ファンコイルユニットの図面表現と温水プールで使えそうな水式ソーラー

記事内に広告が含まれています。

平成29年のリゾートホテル課題で面食らったのは、名峰やコンセプトルームだけではなかった。敷地図が下書き用紙の1/4を占め、1/400平面図を書くスペースが足りない、配置階・面積指定された機械室・電気室など、イレギュラーな要素がじわじわと受験者のメンタルを揺さぶる仕掛けになっていた。

その中でも大打撃だったのが、空調設備の「外気処理空調機+ファンコイルユニット方式」、給湯設備の「熱源機器+貯湯槽による中央給湯方式」という指定だった。事前に入手した課題の解答例では、ホテルということで給湯はポンプ直送方式が多く、空調にいたってはパッケージ方式しか学習していなかった。

製図試験、設備計画の条件指定

2度目の製図受験に向けて、昨年の設備で失敗した点を振り返ってみたい。

昨年の空調設備、記述パターン

リゾートホテルの記述、設備計画に関しては、

  1. 空調方式:空冷ヒートポンプパッケージ方式
  2. 採用した理由:各室ごとに個別制御可能、CO2発生量削減、省エネルギー効果、環境負荷低減に有効、経済性に優れる…etc.

のワンパターンでいけると思っていた。さらに細かく機器の設置方法まで問われたときは、

  • エントランスなど吹き抜け部分は天井折り上げ部からのノズル吹き出しタイプ
  • 客室は天井隠ぺい型
  • 多目的ホールは床置きダクト接続型
    ※暖気が天井付近に滞留しないよう吸気口を床付近に設ける

というバリエーションで暗記していた。

学科の方に出てきたファンコイルユニットも、個別制御できるのでホテルの客室に向くと覚えた気がする。ただ図面上でどう表現するか、セットの「外気処理空調機」とは何なのかイメージできず、一発でパニックに陥った。

それより大事な敷地図の名峰矢印を見落としたのも、設備でつまずいたのが原因のひとつだったといえる。本番ではこうした焦りが積み重なって、後から考えると信じられない凡ミスを誘発することがある。

過去にもファンコイルの指定はあった

過去問をさかのぼって調べると、「単一ダクト+個別方式」や「空冷ヒートポンプマルチ型エアコン」など空調方式が指定されていた年もある。指定の有無は半々くらいだが、標準解答例は2つとも同方式が多いので、設問によって事実上、採用すべき空調方式が絞られると考えた方がよいだろう。

その意味では、「リゾートホテルならパッケージ方式でOK」というのが日建学院の予想だったと思われる。振り返れば平成20年ビジネスホテルの解答例で、客室はパッケージでなくファンコイルユニットになっていた。同じホテルなら、当然このパターンも押さえておくべきだったといえる。

セレブなリゾートホテルに、いかにも業務機器という無粋な見た目の床置露出型FCUは似合わないという先入観があったのかもしれない。湖に面したリゾートホテルらしい敷地なのに、間口4mの極小ツイン客室を詰め込むという設問がそもそもいやらしい。

各客室にDSまでは必要ない

課題文を読みながら、「省エネで経済性に優れ、いいことづくめだから…」と無理やりパッケージ方式で押し通すことも考えた。しかし、指定の設備方式を無視するのは、眺望規定に違反するくらい大減点になったことだろう。

わずかな知識でファンコイルユニットを想像すると、

  • 機械室から冷温水を供給して各室で冷温風に変える→各室にPSが必要
  • 空気が室内循環して新鮮空気を得られないから別途外気も供給→各室にDSも必要?

