トレイルランニングの大会としては初めて、「北丹沢12時間山岳耐久レース(通称キタタン)」に参加してみた。10月に申し込んだ「ハセツネの練習」という目的もある。
一週間前にコースの主要部分を試走して予想はしていたが、4回もピークを上り下りする労力は半端でなかった。総距離44.24kmに対する高低差1,143mという数字は尋常でない。
コースは過酷だが、夏場の熱中症対策としてエイドステーションは豊富に設けられていた。序盤の渋滞にはまってしまいタイムはいまいちだったが、トレランレースの走り方やペース配分などがわかって勉強になった。
相模湖駅からシャトルバス利用
今回は白ゼッケンの6:30スタート。エントリー時に申告したマラソンのタイムで割り振りが行われたようだ。この時間だと、自宅からから始発に乗っても相模湖駅を出る臨時シャトルバス(片道1,000円)では間に合わない。
道志みちや八王子で前泊することも考えたが、事前情報によると「最初の山で渋滞する」ということだった。多少スタートが遅れても構わないかと思い、臨時バスの次の便で会場に向かうことにした。
相模湖駅に着くとすでに会場行きのバスが待機していた。電車で到着した参加者を乗せるとすぐ出発。先週自転車で走った県道76号を南下して、30分程度で会場に到着した。大型バスで通るにはきつそうな山道だが、早朝はまだ車も少ないようだ。
結果的に6:30の白ゼッケン組スタート3分前に到着できた。事前送付のカードと引き換えでゼッケン、計測チップ、Tシャツと温泉入浴券を受け取る。そのまま走れる格好で来たので、荷物を預けてすぐ後方集団に加わった。
序盤の渋滞、ヤマビル退治
最初の水補給所を過ぎて登山口に入ると、噂に聞いていた渋滞が見えてきた。ひとり分の幅しかない登山道が人で埋め尽くされ、スタートから30分経ってもほとんど進まない。
これから平丸分岐に向かわれるスタッフの方と雑談していたら、足元でヤマビルがうごめいているのが見えた。
さっそく退治しようと思いライターを近づけたが、かわされて逃げられてしまった。火で殺すなら、チャッカマンでないと難しいらしい。ヒル退治の間に行列が進み始めたので、とどめを刺すのはスタッフさんに任せて先に向かった。
最初の山は標高が低く、分岐点を過ぎるとすぐ下りに変わる。みな序盤で体力があり余っているのか、早いペースで駆け下りていく。渋滞の最後尾なので急ぐ必要はないと思ったら、後ろの方からピンクゼッケンの7時スタート組が追い上げてきた。
キタタンで記録を目指すなら、最初の渋滞を回避するのは重要だ。最後尾ともなると30分はロスした気がする。あえて後半スタートのグループに加わって、後から飛ばして追い上げる作戦もありかもしれない。
ロード区間~立石建設の補給所
沢沿いに下りて舗装路に出てから、立石建設の分岐点まで約7km。日差しは強いが、標高はまだ低いので暑さがこたえる。ここで歩いている人も何人か見たが、次の渋滞まで順位を稼ぐため、なるべく走って通過した。
立石建設前では水分を補給させてもらえる。キタタンはコース上にこうした補給スポットが6か所も設けられている。
どうやらハイドレーションパックに水1リットルも背負って走るのは重装備すぎたようだ。10kmおきにある給水所でボトルに補給してもらえたおかげで、持ってきた水にはまったく手をつけずに済んだ。中にはウエストポーチ程度の軽装で走っている人もいる。
鐘撞山~神ノ川ヒュッテ
再び山道に入って鐘撞山に登り始める。予想通りここでも渋滞発生。次第に坂がきつくなると、一人また一人と行列から脱落していく。木にもたれたり、道端にうずくまって休んでいる人が増えてきた。
鐘撞山は杉の木の林になっていて、落ち葉の積もった路面は柔らかくて歩きやすい。山頂ではスタッフが鐘を鳴らしていた。
その後のフラット区間は休む間もなくみな走るので、ついていくのに必死。尾根分岐に向けて再び坂を登ると、次第に霧が立ち込めてきた。この坂も勾配がきついが、次第に標高が上がって涼しくなるのはうれしい。
尾根分岐からはしばらく下り。ダウンヒルのペースが速い場合、遅れた人は脇に避けて道をゆずるのがマナーらしい。シングルトラックの上り下りでは、ロードレースのような駆け引きも見られる。
中には滑ったり転ぶ人も出てくるが、慣れているのかすぐ体勢を立て直して走り始める。霧の中を集団で駆け下りていく様子は、まるでベルナルド・ベルトルッチの『暗殺の森』という映画の一場面のようだった。
猛スピードで山を下って、沢沿いのガレ場に到達。第1関門の神ノ川ヒュッテでは、バナナとキュウリが振る舞われていた。
「キタタンで食料補給はない」と思っていたのでサプライズ。結局のところ、このレースではボトル1本分の水と羊羹・ジェル程度の補給食があれば十分だった。バックパックで背負ってきた菓子パン類にも手をつけることはなかった。
