先日の大田原マラソンで初めてサブスリーを達成して、気づいたノウハウをまとめてみたい。ランニングのプロではないので、トレーニングや栄養に関する理論的なところはわからない。あくまで個人的なTIPSや、「結果的にこっちの方がよかったかも」という主観的な感想が中心だ。
サブスリーを実現する5つの法則
大田原マラソンでブレイクスルーできた思う理由は以下の5点。個人的に重要だと思う順に説明してみよう。
- 渋滞の起こらない大会を選ぶ
- レース中にトイレに行かない
- 軽いシューズを履く
- 練習時間を確保する
- クロストレーニングを取り入れる
プロテインを飲む(オプション)
1. 渋滞の起こらない大会を選ぶ
大田原マラソンで速く走れた一番の理由はおそらくこれ。序盤の渋滞がなかったせいで、単純にタイムを縮められた。
東京マラソンや大阪マラソン。抽選倍率の高い人気レースでおなじみの光景は、スタート直後の大渋滞だ。何万人ものランナーが一斉スタートするので、前が詰まって足踏み状態になる。ひどいときは「折り返し前の20km地点までほとんど歩き」なんてレースもあった。
どの大会でも出走前は一応申告タイム順にブロック分けされて並ぶ。しかしグループごとにスタートする時間差が設けられているわけではない。コースの面積に対する人口密度が高すぎて、スタートラインを通り過ぎてからも団子になって走れない状態が続く。
幅の広い自動車専用道(西湘バイパス)を走る湘南国際マラソンでも、スタート直後の様子は変わらなかった。トライアスロンやロードレースに比べると、マラソンは参加人数が多すぎるのだと思う。
その中でも大田原マラソンは、「制限時間4時間」かつ「定員3,500人」という縛りが設けられた上級者向けのレース。先頭Aグループ末尾から出発して、ネット/グロスのタイム差はたった10秒。そしてスタートラインを過ぎてからの小競り合いもまったくなかった。
たったこれだけで、他の大会より5分はタイムが縮んだと思う。自己ベストをもう一押しアップさせる秘訣とは、精神論でも肉体論でもなく単に「勝てるレースを選ぶ」ということだった。
2. レース中にトイレに行かない
自分はもともと頻尿なうえ、レース前にアミノ酸ドリンクやエナジージェルをよく飲む。カフェインに利尿作用があると知りつつも、当日の朝はいつもどおりコーヒーが欠かせない。その結果、マラソンでもトライアスロンでもレース中に何回もトイレに駆け込む羽目になる。
人数の多い大会では、コース序盤に設置された仮設/公衆トイレにはたいてい行列ができている。列に並んで用を足すだけで数分間のロス。フルマラソンで合計3回もトイレに寄れば、10分は遅くなってしまう。
以前、青梅マラソンでもらった資料にネピアの失禁ケア用品の広告が出ているのを見て、思わず「これだ!」と膝をたたいた。超薄型シートでかさ張らず、さらに強力なホルダーパンツまで用意されている。おそらくランナー向けにも需要があると見越して、こんなところに出稿したのだろう。
「立小便即失格」の富士登山競走など、マナー違反に対して厳しいペナルティーが課されているレースもある。トイレ問題で悩んでいるランナーは、意外と多いのではなかろうか。3時間以上ある長い映画は、映画館で最後まで観られる自信がない。ましてや運動で血液循環の増えるランニング。普段の練習でもトイレ休憩は欠かせない。
大田原マラソンでは、レース中になぜか一度もトイレに行かずに済んだ。これまで10年参加したマラソン大会の中で、はじめての経験だ。いつもどおりレース前に水分は多めに摂取したし、預けて置いたスペシャルドリンクも途中で飲んだ。
走行時間が過去最短だったので、ぎりぎり我慢できただけかもしれない。ラップタイムやフォームに集中していたおかげで、トイレに行くのを忘れられた可能性もある。
逆に確実に言えるのは、「トイレを意識すると、ますますトイレに行きたくなる」という法則だ。「シロクマについて考えない」(するとかえって意識してしまう)という心理学の実験と同じ。似たような生理現象である「睡眠」に関して、「不眠を解決するには、眠りに対してこだわりをもたないこと」という意見もある(参考『必ず眠れるとっておきの秘訣! 』)。
トレランレースでも、途中の関門(トイレ)が近いとわかると急に催してくることがあった。脳内でトイレを意識すると、延髄橋排尿中枢が刺激されて反射的に準備が始まってしまうのだろう。
対策としては、走っている最中に「なるべく他のことを考えて気をまぎらわす」くらいしか思いつかない。たとえばターサージールのシューズに書かれている「虎走」を念じるなど。日頃から座禅や瞑想でもして、意識をコントロールできるように訓練するのも有益かもしれない。
3. 軽いシューズを履く
ランニングシューズは軽い方が足への負担が少ないのか、逆に重くてもクッション性がある方がレース終盤まで足が持つのか…
