DAHON K3へのバーエンドバー取り付け位置を検討するうちに、ひとつ気づいたことがある。
トライアスロンで使うエアロバーは、必ずしもベストなソリューションではないかもしれない。
空気抵抗を減らせるので高速域では速度が向上するが、どうしても上半身が窮屈な姿勢になる。
「スピードアップと身体疲労のトレードオフ」を考えると、アマチュアレベルでは普通にドロップハンドルを握った方が有利な気がしないでもない。
エアロバーに対する疑問
一般的に考えられているエアロバー/DHバーのメリットとは、肩を狭めて前傾姿勢をとれること。前方投影面積=空気抵抗を減らせるという利点が挙げられる。
また付属のパッドに手首や肘を乗せて、上半身を休められるという効果も期待できる。
エアロな前傾姿勢は苦しい
しかし体を縮めたエアロポジションは呼吸が苦しい。
瞬間的にトップスピードが伸びる反面、体の負担は増える。まるで半分呼吸を止めて、ダッシュしているような感じになる。自転車に乗っているのに無酸素運動に近くなる。
姿勢を前傾させても前を見なければ危ないので、不自然に頭を反らせた状態を長時間保つことになる。
ストレートネックの逆で首の後ろ側が圧迫されるため、頚椎性の神経根症や脊髄症になりやすい。無理なエアロポジションは首がヘルニアになるリスクがある。
諸々のデメリットを考えると、リラックスした乗車姿勢の方が身体的なパフォーマンスは上げられる。長時間で多種目をこなすトライアスロン競技においては、体の疲労や痛みを減らした方が総合タイムも縮まるのではないだろうか。
ハンドル幅は広い方が呼吸に有利。姿勢も起こした方が視界良好で首も痛まない。
どちらも空気抵抗は増えることになる。しかしバイクのタイムは落として疲労を減らし、次のランパートで挽回するという戦略もありえる。
パッドで手首や肘が痛くなる
所有しているデダのカーボンブラストはショートリーチのため、手首の下側をパッドに乗せるかたちになる。
ここは人体の構造的に荷重を支える仕組みになっていないので、長時間体重を預けていると痛みが出る。ロングディスタンスのレースで6時間もバイクに乗っていると、あとから手首が腫れることもある。
エアロバーの代わりにドロップハンドルの各部分を持ち替えれば、ポジションをローテーションできる。ブルホーンに比べたドロップハンドルの空気抵抗増など、体の面積に比べれば微々たるものだ。
疲労の蓄積は防ぐには楽な姿勢を追求するよりも、適宜ポジションを変えて身体負荷を分散させる方が効果的ではないだろうか。そう考えるとブルホーン+エアロバーの組み合わせよりも、ドロップハンドルの方が取れるポジションが増えて有利といえる。
DHバーの出番は少ない
とっさにブレーキをかけられないので、公道上の練習では長時間姿勢を保つのは難しい。エアロバーはレースや山道以外で、ほとんど出番のない飛び道具といえる。
車体前方に余計な出っ張りができるので、輪行や宅急便でバイクを送る際にもバーが邪魔になる。セミエアロのショートタイプならそのままバッグに収まるが、標準的な長さなら丸ごと外さないと輸送できないだろう。
年に何度もレースに出ていると、大会前後にエアロバーを調整するのが一苦労。普段の練習でつけっ放しにしていても、握れるチャンスは少ない。
特に峠を走る際は、上りも下りもエアロバーが役に立つ場面はない。単なる飾り、もしくは負荷を増すための重りでしかない。
エルゴノミックキーボードの例
エアロ仕様のロードバイクからK3に乗り換えると、まるで左右分離型のエルゴノミックキーボードを使うように体をリラックスできた。
自転車のフラットバーハンドルと、パソコンのキーボードを打つ姿勢は似ている。そしてキーボードの場合は、腕をハの字に開くと身体に負担がかからないことが知られている。
同じように自転車のハンドルも、自然なかたちで握れるブルホーンやドロップ型の方が有利だろう。K3に長時間乗っていて腕が疲れるのは、グリップがしょぼいだけでなく、フラットバーであるせいとも考えられる。
分離型のエルゴノミックキーボードは机の上で場所を取り、収納もかさばるというデメリットがある。ブルホーンやドロップハンドルも輪行で分解して運ぶ際は邪魔になる。
折りたたみを前提にしたミニベロのダホンK3に、フラットバーが向いているのは当然のこと。収納性を犠牲にせずに、どこまでハンドルまわりを快適にできるかが課題といえる。
エアロバーは逆効果?
超高速で走り続けるプロの世界では、身体面のデメリットより速度向上が優先されるかもしれない。
その一方でアマチュアレベルならポジションの快適さを追求した方が疲れにくく、全体的なパフォーマンスは上がりそうな気もする。特にトライアスロンのレースでは、バイク後のランパートに向けて体力温存するのも重要だ。
もしかすると一般ユーザーにとってのエアロバーとはビンディングペダルのような装飾品、あるいは一種のコスプレグッズにすぎないのかもしれない。
せいぜい誤差の範囲のスピードアップを実現するために、乗り心地や安全性を大きく損なっている可能性がある。
フラットペダルの経験談
先日出場したトライアスロンのレースでは、ビンディングからフラットペダルに換えても好タイム出せた。ついでにエアロバーも外してしまった方が姿勢が楽になり、かえってプラスになるかもしれない。
不要なバーを外せば車体が軽くなるので登坂にも有利。そもそも上り坂でDHバーは使わない。そして国内のトライアスロン大会では、海岸を走っていても想像以上にアップダウンがある。
パーツメーカーが次々打ち出してくる新技術は、決して万人向けとは限らない。見た目のカッコよさからプロ用機材に憧れる気持ちはあるが、自分の実力で投資に見合う効果が得られるかはまた別の問題だ。
もしたいていのライダーにとってエアロバーが逆効果だったとしても、自転車業界にとっては不都合な真実。あえて研究しないだろうし、メディアが宣伝するメリットもない。
このあたりは自分の体を使って検証してみるしかない。身体能力や体の柔軟性によって、向き不向きは変わってくると思う。自分は体がものすごく固いので、極端なエアロポジションは向いていないのかもしれない。