犬越路~第2関門まで林道を下る
ここから日蔭沢源頭に向かって標高差400m、本日3回目の登り。距離は短いが、その分、局所的に勾配のきつい区間がある。
階段が設置されている部分はまだまし。途中に滑りやすい斜面もあった。グリップの効いたトレランシューズは必須だ。
滑落の危険がある場所では、スタッフが待機して注意を促している。同時にランナーの顔色を見て、体調が悪そうな人には休憩・リタイアをすすめているらしい。救護の無線を聞くと、熱中症で離脱するランナーが出始めているようだった。
犬越路のトンネルを過ぎると、また長い下りに入った。半分くらい舗装された林道だが、砂利道は尖った石が多く転ぶと危険。固いソールのトレランシューズでも、足裏が痛くなるくらいの悪路だった。
ここは道志みちから丹沢湖にショートカットできるルートなので、ロードバイクで走れないか地図で検討したことがある。この路面状況からすると、普通のタイヤではまずパンクして無理だろう。
路面は悪いが道幅は広いので、快適に飛ばして20人くらい追い越せた。トンネルを超えると第2関門の補給ポイントに到着。ここでは水のほかにクリームパンの配給も受けられた。
コース図ではここから平丸まで補給所がないはずだが、姫次にも私設エイドがあると聞いてほっとした。
袖平山~姫次の急登
ここから先は、先週の試走で走ったコース。袖平山まで800mくらいの標高差を一気に登る。
さすがに渋滞も解消されてきたが、遅い人がいるとしばらく団子になる。後ろがつかえていても、確認して脇に避ける余裕がないのかもしれない。登りで追い抜くのは無駄に体力を使うので、無理してパスする人もいない。
風巻尾根は同じくらいのペースの人たちと、何十分も並走するかたちになる。追い越す際に声をかけたりして、次第に世間話も交わすようになった。「キタタンは何度目の参加」だとか、「他にどんなスポーツをやっている」とか、きつい登りでも会話で気がまぎれるのはありがたい。
袖平山に到着しても山頂で休む人は少ない。この先は下り基調なので、姫次までは一気に走ってみた。途中で岩場もある区間だが、ものすごい速さで追い抜いていく人がいる。
姫次では聞いていた通り水の補給を受けられたが、人力で運んでいるので量に限りがあるとのこと。給水はコップ2杯にとどめて先を急いだ。
平丸~ゴール
ここから5kmほど、平丸分岐まではゆるい下りを快適に飛ばせる。分岐から先は曲がりくねった細い道に変わるが、もうゴールは目前なのでみなペースを落とさず猛スピードで下る。
道志みちの下をくぐって集落に入り、最後の岩場を過ぎて休暇村キャンプ場でフィニッシュ。ゴール後にスポーツドリンクとうどんをもらえた。
序盤の渋滞がなければ、もっとタイムを縮められたと思う。キタタンは富士登山競走と同じく、渋滞回避の戦略が重要なようだ。
キャンプ場に併設の温泉「いやしの湯」へは、受付時にもらった無料チケットで入れる。ここで汗を流して着替え、相模湖駅行きのシャトルバスに乗って帰宅した。
キタタン初参加の反省
レース翌日から1週間くらい、太もも前後に今まで経験したことのないくらいの筋肉痛を味わった。問題なく完走はできたが、あれだけの標高差を登って駆け下りたので負荷が強かったようだ。
マラソンとトレランは明らかに使う筋肉が違う。普段からアップダウンのあるコースを走って練習しておいた方がいいのだろう。
トレランのレースに初めて参加して気づいたのは、「登りは無理せず歩くが、平地・下りは恐ろしく飛ばす」という法則だ。急斜面の悪路でも、みなかなりのスピードで駆け下りることに驚いた。登りは追い抜くのがきついので、みんなで仲良く登山という雰囲気。しかしピークを越えて下りに入ったとたん、激しいバトルに変わる。
下りは歩幅を狭めてステップを増やすと安定感が増す。しかし自転車でケイデンスを上げるように、心拍の負担が増してつらくなる。「多少滑っても構わない」くらいの気持ちで踏み込み、つまづいても体勢を立て直せるバランス感覚が大事なのだろう。足元と行先を交互に見回しながら、勢い余ってカーブでコースアウトしないように注意する必要もある。
また、コースはたいていは道幅の狭いシングルトラックなので、ロードバイクの集団走行のように心理的な駆け引きがある。後ろが詰まると、脇に避けてパスさせてくれる人もいる。一方で、後ろを振り返る余裕もないのか絶対に道をゆずらない人もいる。そういう人を、脇道の藪に入って無理やり抜いていくランナーも出てくる。
マラソン大会よりエイドステーションは少ないと思ったが、キタタンに関しては水も食料も十分な量の補給を受けられた。慣れればバックパックは不要で、最低限の補給食とボトルを運べるウエストポーチがあれば十分だと思う。