14インチのミニベロ、DAHON K3のカスタムを検討中。
軽量化と走行性能を突き詰めることに加えて、小径車は「いかに収納性を損なわずに改良できるか」がポイント。
難易度が高い分、ロードバイクの改造よりかえってお金がかかってしまうというジレンマがある。
ロードとミニベロ改造の違い
ダホンK3を購入して、とりえあずハンドルにバーエンドを追加した。
重くて回らない純正ペダルは交換必須。ついでにタイヤやホイールも換えてみたい。
さらに手を加えたいのはドライブトレイン。本格的な坂を上るとギアが足りないとわかった。
スプロケットの歯数を増やして、ワイドなギア比をもっと広げたい。大口径なチェーリングをもうひとまわり大きくして、トップスピードも上げてみたい。
小径車のパーツは種類が少ない
しかしミニベロは規格がまちまちで、交換パーツの選択肢が少ない。
同じ小径車でもホイールサイズは20、16、14インチ…とさまざま。いちばんメジャーな20インチであれば、ホイールやタイヤはそれなりにそろっている。しかしK3の14インチだと、対応製品は数えるほどしか存在しない。
これが700Cのロードバイクであれば、ホイールやタイヤからハンドル、シートポストにいたるまで、適合するパーツは無数に見つかる。
マーケットが広いので部品の供給も豊富。フレームだけ購入して、いちから組み立てることさえできる。
ミニベロは各社独自のフレーム設計や折りたたみ機構があるため、ロード用のパーツが使えるかどうかはケースバイケース。サドルやペダルはたいてい流用可能だが、ハンドルやシートポストは直径が合わない場合が多い。
ブロンプトンやダホンのような有名メーカーであれば、輪行袋や泥除けなど車体に合わせた専用品が販売されている。しかしロードに比べてユーザーが少ないためか、総じて値段は高い。
逆にロードのパーツは多すぎる
ロードバイクの部品は種類が多すぎて、納得のいく買い物をするのが難しい。
自転車は試乗できる場所が限られていて、「パーツだけ換えて乗り心地を比較する」なんてサービスはめったに受けられない。
結局ネットのレビューで使用感を想像して、イチかバチかで注文するしかない。そしてハンドルまわりやサドルのように「実際使ってみないと評価できない」という側面もある。
さらにややこしいのは上達するにつれてポジションが変わり、最適なステム長さやハンドル幅も変化するという点だ。
一般ユーザーが自転車雑誌に毎月掲載される新商品を、片っ端から試して比べるのは不可能。どう考えてもフレームやパーツの想定寿命に対して、市場に供給される製品が多すぎる。そして更新されるサイクルも短すぎる。
それでもメーカーが淘汰されないのは、世界的に見てそれほどロードバイクのマーケットが大きいということだ。パーツの沼にはまった富裕層が、ニッチな商品を買い支えているのだろう。
選択肢が少ない方が幸せ
しかし最近のマーケティング研究によると、選択肢が多いことは必ずしも売上や顧客満足度の向上にはつながらない。
オプションが無数にあると、どれかひとつを選ぶ(その他を諦める)ことに心理的なストレスを感じる。スーパーの売り場で販売するジャムの種類を絞った方が、かえって売上が伸びたという実験もある(参考『選択の科学』)。
選べるパーツの種類が少ないことは小径車の欠点とみなされがちだ。しかしよく考えると、これは消費者にとって、かえってメリットなのかもしれない。
小径車カスタムの特徴
ミニベロは選べるパーツが少ない分、むしろ改造しがいがあると言えないこともない。
世間ではロードバイクより小径車の方が、カスタム文化が栄えているように見える。ミニベロ専門サイトの改造コンテストを見ていると、いかにも楽しげな雰囲気が伝わってくる。
たとえばminiloveとサイクルモードの共催で行われた2018のCUSTOM BIKE CONTEST。受賞作だけでなく、応募バイク146台はいずれもレベルが高い。
なかにはダホンK3をTT仕様にした、こんな興味深い改造も提案されていた。
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小径車であれば本気のチューンナップ以外にも、デコレーションを楽しむ余地が出てくる。レーシングカーに余計な飾りは必要ないが、トラックならデコトラもありなのだ。
制約の多さをDIYで克服しつつ、独自の価値観・世界観を追求するのが小径車カスタムの醍醐味。
ロードと違ってスピードもそれほど出ないので、多少整備が甘くても大事故にいたるリスクは少ない。むしろ実走より観賞目的で、盆栽のようにミニベロを愛でているユーザーも多そうだ。
身体機能が衰えてレースに出てもタイムが伸びなくなった中年ライダーが、別の生きがいを探すのに小径車は向いている。ロードで培った知識を駆使すれば、改造のアイデアもいろいろ湧いてくる。
パーツ間の相性と互換性問題
ロードバイクのパーツ選びはスペックと予算でほぼ決まる。ホイールであれば素材と重量、リムハイトなどカタログ上の数値からだいたい性能の察しがつく。
一方でミニベロの部品交換はパソコンを自作するように、パーツ間の相性や互換性というファクターが絡んでくる。場合によっては自分でパイプを切断したり、切削して穴を広げるような加工も必要とされる。
たとえばダホンのハンドルポストは内折れ/外折れ、伸縮式、Tバー形状というオプションがある。それぞれ重量や可動域が異なり、走行性能と省スペース性のどちらを優先するかというジレンマが生じる。
収納性・可搬性を維持する目標
ここで見えてくるのが「走行性を犠牲にせず収納はできるだけコンパクトに」という小径車ならではの目標だ。
