変形性膝関節症に関する論文を読んで「ソールが薄くて柔らかい靴は、膝の内転モーメントを軽減する」という情報を知り、久々にベアフットシューズに興味を持った。膝の治療に役立つかと思い、新たに買ってみたのはXERO SHOESのJESSIEというサンダル。
ソールの厚みは6mmで、親指と足首だけで固定する最低限の構造だ。おそらく今国内で手に入るベアフットサンダルとしては、最も軽くてミニマムな部類でないかと思う。
1か月ほど履いてみたジェシーのサンダルをレビューしてみたい。親指まわりの寸法がきつかったため、一部改造してサイズ調整も行った。
サンダルの方が薄くて軽い
ベアフットシューズの代表といえば、ビブラムファイブフィンガーズ。街中で見る機会は減ったが、さまざまなバリエーションのモデルがまだ販売されているようだ。
ちょうどニューバランスのminimus MT10も復刻して店頭に並んでいたので、じわじわとまたベアフットの人気が出てきているのかもしれない。
季節的に今回はベアフットのサンダルを買ってみることにした。ソールの薄さと軽さで比べれば、通常シューズに勝るはずだ。
夏場に近所を歩く際は、通気性のよいサンダルを履く機会が多い。仕事で人に会う機会が減ると、一日中サンダルで過ごす日が増える。真冬はさすがに冷えるので靴を履くが、計算するとだいたい5~10月の間、約半年はサンダルを履いて過ごしていることになる。
ルナサンダルより安いゼロシューズ
ゼロシューズソールの薄い製品で有名なのは、ルナサンダルだ。10年ほど前に流行ったときは、ビブラムと同じくらいよく見かけた。舗装路のマラソンだけでなく、ハセツネのトレランレースでルナサンダルを履いて走っている人もいた。
まだ日本にも輸入されているので購入候補として検討したが、現行モデルは昔よりソールが厚くなってしまっている。最も軽いベナード2.0でも厚さ9mmはある。販売価格も1万以上して、この手のサンダルとしては高級品だ。
ルナサンダルも一度は試してみたいが、もっと軽くて値段も安い「ゼロシューズ」というブランドを見つけた。最安のジェネシスで税抜5,800円。ソールの厚みは6mm、重量は27cmで170gとなっている。
調べた限りこれより薄くて軽いサンダルは見当たらなかった。値段も手ごろなので、今回はゼロシューズの方を選んでみることにした。
あえてジェシーを選んだ理由
XERO SHOESのサンダル・ラインナップとしては、GENESISかCLOUDが定番だ。Z-TREKやZ-TRAILはストラップが太くて安定しそうだが、その分重量も増える。
それとはまた別に、JESSIEという見た目がきわめてシンプルな製品も存在する。足首のホールドはZ-TREK/TRAILより幅の狭いテープで、つま先は親指をループに引っ掛けるだけ。Womanモデルしかないが、サイズを選べば男性でも履けるらしい。参考重量は24cmで135g、ソールは5.5mm。パッと見はジェネシスより軽そうなイメージがある。
ジェシーを履いた見た目は「ほとんど裸足」。仕事はもとより、公共の場所で履くには少しためらわれるかもしれない。ビブラムファイブフィンガーズほどではないが、周りの人からはかなりアバンギャルドに見られるだろう。
親指で支持するタイプのサンダルは、以前TevaのZILCHを履いていたので感覚はわかる。その究極的ともいえる外観に魅力を感じて、あえてジェネシスやクラウドではなく、ジェシーを取り寄せてみることにした。
歩き方が変わる。楽しくなる
それまで履いていたモンベルのスリップオンサンダル(ソール厚10~15mm)に比べて靴底の厚みは半分以下。素材も固めのラバーなので、接地感覚はかなり変わってくる。
むやみにかかとから足を下ろすと、地面に当たってガツンと衝撃が来る。膝に悪いという以前に足が痛むので、自然とゆっくりフォアフットで着地するようにフォームが改善される。足音を立てないよう、そろそろとつま先で歩くような感じになる。
端的に言って歩行スピードは落ちる。路面の障害物にも注意するようになり、足運びがゆっくり丁寧になる。タイムを競うレースとしては不利かもしれないが、リハビリ中はスローペースで問題ない。もともと速足で歩くタイプなので、意識して「ゆっくり歩く」というのは新鮮な体験だ。
まるでロードバイクから小径車に乗り換えたように、風景を楽しみながらウォーキングできる。ジェシーを履いて歩くのが楽しくなり、特に用事はなくても散歩に出てしまう。これは「歩きはじめた赤ん坊」のような気持ちでないかと思う。
