マラソンやトライアスロンという持久系の競技において、タンパク質を積極的に摂取することは必要なのだろうか。体幹やバランス感覚を鍛えれば、けがの予防にはなるかもしれない。しかし不要な筋肉をつけて体が重くなると、パフォーマンス上はマイナスに思われる。
長年悩んできたプロテインの要否について、今のところの考えをまとめみてみたい。結論としてプロテインは、「競技に必須でないが、気分がよくなるなら摂取しても構わない嗜好品」というイメージだ。
今はリハビリ中でたいした運動もしていないので、プロテインもアミノ酸も飲んでいない。浮いたお金で、ナッツ類や甘酒など体によさそうな自然食品を試してみている。
これまで飲んで良かった気もするが、飲まなくても問題なかったように思う。効果が曖昧なのにコストがかかるのは確実なので、しばらくはプロテインを飲まないで過ごそうと考えている。
タンパク質の過剰摂取リスク
プロテインの必要性に疑問を持ったのは、錦織圭や浅田真央の栄養管理士をしていた細野恵美さんの『一流アスリートの食事』を読んだのがきっかけだ。
ザバスを販売している森永製菓の所属でありながら、本の中ではタンパク質よりむしろ糖質不足の懸念を訴えている。「糖質制限」についても、アスリート向けの栄養指導としては反対の立場。そしてタンパク質も過剰摂取のリスクの方が大きいとしている。
よく言われるように、タンパク質の必要量は体重1kgあたり「一般人で1g、アスリートで2g」。市民アスリートならその間の量に落ち着くだろう。
アミノ酸スコアはまちまちだが、ご飯にも小麦にもタンパク質は含まれている。今の日本人の食生活なら、普通の食事で十分な量のタンパク質は摂取できているというのが定説。その流れからすると、バリバリのアスリートでないのにプロテインを常用するのは過剰摂取の可能性が高い。
さすがに本では「プロテイン不要」とまで言われていない。ただし、タンパク質の摂りすぎは「肝臓や腎臓に負担をかける」とやんわり警告されている。使われないアミノ酸は肝臓が窒素に分解して、尿として腎臓から排出されるためだ。
疲労回復に有効な黄金比は「糖質3:タンパク質1」。パフォーマンス向上にはあくまでバランスが大事なのだろう。
プロテインを飲むなら疲労回復目的
個人的な経験を振り返ると、プロテインやアミノ酸を摂取していた時期の方がパフォーマンスはよかったように思う。初めてサブスリーを達成できたマラソン大会の前にも、コンスタントにプロテインを飲んでいた。
しかし記録を出せたのは他の要因も多く考えられるので、一概にサプリのおかげとは言い切れない。とことん鍛えてダメ押しでパワーアップしたいなら、プロテインやアミノ酸に投資しても損はないかな、という程度の感想だ。
日頃の練習で筋トレもするが、多少負荷を増やしても目に見えて筋肉が肥大することはない。ハードな有酸素運動をしている間、脂肪と一緒に筋肉も分解されてしまうからだろう。体重・体脂肪率・骨量など毎日測っていても、プロテインの有無で大きく変わることはなかった。
筋力強化でなく疲労回復という観点で考えると、ワークアウト後のアミノ酸摂取は意味があるのかもしれない。そう思ってウイダーのリカバリーパワーを飲んでいた時期もある。
上記の黄金比3:1で糖質とタンパク質がミックスされている製品。そしてBCAAの中で肝機能向上に効果があるといわれる、ロイシンが多めに配合されている。
実際の成果はともかく、気分的には飲んでいて効きそうな気はした。しかしウイダーは値段が高い。どのみち糖質は他の食品で多めに摂れるし、レース中は補給食で大量摂取する。
タンパク質補給が目的なら「3:1」比率にこだわらず、安いプロテインでも十分でないかと考えた。
通販の格安プロテインで十分
最近はネットの通販で安いプロテインが豊富に手に入る。バルクスポーツ、ボディウィング、アルプロンなど得体の知れないメーカーの製品をいろいろ試したが、中身は特に問題なかった。
成分表を見てもザバスやウイダー、DNSなどの高級品と大差ない。最安クラスの製品は基本的にプレーン・ナチュラルな味付けだが、牛乳に混ぜればおいしく飲める。合成甘味料や香料など、余計な添加物はない方が体によいだろう。
ホエイよりソイ(大豆)プロテインの方が若干安めだが、水に溶けにくい欠点がある。
