武蔵五日市駅から都民の森まで、ハセツネのコース前半35kmを試走してみた。
もうレースまで一週間を切っているが、天気予報を見るかぎり今週晴れる日は少ない。本番までに疲れを残さず練習できるのは今日しかないと判断して出発した。
本番は雨の予報なので、むしろ悪天候で走る練習をした方がよいかもしれない。しかし平日、ひと気のない山奥で雨に打たれるのはぞっとしない。
早朝に出発すれば、都民の森16:45発の最終バスに乗れるかと思ったが、9時に武蔵五日市駅を出たら間に合わなかった。奥多摩周遊道路を都民の森から数馬の湯まで歩き、そこからバスに乗って帰った。
武蔵五日市駅~今熊山
武蔵五日市駅から檜原街道(県道33号)を奥多摩方面へ向かい、上町交差点で左折。本番ではもう少し近くの五日市中学校からスタートすることになる。序盤区間はもう5回ほど走ったので、道順はだいたい覚えられた。
広徳寺前にヘアピンカーブには、相変わらずイノシシ避けの電線が張ってある(レース本番では撤去されていた)。
その先で道が3つに分かれるところはいつも悩む。結局本番では右手の斜面を登る第4のコースが取られたが、これはハチの巣避けの一時的な対策だったのかもしれない。少なくとも、いつもぬかるんでいるV字谷を通らずに済んだのは運がよかった。
最初に現れる急登は、今熊神社奥宮までの参道も兼ねている。途中で、熊手で道を掃きながら登っている人とすれ違った。
入山峠~鳥切場
本番一週間前ともなると、「山岳耐久レース」の看板があちこちに出ていた。これまでよくわからなかった分岐点も、ようやく正しいルートがわかってきた。例えば入山峠・刈寄山の手前にある分かれ道では、まき道に迂回せず坂を登るようだ。
入山峠を過ぎて鳥切場に向かう途中の分岐は、まっすぐ続く坂を登るのが正解。ハセツネコースで迷ったら、たいていは「傾斜がきつい方に進む」と覚えておけばよさそうだ。
そのまま下ると鳥切場に着いたものの、コースの案内板を見失ってしまった。鳥切場でUターンするのも変なので、どこかで曲がる必要があったのだろう。
峰見通り~市道山分岐
市道山に向かう「峰見通り」はアップダウンが激しい。毎回苦労するので、数えてみたら5つもピークがあった。
登りはきついので、ほとんど走れない。しかし本番ではここまで渋滞が続いていたので、特に焦る必要はなかった。序盤は体力温存、ウォーミングアップと考えておけばよさそうだ。
峰見通りの途中に一か所、木が伐採されて見晴らしがよい眺望がよいところがある。予定では日没前にここを通過するはずなので、レース中に景色を眺められる唯一のポイントになるだろう。
駅前をスタートしてから、2時間半で市道山の分岐に到着。ここにもレースの案内板が出ているので、まず迷うことはない。
醍醐丸~連行峰
市道山分岐を過ぎると、ようやく平坦な道が増えてくる。ただし醍醐丸の直前はまた長い登りになる。
醍醐丸を右折してハセツネ公式ルートに挑むのは初めて。これまでは和田峠~高尾山方面に向かっていた。この先の三頭山までは、地図を読むかぎり北西に向かう一直線のルートになる。
道端にソフトボール大の奇怪なオブジェがあった。人工物かと思ったが、よく観察するとキノコのようだ。後で調べたところ、シロオニタケという毒キノコの幼菌状態らしい。
市道山分岐から先、倒木などの危険個所にmontrailとMOUNTAIN HARDWEARのテープが巻いてあった。どちらもコロンビアの傘下のブランドで、ハセツネのスポンサーになっている。
醍醐丸から生藤山に向かう途中、「連行峰」と呼ばれるピークまでひたすら上り坂だった。ただし案内板によると生藤山には登らず、まき道を利用してよいようだ。
三国山手前のピークも巻き道でスキップできる。この分岐は本番でも注意して、無駄に山頂に登って体力を使わないようにしたい。
三国峠~熊倉山~浅間峠
標高960メートルの三国山・山頂には、ベンチとテーブルが設置されていて休憩できる。そういえばスタートしてからここまで、座って休めるところはろくになかった。醍醐丸の分岐にベンチがあったが、あそこは狭くて取り合いになるだろう。
三国山は南西の眺望がよく、今日は富士山も見えた。本番の予想タイムではすでに日が暮れている時間帯なので、この景色を拝むことはできないだろう。
