宮古島から飛行機で石垣島に移動。バスで離島ターミナルに直行し、そのまま午後の便で波照間島(はてるまじま)に向かってみた。これから数日、石垣島を拠点に離島観光する計画で、最初に日本最南端の石碑があるこの島を選んでみた。
さほど広くはない島だが、せっかくなので一泊してレンタサイクルで島を一周してみた。ビーチがきれいなのは言うまでもないが、それよりも印象に残ったのは泊まった宿だった。日ごろ食費のかかる大食いのトライアスリートにうってつけの民宿を見つけた。
2種類ある波照間島行きフェリーの違い
離島のフェリーターミナルは市街地の中心にある。各島に向かう船が集まり、観光客だけでなく島民や物資も一緒に運ばれるので、港は活気にあふれている。天候もよく、波照間島への便も問題なく出港できそうなので、午後の第4便チケットを購入した。
安永観光の運営する波照間島行きのフェリーには、高速船と貨客船の2種類がある。前者は定期便で、天候がよければ石垣島から毎日4便出ている。後者は火木曜と第2・4金曜のみで便数が少ない。
料金は片道だと高速船3,090円、貨客船1,540円と2倍も違う。その代わり高速船の方が半分の時間で島に到着する。ただし波が高くても出航率が高いのは貨客船の方なので、高速船の往復チケットを買ってよいのか迷う。
窓口で尋ねたところ、もし天候不良で高速船が出られず復路で貨客船を利用した場合、片道分の差額は払い戻してもらえるとのことだ。
ガソリン以外の物価は安い
ターミナル内の一角には飲食店が集まっている。昼食に1,080円のマグロ丼をいただいたところ、相当なボリュームだった。東京でこの量なら倍の値段がしてもおかしくない。
離島価格といわれるガソリン代は高いが、スーパーの食料品や自販機の販売価格は本土と変わらなかった。海産物や特産品はもちろん島で買う方が安い。タクシーも石垣島だと小型初乗り430円。
沖縄の最低賃金は低いので、サービス業に関しては単に人件費が反映されているということだろうか。同じ日本にいながら、燃料いがいは物価の安さを実感できる。宿代もこだわらなければ、相部屋・素泊まりで1泊1,000円台から泊まれる。
波照間島行きの高速船
波照間島への往路は高速船に乗った。小型で積載量は小さいが、外洋に出ると時速50キロくらいで波間を跳ねるように飛ばす。大型のフェリーと違って、ジェットコースターに乗っているような気分を味わえる。
ときどき大きな波に当たると、船体がグワッと持ち上がってから落下する。これが連続で来ると、シートに座って足で踏ん張っているだけでは体勢を保てない。両手で前席のハンドルをつかんで構えていないと、体が放り出されてあちこちにぶつける。
スプラッシュマウンテンの急降下を5秒おきに体験できる、刺激的なアトラクションともいえる。バランスを取るのに必死で、船酔いしている暇などない。
島への往復で高速船に2回乗ったが、船の後ろ側の方が揺れは小さいようだ。座席が開いていれば、シートベルトを外して横たわっている方が楽だった。
レンタサイクルで波照間島一周
波照間島に着くと、予約していた宿のご主人が車で迎えに来てくれた。ついでにレンタサイクル屋を紹介してもらい、1日1,000円でママチャリを借りることができた。
変速機能はなく、左のブレーキは壊れている。海風にさらされる離島の自転車は、傷むのも早いのだろう。波照間島は一周してもせいぜい20km。起伏が多い地形でもなさそうので、なんとかなると思う。
ニシ浜ビーチ
まずは沖縄最高のビーチと名高い、ニシ浜に行ってみた。ビーチに面したホテルはその名も「ペンション最南端」。後日訪れた与那国島にも「国境」という名前の居酒屋があったりして、離島のネーミングセンスは直球過ぎるのがおもしろい。
後ほど同宿した常連さんから聞いた話では、眺めも良く島で一番おすすめのホテルらしかった。自分ひとりなら安宿に泊まっても、「孫を連れてくるときはここ」とのこと。
ニシ浜は真っ白な砂浜と、100mはサンゴ礁が続くの遠浅の海で、期待通りの絶景だった。さすがに知名度が高いので人気らしく観光客もちらほらいたが、泳ぐ分にはまわりに人がいた方が安心だ。
アクティブにシュノーケルを着けて泳いでいる人もいたが、たいていは波打ち際でくつろいだり昼寝している人が多かった。ニシ浜ではシャワーも無料で使えるのがうれしい。
トライアスロン用のウェアとゴーグルを持ってきたので、翌朝もう一度ニシ浜に泳ぎに来てみた。
浅瀬の部分は水深50cmくらいで、泳ぐには厳しく歩くと珊瑚が足に刺さる。用心しながら平泳ぎで沖まで泳ぐと、白波が立っているあたりでガクンと水深が増す。岩だなの部分にはサンゴがびっしり生えていて、魚もうようよいて見ごたえがある。
しかしウェットスーツや足ひれなしの単独遊泳では、さすがに危険と感じるエリアだったので浅瀬に戻った。サンゴ礁特有のリーフカレント(離岸流)と呼ばれる潮の流れもこわい。
