製図試験の効率的勉強法~OJTより意思決定のプロセスを言語化した規則集

2度目の製図試験を終えて、今年の勉強法がこれでよかったのかと反省している。なるべく多く予備校の答案を入手して、課題に応じた解法パターンのようなものを図形的に暗記して対応できないかと考えたのだが、逆に発想が貧困化するデメリットもある。

特に今年のスポーツ施設のような自由度の高い課題では、事前に覚えたパターンを適用しにくかった。試験対策としては、図形的なパターンより言語化されたルール(条件AならBと表現、など)の方が重要な気もする。

年々強まる予備校潰しの傾向

いわゆるデザインパターン的な考え方で、気づけば試験本番の提出案は、日建学院課題3BとTAC課題2を微妙に合成したようなプランになった。1階プール・機械室配置~3階プール上は屋上庭園というかたちだ。一応、予備校の前例を元にしたので、まったく間違いではないそこそこの案ができたと思う。

ただし、1階にカフェもコンセプトルームも無理やり詰め込んだので、室面積にしわ寄せがきて減点は覚悟している。そもそも今年の課題は、「従来の考え方ではエントランスの方向が推測できない」など、資格学校の指導の裏をかくような傾向が顕著にみられた。

どの階にプールを置いてもメリット・デメリットが出てきて、スクールの模範解答のようなスカッとした解き方ができない。長年の癒着関係を解消しようという試験元の意図なのか、予備校潰しの傾向は年々強まっているように思う。

製図試験に必要なのは、ビジュアル的なデザインパターンよりも、意思決定のルールブックではないかと気づいた。「こういう敷地や特記事項なら、こう解釈してこう解く」という規則集みたいなものを言語化すれ共有すれば、適用すべき図形的パターンを間違うことなく選べる。また、ボキャブラリーにない室配置を本番で思いついたとしても、汎用的なルールで内容を評価して採否を決めることができる。

来年の再々受験に向けて、製図試験の勉強方法をもう一度考え直してみたいと思う。今までのように予備校の課題に頼らない、合理的な勉強法はないかという点に興味がある。

製図試験の効率的な勉強法を考える

暗記がすべての学科試験に比べると、二次の製図についてはあまり「効率的な」勉強法というのが思いつかない。構造や設備の基本的な知識は、市販の参考書や予備校のテキストで身に付けられる。記述も基本的に解答例を暗記して組み合わせる方法で対策可能だ。

作図は何度も繰り返して、体に覚え込ませる必要がある。時間はかかるが、20枚くらい図面を書けば、誰でも3時間で一通り図面を書き上げるスキルが身につく。不器用で絵も下手な自分ですら、作図だけは根性でスピードアップできたので本当だ。むしろ設計のセンスなどなくても、忍耐力で何とかこなせるという希望が、作図にはある。

そして試験の肝となるプランニング、エスキースについては、有効な学習方法というのがよくわからない印象だ。2年も勉強したが、ほかの教科に比べて人に「こうしたらいい」と自信を持って説明できるノウハウがない。

しかし、毎年これだけ多く9千人くらいの受験生が製図試験を受けているのだから、何かしら効率的な学習方法というのを科学的に検証できそうな気がする。1年目は独学で訳も分からないまま不合格になってしまったが、2年目は積極的に予備校の課題を手に入れて研究を重ねた。自分の学習プロセスを客観的に観察して、気づいた点を整理してみたいと思う。

製図試験でも重要な過去問の研究

あらゆる受験勉強において鉄板といわれる学習方法は、過去問題の研究だ。

建築士の試験についても例外はなく、特に学科は問題の8割程度が過去問をアレンジした出題だといわれる。125点満点で90点程度解ければ合格だから、72%の正解率で受かる試験。あらゆる過去問を網羅して解答を暗記して臨めば、それだけで新出問題は捨てても合格できる。

一方、製図試験における過去問題は、せいぜい「こんな感じの課題が出て、この程度の解答だと受かる」という目安でしかない。手に入る限り20年くらい昔の過去問題をあたっても、敷地や要求室の条件がまったく同じということはない。しかも途中で試験内容が変わったり、出題傾向も年々変化するので、過去の解答例を丸暗記するだけでは到底太刀打ちできない。

たいして参考にはならないが、それでも製図の過去問は10年くらいさかのぼって見ておいた方がいい。特にサプライズといわれた年の試験(敷地が縦長だったり斜めだったり既存部があったり)はチェックしておくと、「出題者はこんな揺さぶりをかけてくる」という心構えができる。

過去問からサプライズの方向性は予測できる

今の試験制度ではよほどブラックな取引でもしない限り、本番で予想が大当りすることはなさそうだ。ただし過去問のバリエーションを見ておけば、何となく傾向性みたいなものは察しがつく。

今年のスポーツ施設で問題用紙がA2に増えても、去年のリゾートホテル敷地図ほどには驚かなかった。他施設との一体的な使用を求められても、全客室の眺望指定よりは多様な解釈ができて気持ち的には楽だと感じた。

もしひねりが少ない日建学院の前半課題や、TACの基本問題だけしか見ていなかった初年度生は、このくらいの変化球でもテンパってミス連発してしまったかもしれない。後から冷静に考えればそれほど厳しい条件でもないのだが、試験本番のプレッシャーの中で、練習どおり2時間でエスキースを終わらせようと思うと、焦ってプランがまとまらなくなる。