しばらく進むと「軍刀利(ぐんだり)神社」の元社があった。さすがにここまで参拝に来るのは大変なので、南の上野原に降りた方に奥ノ院や本殿、社務所があるらしい。先ほど通った今熊神社と同じ方式だ。
ここから浅間峠までは下り基調で走りやすかった。熊倉山を抜けたあたりでサルに遭遇。逆方向から向かってくるトレイルランナー1名ともすれ違った。
第一関門の浅間峠には雨をしのげる東屋があり、ベンチも置かれている。レース本番では22時がタイムリミットだが、トラブルがなければここまではたどり着けそうだ。
浅間峠で休んでいる途中、ものすごい速さでランナーが2名駆け下りてきた。山の中とは思えない軽装で、胸に自衛官と書いてあった。あのスピードでハセツネを走り続けるとしたら、トップレベルの選手に違いない。
日原峠~土俵岳~丸山
ここから三頭山まで10km以上、ひたすら標高を稼いでいくことになる。西原峠までは比較的傾斜がゆるやかで、走りやすい道だった。もしここで集団がばらけているとしたら、タイムを稼げる区間になるだろう。
日原峠の道標にはハセツネの距離表示も併記されていた。その先、土俵岳に向かう途中で標高1,000mを突破。このルートは道端に地蔵や石碑があったりもする。
土俵岳を過ぎると、路上に栗が散らばっていた。ソールの固いトレランシューズなら栗を踏んでも問題ないかと思ったが、アッパーのメッシュ部分を貫いて足の甲にトゲが刺さった。完全に避けるのは難しいが、なるべく栗は踏まない方が安全だ。
丸山~笛吹(うずしき)峠を越えると、道端の笹が増えてきた。地図にも「笹尾根、笹ヶタワ峰」と書かれている。
今日は着圧タイツを履いてきたのでよかったが、足が露出していると危険だ。しかし本番では丸山に登らず、笹の多い道を避けてまき道を走ってよいとわかった。
人けの少ない道は、枝や蜘蛛の巣にもよく絡まる。念のため夜間でも帽子をかぶって走った方がよいだろう。トレランを始めて蜘蛛の巣には慣れてきたが、顔にまとわりまとわりついてくるのは、いい気分でない。
槙寄山~西原峠
槙寄山近くで、そろそろ都民の森の最終バスに乗るには厳しい時間になってきた。間に合わなければ尾根からエスケープして、数馬の湯あたりでバスに乗る計画だった。
しかしハセツネコースを外れると、途端に道が険しくなりそうな予感がする。一応、三頭山まではルートを確認しておきたいと思ったので、そのまま先に進んでみた。念のためライトや予備の食料など、夜間走行の準備はしてきてある。
西原峠にはベンチがあり、南西の眺望が特によい。ここでも遠くに富士山を見ることができた。この付近はハセツネ公式マップに「アップダウンが少ない広い尾根」と書いてあり、たしかに走りやすい道だった。
西原峠から先、槙寄山~三頭山に向けて400mくらい標高を稼ぐことになる。特に急な坂はなく、一か所だけ岩場があったが手を着くほどでもない。
大沢山に到達する前に、三頭大滝への分岐に到着。スタートからここまでの所要時間は約8時間かかった。
ここから先の三頭山までは、以前登ったことがあるルートなので本番に向けて特に不安はない。今日は都民の森に下りて帰ることにした。
都民の森~数馬の湯
17時近くになると、森の中はだいぶ暗くなってきた。「石山の路」を下り、沢に出て三頭大滝に到着。
途中にある展望台で、東方向の眺望を確認できた。写真の説明を見ながら、これまで通って来た山と尾根を把握。土俵岳は特徴があるので覚えやすいが、ほかの山は見分けにくい。
ウッドチップが敷き詰められた遊歩道を快適に走って、都民の森の入口へ。16:45の最終バスはとっくに出た後で、売店も閉まっていた。見かけるのはバイクでツーリングに来ている人くらい。登山客は一人もいない。
仕方なく日が暮れた奥多摩周遊道路を歩いて下りる。都民の森から数馬の湯までロードバイクなら一瞬だが、徒歩だと1時間くらいかかった。
こんな夜更けでも、片側交互通行で工事が行われている。なぜか今日は風張峠から大型トラックが何台も下ってきて、路肩を歩くのは危なかった。
数馬の停留所には電灯・屋根付きの豪華な待合所がある。しかし次のバスまでまだ時間があったので、もう少し歩いて「数馬の湯」に向かってみた。