外周道路~展望台
引き続き自転車で外周道路を一周してみた。島の外周は起伏が少なく、島内を横断する道路も一直線。ギアなしのママチャリでも楽に走破できる。
景観的には先日訪れた多良間島と似た感じで、サトウキビ畑と牧場、ため池、風力発電をよく見かける。波照間島でもヤギが多く飼育されているようだ。
メイン道路から分岐して海岸に向かう小道がいくつかあり、繁みを抜けると誰もいないビーチにたどりつく。ニシ浜よりさらにプライベートな感覚を味わえる。
特に観光的な見どころはないが、たまに小さな展望台があったりした。
日本最南端の碑~星空観測タワー
島の南側で、日本最南端の石碑にたどりついた。他にも日本国旗を埋め込んだ石など、さまざまなモニュメントが置かれている。
与那国島の最西端と違って、最南端の眺めはたいしたことがなかった。どちらかというと強風吹きすさぶ荒野という感じで、辺境にやってきた気分を盛り上げてくれる。海岸は手すりの内断崖絶壁なので、油断すると危ない。
近くにある星空観測タワーは、残念ながら台風の被害で故障しているらしい。今日はあいにくの曇り空で、夜になっても名物の南十字星を見ることはできなかった。
観測所のまわりにはヤギが密集していて、好奇心旺盛な子ヤギが近寄って来た。目に入るものは何でもかじってみるという習性のようで、いつの間にかよだれまみれにされてしまった。
波照間島名物、民宿たましろ
波照間島で泊まった宿は「民宿たましろ」。以前この島を訪れた友人から噂を聞いて、興味本位で予約してみた。これまで日本中の安宿を渡り歩いてきたが、ここまでユニークな宿は初めてだ。
「自分の器を試される宿」や「屋根がある野宿」など、ネットのレビューではすごいコメントが寄せられている。宿に入るとさっそく巨大なゴキブリとネズミを目撃した。かすかに異臭が漂う洗面所や風呂場では、あまり細かいところを見ない方がよさそうだ。ただし水やお湯はちゃんと出る。
キッチンを覗くと、もはや最南端を通り越してカンボジアにでも来た気分だ。
夕食は縁側のゆんたくスペースでみんなで食べるという決まり。連泊している常連さんも何人かいて、23時の消灯まで盛り上がった。
話によると、梅雨入り前の4月が波照間島観光のベストシーズンらしい。たましろに年間100日泊まる上級者もいるとのこと。本土からの航空券を格安で手に入れる方法や、他の離島情報もお伺いできて参考になった。
破壊的なボリュームの夕食
民宿たましろの特徴は、何といってもその料理のボリュームにある。夕食は器にぎっしり詰まった沖縄そばに大盛りのタコご飯、刺身におかずも付いてきて、すさまじい迫力だ。田舎の民宿は食事の量が多い傾向があるが、ここまで来ると軽く3~4人前はある。
麺が伸びないうちに沖縄そばから取りかかり、しばらくは話をする余裕もなく胃袋にかき込んだ。宮古島のカーボパーティーで胃が拡張したのか、時間はかかったが無事完食できた。
まわりの常連さんは、さすがに連日これだと耐えられないのか、気持ち程度につついてほとんど残していた。別に料理を残したからといってペナルティーがあるわけではない。
料理の量は多いが、実は味もなかなかいける。高齢のご主人が30年以上毎日手作りしているらしい。刺身や揚げ物も宿の厨房でつくられており、海産物が新鮮なのは言うまでもない。完食のハードルは高いといえ、残すにはもったいないくらいのクオリティーだ。
貴重な泡波が無料
波照間島でつくられる幻の泡盛として有名な「泡波」。通販では5,000円もする三号瓶が無料で振る舞われていた。
与那国島名物の国境の酒「どなん」と同じく、最南端の泡盛として人気がある泡波。現地で買うと本土より格安なので、お土産にもおすすめだ。
朝食も漏れなく大盛り
宿の中は蚊が多いが、ベープマットは無料でもらえる。手当たり次第にセットしたら、何とか眠れた。布団はもう何年も干されたような形跡がない。原因不明だが、翌日は首筋に湿疹ができてかゆかった。
朝食も盛りだくさんの豪華メニュー。どうみてもおかずの量と種類が多すぎる。さいわいご飯は自分で盛っていいルールだったので、控えめにしておいた。
常連さんから聞いたテクニックによると、朝食の残りをおにぎりにして、揚げ物と一緒に昼食にするのがおすすめらしい。実質的には3食付きのプランといえる。
民宿たましろは一泊税込5,400円。離島の相場からすれば素泊まりの宿より値は張るが、この量の食事を朝晩完食すれば軽く元が取れるだろう。
波照間島の集落から港までは歩いていける距離にある。その後レンタサイクルを返却して帰りの定期船に乗った。島を出ることには民宿の印象が強すぎて、きれいなビーチや星空というイメージは持てなくなってしまった。
最南端の島で、胃袋と常識の限界に挑戦。民宿たましろは、波照間島で最大のエンターテイメントと言っても過言でない。