フラットペダルの再評価。引き足不要論とビンディング・コスプレ説

膝を痛めたタイミングで、ロードバイクのビンディングペダルをフラットペダルに交換してみた。安いパーツだが不思議なくらいしっくりきて、今まで無意識に感じていたストレスをことごとく解決してくれた。

リハビリ上はクリートをはめる許可も出ているが、フラペの開放感を味わうともうビンディングには戻れない。数年使わなかったので、とうとうバイク用シューズやクリートを処分してしまった。

あらためて考えたビンディング方式の利点と欠点、フラットペダルの効用をまとめてみたい。

ビンディングペダルの利点

RFX8の完成車を買った際、ペダルはメインコンポと同じ105グレードのSPD-SLタイプを選択した。シューズもシマノの安いグレードのものを購入。甲のベルトが2本しかなく、普通より1本少ないモデルだが、この方がトライアスロンでのトランジションに有利かと思った。

シマノのビンディングシューズ

ビンディングの利点として、専用シューズと一体化したクリートがペダルと噛み合う安定感が挙げられる。レースの下りで時速70キロ近く出るときは、確かにペダルに足が固定されていた方が安心する。少なくとも、滑って踏み外す心配をせずに思い切り足を回せる。そして固いソールから無駄なくダイレクトにバイクへ力が伝わる感じがする。

また、母指球あたりのベストなポジションで踏めるよう調整してあるので、ペダルに足を乗せるたびに位置を合わせる必要がない。その意味では、自動的にぺダリング技術を向上させてくれる初心者用の補助ツールと考えることもできる。

そして精神的な面では、「シューズをクリートにはめる」という儀式によって自転車に乗る際に気合が入る。「地面に足を着けない(後戻りできない、失敗は許されない)」という緊張感も得られる。

ロードバイクはスピードが出る便利な乗り物だが、その分、自分や他人を傷つける危険も伴う。シューズを固定することでママチャリとは違うプレッシャーが生じて、より慎重に運転させるような効果がある。

立ちごけ問題

ビンディングペダルはその安定感と引き換えに、「とっさに外せない」という不安も同時に抱えることになる。しかし走行中に落車する場合、クリートは勝手に外れて吹っ飛ぶので心配ない(足が固定されたまま、不用意に脚をひねられることはない)。問題は低速走行時にバランスを崩して倒れる「立ちごけ」の方だ。

ビンディングに替えてから、一度もこけたことがない人などいるのだろうか。自分は恥ずかしながらショップでバイクを受け取った後、最初の交差点で転んだ。その後1年間で4回は転倒して、体をあちこちすりむいた。

さいわい坂の手前や公園内など、いずれも低速走行でまわりに車がいない状況だった。むしろスピードが落ちて慣性が働かないからこそ、バランスを崩して倒れるのだろう。

その場でパタンと横に倒れて自爆するのは、何とも間抜けな光景だ。同じロード乗りなら同情してもらえるかもしれないが、一般人や子どもに見られていると恥ずかしくてたまらない。すぐに自転車を起こして何事もなかったかのように、痛いのを我慢してそそくさと立ち去る感じになる。

慣れれば不思議と転ばなくなるようで、購入2年目から5年間は一度もこけなかった。たまに信号停止中、うっかり油断してシューズを固定したまま車道側に体重を移してしまうことがある。バランスを崩してひやっとするのだが、ツーリング後の疲れているときに起きやすいミスだ。

「立ちごけ」とは自転車乗りの通過儀礼だと思う。足を固定されたまま倒れるという、ほかでなかなか体験できない恐怖感を味わえる。上半身は受け身を取れても、下半身は車体をまたいでいるので自由がきかず、膝や腰を確実に地面にぶつける。

大けがすることは少ないので、たまに転んで痛い目に遭っておくと、気が引き締まって事故の予防になるかもしれない。

「足をずらせない」という欠点

ビンディングのもう一つのデメリットは、「ペダル上の特定ポジションから意図的に足をずらせない」ということだ。

ロードバイクの乗り始めや長時間のロングライドでは、足の筋肉が固まって膝のまわりが痛くなることがある。腸脛靭帯や膝蓋腱が炎症になりかけている状況で、「足の位置をずらさず回し続ける」というのは拷問に近い。

やむなくクリートを外して、不安定な踏み方で漕ぎ続けることになる。クリートとペダルの凹凸が適当に噛み合うので回すことはできるが、専用シューズのソールはつるつるなので滑りやすく危ない。

また、痛みはなかったとしてもたまに漕ぎ方を変えて、足の疲労を分散させることができない。シッティングとダンシングを組み合わせるように、たまにかかとでペダルを回したり、足をぶらぶらさせてほぐすのは疲労回復に効果的だと思う。

そのまま歩けない不便さ

クリートをはめた専用シューズでは、自転車を下りると低限の歩行しかできない。グリップ性やクッション性を向上させるクリートカバーという道具もあるが、走行性や安定性は普通のシューズに到底およばない。

休憩中にトイレやコンビニに寄るくらいであれば、ビンディングシューズのままでも用事はこなせる。そのままスーパーに入って買物するとか、歩いて観光するというのはやや厳しい。そして峠に上ったついでにハイキングや登山したいとなると、自転車専用シューズではまず不可能だ。

足回りをロードバイクに特化する代わりに、アウトドアにおけるアクティビティーの自由度が制限されることになる。せっかく山に上ったり遠出できる乗り物なのに、これはもったいないといえる。

