トライアスリートの補給食事情~レース中の摂取方法と各製品レビュー

トライアスロンのレースに欠かせない栄養補給の戦略。特にミドル~ロングディスタンスの長丁場では、エネルギー管理が勝利の鍵を握る。

試行錯誤してたどり着いた補給食のセッティング例や、レース中の摂取方法について紹介してみたい。スポーツ羊羹やエナジージェルの定番製品以外に、最近開拓している自然食品系やポケットサイズの和菓子もレビューする。

レースで消費するカロリーは7,000kcal

『アイアンマンのつくり方』では、ロングのレース中に消費する総エネルギーを7,000kcalと仮定している(実際には体重やペースにより個人差がある)。そのうち体内に蓄えられた脂肪分とグリコーゲン、前日~レース直前の食事分を除くと、約3,000kcalはレース中に摂取が必要だと計算している。

羊羹やジェルを10個くらい食べた程度では3,000kcalに届かない。残りはエイドでもらえるパンやバナナ、スポーツドリンクやコーラなどの飲料分で間に合わせることになる。

バイクパートで意識的に栄養補給してきたおかげか、これまでのレースであからさまなハンガーノックに陥ったことはなかった(自転車のロングライドで補給を怠ると、たまにグロッキーになることはある)。

競技中のエネルギー切れは、パンクのような機材トラブルと同じ。リタイアを避けるため、補給食は多めに用意しておくに越したことはない。たとえ使わなかったとしても、トランジションの荷物に混ぜておくだけで安心材料になる。

ロングディスタンスの補給食例

下の写真はロングの宮古島大会で用意した補給食のリスト。10時間に及ぶレース本番で、ほぼすべて消費した。さらにエイドステーションで配られる食料・飲料も積極的に摂取した。

宮古島トライアスロンの補給食例

2014年の佐渡トライアスロンで使った食品はこちら。この頃はまだスポーツ羊羹が旧型のパッケージだった。味にメリハリをつけるのも兼ねて、いろいろな種類のジェルを模索していた時期。

佐渡トライアスロンの補給食例

食事のタイミングとしては、まず2回のトランジション中に着替えながらむしゃむしゃとやる。荷物に忍ばせておけば走行中に持ち歩かなくて済むので効率的だ。

ただし着替え時間は短いので、消化できるのはせいぜいジェル1個。アミノバイタルやザバス・ピットインなどの大物は、着替え中の心拍が落ち着いたタイミングで摂取する。

アマチュアレベルではトランジションの1分1秒を競うより、忘れ物がないよう念入りにチェックした方が無難だと思う。本当は菓子パン1個食べるくらいの余裕を持って、着替えた方がいいのかもしれない。

毎回そう思うのだが、レース本番でまわりの人がどんどん出発していくと、気持ちが焦ってしまう。たとえ30秒遅れたとしても、日焼け止めを塗り忘れたりする方がダメージは大きい。

バイクパートが主な食事時間

走行中、メインとなる補給タイムはバイクパート。スイム中は食べられないし、ランニング中も内臓が揺さぶられるので消化に悪い。自転車なら、慣れればペダルを漕ぎつつある程度の食事をとることができる。

ただし、おにぎりのような大型の固形物は、心拍数が高いとうまく咀嚼できないことがわかった。喉越しよく、つるっと飲み込めるタイプのジェルや羊羹は問題ない。少々歯ごたえのあるグミ程度なら噛んで食べられる。

バイクパートの主食はスポーツ羊羹。内容的には普通の羊羹より塩分高めなだけだが、袋をちぎれば片手で中身を押し出せるのが便利だ。普段の練習では、コンビニで売っているポケットサイズの安い羊羹で済ませている。

宮古島のレースでは、バイクで30km走るごとにスポーツ羊羹を1本ずつ摂取した。走行距離を目安に少しずつ食べると、胃に負担がかからずスタミナ切れを防げて、うっかり摂り忘れることもない。

カフェインは眠気覚ましだけでない

輸入品のshotzやHONEY STINGERは相対的に割高なので、ここぞというタイミングで気付けのために飲む。チョコレートやカプチーノ、高麗ニンジンといった変わった味付けがそろっており、眠気覚ましに最適なのだ。

ロングのレースは朝が早い。たいてい7時ごろ、日の出とともに海で泳ぎ始める。会場から遠くに宿をとると、移動時間も含めて朝3~4時起きになるのが通常だ。

前日の睡眠不足がたたり、バイクパートで眠くなることはよくある。時速30キロ近くで巡航するロードバイクに乗りながら、居眠り運転が危ないのは言うまでもない。

何度かヒヤッとした経験もあり、最近は補給食に眠気覚まし効果を求めるようになった。カフェインは利尿作用という弊害もあるが、覚醒効果だけでなく腸からの糖質吸収を促進したり、アスリートにはプラスの効果が多いといわれている(『アイアンマンのつくり方』第5章 カフェイン再考)。

その意味で、コーラは糖分も水分もカフェインも同時に摂取できる理想的なドリンクなのだ。炭酸が口の中をリフレッシュしてくれて、何となく気分もよくなる。体に悪いので普段は飲まないが、レース中はエイドでもらえるコーラをローテーションするように心がけている。

