の投資で、これほど楽しめるホビーは他にないかもしれない。磨き上げたバイクを肴に、徳之島の焼酎「鉄人」を嗜むのがトライアスリートの楽しみだ。
プロ用機材の魅力は、何といってもその研ぎ澄まされたルックスにある。価格はアルミ製のフレームセット(ARGON18・E-80)でも15万は下らない世界。投資額に対してパフォーマンスの向上はごくわずかだとしても、TTフレームやバトンホイールはやはり見た目がカッコいい。自分もいつか所有してみたいと思う。