高速走行時の空気抵抗を減らす目的で、ヘルメットのエアロ化は効果が高いといわれる。しかし従来の製品は形が異様すぎて普段使いが難しかった。「レース専用」と割り切るには価格も高すぎる。
そんな中、OGK Kabutoから比較的安価で見た目も普通なショートテールのエアロヘルメットAERO-R1が発売された。ベルトのバックルに磁石がついたTR版を買って試したところ、それなりに効果を実感できた。
OGKはシールド付きで2万以下
後部の短いエアロヘルメットはすでにいくつか発売されている。後発のOGKは「シールド付きで定価19,000円」というコストパフォーマンスが最大の魅力だ。
GIROの新製品VANQUISHは36,000円、METのTRENTA、カーボンモデルはシールドなしでも36,400円。
KASKのInfinityは29,500円で、新製品のUTOPIAは国内価格がまだ発表されていないが、安くなることはないだろう。(→その後の情報で定価34,000円)
中でもMETのRIVALE HESは15,200円が最安レベル。イベントで試着させてもらったが、見た目的にはエアロ仕様というより普通のヘルメットに近い。
OGK AERO R1の競合製品はMANTAの方で、価格は23,800円だがシールド付きな分OGKの方がリーズナブルに見える。
徳之島のレース参加直前、ミドルでバイクパートも長いため、新しいヘルメットを試したいと思っていた。ネット通販で調べたところ、翌日配達の場合はマットホワイトS/Mサイズ、マグネットバックル版TRだけ在庫があった。
結果的に税込18,000円、定価の2,000円引きで翌日には入手してレースに間に合わせることができた。
通常バックルだとさらに安いが、磁石で着脱できるバックルもそこそこ役に立つ。金額的には大差ないので、TRの方を選んでよかったと思う。
海外製品よりコスパで勝るOGK
「次にヘルメットを買うなら見栄えのする海外製品」と考えていたが、OGKのエアロヘルメットもまんざら悪くない。控えめにKabutoのロゴが側面に貼ってあり、穴の数はGIROより多くMETのマンタと同じくらい。頭頂部の後ろにあるシールは目立たないが、いずれ剥がしてすっきりしようかと思う。
他社製品と似た丸っこいかたちだが、後頭部がGIROのAir Attackより尖っていて開口が大きくとられている。この部分が「ウェイクスタビライザー」という特許取得の独自形状で、後方の乱流を整える効果があるらしい。
その他、後頭部のアジャスターが上下可変になっていたり、交換用インナーパッドがついていたりする。2万円程度の高級ヘルメットとして、基本機能はしっかりしていそうだ。汗臭くなりがちなあご紐に消臭繊維が使われているのもうれしい。
空気抵抗が少ないと首も疲れない
さっそくAERO R1をかぶって多摩川サイクリングロードを軽く走ってみた。重量的にはS/Mサイズで215g、エアロヘルメットとしては軽い部類だと思う。今までかぶっていた安いヘルメットが重すぎたので、まるでWH-R500から軽量ホイールに乗り換えたくらいのインパクトがある。
実際に走ってみると、頭部にかかる空気抵抗が少ないことから「首が疲れない」というメリットがあることに気づいた。ヘルメット自体の軽さもあると思うが、風圧が減るとそれだけ首の負担も減るようだ。レースで前傾姿勢を続けると首や肩が疲れるので、重量・空気抵抗の面で「頭が軽くなる」のは非常にありがたい。
サイクルコンピューターの数値を確認すると、35km/hを越えたあたりで5~10%くらいスピードが増した。気分的なものもあるが、はじめてエアロバーを取り付けたときと同じくらいの効果を実感できる。
走り続けていれば蒸れない
気になる通気性だが、走行中は通常のヘルメットと変わらないくらいだった。OGKのうたい文句どおり、エアロ形状ながら効率的なエアルートが確立されているのだろう。
ただし信号待ちやスマホ確認のため停車すると、まるで頭だけサウナに入っているように猛烈に汗が噴き出してくる。インナーパッドの額部分はすぐに飽和して、シールドの中に汗がしたたり落ちてきた。視界を確保するため、Haloのような汗止めヘッドバンドは併用が必須だ。
絶え間なく走り続けて空気が供給されていれば、後頭部の大きな開口部から気持ちよく風が抜けていく。ヒルクライムなど低速走行でも、動いているかぎり頭部の蒸れはさほど気にならない。