ただしこの手のベアフットシューズは足慣らしが肝心。調子に乗って長い距離を歩いたら、右のかかとが痛くなった。マメやタコができたわけではなく、圧迫されて皮膚が赤くなっているような状態だ。1日休めば治ったが、毎日少しずつ履いて足を慣らす(鍛えていく)のがよいのだろう。
グリップ性・耐久性は問題ない
ゼロシューズのソールはしっかりした凹凸が刻まれており、グリップ性はまったく問題ない。そして足のつま先・かかとの下は水平に深い刻み目が入っているので、より柔らかくソールがしなるよう工夫されている。このあたりは値段相応にしっかり作り込まれていると感じた。
安物のビーチサンダルよりは確実に地面を捉えてグリップするので、このままトレイルも歩けると思う。足首まわりのホールド感も十分だ。当面ジェシーで走る予定はないが、ベアフット走法で足裏やふくらはぎを鍛えている人なら、十分にこのサンダルで走れるだろう。
薄いソールのデメリットとして、路上の小石を踏むと足裏が痛む。それでもちょっとツボを押されるくらいの刺激なので、繰り返されなければ耐えられる。さすがに用心して歩くので、画鋲や釘を踏み抜いたことはまだない。
ソールの屈曲性はよいが、素材自体はEVAより固めのラバー。自転車のタイヤよりも強度は高い。よほど鋭利なものを踏まなければ、貫通して足裏に刺さることはないと思う。
XERO SHOESはこの製品に対して「5,000マイル(=8,046km)」の耐久性を保証している。実際のところ毎日1か月履いたくらいでは、ほとんどソールが摩耗しなかった。2~3年は余裕でもつと思う。
地面の熱が伝わる
ソールの薄さについてもうひとつ懸念があるとすれば、地面の温度がダイレクトに伝わるということだ。夏場の日差しで温められたアスファルトを歩くと、足の裏が熱いと感じることがある。
さすがに街中で「地面が熱くて歩けない」ということはないが、焼けた砂浜では厳しそうだ。本来の用途どおりビーチサンダルを海辺で履くなら、ソールの厚さは10mm以上かつ熱伝導性の低い発泡素材がベターだろう。
ポジティブに評価するなら、「路面の熱を感じる」というのは新鮮な感覚だ。ベアフットで路面の凹凸を敏感に感じられるように、足裏の神経を刺激する効果があるのではないかと思う。足裏を鍛えるだけでなく、マッサージ効果のようなものも期待できるかもしれない。
着脱に時間がかかる
ゼロシューズのサンダルはいずれも足首をストラップで締める方式。そのため玄関先での着脱には時間がかかる。膝が曲がらないと、しゃがんで紐を触るのも一苦労だ。
その点では、手で触らなくても履いたり脱いだりできる突っかけタイプや、鼻緒が自立してそのまま足を通せるサンダルの方が楽といえる。モンベルのスリップオンサンダルは固めの紐が形状を保つので、着脱が容易でありがたい。
モンベルに比べるとジェシーの紐は柔らかいので、ペタンと倒れてしまう。サンダルを履くときは、まずこれらの紐を手で起こしたうえ、足を通してマジックテープを締めるという3ステップの動作が必要になる。
ストラップの改造案
足首でホールドする分、歩行時の安定感やかかとがペタペタ鳴る現象は抑えられる。着脱の手間はその代償なので、我慢するしかない。
ジェネシスやクラウドの紐に細工をすれば、アキレス腱のホールドを省略して鼻緒だけで突っかけることもできるかもしれない。フィット感が低下するおそれはあるが、余裕があればぜひそちらのモデルも購入して、工作を試してみたい。
ジェシーの親指がきつい
XERO SHOESのベアフットサンダル、ジェシーをUS9(26cm)のサイズで購入したら、親指の輪がきつかった。無理して指を通せないことはないが、うっ血して痛くなる。いろいろ考えた末、親指の紐を切ってゴム素材で補強する改造を施した。
実寸より少しゆるめになってしまったが、装着時の快適さは大幅にアップした。他のサンダルでも使えるテクニックかもしれないので、加工方法をメモしておこうと思う。
ジェシーのストラップを分析
自分の足のサイズは正確に測ると左26.5cm、右26cmという寸法。スニーカーなら実寸よ1センチ大きめを選ぶのが定石だが、ゼロシューズのサンダルはジャストサイズが合うようだ。
退院後まもなく松葉杖の状態だったので、ショップの店頭で試し履きする気力がない。実際どこのお店に置いてあるかも不明だったので、一か八かで通販を利用することにした。サイズは迷ったが、タイト目のWomen US9(26cm相当)を選んでみた。
届いたサンダルは狙い通りにジャストフィット。ソールの上下長さは足にぴったりだ。しかし想定サイズより足が幅広なのか、たまに小指がはみ出て地面に着いてしまう。
