栃木県で開催される、大田原(おおたわら)マラソンに参加してみた。厳しい制限時間と、スペシャルドリンクの預託が許されためずらしいレースだ。
比較的参加者も少なく、まわりの走行ペースも速いため、序盤の渋滞なしでスムーズに走ることができた。本番では強風に悩まされたが、4年ぶりに自己ベストを更新して初のサブスリー。
11月の栃木の風は冷たいが、記録更新を目指すランナーにはおすすめのストイックなマラソン大会だった。預けるドリンクの容器に工夫が必要なので、これから出る人には参考にしていただければと思う。
制限時間4時間のマラソン大会
大田原マラソンは市民レースにしてはめずらしく「4時間」というタイトな制限時間が設けられている。地域おこしのイベントというより、シリアスランナー向けの記録会という趣だ。ほかにも以下のような独自ルールが設定されている。
- 自作のスペシャルドリンクを最大7か所に設置可能(規定に従えばジェル類もOK)
- 水・スポーツドリンクのエイドはあるが、食べ物はなし
- 仮装禁止
最低でもサブ4狙いのランナーが対象なので、全体のペースが速い。すなわち大規模なマラソン大会で恒例の渋滞緩和が期待できる。最近出た湘南国際や板橋Cityマラソンでも、序盤の渋滞で5分以上ロスしたと思う。参加者が多いと、途中の仮設トイレも混むのが悩みだ。
コース全体の高低差も100m程度で、ほぼフラットといえる。少なくとも東京マラソンや大阪マラソンのように、湾岸の埋立地に続く陸橋のような急坂はない。
4年前に大阪マラソンで3時間4分のタイムを出せてから、長らく自己ベストを更新できていなかった。サブスリーまでのあと5分がなかなか縮められず、毎回悔しい思いをしている。
さすがに安定して4時間以内に完走できるようにはなってきたので、思い切って大田原にエントリーしてみた。制限時間と高低差の条件を見る限り、自己ベストを狙うには絶好のレースだ。
パインズ温泉ホテル大田原に前泊
東京から栃木の会場まで、当日早朝に新幹線で向かうという選択肢もある。今回は一緒に参加する知人の車に同乗させていただいた。
宿泊したのは会場から2.5km離れたパインズ温泉ホテル大田原。朝食はご飯とパンがお代わり自由だった。
さらに宿泊者は300円で併設の25mプールを利用できる。カーボローディングに加えてスイム練習までできるため、トライアスリートにおすすめの宿だ。いちおう水着は持ってきたが、さすがにレース前日に泳ぐのは無謀かと思い、使うことはなかった。
受付~荷物預け~マッサージ
レース当日の朝は、市内各所の宿をシャトルバスが巡回して参加者をピックアップしてくれる。離島のトライアスロン大会と同じで親切なサービスだ。7:40に宿を出て8時には会場に到着して、10時の出走まで余裕をもって準備することができた。
受付会場の栃木県立県北体育館にロッカーとシャワールームがある。8時台はまだロッカーの空きも多く、施錠して荷物を預けられるのがうれしい。ロッカーの鍵と財布は貴重品置き場で預かってもらえる。
万が一ロッカーが満杯でも、体育館の中にも荷物置き場が用意されている。大田原はフルマラソンと10kmの部を合わせても参加者は5,000名程度なので、会場のキャパに余裕はあるようだ。更衣室やトイレもそこまで混んでいなかった。
更衣室の脇に無料のマッサージコーナーがあり、8時台なら行列は数名程度だった。
レース後のマッサージは13時台前半なら待ち時間なし、14時以降はおおむね30分待ちという状況。簡易的な鍼治療も受けられ、走った後の疲労回復に役立った。
今回は引っ越しの関係で、事前に郵送されるナンバーカードを受け取りそこねてしまった。レース前日に気づいて事務局に確認したが、そちらにも返送されていないようで焦った。
さいわい当日朝に計測チップとゼッケンは再発行してもらえた。手数料が千円かかるが、うっかり忘れても出走できるのはありがたいサービスだ。
スペシャルドリンクのテクニック
大田原マラソンの特徴として、手持ちのスペシャルドリンクを特定地点に預けられる制度がある。補給ポイントは9.5km、14.7km、19.1km、24.2km、28km、34.3km、37.7kmの合計7か所。
預けるドリンクは、缶・ビン・パウチ以外のペットボトルやプラスチック容器なら何でもよいとのことだった。中身に関する規定はなく、コーラでもVAAMでも好きな飲料をセットできるのがうれしい。
さらに裏技として「ボトルが自立できる」という条件を守れば、固形物を添付してもOKとわかった。容器の側面にスポーツ羊羹やパウチタイプのジェルをテープで貼りつければよい。
参加者の預託物を見ると、100均で売っている調味料ボトルに派手な飾りを付けているものが多かった。ゼッケン番号に加えて自分のドリンクをわかりやすくする工夫だろう。ただし本番では強風でボトルが吹き飛ばされるハプニングが続出したので、装飾が大きすぎるのも考え物だ。
少量ずつ分散して、複数のエイドに預けるという戦略も見て取れる。確かに500mlのペットボトルでは一気に飲み干すことができず、走行中は邪魔になってしまう。
季節風「那須おろし」の強風対策
