製図試験、平成30年「スポーツ施設」解答例の特徴は「非常口の多さ」

これから一級建築士の製図試験を受験される方のために、平成30年課題「スポーツ施設」標準解答例の見どころをいくつか説明していこうと思う。まずは2案に共通してみられるエントランス方向、そして「1階にある非常口の多さ」というポイントから。

ああ問われれば、こう答える

あらゆる試験に共通する勉強法として「過去問題の研究」は欠かせない。しかし製図試験の解答例は図面として出てくるので、初受験の人にはいまいち理解しにくい。実際に試験本番の緊張の中で、課題を解いたかどうかという経験の有無によっても見え方が変わってくるだろう。

参考までに、今年の図面は「ここがすごい」「これもありだった」というようなポイントを取り上げてみたい。

(テクニック)
「課題文で○○と問われたら、△△と解釈して、□□と図面で表現する」

(例)
「…との動線に配慮」→2要素を最短距離でつなぐ→なるべく近接させ、できれば通路より直接出入口を設け、その経路も多ければ多いほどよい

こういう持ちネタのレパートリー(デザインパターンやルール集)を増やしていくのが、受験勉強におけるひとつの戦略だ。

エントランスは北・西推奨

議論の的だった利用者用エントランスは、結局2案とも北と西に1個ずつだった。西は敷地内の施設全体のメイン動線といえる桜並木に接続。北は駐車場・駐輪場に接続。管理者エントランスも北に向いている。この点に関しては、大方の予想どおりだった。

「いちばん幅員の広い道路(今回は東側)にメインエントランスを設ける」という予備校の指導方針に対して、あからさまな揺さぶりをかけてきたともいえる。課題文で「エントランスを北側又は西側に設けた場合には…」と説明が続くのが、実はヒントだったのかもしれない。

プールの設置階と向きは①②でバラバラだが、エントランスの方角と数は2案とも一致している。すなわち、これ以外の配置パターンは採点に不利だったと想像される。しかし、先に日建学院の公開している統計を分析したとおり、南や東に設けたとしても合格することはできた。

1階にある出入り口の多さ

標準解答例を見て気づいたのは、1階の外壁に設けられた「人の出入りできる」扉の多さだ。数えたら①で10個、②で9個あった。どちらもゴミ置場の開口部は除いてある。

スクールの課題を見慣れた人からすると、かなり多いといえる。なぜなら普通は、

  1. 利用者用のメインエントランス
  2. 管理者用のサブエントランス
  3. 厨房や機械室の直接出入り口

3はオプションとして、出入口は最低2個、多くてもせいぜい5個くらいというのが常識だからだ。まれに主要道路と反対側の公園に、利用者用サブエントランスを要求されるくらいのバリエーションしかない。

今年の課題でエントランスは、「いずれに設けてもよい」という指定。また他施設との一体利用の観点から、「複数設けてもよい」という可能性が暗にほのめかされていた。しかし解答例を見ると、利用者用・管理者用の通常玄関「以外」の出入口が、異様に多いことに気づく。

解答例①カフェ周辺の奇妙な扉

カフェと屋外テラスは「動線に配慮」というフラグが立っていたので、直接つなげて扉を設けるのが定石だ。2案とも余分目に2つは出入口を設けている。しかし解答例①のカフェで北側の扉と、南に向いた扉はちょっと変な配置にみえる。

前者はレジから微妙に死角となる、「カフェの外」とみなせる場所だ。後者は屋外テラスというより、幅2mの用途不明なデッキにつながっている。もしチェーン店のカフェのように、レジまで注文しに行くセルフサービス方式なら、混雑する客席の中をかいくぐって行き来しないといけない。

南の出入口はほかよりサイズも小さいので、「避難用の非常口」という扱いなのだろう。そして隣の食育コンセプトルーム、プール南の扉も非常口ととらえるのが妥当である。解答例②では、キッズルームに1つ、子育て支援コンセプトルームに2つ、このような非常口らしきものが見受けられる。

館内どこでも2秒で避難

平成30年の「今年の漢字=災」から、足切り項目が「防火区画」だったのではないかと推測した理由はここにある。例年の答案例に比べて、「1階の非常口が異常に多い」のだ。

かつて1階プールのメリットを、「玄関開ければ2秒でプール」と表現した。そして標準解答例はどちらも、「館内どこでも2秒で避難」といえるくらい、万全の防災対策になっている。

たとえば「この建物に耐震偽装が発覚しました。あと30秒で倒壊します。すみやかに避難してください」と館内放送が流れたとする。スパイ映画みたいな緊迫したシチュエーションだが、1階にいれば最寄りの出入口から避難して助かる(両案とも屋外階段はないので、2~3階にいたらイーサンやボンドでないと無理だろう)。

パッシブデザインにも有利

地上階にむやみに開口部を設けるのは、防犯上好ましくないという見方もできる。しかし夏期に網戸でもつけて開け放せば、「自然通風でパッシブデザインも実現できる」という工夫に変わる。

防災・省エネの観点から、1階エントランスが常識の2倍は多かったというのが、平成30年標準解答例の特徴だ。そして受験テクニックとしては、

隣に建物がなく、プライバシー・セキュリティー上の懸念もないオープンな敷地なら、1階にはなるべく多く開口部を設けた方がよい。

という一般法則を導くことができる。

標準解答例2案に現れる共通要素

今回分析した、「利用者エントランスの方向」「1階の非常口」という2つの観点は、2つの標準解答例どちらにも共通してみられる特徴である。そして、採点のヒントがこの図面でしかない以上、「どちらにも共通して見られる現象は重要度が高い」と推測することができる。

たとえば平成28年「子ども・子育て支援センター」の標準解答例によると、①②に両方出ているアースチューブは、この年の足切り事項だったのではないかとすら考えられる。

解答が出てから事後的にしか検証できない方法だが、「解答例2案の共通要素を探す」というのは過去問分析のヒントになると思う。