「つま先着地走法」の是非と同じく、ランニング業界で長年決着のつかない論争だ。シューズメーカーや雑誌の商業的な思惑もからんでくるので、消費者としては何を信じればいいのかわからず、ますます混乱する。
この10年、ソールの厚いクッション性重視のモデルから、逆にペラペラのベアフットシューズ、駅伝・サブスリーランナー推奨の軽量タイプまで、あらゆる種類の製品を試してきた。短いランナー経験を振り返って言えるのは、結果的に「軽いシューズで走った方がタイムは縮んだ」という事実だ。
2012年に3時間4分の自己最高記録を出せた大阪マラソンでは、NewtonのMV2というシリーズ中で最も軽いモデルを履いていた。
サブスリーを実現した大田原マラソンで履いていたのは、同じく軽量モデルのアシックス・ターサージール。しかもほとんど新品状態で、レース前にまったく履き慣らせていなかった(その代りソールの反発性はフレッシュ)。
アディゼロのCSやJapanを履いて出たレースでは、いまいちタイムが伸びなかった。最近導入したコンフォートタイプのブルックス・ラベナでも、マラソン本番はかえって遅くなってしまった。
厳密な比較検証は行っていないが、少なくとも実体験としては軽いシューズの方が結果を出せた。大型スポーツ店でマラソン目標タイム順にシューズが陳列されているのは、それなりに理由があるのだろう。
4. 練習時間を確保する
サブスリー達成前の3か月は、コンスタントに月間150~250kmくらい走れていた。さらに1か月前にはハセツネのトレラン大会を71km完走し、山で走る練習を続けていた。レース1週間前には、玉川上水の遊歩道を40km往復して体に刺激を入れた。
大会本番に向けて、ここまで計画的に追い込み・調整できたことはいまだかつてなかった。地道なトレーニングが素直に成果に結びついたと考えることもできる。
例外的に準備を整えられたのは、大会2か月前に会社を退職したためだ。その後もマラソン以外の予定を入れていなかったので、かつてないほどトレーニングに集中できた。仕事を辞めて自由時間が増えたことにより、練習に専念できてタイム短縮につながったと思う。
野口みずきの名言「走った距離は裏切らない」というのは本当だ。「マラソンのために実生活をリタイアする」というのは本末転倒だが、記録を伸ばすために練習時間を確保するのは大前提といえる。
5. クロストレーニングを取り入れる
マラソンを始めたころに無茶して膝を痛め、5年も休んでいた時期がある。そのブランクを経て、タイムが一気に2時間も縮んだ(2011年のつくばマラソンで3時間9分)のは自分でも謎だった。
あとから考えると、休養中にロードバイクやトライアスロンを始めたのがよかったような気もする。村上春樹がエッセイで書いている以下の内容に同感だ。
走ってばかりいては身体がいびつになるかもしれない。それよりはほかの競技を組み合わせて、もっと総合的な身体に作っていった方がいいんじゃないか
村上春樹 『走ることについて語るときに僕の語ること』
もともとランナーだった作家が40代後半になってタイムが落ちはじめ、ウルトラマラソンやトライアスロンに関心を持つようになったらしい。上記のくだりは「年齢による衰え」がテーマで、科学的な根拠にもとづいているわけではない。ただ実際のところ、多種目取り組むことによるクロストレーニングの効果は大きいと思う。
『アイアンマンのつくり方』というスポーツ科学の本によると、「スイム→ランは有効だが、バイク→ランのクロスオーバー効果はない」という研究成果が報告されている。
確かにバイクとランで使う筋肉は違う。そうでなければレースで2種目続けてこなせるわけがない。しかし少なくともスイムはランのパフォーマンスに影響する。ここ数年、膝の治療中でも水泳の練習ができていれば、そこまで体力は落ちないという実感が得られた。
大田原マラソンの直前に、ハセツネの練習で山を走っていたのもよかったと思う。トレイルは適度に起伏があって脚を鍛えられる。路面が柔らかいせいか、長距離走っても膝の痛みが出なかった。
昔は逆にランニングに特化して、ロードを月間300km走っていた時期もある。練習の達成感は得られたがレースのタイムは伸びず、かえって脚のケガにつながった。
クロストレーニングの具体的なメリットとしては、以下のようなものが考えられる。
- 体の特定個所に負荷が集中することによる疲労の蓄積・故障を避けられる
- バランスよく体幹を鍛えることにより、良いフォームを維持できる
- 種目を切り替えて練習すると、気分転換になり飽きない(集中力を維持できる)
デイブ・スコットがトライアスリートにウエイト・トレーニングを推奨しているように、ランナーにも少なくとも「筋トレ」はおすすめできる。
複数種目といっても、自宅でできる自重筋トレで十分。余裕があれば裏山を走ってみるくらいでも刺激は得られる。新しくロードバイクを買ったり、プールのあるジムに通うというのはその次のオプションだ。