というイメージが思い浮かんだ。温度調整用の水と、新鮮空気を分けて送る必要がある。だから「外気処理空調機」がセットで必要なのだ。ここまでの解釈は合っていたと思う。

しかし「水と空気を分けて送る」という条件から、すべての客室にPS/DSが両方必要と思い込んだのが誤りだった。1/400プランを下書きしながら「ただでさえ狭い35㎡の客室Aがパイプとダクトで管だらけ」という状況に違和感を覚えた。壁の凹凸と設備スペースのバッテンが増えるので、作図も余計に時間がかかる。

各階に空調機械室設置が無難か

結局、標準解答例では2案とも、2部屋共用のPSを1㎡程度置くかたちになっていた。1階と2階にそれぞれ空調機械室ないし屋外空調機置場を設ければ、天井からの配管で各部屋にDSは不要という解釈なのだろう。だから設問で、空調機械室だけ地階指定でなく「適宜」になっていたと考えられる。

製図試験、設備関連の要求室

日建学院の解答例では、1階にしか空調機械室がなく、しかもその部屋にはPSしか通っていない。天井か床下にダクトスペースを設けて、2階の客室には水平方向に空気を送っているのか謎である。

試験直後に公開されたTACの解答例(6×7グリッド)にいたっては、外気に面していない地階奥深くに空調室があるのみで、どうやって客室に新鮮空気を送るのか不明だ。断面図にアースチューブの記載はあるので、もしかすると無窓の空調室までチューブで熱交換しながら給気する、ウルトラCな組み合わせ技なのかもしれない。

講評でも「単一ダクト方式で給気・還気し、各室に冷温水を送り…」とあるが、そもそも単一ダクト方式は空調された空気を送るはずなので、ファンコイルユニットが不要になるのではなかろうか。あるいは「給気・還気を分離した二重ダクト方式ではない」という意味で単一ダクトといっているのだろうか。

注釈がなければそこまで想像できないので、後から出た標準解答例と見比べると、TACの6×7版は空調設備の表現についてNGな解答例に見える。スペースにゆとりがあれば、昨年は各階に空調機械室を設置するのが無難だったといえる。

素人がつまづく設備の壁

実務で設備機器に触れた経験がないと、こういう問われ方は厳しい。設問と解答が一対一で対応しているなら(意味は分からなくても)暗記で対応できる。しかし、複数の答え方があって微妙な差異まで問われるとお手上げになる。そこまで細かい話は、市販のテキストに載っていない。

図書館の参考書で調べてみたが、各空調方式のざっくりした概念図と、ボイラやポンプの細かい形式しか説明がない。「平面図でどう表現するか、DS/PSの配置パターンや面積はどの程度必要か」など、試験に必要な実践的な情報は書籍で得られないようだ。

わからないことを、会社の先輩や同僚に聞ける環境がない。そもそも住宅設計のレベルではFCUや中央給湯方式を扱うことはないのかもしれない。設備関連の疑問を解消してすっきりするには、結局スクールに通うしか解決策がなさそうに思われてくる。多少お金を払っても、その方が早いのかもしれない。

温水プールに使われる水式ソーラーシステム

学科試験の独学向け参考書として紹介した、菊池至さんの『これだけ!○○設備』シリーズ。製図試験にも役立つ知識が紹介されている。

空調・給排水の部分はいまいち製図課題に使える感じでなかったが、アクティブ/パッシブソーラーの解説が詳しくて勉強になった。ソーラーシステムとは太陽光パネルで発電するだけでなく、水や空気を温める熱源としても使えることも知った。

「水式ソーラーシステム」と紹介されているが、屋根の集熱器を通す熱媒は不凍液が使われるようだ。これを蓄熱層で水と熱交換してお湯をつくる。天候によっては安定供給できないので、補助熱源も加える。

水式ソーラーシステム

いまどきの戸建て住宅やマンションにはあまりなさそうだが、中国に出張した際はかなり多く見かけた。パネルの上部に貯湯槽があるタイプは、熱媒でなく直接お湯を温める方式だろう。

水式ソーラーシステムは設備が比較的シンプルで、エネルギーの変換効率も高いので、一般住宅に限らず、学校、工場、温水プールなどさまざまな建物や施設の給湯に利用されています。

(太字は筆者)

今年のスポーツ施設で屋上にソーラーパネルを書くなら、発電用途でなく「給湯用ソーラーシステム」とでも注記しておいた方が、「わかっている」と評価されるかもしれない。近所の温水プール付きスポーツ施設を上から眺めることができたら、屋上に温水生成用の集熱器がないかチェックしておきたい。