温泉施設のバス停は入浴客を乗せるためか、平日でも20:52までバスが出ているようだ。待っている間に温泉でトイレを借りて、売店で里芋とサヤインゲンを購入した。数馬の湯では、ちょっとした地元の特産品も扱っている。
18:48温泉発のバスは、武蔵五日市駅まで自分一人しか乗っていなかった。料金は940円。休日は都民の森まで往復する便が混雑すると思うが、平日はこれで採算が取れているのか不思議に思う。
前半は上り基調で走りにくい
今日は10月してはめずらしく最高気温33度の予報だった。山の中は多少涼しいとはいえ、思ったよりも水を消費した。2リットルのハイドロパックに500mlのボトル2本、トータル3リットルの水を準備したが、最後は全部飲み尽くしていた。
レース本番では、月夜見山第二駐車場で1.5リットルの給水を受けられる。それでも大会要項の必要装備に「水2リットル」と書いてあるとおり、水は多めに持ち運ぶに越したことはない。
甘いスポーツドリンクだと一気飲みしてしまうので、真水も混ぜた方がよさそうだ。夜間のライトの故障・電池切れほど致命的ではないが、水や食料が切れたらリタイアは避けられない。
ハセツネ前半区間は上り基調で局所的なアップダウンも激しく、なかなか安定して走れるところがなかった。大岳山のような岩場はないので、後半戦にそなえて無理せず体力温存したいと思う。
ハセツネ後半区間試走
ハセツネ本番1週間前の日曜、「都民の森」近くにある鞘口峠からゴールまで後半区間32kmを試走してみた。
本番のスケジュールによると、コース後半を走るのは深夜になる予定。分岐の怪しいところや路面状況をあらかじめチェックしておきたい。そのためあえて遅い時間にスタートして、夜間走行も練習してみた。
ハセツネ公式コースは中間にある三頭山(標高1,527m)を最高点として、前半登って後半下るシンメトリーな断面になっている。御前山と大岳山の前後以外はほとんど下りで、心肺的には楽だが脚にこたえた。
武蔵五日市駅からバスで都民の森へ
武蔵五日市駅から都民の森に向かう急行バスに乗車。休日の朝は相当混むのだろう。順番待ちの案内板が出ている。
今日は始発の8:10発でなく、2本目11:35の便に乗った。運賃は片道940円。都民の森までは約1時間かかるので、車内で軽く仮眠を取った。
バスで向かう途中、ロードバイクを何台か追い越した。いつもと逆の立場で車から見ると、前を走る自転車は結構危なっかしい。大型車が近づいてきたら、後方確認・アイコンタクトして路肩に寄ってパスしたが方がお互いに安全だ。
都民の森に着くと、これまで見たことがないくらい多くの自転車が並んでいた。どうやら午前中に東京ヒルクライムHINOHARAステージのレースが行われていたらしい。
売店で130円のいそべ餅をいただき、190円のカレーパンは補給食としてバッグへ。
標高1,000m近くの山奥なのに飲食店が充実しているのはうれしい。しかも料金はたいして高くない。
鞘口峠~小河内峠
先日、三頭山まで走った続きとして、今日は鞘口峠からハセツネコースに入る計画。都民の森から森林館を抜けて里山休憩小屋へ向かう。ここから「ブナの路」経由で鞘口峠にアクセスできる。
鞘口峠から御前山までは、まだ走ったことのない区間。御前山から先も前回の練習では逆走だったので、今日は本番と同じ道順で走ってみたい。
序盤のちょっとした坂を上ると、すぐに砥山(標高1,302m)に到着。そこから少し下ると、奥多摩周遊道路に合流する。
自転車でよく来る道だが、たまに走っている人がいて不思議に思っていた。おそらくハセツネの練習をしている人たちだったのだろう。
しばらく登山道と道路を行ったり来たりしながら、第二関門の月夜見山第二駐車場に到着。
奥多摩湖を見下ろせる第一駐車場と違って、ここは特に見どころがない。普段は素通りしてしまう寂しい駐車場だ。
小河内峠~惣岳山
ハセツネ公式マップに記載されている「駐車場左奥の広い急坂を下る」という場所はすぐわかった。長い下りでなかなか足にこたえる。
ここから先、山頂と左右の巻き道、道が3つに分かれる個所が2つある。案内板もなく悩んだが、どちらに進んでもすぐに合流するとわかった。その後レース本番で確認したところ、中央のきつい坂が公式コースだった。
