まだプールで消耗してるの?平成30年一級建築士製図試験の中間報告

一級建築士の製図試験が終わってはや2週間。10月も残り少なく、世間はハロウィーンで盛り上がっているというのに、モヤモヤした気持ちで過ごしているのは当試験の受験生くらいだろう。

そろそろ飽きてきた

試験の講評や解答例もあらから公開されて、12月の合格発表まで試験業界は閑散期とみえる。予備校の営業担当さんだけは、休む間もなく未完組やランク4内定者の勧誘に精を出しているかもしれない。今年も暑い夏を乗り切った講師の先生方は、渦中のサウジアラビアにでもバカンスに出かけている頃だろう。

試験前後に思いついたネタはほぼ出し尽したので、今年の課題レビューについてはいったん中締めとさせていただこう。結局ここでいくら議論しても、採点に何の影響もないことは明白だ。プールやエントランスの話もさすがに飽きてきた。

なにか不可解な事件が起こったとして、「神や悪魔の仕業」と理由を考えなければ落ち着かないのが人間というもの。株式市場が本質的にランダムウォークだとしても、「誰か説明してほしい」というニーズがあるから、アナリストや経済評論家がいるのだろう。製図試験の講評も似たようなものだと思う。

昨年のリゾートホテルに比べると、今年のスポーツ施設は論点がいくつもあって、いまいちつかみどころがない。去年の今頃は、客室がすべて南東に向いていないとダメなのかという点を巡って、「結婚と独身どっちが幸せ?」くらいの激論を戦わせていた。「12月の合格発表まで独り身だと落ちる」というジンクスまで発生し、年末のホテルは北向き客室に願をかけた予約者でいっぱいだったという。

しかし今年は「エントランスの数と方向、プールの位置すらどこでもあり」という風潮に落ち着いてきている。昨年の宗教裁判に比べると、「プールはバツイチ、バツニ、未婚も既婚も誰でもOK」くらいのバリアフリーな様相だ。プール1階の原理主義者でさえ、この試験業界の片隅に、息をひそめて生きることを許されている。

結局どうでもよさげなプールと出入口

常識的に考えて、あの設問ならどこにエントランスを設けても公平に採点してもらわないと困る。今年は「プール3階、出入口は東側のみ」という極めてマイノリティーからも合格者が出なければおかしい。もしエントランスに関して足切条件が設定されているとすれば、課題文の日本語表現から研究し直さないといけない。

プールの設置階も構造・設備的な優位性が議論されたが、どの階に置いてもメリット・デメリットがあって評価が難しい。結局この試験で最優先の評価基準は何なのか、標準解答例によって知らされることになるだろう。もしかすると、今年の解答例はプール各階配置で3案発表されるという、これまたサプライズな展開になるかもしれない。

「多数派が受かる」の本当の意味

ほかの受験生に数名インタビューしたが、プールは全員2階だった。とある情報筋によると、今年のプール1階組は統計的に1割程度、去年の北客より少数派らしい。「多数派プランが有利」といわれるこの試験では、よほどほかの部分で出来が良くない限り、1階プールの逆転合格は難しい気がする。

ただ、「少数派だから落とす」という採点基準は国家試験としてどうかと思う。建築士の資格とは、プールやエントランスの美人投票によって決まるのだろうか。それなら受験生は製図より行動経済学でも勉強した方がいい。

よく考えると「多数派が受かる」という法則は、単に「できる受験生はたいてい同じようなプランを選ぶ」という意味ではなかろうか。ランク3~4の受験生は、面積オーバーや設備配管がおかしいだけでなく、全体的に奇妙なプランを書いているはずだ。「まじめに勉強して常識的に考えたら普通こうなるよね」というプランが、上位4割の合格圏内で多数派を占めるのは当然といえる。

中にはランク1の実力を持つのに、試験本番で考えすぎてアクロバティックなプランに挑戦する人もいるのだろう。自分で勝手に難易度を高めて首を絞めてしまわないよう、「素直に思いつくプランを選べ(考えすぎるな)」という教訓に過ぎないのかもしれない。

コンセプトルームへの期待

もし試験元が、大手スクールが牛耳る受験業界に一石を投じたいと考えているなら、今年の試験ではぜひ少数派から合格者を拾い上げてほしい。「もうプールの自然採光を優先しすぎて、屋上に設けちゃいました」くらいの過激な発想こそ、今の建築業界に必要とされているコンセプターだ。

「多数派」という観点でいうと、図面よりも記述の方が画一的になりやすい。今年の試験も、ほぼ予備校の解答例を合成すれば行間を埋められた感じだ。「コンセプトルーム」の定番化とは、「記述はむしろユニークな提案を歓迎します」という試験元のメッセージではなかろうか。

今後の課題に絶対流用できないくらい、ものすごいコンセプトが寄せられていたら、標準解答例と一緒に公開してほしい。資格試験と別枠で、「おもしろコンセプト日本一」くらいの公開二次審査があってもいい。そうすれば製図試験の勉強がもっと楽しくなると思う。

試験後によく見る夢

相変わらず今年も試験後にエスキースする夢をよく見る。中には平面的なシミュレーションだけでなく、見学コーナーからプールの様子を見たり、桜並木から花が散ったり延焼したりする立体的な夢も登場した。

一通り採点が終わると、きわめてユニークな答案が二次審査に回されるらしい。英国建築協会付属建築学校を退官した、サーの称号を持つスポーツ施設の権威。ゾーニンガー博士とドーセンジャー教授が、一枚の図面を前にして議論している。

どうやら今年の最優秀作品は、1階プールで3層吹抜けという、奇跡の自然採光MAX案が選ばれそうだ。

“O, wonder! How many goodly skylights are there here!”

“How beauteous section is! O brave new wellhole. That has such pool in’t!”

出題者の意図をもっとも的確に反映した3層プール案にプリツカー賞を授与。そして試験は不合格みたいな夢。