極小サイズのVESPA HYPER

高級すぎてトライアスロンでは使わないが、マラソン大会にはVESPA HYPERを投入する。ハチミツ由来の高価なサプリで、1本9gとごく少量なのに価格は600円。パッケージは弁当に付いてくるマヨネーズくらいのサイズしかない。

実はこの「小ささ」こそが他にない売りで、軽量薄手のランニング用パンツにも収めることができる。1枚持っているパタゴニアのショートパンツは、家の鍵を入れるための極小ポケットしか付いていない。カード類すら収めるのが厳しいキーポケットに入るのは、VESPA HYPERだけだ。

値段が高い分、相当濃縮されたエキスらしく、マラソン終盤で摂取するともりもりパワーが湧いてくる。トライアスロンのレースで何度も飲むのは贅沢だが、ここぞという場面で頼りになる高品質なサプリだ。

大手メーカー以外の格安ジェル

プロテインやアミノ酸の分野では、大手メーカー以外の格安品が出回りつつある。補給食もその例外でなく、アルペンのプライベートブランド、TIGRA(ティゴラ)から出ている安価なジェルを発見した。

TIGRAのエナジージェル

クエン酸やカフェインの含有量は控えめだが、基本的に中身は同じ。青リンゴやグループフルーツ味で、飲んでも変わった感じはしなかった。海外製品はもとより、ザバスやアミノバイタルより安く買えるのはうれしい。

近所にスポーツ・デポがあるせいで、公園のランニングコースやジムでTIGRAのウェアを着た人をよく見かける。他所でも売られているかは不明だが、TIGRAのサプリ進出は応援したい。

パッケージは少々大きめだが、ウィダーinゼリーと似た廉価品はイオン系のスーパーでも手に入る。値段は1個100円くらいだ。

ナチュラル系補給食、クリフバー

洋物の補給食は刺激的な味だが、人工的で体に悪そうな気がする。そこで最近は、なるべく天然由来の材料を使ったエナジーバーを食べるようにしている。

いろいろ試してよかったのが、クリフバーのシリーズ。そこそこ大きなスポーツ専門店でないと店頭で買えないのがネックだが、通販でも手に入る。

たまたまアウトドアショップのA&Fでクリフバーのセールをやっていたので、安価に大量購入することができた(普通に買うと結構高い)。

クリフバーの製品群

クリフバーのクリスプはナッツや穀類を練り固めたもので、見た目はコンビニで売っている「1本満足バー」に近い。ただし甘さは控えめで、滋養に満ちた食感がする。スニッカーズやキットカットのようなジャンクフードとは対極にあるプロダクトだ。

クリフバーが日本から撤退してしまったのは残念。長時間のレースに臨む際は、クリスプだけでも通販でまとめ買いしておきたい。

和菓子を見直す

VESPAやクリフバーに限らずとも、レース向けの補給食は値段が高い。スポーツ羊羹のようにたいして中身が変わらないなら、普及品で間に合わせられないかと思った。特に昔ながらの和菓子なら、添加物も少なく健康リスクを抑えられそうだ。

以下はトレランレースのハセツネに向けて用意した補給食の例。バックパックを背負うので、トライアスロンより多くの食料を運ぶことができる。

ハセツネの補給食例

あんぱん・どら焼き・カステラの3種は、アスリート向け補給食の定番だ。脂質が少なく、糖分とタンパク質は多めに摂取できる。羊羹ほどではないが、どら焼きの賞味期限はそこそこ長い。

すあま、ういろう、生八つ橋

どら焼きや羊羹ばかり食べていると、あんこの味に飽きてくる。もともと大福でも、中身のあんより外側の餅が好きな方。甘すぎない餅ベースの和菓子も開拓してみた。

コンビニではレアだが、大きめのスーパーでたいてい売っているのが「すあま」。中京圏で売られている、ひとくちタイプの「ういろう」も便利だ。

すあま

岐阜には「からすみ」という珍味のような名前の和菓子もある。ネーミングの由来は、単に見た目が「からすみ」に似ているからということらしい(何ともまぎらわしい)。

岐阜の名菓からすみ

羊羹ほど甘くなく、適度な弾力性・噛みごたえがあるこれらの和菓子は最近よく取り入れる。少々ニッキの香りがきついが、あんなしの皮だけ生八つ橋も使えるとわかった。

羊羹の性能が高すぎる

す甘や外郎は羊羹と似ているのに、賞味期限が短いのはネックだ。青柳総本家から発売された、アスリート向けに塩分強化されたういろうも気になるが、価格はやや高い(1個税込411円)。

放っておいても1年近く長持ちする羊羹の賞味期限は異常。そしてコンビニでも1個数十円で手に入るコスパと流通量にかなうものはない。アスリートでなくても、夕方からの頑張りに1本満足バーを食べるよりは、羊羹を食べた方が効率よいと思う。

最近はチョコレート味の羊羹という変わり種もある。モンベルのショップに並んでいて味見したが、何とも言えない味覚だった。確かにチョコ味なのだが、微妙に羊羹やあんこの風味も残っている不思議な食べ物。海外製ジェルのチョコ味よりは薄味に感じた。

最近はコンビニ羊羹より小さい、「かし原の塩羊かん」を常にかばんに忍ばせている。井村屋のスポーツ羊羹と同じ感覚で使えるのに、大袋で買うと値段はずっと安い。

塩分も多めなのでスポーツ羊羹の代わりになると思う。近所のスーパーで手に入るなら、常備しておきたいアイテムだ。