膝のリハビリにノルディックウォーキング導入。2か月続けた感想

変形性膝関節症(AO)と宣告されてしまったので、趣味のランニングはもうできないのかと悩んでいる。

リハビリが進めばまた走れるようになると思うが、2年前はそうしてまた手術を受ける羽目になった。再手術で前回の半月板縫合がほどけていた状況からすると、もう無理はしない方がよいのだろう。あとはかろうじて残った外周部の組織を、老後まで温存していくだけだ。

ウォーキング以上ジョギング未満の運動として、ノルディックウォーキングがあることを思いついた。ポールを買って2か月続けてみた感想をレポートしようと思う。

ランニングをやめると不調

ここ10年くらい毎日のように走っていた人間が、急にランニングをやめると体調が悪くなる。自転車や水泳でも有酸素運動はできるし、筋トレも続けているので体型や体重は変わらない。しかし、走って汗をかかないと皮膚の汗腺が詰まって息苦しい気がする。

発汗による毒素の排出(デトックス効果)は、ほとんど意味がないと最近の学説でいわれている。しかし走ることで全身をほぐせたり、外の景色を見て癒されたり、脳内物質が出て気分がよくなったりと、プラスの効果はいろいろ想定される。

フルマラソンのように長時間負荷をかけるのは膝に厳しいと、リハビリの先生から釘を刺されている。キロ4分のハイペースで短距離走ることもできると思うが、確実に膝が腫れるだろう。一方で運動療法という観点からは、適度に歩いたり走ったりして膝を使うのはAOの進行防止につながるといわれる。

再び走るのは不安だが、歩くのは問題ないだろう。1日1万歩など節度を保ってエクササイズすれば、筋肉が維持できて膝にはプラスになるはず。そして散歩とジョギングの中間的な運動として、ノルディックウォーキングがあるのを思い出した。

ノルディックウォーキングの利点

昔、アウトドア系のイベントで一度だけノルディックウォーキングを体験したことがある。レンタルしたポールを持って舗装路を数キロ歩いただけだが、上半身にも刺激が得られておもしろい気がした。

あらためて調べてみると、ポールをつくことにより通常のウォーキングより20%ほどエネルギー消費が高まるらしい。確かにやってみると、速足で歩くより息が上がって汗ばんでくる。

体の動かし方としては、ジョギングよりジムにあるクロストレーナーというマシンに近い。ノルディックウォーキングもクロスカントリーの夏季用トレーニングから始まったので、ルーツは同じなのだろう。

そしてうれしいのは、ポールを使うことで膝にかかる負荷を減らせるということだ。具体的な効果としては、足腰の負担が40%減るとか5kg軽減されるとか、さまざまにいわれている。実際はフォームや歩行ペースによると思うが、杖に体重を載せる分、膝の負担が弱まるのは間違いない。

膝疾患のリハビリ・トレーニングとして、ノルディックウォーキングは

  • 運動強度の向上
  • 膝の負担低下

という一石二鳥の効果があるように思われる。

ポールウォーキング=ディフェンシブ

ノルディックウォーキングと似て非なるものとして、「ポールウォーキング」という運動法も提案されている。同じくポールを使って歩く方法だが、杖を突く位置がノルディックより前方になる。ディフェンシブスタイルのウォーキングとも呼ばれる。

ノルディックの通常形である「アグレッシブスタイル」に比べると、ディフェンシブというだけあって運動強度は弱め。主に高齢者やリハビリ向けのフォームといわれる。負荷は低いが、歩行時の安定感は増す。

ポールを後ろに突くアグレッシブなフォームだと、推進力が得られて歩幅が広くなる。すると杖なしで歩く場合より、かえって膝への負担は増してしまう感じがする。

術後1か月経って松葉杖が取れたあとは、ディフェンシブスタイルから始めてみた。同じ杖を使った運動でも、体の前(踏み出した足の横側)に突いた方が体重分散効果は高まる。

リハビリが進むにつれアグレッシブへ

「膝の負荷を減らす」という目的では、ディフェンシブの方が合っている。意識してポールに荷重を乗せると、体重計の実測値で片側最大5kgは分担できた。その分、膝への荷重は減っているはずだ。

トレッキングポールに加える荷重

その後1か月はディフェンシブスタイルでリハビリを続け、慣れてきたら徐々に杖を後ろに突くようにした。ポールで後ろに蹴り出す分だけスピードと歩幅は増す。また体をひねる動きが加わるので、上半身の運動強度も高まる。

リハビリ~エクササイズの目的に応じて、ディフェンシブとアグレッシブの中間的なフォームを取ればいいと思う。厳密にいうと歩行スタイルによってポールの先端ゴム形状が異なるのだが、合ってなくてもそこまで違いは出ない。

DABADAのストック

試しに購入したのは、DABADAという格安ブランドのポール。トレッキング用とノルディック用のラバーキャップが付いて来るので、両者を付け替えて使い心地を比べることができた。

