8月の週末に、東京から長野まで国道299号を1泊ツーリングしてみることにした。都心から秩父を通り、群馬の山奥を抜けて蓼科高原・メルヘン街道にいたる299号は「酷道」とも呼ばれる。途中にある十石峠の前後は、道幅も狭く荒れ果てた峠道だった。
標高2,127mの麦交差峠は、国道として渋峠に次ぐ国内2番目の高さを誇る。299号の下りは、200キロ近くの行程で3~4つの峠をはしごするハードなコース。さすがに時間がかかって最後は日が暮れてしまったが、かなり充実したトレーニングになった。
徐々にビルドアップする4峠
Stravaの標高図を見ると、299号の東京から長野に向かって4つの峠が順番に高くなっていく様子がわかる。190kmかけて、理想的なビルドアップ走を実現できるルートといえる。
相変わらずStravaの獲得高度は2倍くらいサバを読んでいる気がするが、各峠の標高はおおむね正しいようだ。
山伏峠~秩父
国道299号の始点からスタートするなら、入間市を出なければならない。しかし首都圏から正丸トンネルまでは車の交通量が多いので、青梅から山の中をショートカットすることにした。
名栗湖付近の県道53号沿いに山伏峠を越え、正丸峠はスキップして299号に合流。そこから先は秩父まで下りなので、路肩は狭くても不安が少ない。
秩父付近の補給スポットとしては、道の駅「果樹公園あしがくぼ」がある。秩父駅周辺もコンビニが充実。8月の暑い時期にロングライドするため、水分は多めに持ち運んで摂取した。
フレーム上のボトルケージに2本、バックパックのハイドレーションパックにも水を2リットル。アクエリアスの粉末を薄めに溶かしながら飲んだが、これだけの量でも足りなかった。途中の補給を含めると、1日で6リットルは水分を補給したといえる。
小鹿野町~志賀坂峠
今日の天気は快晴。昼前に秩父盆地に入ると、恐ろしいほど気温が上がってきた。山を越えて小鹿野(おがの)町に入ると、木陰もほとんどない一本道で激しく体力を消耗した。
以前、真夏に甲州街道を都心から塩尻まで走った際、甲府で38度の記録的猛暑に見舞われたことがある。ロードバイクで走ると風が当たるのでまだましだが、滝のように汗をかいて水分を消費する。
しばらく進むと、山の中に「新秩父開閉所」の巨大な鉄塔が見えた。八王子にある新多摩変電所に匹敵する規模だ。
山に入ってつづら折りを上り始めると、ようやく木陰が増えて一息つけた。秩父から約30km、灼熱の直線区間は峠道より体力的にきつかったといえる。そうこうするうちに、本日2番目のピーク、志賀坂峠に到着した。
上野村~十石峠
トンネルを通過して坂を下ると、恐竜王国中里の看板が出てくる。昭和60年に日本で初めて恐竜の足跡が発見された場所で、福井県の勝山と並ぶ恐竜のメッカ。化石発掘体験ができるので、休日は家族連れで賑わっていた。
「神流町恐竜センター」の前にも、恐竜の模型が3体並んでいる。
県道462号と合流するT字路を左折すると、久々に集落が見えてくる。
神流町の庁舎や旅館を通り過ぎてしばらく進むと、道の駅「上野」に到着。ここから十石峠までが299号の最難関区間なので、念入りに補給を済ませる。
このあたりの標高は500mほどあるはずだが、気温は35度。日なたではじっとしていられないほど蒸し暑い。
道の駅の数キロ先には「川の駅上野(上野村ふれあい館)」という建物があった。こちらは村営の観光施設で、設備的には道の駅より充実している。似たような名前の補給スポットが近接しているのは、それほどこの先のルートが過酷ということなのだろう。
県道124号との分岐を過ぎると、いよいよ十石峠への上りが始まる。ここから先、道幅が極端に狭くなり落石も増える。299号が「酷道」といわれるゆえんだ。
雰囲気としてはヤビツ峠の裏、宮ケ瀬湖側の道に近い。確かにこれを国道と呼ぶのは違和感がある。落石にさえ気をつければ自転車で走りやすいかと思ったが、こんな道にも関わらず車やバイクの往来が多い。
十石峠の前後30kmは、売店も自販機も存在しない。単調な山道だが、そこまできつい勾配が出てこないのはさいわい。せいぜい10%くらいの坂で、距離は長いが淡々と上ることができる。
まだ先は長いので、ところどころ休んで補給しながらピークを目指す。ほどなくして標高1,351mの十石峠に到着。展望台があったが、登る時間と体力が惜しいので観光はスキップした。
佐久穂町~麦草峠
十石峠から長野側の下りに入ると、道はずっとましになる。古谷ダムから佐久穂(さくほ)町までは、ほとんど直線の下り坂で、エアロバーを握りながら高速巡行できた。あっという間に国道141号に合流して、久々に現れたコンビニで休憩。
この時点で16時過ぎ。最後の麦草峠に上る頃には、日が暮れそうな予感がする。清水町の交差点を右折して、299号沿いのメルヘン街道が始まった。
序盤からややきつめの坂を上ると、標高900mの標識を見かけた。そこからピークまで100mごとに案内がある親切な峠道だった。
さらに高度を上げると周辺に別荘が増え、路肩に花も咲いて高原らしい雰囲気になってくる。時間が遅いからか車や観光バスは少なく、自転車で通る人も見かけなかった。今日の行程ですれ違ったロードバイクはたった3台。休日でも299号はサイクリストに人気がないらしい。
八千穂高原のスキー場付近で1,600mを超えると、ようやく気温が下がるのを実感できた。まわりは白樺の林で、リゾートの雰囲気も出てくる。同じ国道でも、途中で通り過ぎた群馬の岩山に比べると走っていて楽しい道だ。
メルヘン街道の勾配はせいぜい8%程度だが、ふもとから1,000mは上がるので道のりは長い。100mごとの距離表示でときどき休憩しながら進む。ようやく白駒池入口の駐車場にたどり着いたが、ここはまだ最高地点ではなかった。
さらに標高2,100mの標識を越えて、やっと麦草峠にたどり着いた。
麦草峠~蓼科高原
時刻は19時でもう日は沈んでいる。さすがにこの標高から峠を下ると風が冷たい。上着を羽織り、本格的に暗くならないうちにダッシュで坂を下りた。
念のためフロントライトは2本使ったが、蓼科側の路面もきれいで不安は感じない。茅野の夜景を見下ろしながら、別荘地を通り過ぎて20時前に予約していたユースホステルに到着した。
蓼科高原のユースはふもとまで下りきる途中にある。一泊して、明日はここから東京に向かって299号を戻る予定だ。
長野→東京の復路レポートはこちら。