逆に過年度生であっても、去年の眺望で痛い目にあった人は必要以上に問題文を深読みしてしまう。一体利用のエントランス以外にも、地盤断面図の地下水位、南にある歩行者専用道路とその先の公園、桜並木や避難通路など、意味ありげな罠っぽい要素が散りばめられている。余計な知恵と気負いがある分、完璧な答案をつくろうと思っていつもよりエスキースに時間がかかったと思う。

自分も応用的な課題をこなした数は十分でなかったが、過去問にはなるべく目を通していた。悪ふざけで試験前に架空の敷地とかつくって遊んでいたので、旧校舎や廃プールが出たくらいではたいして驚かなかった。むしろ2年目なのに早々とプールを1階に据えてしまったので、緊張感が足りなかったといえるかもしれない。

エスキースの練習はOJTしかないのか?

7月末にその年の課題が発表されると、大手の予備校がこぞって練習問題をつくり始める。製図受験生の9割くらいは大手3校か個人塾・通信教育など、何らかの教育機関から提供された課題を解くのが一般的だろう。

解答例を見よう見まねでつくってみたプランを講師に添削してもらって、最初の方は基本のゾーニングと動線、次第に居室の快適性とか、構造的・設備的な合理性のようなものも配慮できるようになる。上級レベルになると、各階のホールを広くとり、吹抜けを設けて自然採光をふんだんに取り入れるとか、空間の豊かさ的なところまで意図できるようになる。

何となく学習のプロセスは想像できるのだが、具体的な練習法としては、いまだにOn-the-Job Trainingしかないという状況だ。しかもテキストや講師によって、微妙に教え方が異なる。正確には、それぞれで試験元が「重点的に採点する」と予測している部分が異なる。

スクールによって異なる指導方針

構造の合理性重視なら、不均等なスパン割りやキャンティレバー、無柱空間の上にPC梁の大部屋を積層する計画はご法度だろう。逆に室面積の調整が重要と考えるなら、変則的なスパンを挟んだり、トリッキーな構造で要求面積ぴったりに寄せてくるかもしれない。

大手の予備校同士でも思想が異なるらしく、日建学院の課題答案例では、TACで絶対出てこない室配置が見受けられたりする。細かい部分では上下足履き替えの位置や、風除室の大きさなどもスクールの特徴がみられる。ある程度課題を見比べれば、日建好みとTAC受けしそうな答案を別々につくれそうな感じがした。

予備校の指導方法について、試験元からお墨付きをいただいているわけではない。年によって予想が大きく外れたり、教えていなかった要素が出てきたりするので、受験生も学校選びで慎重になる。

解答例の様式やディティールは異なるが、少なくとも「ゾーニングを徹底する」という方針は全校で共通しているように見える。中途半端なセミナー室や健康相談室をどちらのゾーンに置くかという解釈はまちまちだが、従業員が便所に行くのに利用者ゾーンのホールを突っ切るような動線計画はありえないとされている。

プランニングのルールブックをつくりたい

練習問題を観察していて、各スクールで共通している指導内容はある程度一般化できるように思った。ゾーニング・動線の重要項目以外にも、たとえば利用者・管理者エントランスの配置について、

  1. 敷地が2面接道なら、広い方の道路に利用者出入口、狭い方に管理用通用口を設ける
  2. 敷地が2面接道なら、間口広く接する方に利用者出入口、狭い方に管理用通用口を設ける
  3. 上記1、2が競合する場合、1を優先する(短辺側の広い道路に利用者出入口を設置)

というルールが想定できる。そして今年のスポーツ施設の標準解答例が発表されたら、例外として新しいルールを追加する。

  1. 他施設との一体利用が求められたら、道路でなくてもそちらに利用者出入口を設ける
  2. エントランスの数や方向が自由だったら、なるべく多く色々な方向に出入口を設ける

こういう規則集をパタン・ランゲージのように積み上げていけば、微妙な価値判断で迷うことなくプランを決定するヒントになると思う。さらに各ルールに対して、採点上のインパクトファクターのような重みづけを仮定すれば、「プールへの動線短縮 vs 地下水位」のような矛盾する条件を解く手がかりになるだろう。

おそらく各予備校の内部では、こういう採点基準を設けて生徒の答案を評価していると思われる。その基準をもっと細分化して、具体的ルール集として使いやすく整理すれば、製図の勉強もはかどるはずだ。

製図試験のスタイルは10年先も変わらない

エスキースの添削は、ビジネススクールのケーススタディに似ている。その時々の企業を取り巻く状況が多様すぎるので、一般的な経験則を抽出できず、個別の事例から経営的なノウハウを推論するしかない。

一方、製図試験のマーケットでは、ビジネスの世界ほど目まぐるしく変化するわけではない。問題用紙が大きくなったり、敷地に他の建物が出たりするくらいは、予測可能なパラダイムの範囲内といえる。

十分な量の事例を集めて分析できれば、「10年後も試験で通用するプランニングのルール」というのは抽出できると思う。そして公平性や費用面を考えると、10年先も製図試験はCAD化されず手書きのまま続くと思う。