しかし立ち止まったとたんに熱気がこもるので、コンビニに寄ると真っ先にヘルメットを脱ぎたくなる。夏場は信号待ちで止まるときですら、いったん脱いで汗を拭うほどだ。
「走り続けていれば蒸れない、足を休めると死ぬ」
自転車のエアロパーツ全般にいえることだが、その恩恵を得られるので高速度の領域のみ。漕ぎ出し時や上り坂では、重量が増え暑苦しさが増すだけの拷問器具と化す。たくさん汗をかけるのでダイエットには向いている。
慣れれば便利なマグネットバックル
信号待ちでヘルメットを頻繁に着脱していると、TRのマグネットバックルが役に立つとわかった。AERO-R1でTRが付く型番は、1,000円高くなるかわりにあごひもの留め具が磁石付きになる。最初は余計な機能かと思ったが、慣れるとなかなか使いやすい。
装着時はバックル同士を近づけると、磁石の力で引き寄せられて自動的にロックされる。ただしバックルの向きをそろえないと、表裏でくっついて失敗してしまう。
外すときは、バックル側面の出っ張りを親指で押してスライドさせると簡単に取れる。慣れればバックルの取り外しは片手で済ませられる。
磁石でくっついているだけなので、衝撃で外れたりしないか気になるところだ。あごひもを引っ張る方向に関しては、プラスチックのパーツがしっかり噛み合っているで不意に外れることはないだろう。
無意識に片手でバックルを外せるくらい練習しておけば、レースのトランジション中も焦ることなく着脱できると思う。買ってすぐだと普通のバックルと構造が違うので、かえって手間取るかもしれない。要は慣れの問題で、長期的にはマグネット仕様の方が着脱のストレスを減らせそうに思った。
わずか1,000円の違いなので、せっかく高級ヘルメットを買うならマグネットバックルを試してみるのもいいと思う。
シールドの着脱にはコツがいる
GIROのAir Attackに似たシールドは、反転させて上部に収納できる。
ただしこの状態だと前頭部の空気取り入れ口を塞いでしまうので、走行中の蒸れが増す気がする。普段の練習では付けるか外すか、どちらか選んだ方がよいだろう。
前頭部の磁石3か所でシールドを支持する構造になっているが、走行中はぐらつきもなく安定性は問題ない。顔との間に多少隙間があるので、シールドを付けたままハンカチを差し込んで額の汗をぬぐえる。
ただし、走行中にシールドを外して反転収納するのはなかなか難しい。マグネットが噛み合うまで何度か位置を調整する必要があり、サングラスのように片手で着脱するのは容易でない。
いろいろ面倒なので、レースのとき以外はシールドを使わなくなってしまった。練習時は普通のサングラスを併用している。
シールドの空気整流効果は高そうだが、蒸れ軽減と汗の拭きやすさを考えるとサングラスの方が使いやすい。
オプションでシールドを替えられる
デフォルトで付いているシールドは薄くグレーがかっていて、快晴の日には濃さが足りず、夕暮れはやや不安になる暗さで中途半端だ。シールドを着けると安いサングラスのように、視界がやや歪むのも気になる。
ARS-3 SHIELDという交換パーツが出ており、透過率92%のクリア仕様から最低20%のシルバーミラーまで種類を選べる。
特殊製法のため、重量も標準シールドより半分くらい軽くなる。ただシールド単体で5,000円以上するので、汎用性のあるサングラスに投資するか迷うところだ。
サングラスのレンズやエアロヘルメットのシールドは経年変化で傷がつきやすい。消耗品と考えて買い替える際は、ARS-3の方を試してみたいと思う。
ホイールより投資効果の高いエアロヘルメット
はじめて購入した本格ヘルメット、エアロ仕様のOGK AERO-R1 TRは軽量性と速度向上を実感できた。多少熱はこもるが、走り続けていれば風が入ってきて問題はない。
シールドと合わせて2万程度で済み、リムの高いエアロホイールを買うより費用対効果は高い。ハンドル・サドルのパーツ交換に合わせたポジション調整など、面倒な手間をかけずに空力性能を上げられるのもうれしい。
予算があればヒルクライム用の軽量ヘルメットと2種類、買いそろえて使い分けたいところ。しかしヘルメットは意外とかさばるので、保管場所の悩みもある。
AERO-R1なら適度な軽量性とエアロ効果で、あらゆるレースに対応できそうなポテンシャルを感じる。
※使用1年半後、シールドの使い勝手を評価した追加レビューはこちら。OGK Kabutoの新製品についても紹介しています。