廉価フラットペダルの威力

今回交換したのはショップでおすすめしてもらった低価格のフラットペダル。メーカーも型番も覚えていないうえ、製品自体に手がかりもなく調べられない。

フラットペダル

「軽い・安い・回る」という店長一押しのアイテムで、こちらの懐事情を理解していただき毎回助かる。おかげで家にはBBBの製品がどんどん増えていく。

ベアリングの構造は謎だが、シャフトも踏み面も金属製でがっちりしている。適度に凹凸がありスニーカーのソールに噛み合ううえ、前後にリフレクターも付いて安全対策も万全だ。

ペダルを回しながら不自然に引っかかるような感じもなく、回転はスムーズ。驚くような機能はないが、数年メンテしなくても壊れず頑丈で、トラブルや不満は思い当たらない。

フラットペダルのバリエーション

唯一、飛行機輪行の際にペダルレンチで着脱することだけが面倒だ。これはビンディングペダルでも同じ事情だが、フラットペダルなら折りたたみ式や工具不要の着脱式が選べる。

予算に余裕があれば、評判のいい三ヶ島製品など試してみたい。今のフラットペダルで満足できているなら、折りたたみ式のFD-7あたりに替えても十分に恩恵を感じられるだろう。

また、既存のビンディングシューズにアタッチすることで、簡易的にフラットペダル化するツールが出ていることも知った。

ペダルカバーやペダルプレートと呼ばれる製品で、シマノのSPD-SLにも対応している。これでテンポラリーな着脱を試してみてもよかったと思う。

フラットペダルの再評価

フラットペダルのメリットとは、単純に「ビンディングペダルの欠点をすべて解消してくれる」という点に尽きる。

まずクリートを外す手間なく好きなときに気軽に足を下ろせるので、公道走行時のストレスがぐっと減る。ビンディングペダルの場合は、ギアの重さやクランク位置から「停止線まであと2回転半回して左足を下にしてからクリートを外す」など無意識に計算する必要があった。

再び漕ぎ始めるときも、クリートをはめるための助走や待機時間がいらず、無頓着に前に進める。ビンディングに慣れれば意識することはなかったが、いざやめてみるといかにリラックスできるか思い知った。自転車乗りとしてのフォーマルな正装から、普段着に着替えたような気楽さを味わえる。

次にペダルの上で足を自由にずらせるので、筋肉疲労に合わせて好きなポジションで漕げる。下手な踏み方をするとぺダリングの効率は下がるが、ロードに数年乗って慣れたせいか、ベストな踏み位置も自然とわかるようになった。

フラットペダルは、ある程度ビンディングに慣れた人が使うとより効果的なのだろう。踏み方の矯正には役立つが、熟達すればフラペでも同じポジションを再現できる。

そして普通のランニングシューズやトレランシューズで漕げるので、自転車を下りたあとの活動範囲が広がる。山登りや観光だけでなく、輪行やレース参加など、すべての活動がスムーズになり、余計な荷物(予備のシューズ)や履き替えの時間(トランジションタイム)も減る。

自転車を下りた後の行動に関しては、ビンディングに比べて圧倒的なメリットしか思いつかない。

引き足不要論

最後に、あえてビンディングのメリットとして挙げなかった「引き足」の是非について検討したい。フラットペダルに替えて約2年、平地でも上りでもクリートを活用した引き足は、もはや必要ないという結論に達した。

昔は勾配がきついほど引き足の割合が増え、激坂クラスにいたるとビンディングなしで登坂は無理だと考えていた。しかしフラペで峠に行ってみると、特に意識しなくてもペダルをくるくる回して坂を上れる。

クランク上昇時に「荷重を抜く」ことを意識すれば、別にペダルに足を固定する必要はない。風張林道レベルの急勾配でも、立ち漕ぎ状態で腕を使ってハンドルを押し引きすれば十分トルクをかけられた。

平地走行でも同じ状況で、ビンディングとフラットペダルのパフォーマンス上の違いは特に感じられない。その後フラペで出場したトライアスロンのバイクパートでも、ビンディングと同じかそれ以上の好成績を残せた。

ロードバイク・コスプレ説

振り返ってみると、ビンディングペダルとシューズが普及しているのは単純に以下の理由でないかと思う。メーカー・メディアの思惑と、ユーザーの購買意欲がうまく組み合わさった結果なのだ。

  • 「ロードバイクに乗るなら必要・有利」という雑誌や広告の擦り込み
  • 「見た目がプロっぽくてカッコいい」というファッション的要素

派手なバイクジャージやパッド入りのパンツ、エアロバーやディープリムホイールのようなコスプレ的なグッズも似たようなものだろう。ビンディング方式からいったん離れてみると、なぜ今までこんな不便な道具を使っていたのか不思議な気がしてくる。

もしかすると、ホビーライダーには実感できないレベルのメリットがあるのかもしれない。しかし日常利用や市民レースに参加する程度であれば、個人的な感想としてフラットペダルの方が圧倒的に有利だ。

いつの日か、ビンディングペダルとは自転車進化の過程で一時的に流行した特異なカルチャーだったと顧みられることになるかもしれない。19世紀に発明された自転車のイラストを見ると、ペダルがなかったり前輪が異様に大きい車体は不自然に見える。シルクハットをかぶって正装した紳士がまたがっているのも奇妙だ。

それと同じように、22世紀の人類は現在のロードバイクやライダーのファッションを見て違和感を覚えるのだろう。ビンディングペダルもそのひとつになると思う。