フォールディングが前提の車種であれば、「仕様どおりたためる状態を保つ」という独自のレギュレーションが課される。
お金をかければ「速い・軽い」バイクはいくらでも実現可能。しかしミニベロの売りである車体の小ささ、可搬性を損なう改造はナンセンスだ。
ロードバイクにカゴやスタンドを付ければ便利だが、「スピード・効率重視」という本来のメリットが損なわれてしまう。
それと同じ理由で「折りたためないフォールディングバイク」というのも何となく残念な感じがする。
ロードとミニベロ維持費の違い
このようにロードバイクと小径車におけるパーツ選びの自由度は、考え方次第でプラスにもマイナスにもなる。
その一方で、部品の耐久性や維持コストというのはどう変わってくるだろう。
タイヤの摩耗が早い
自転車関連の消耗品の中で、頻繁に交換・メンテが必要になるのはタイヤとチューブだ。
タイヤ周長を測って比較すると、ロードとミニベロでは約2倍の差がある。
- ロードバイク…700×23Cで210センチ
- ミニベロ…ダホンK3の14×1.35で100センチ
単純に考えると、同じ距離を走るのに14インチは700Cより2倍多くタイヤが回ることになる。
厳密には車体重量やタイヤ幅も関わってくるのが、回転数が2倍なのでトレッドの消耗も2倍早そうな気がする。
DAHON K3の購入後にざっと400キロ走ってみて、後輪タイヤを見ると思ったよりすり減っている。
K3に元から付いていたKendaのタイヤは、摩耗を見越してかなり分厚く設計されている。今のところパンクもなく、放置状態でチューブから空気が抜けるスピードはロードのクリンチャータイヤと同じくらいだ。
14インチタイヤの代替候補
DAHON K3のタイヤを買い替えるとしたら、幅1.35インチの同等製品KENDA KOAST K1082で通販価格は1本2,500円程度。
ダホン公式サイトに出ているスペアタイヤは同じくKENDAのKWEST 1.75で定価3,000円。こちらはタイヤの幅1.75インチにアップするので、安定性の向上が期待できる
ロード用のちょっといいタイヤ(たとえば高耐久のパナレーサー・ツーキニスト)と比べれば、14インチのタイヤはリーズナブルといえる。
14インチの規格でほかに選べるタイヤはシュワルベのビッグアップル程度。こちらは世界的なK3ブームで品薄らしく、あいにく値段が高騰している。
中にはIRCのエコラン用14インチタイヤをK3に履かせている人もいる。ただし価格は1本1万を超えるので、こちらも決して安くはない。
小径車のタイヤは回転数の多さと耐久性に配慮しているのか、ロードのように極端な軽量化をうたった製品が存在しない。
特に性能にこだわらずKENDAの安いタイヤを使いまわせば、タイヤの維持費はロードバイクとそう変わらなそうだ。摩耗は早いが代替部品は安く手に入る。
14インチのチューブは高い
14インチに適合するチューブは、KENDAのフレンチバルブで1本1,000円程度。ロード用の安いチューブを2本セットで買うよりも、2倍くらいお金がかかる。
英式バルブであれば14インチでも安いチューブが見つかる。しかし手持ちの携帯ポンプは仏式なので、変換アダプターが必要になってしまう。
自転車のタイヤに比べればチューブは安い消耗品といえる。しかし小径車の中でもマイナーな規格だとは、ロード用のものより高くつきそうだ。
ホイールは小径車の方が安い
その一方で小径車のホイールはサイズが小さいためか、700Cよりずっと安く手に入る。
ダホン公式の上位アルミホイールでも、20インチで前後セット約5万。初期装備のホイールよりスポーク本数が少なく、軽量化と空気抵抗の減少が期待できる。
Kitt Designの20インチ、カーボンバトンホイールは前後セットが10万以下で買える。ロードのカーボン同等品ならその2倍は下らない。
ミニベロはホイール直径が小さい分、エアロ形状にしても減らせる空気抵抗は微々たるものだろう。
しかし大半のホビーライダーにとって、カーボンホイールの魅力は性能よりその見た目。ゆるい小径車とレーシーなバトンホイールの組み合わせというギャップにそそられる。
今はKitt Designの20インチしかないが、K3に適合する14インチ・カーボンホイールの発売に期待したい。
スプロケットの摩耗も早い
小径車はホイールのハブやスプロケットが高速回転するため、ロードより傷むのが早そうだ。
K3のリア9Tギアは歯数が少ないせいか、あっという間にすり減る。買ってから500キロ近く乗っただけで、すでに3速でギアが滑る症状が出てきた。
スプロケ交換はショップにお願いする予定なので、工賃も含めて維持費がかさむ。この点はミニベロの明らかなデメリットといえる。
小径車の改造費が膨らむ謎
小径車のカスタムはUCIルールにとらわれる必要がない。
レースに出ることを考えなければ、ブルホーンハンドルも選べる。しかしブルホーンでVブレーキが引けるレバーは少ないため、対応製品の在庫を探すかブレーキごと替えることになる。
そうして小さいフレームに合うボトルケージやバッグなど小物もそろえ始めると、いつの間にか財布が軽くなってしまう。
小径車はパーツの選択肢が少ないせいか、あまり悩むことなく次々買ってしまうワナがある。
本体よりパーツに予算を確保
ダホンK3のカスタム方針をまとめると、完成車がもう1台買えそうなくらいお金がかかる計算になった。
ミニベロはロードより「いじり甲斐」がある分、安いのにかえって改造費がかさんでしまうという矛盾…
もし思う存分カスタムするつもりなら、ベース車体はK3やスピードファルコで安く抑えて(ダホンの場合)、改造用の予算を残しておいた方がいい。
小径車の本当の楽しみは、買ってからのチューンナップにあると思う。