普段は洗うのが面倒なシェイカーを使わず、牛乳と一緒にコップに入れてスプーンで混ぜるだけ。中途半端に固まった粉っぽい団子を食べるかたちになるが、お腹に収まれば成分は変わらない。
アミノ酸も当初はアミノバイタルをよく飲んでいたが、ドラッグストアやスーパーで売られている廉価製品に切り替えた。味の素の製品に比べると、安いアミノ酸はおいしくない。しかし水で一気に流し込めば、まずくて飲めないということはない。
有名ブランドの高いプロテイン・アミノ酸を飲んだからといって、パフォーマンスが大きく変わることはない。中身が変わらないなら、値段の違いは主に広告宣伝費だろう。
長く売られて飲まれている(不測のリスクが少ない)という安心感はあるが、製造工程の信頼性など今は大手でも変わらないと思う。
格安プロテインは新薬(先発医薬品)に対するジェネリック医薬品のようなイメージだ。金額に対してそこまでのメリットを感じられないなら、安い方を選んで問題ないだろう。
入院中の食事でも筋肉はつく
筋トレして筋肉を増やしても、走ればあっさりエネルギーとして分解される。
そう考えると、持久系競技ならタンパク質より糖分を多めに摂取した方が有意義なのではなかろうか。炭水化物を摂るなら、廉価な主食を多めに食べればいいだけの話だ。
膝の手術で入院中、片足だけ使って毎日ベッドで1,000回腕立て伏せしていたら、2週間後にはかつてないほど大胸筋がパンプアップした。松葉杖による上半身の筋トレ効果もあったと思う。
もちろんその間プロテインは飲まず、病院の通常食を3食摂っていただけだ(お腹が空くので、ご飯の量だけ2倍にしてもらった)。
入院中に出てくる食事は理想的な栄養バランスで、特にタンパク質だけ多いということはない。強いていえば、塩分が控えめすぎて味噌汁が味気ない(漬物も出てこない)くらいだ。
それでもトレーニングで筋肉が肥大したことを考えると、日常の食事でタンパク質は十分摂れるという説にも真実味が出てくる。2倍多く食べた白米に、筋力増強作用があったのかもしれない。
プロテインはお金のかかる嗜好品
毎月プロテインを買うお金で、バイクのパーツがいくつも買える。プロテインのメリットは半信半疑だが、確実に存在するデメリットはそのコストだ。
結局のところ、趣味レベルでスポーツを楽しむ市民アスリートにとって、プロテインとは偽薬に過ぎない気がする。費用がかさむわりに、飲んだからといって筋肉ムキムキになれるわけではない。ダメージ修復や疲労回復の効果もあいまいだ。
その一方で、プラシーボとしてでも作用があるなら有益とみなすこともできる。結果にコミットしてくれるなら、ミロでも青汁でも何でもいい。
映画『レオン』のように、毎日牛乳を飲んで腹筋していれば十分なのかもしれない。そう思って最近はプロテインを摂らない代わりに、低脂肪牛乳をよく飲むようになった。
強いてメリットを挙げれば、科学的に味付けされたプロテインは実においしい。
プレーンタイプでも、ほのかな甘みが癖になる。バルクスポーツの「ストロベリーショートケーキ味」や「アーモンドチョコレート味」などは、もはや中毒的。運動してもいないのに、ついついおやつで飲んでしまう。
プロテインには「嗜好品」という要素もある。わざわざスポーツクラブに通って筋トレするように、趣味として楽しむのは個人の自由だ。
飲むか飲まないかは個人の趣味
世の中には、完全菜食主義(ヴィーガン)を貫くマラソンランナーやトライアスリートも存在する。
タンパク質源としてナッツや豆腐を食べるだけでも、プロとして十分通用するという証拠だ。スコット・ジュレクの本『EAT&RUN 100マイルを走る僕の旅』には、具体的なレシピも掲載されている。
そもそもアスリート向けの栄養理論には流行がある。最近の糖質制限やグルテンフリーというのは怪しげな類だと思うが、実践して見事に痩せた知り合いもいる。プラグマティックに効果が出るのなら、やってみる価値はあると思う。
結局のところ、どういう食生活を選ぶかは個人の好みと生活習慣によるのだろう。自分にとっては食費と調理法(経済的・時間的コスト)というのが無視できないファクター。劇的な有効性を証明する科学的エビデンスが出ないかぎり、しばらくプロテインを飲むことはないと思う。