また、親指のループが自分の足にはきつすぎる。ぐいぐいねじ込めば入るが、そのままじっとしていると締め付けられてイライラしてくる。脱ぐ際はもっと大変で、まるでサイズの小さすぎる指輪をはめたときのように困った状態になる。関節の太くなった部分で引っかかって抜けない。
苦肉の策でループに足の人差し指を通してみたら、こちらの方がまだ収まりはいい。しかし人差し指一本でつま先側を支持するのは、若干不安な感覚だ。歩けないことはないが、指に変な負担がかかりそうで気になる。
通販なのでサイズ違いによる返品は効かない。たとえサンダルでも…いや寸法合わせがシビアなベアフットサンダルだからこそ、店頭で試着してから買うべきだった。毎度のことながら、シューズのサイズ選びには苦労する。
Teva ZILCHとの比較
足の上下がぴったりということは、設計者が意図した寸法より自分の親指が太いということなのだろう。幅もいくぶんはみ出るところを見ると、アメリカ人と日本人の平均的な足の違いが表れたように思う。
以前履いていたTevaのZILCHは親指のループが二重構造になっていた。伸縮性のない素材だが、輪っかを2つ組み合わせることで、サイズにゆとりを持たせつつ強度を高めたのだと思う。
それに比べてゼロシューズのジェシーは柔らかいナイロン製の紐になっているが、伸縮性はほとんどない。幅も細くて、あくまでミニマムな外観と構造のシンプルさを狙ったデザインなのだろう。
加工方法の検討
このままお蔵入りさせるのはもったいないので、思い切って親指の紐を改造してみることにした。裏側の固定個所を観察すると、紐の端部をプラスチック素材で挟んで、ソールのくぼみにはめているだけだ。同じ構造を実現できれば、手製の紐に替えられそうに思う。
あるは既存のベース部分を生かしつつ、上に見えているストラップ部分だけ拡張する案もある。具体的には親指の紐をいったん切ったうえで、以下のような加工が考えられる。
- ベルクロを重ねて自由な長さで固定できるようにする(足首部分と同じ方法)
- ゴム素材のブリッジを追加して伸縮できるようにする(サイズ調整は不可)
手芸用品のユザワヤで素材をみつくろったところ、ゼロシューズの紐とまったく同じものはなかったが、似たようなナイロンの編み紐やマジックテープは見つかった。
いろいろ考えた末、今回は見た目のシンプルさを優先して、ゴム紐を重ね縫いして寸法を広げることにした。購入したのは9mm幅のゴムテープ。単純に紐を切って上に重ねるだけだが、ゴム素材なら足が多少むくんだりしても対応できるはずだ。
ゴム紐の取り付け方法
サンダルの親指部分、紐の上部をハサミで切断。
ナイロンの編み目がほどけてバサバサになったところをライターで炙り、溶かして固定する。
腕時計のベルトやバックパックのストラップなど、長すぎるナイロンベルトを短くする際に使えるテクニックだ。はんだごてを使えばより正確に作業できるが、コテ先が汚れる恐れがある。今回のような単純形状ならライターで十分。作業時は換気に注意すること。
自分の足に合わせ、元の紐より長めにゴム紐を合わせる。TevaのZLICHを見習って、ゴムテープは2枚重ねて取り付けることにした。元の紐を土台にして、サンドイッチする作戦だ。
手芸用の糸と針で丹念に縫い付けていく。不器用なので縫い方は汚いが、密に縫ったので強度は十分。同じ黒色なので、近寄ってみないと加工の粗さには気づかないと思う。
少し大きくしすぎた
仕上がりを見ると、元の寸法から1.5倍くらい直径を拡大できた。親指を通してみるとちょっとぶかぶか。その代り、サンダルを履く際は手を使わなくても指を通せるようになった。指先を引っ掛けてぐいぐい押し込めば、ゴムが変形してスルッと履ける。
歩く際に少しつま先がぶれる感じもするが、足首はしっかりホールドされているため、勝手に脱げることはない。かかとのパタパタするビーチサンダルのが、前後逆になったような感覚だ。実用上は許容範囲だが、もし気になるなら、もう一度縫ってゴム紐を短縮すればよいだろう。
親指のループがゆるいおかげで、厚手の足袋型・5本指ソックスも履けるようになった。靴下で防寒すれば、10~11月の涼しい季節まで使えるのではないかと思う。
1か月ほど毎日履いて歩いてみたが、縫い目がほどけたり、ゴム紐が伸びてしまうトラブルは出なかった。フィット感は大幅に向上したので、改造を試してみてよかったと思う。ジェシーと似たような構造のサンダルで、サイズ合わせに困っていたら使えるテクニックだ。