初参加の大田原マラソンでは、「那須おろし」と呼ばれる北西の強風に悩まされた。後ほど気象庁の記録を見ると、レース中は常時7m/s以上、12時台のピークで8.8m/sもの風速があった。
市内を大きく一周するコースなので、箒川に沿って南西に下る前半パートは強烈な追い風。23.7km地点のライスセンターを左折してから後半パートは上り基調で向かい風、というかたちになった。
那須おろしは季節風でなので、毎年似たような状況なのだろう。スタート時点で、折り返しコースにつきものの「行きはよいよい帰りはつらい」というレース展開が予測できた。
今回は自己ベスト狙いなので、脚力を温存して全力を出し切れなければ後で悔しい思いをする。後半の向かい風・上り坂で失速するのは覚悟の上、序盤からできるだけ飛ばそうと考えた。
寒すぎてトラックに出られない
出走30分前に競技場のトラックに整列しようとしたが、あまりの寒さで建物裏に避難している人が多かった。11月にも関わらず、短パン・ランニングシャツで軽装のランナーが多い。少しでも風の弱まるスポットで暖を取ろうと、あちこちに人間の吹きだまりができていた。
スタート10分前になるとアナウンスがあり、さすがに列に加わることになった。今回は2:58の目標タイムを申告したので、先頭のAグループに入れてもらえた。
まわりの人の足元を見ると、シューズのブランドはアシックスとアディダスが大半。中でもtakumiとターサージールは大人気だった。自分は型落ちの4を履いてきたが、中には2、3という古い型番の人もいて、決戦用に長持ちさせているのだろう。
前半は追い風、下り坂
10時のスタート後、Aグループ最後尾ですぐにゲートを通過でき、レース後のグロスとネットのタイム差はわずか10秒だった。
陸上競技場のトラックを2/3周してから公道に出る。Aグループは序盤からキロ4分という速いペースで、側道に出て追い抜いたり後ろから蹴られたりするようなバトルもなかった。
美原公園の西側に出ると、予想通り強い追い風になった。途中でミズノランニングクラブの3時間ペースセッターに追いついたが、序盤でタイムを稼ぎたかったのでパスして先に進んだ。
実取の交差点を左折してライスラインに入ると、さらに追い風が強まった。米街道と呼ばれるだけあって、一面に水田が広がり風を遮るものはない。
自転車ほどではないが、走っていても風の影響は大きいと感じた。前半は下り坂でもあるので、ハイペースで飛ばして10km、15kmのチェックポイントはそれぞれ19分台前半のラップタイムで通過できた。
「JAなすの花園倉庫」を右折して、いったん箒川を渡るところに局所的な坂がある。福原小学校を左折するまでの上りがきつかったが、まわりのAグループ選手はほとんど減速しないので何とか踏ん張った。
箒川を渡り直した先は方角的に向かい風に変わり、後半戦の苦労が思いやられる。折り返し後はまた追い風に戻り、中間地点を超えた「JAなすの湯津上ライスセンター」(23.7km)までは快調に走れた。
後半は向かい風、上り坂
佐良土小学校を通り過ぎて、国道294号をアンダーパスしたあたりから逆風・上り坂がきつくなる。25kmから30km地点までは真北に向かい、次の35km地点までは北西に進む、ほぼずっと向かい風の状況だった。
強風でゼッケンをはためかせながら、少しでも風の抵抗を弱めようと、前の人の後ろに回り込む。市民マラソンではロードバイクのように集団でローテーションするカルチャーもないので、前走者が疲れて減速したら追い抜き、自分のペースが下がったらまた追い抜かれるという繰り返し。
前方の大集団からちぎれた人たちが、2~3人でトレインを組みつつ集団への復帰を狙う。マラソンなのに、まるでロードレースのような駆け引きが展開された。
28km地点で預けておいたスペシャルドリンクを無事に受け取れた。ドリンクはゼッケン順に、10個くらいずつ分けてテーブルにセットされており、迷うことなく発見できた。
30km地点までは向かい風が強すぎて顔がこわばり、エイドでもらった水もうまく飲めないほど。5kmごとのラップタイムも21~22分台と大きく遅れ、予想通り前半の貯金を取り崩すレース展開になった。
35kmから街中に入って進行方向は南西に変わったが、向かい風はおさらまない。道の駅を超えた先、保健センター前の坂道で、足がつって路肩で休むランナーを数人みかけた。
ようやく競技場に戻ってトラックを一周。
最後まで逆風でスパートする気力もなかったが、よろよろとフィニッシュラインを越えて、おそらくサブスリーを達成できた。
ゴール後のお楽しみは、なめこ汁
ゴール後にお土産のアンパン、ジュース、Tシャツを受け取り、屋台で無料のなめこ汁をいただいた。レース後の栄養補給としては微妙なメニューだが、あまりの寒さになめこも大人気。14時を過ぎると100人以上の行列ができていた。
速報のリザルトを受け取ると、タイムは無事2時間台。大田原では5kmごとのラップタイムも教えてもらえるのがうれしい。
最後の35~40km区間は23分台まで遅れて際どい状況だったが、前半の貯金でなんとか目標クリアできた。