2か月続けた感想

ここ2か月ほど、毎日30分~1時間くらいノルディックウォーキングを続けてきた。夕方の涼しい時間帯なら軽く汗ばむ程度の運動量で、今のところ膝が腫れたりする症状も出ていない。

これまでもリハビリの過程でウォーキングは取り入れてきたが、杖を使うとより意識的に「トレーニングしている」という実感が高まる。上半身の筋肉を使えて血行がよくなるというのも、ノルディックの利点としてうたわれているとおりだ。

普通に歩くよりも姿勢がよくなるので、猫背や頚椎症の改善にも効果がありそうだ。体感的にはまさに歩行禅。背筋を伸ばして呼吸や歩幅に意識を集中する感じになる。ソールの薄いベアフットサンダルを履けば、さらに路面の凹凸も感じられて五感を刺激することができる。

ランニングから(ノルディック)ウォーキングに切り替えるというのは、まるでロードバイクから小径車に乗り換えるような感覚だ。低速で移動することで、まわりの風景を見る余裕もできる。ストイックなトレーニングというよりも、外に出てリフレッシュする楽しいイベントのように思われてくる。

ポールを使う場所を選ぶ

普段は車の来ない河川敷の遊歩道を歩いているが、そのまま街中に繰り出すこともできる。ただし運動強度が増える分、余計に汗をかくことになるので、夏場の買物などには向かない。

また混雑する駅前をノルディックウォーキングしていると、やや場違いに感じる。介護・福祉用の杖に比べると身振りも大げさなので、繁華街や施設内ではポールの使用を控えた方がよい。普通に歩いている人にとっては、ランナーと同じかそれ以上に迷惑だと思う。

購入したDABADAのポールは分解収納できるので、バックパックに収納して持ち歩くことも可能だ。いずれ膝が回復したら、トレッキングポールとして山道でも試してみたい。

マラソン大会で杖は使用不可

ノルディック/トレッキングポールは歩行の補助というより、意識的なトレーニングになり余計に疲れてしまう側面がある。普通に旅行するなら杖なしの方が身軽で疲れず、行動範囲は広がる。

その意味でノルディックウォーキングとは、あくまで自宅近くで行う日常的なエクササイズ。わざわざ旅先にポールを持ち込んで実践する意味はない。

しかし、意図的にコースを決めて長距離ウォーキングしてみるのは楽しそうだ。訓練すれば、フルマラソンの距離をノルディックウォーキングすることもできそうな気がする。

するとマラソンやトライアスロンの大会で杖を使用するのはありなのだろうか。レース中にノルディックウォーキングしている人は、実際一度も見たことがないのだが。

ルールを調べてみると、マラソン大会では装具の使用と伴走者はOKだが、杖は他の人の迷惑になるので禁止されているところが多い。確かに序盤の混雑で両手にポールを持っている人がいたら、邪魔で仕方ないだろう。

トライアスロンでも厳しいか…

トライアスロンについては、いつもどおりJTUのルールブックを紐解いてみた。第9章のランニングに関して、杖やポールの使用は明確に禁止されていない。

ただし競技の公平さというよりも、他のランナーの安全性という道義的観点から、使用は難しそうな気がする。最後のランパートは他のマラソン大会ほど人が密集しないとはいえ、隣でガシガシ杖を突いている人がいたらちょっと怖い。

また、パラトライアスロンのスイム規則(4.11)で「フィンやパドルなど人工的な推進器具や浮力器具は禁止する」と書かれている。ノルディックウォーキングのアグレッシブスタイルだと杖から推進力を得ることになる。同じ理由で、ランニング(ウォーキング)でのポール使用もずるいのでダメと言われそうな気がする。

一方で、第116条の2に「危険回避や体調保全のために歩行すること、一休みすることができる」とあるので、杖を使わないウォーキング自体はOKだろう。実際レース中に疲れて歩いていても、審判に注意された経験はない(怒られたら鬼だ)。

すると「トライアスロンのランパートを歩いて完走する」というアイデアにはまだ可能性が残されている。しかし、膝の負担をやわらげるためにノルディックウォーキングを取り入れるというは、公平さ・安全性の観点からおそらく難しいと考えられる。

JTUのおもしろルール

余談だがJTU規則のランニングについて、ちょっとおもしろい条項を発見した。

  • 這って前進することは禁止する。
  • バイクヘルメットを着用して走ることは禁止する。

(JTU競技規則 第116条より抜粋)

ゴール直前で足が痙攣したりして「這ってでもゴールする」という美談はよく聞く。しかし実際は残念ながら、地面を這った時点で失格らしい。レース中に「ちょっと疲れたから這おうか」というのも、ペナルティーを受けるおそれがある。

ヘルメットをかぶって走るのは安全性が高まりそうだし、競技上もハンデにしかならない。あえて禁止されているのは、仮装とみなされるためだろうか。うっかりトランジションでヘルメットを脱ぎ忘れて走り出してしまう人もいそうだが、ルール違反なので気をつけよう。