小河内峠を越えると「急なガケ」という看板が出ていた。コース内にある危険個所の一つで、公式地図にも注意書きが記載されている。
その先に進むと、確かに奥多摩湖側に向かって急な傾斜になっている。道幅はそれほど狭くないが、本番では日も暮れ、疲れてくる頃なので要注意だ。
2007年のハセツネ本番中、この付近で滑落死亡事故があったらしい。幅70cmの山道から180m落下。場所が場所だけに、救助活動も難航したようだ。現在は事故現場を迂回するルートに設定されている。
小河内峠から惣岳山~御前山までの登りは長くてきつい。コース断面図を見ると、三頭山の手前と同じくらいの獲得標高になっている。小河内峠で標高1,030mまで高度を下げるが、御前山でまた1,405mまで登り返す。激しいアップダウンで体力を削られる。
惣岳山に着いたら御前山まであと少し。その間に、前回の練習でコースを離脱した「体験の森」分岐点を通過した。
御前山~大ダワ~大岳山
御前山から先は霧が出てきて、夕日が差し込むと虹が見えたりした。
ここから先、大ダワ(鋸山林道)までは下りの傾斜がきつい。鋸山から大岳山まではフラットで走りやすかった。
途中で女性ランナーに抜かれて全然追いつけなかった。トレランは下りで差が出る。速い人はどうしてそんなに飛ばせて、しかも転ばないのが不思議で仕方ない。
大岳山と馬頭刈尾根への分岐点に、「10~1月は17時前後には暗くなる」との警告表示がある。確かに木々に覆われた山道にいると、日が暮れるより早く、あたりが暗くなる気がする。
10月9日のレース本番、日没は17:15、日の出は5:41。今日は天気がよかったせいか、17:30までライトなしで走れた。
大岳山の山頂前後にある岩場は、想像していたとおりの難所だった。鎖場では両手を使わないと登れないので、本番ではヘッドライトと軍手が必須だ。
西側の斜面にハードな岩場が3か所ある。最後の方で勢いよく体を持ち上げると、迫り出した岩に頭をぶつけてしまった。鎖場では手元だけでなく頭上にも注意。
大岳山の山頂は人けがなく寂しい雰囲気だった。
きつい岩場を迂回して、わざわざ山頂まで登らない人が多いのかもしれない。今日は曇っていて眺望もさえなかった。
御岳山~日の出山
大岳山の東斜面にも岩場があるが、西側に比べればまだ傾斜がゆるい。いくつか難所を超えると、ようやく御岳山に向けて走りやすい下り坂になる。
そろそろ夕暮れだが、途中にある長尾茶屋は明かりがついてまだ営業していた。御岳山からケーブルカーで来たお客さんが、茶屋で一服している。ここまで来ると、ようやく人里に戻った気分がしてほっとする。ケーブルカーでふもとまでエスケープできるという安心感もある。
長尾茶屋の隣にある長谷川恒夫の記念碑。去年見たときは、まだハセツネというレースの存在も知らなかった。その後トレランにデビューして、さっそくここを走ることになるとは思いもよらなかった。
御岳山の神社前で、そろそろライトをスタンバイ。以前、高尾山のナイトランで使用した、ジェントスのヘッドライトとハンドライトを両方準備した。
御岳山から日の出山までは下り基調で走りやすい。日の出山の山頂も相変わらず曇っていて、夜景はおぼろげにしか見えなかった。
金毘羅尾根~武蔵五日市駅
日の出山から続く金毘羅尾根は長い下り坂。ほとんど走って通過できる。夜間は視界が悪くてペースが落ちるかと思ったが、慣れればそれほどでもなかった。
金毘羅尾根には「山岳耐久レース」の案内板がいくつか設置してあった。しかも矢印部分に反射素材が貼ってあり、ヘッドライトを向けると数十メートル先からでも視認できる。
日の出山を出てから2時間弱、20時には武蔵五日市駅に到着した。13時に鞘口峠を出発したので、トータル7時間の行程になった。
久々に山の中を30km走り、終盤はずっと下りだったせいか翌日は筋肉痛に見舞われた。やはり平地練習だけでは、トレランに必要な筋力を鍛えられない。コースの確認と夜間走行も含めて、ハセツネ本番を意識した練習ができたのはよかった。
初参加でしかも夜中に走るとあって、最初はどんなコースかと不安でいっぱいだった。奥多摩はロードバイクでよく来るが、トレイルはまだ知らないルートが多い。実際に試走してみて、休憩スポットや岩場の難所、山の名前や順番もだいたい覚えることができた。