一級建築士製図試験の学習プロセスにおける、デザインパターンの功罪

シングルコアクロスコリドーという2つの案を提案して考えたが、こういう図式的な解法こそ、まさに試験元が封じようとしている古いカルチャーなのかもしれない。

去年あれほど条件ガチガチで、8mスパンでないと解けなかったリゾートホテル。今年は打って変わって、エントランスもプールの配置も自由という衝撃。まるで「建築設計の考え方はひとつだけでない」という、コンセプトの多様性を認めさせようという意図を感じる。

しかし、結局は受験生の6割に引導が渡される冷酷な試験。もし設問からの解釈自由化が広まる傾向だとすれば、特定のデザインパターンに拘泥することは、自分の首を絞めることになりかねない。

ツインコリドーの反省

昨年のリゾートホテル対策では、日建学院の布教活動により「ツインコリドー」というデザインパターンが試験前に流行した。同サイズの客室や住戸が並ぶホテルや集合住宅において、吹抜けを囲んで回廊をつくり、外側に居室を向ける一般的な手法である。

中央にある吹抜けのおかげで、暗くなりがちな廊下や共用部の採光・通風を改善することができる。片廊下型より共用部の面積が増えてしまうが、「リゾートホテル」から連想されるゆとりある空間、パッシブデザインの実現という意味で、昨年はこれが鉄板と信じられていた。

あまりに図式的すぎたせいか、試験本番ではツインコリドーを根本から封じる、眺望規制という制約が課せられた。L字でもコの字でも、とにかく北向き客室だけ避ければ条件を満たせる可能性はあったのだが、ツインコリドーしか覚えてこなかったワンパターン受験生は、情け容赦なく合格圏外に吹っ飛ばされた。

支配的すぎるパターンは逆に危うい

一連の経緯を振り返ると、ある年の課題に対してひとつの手法が強力過ぎて支配的になった場合、それに頼るのはかえって危ない。実務では定石といえるような手法でも、暗記詰め込み型の受験生をふるいにかけるため、試験本番で禁じてくるおそれがある。

これだけ的確に予備校の裏をかいてくる試験元は、きっと大手校にスパイを送り込んでいるに違いない。あるいは考えたくないことだが、大手校と試験元が談合して毎年の課題を決めている可能性もある。

受験業界に一定数の浪人生を供給するため、持ち回りで合格率を配分しているのだろう。「昨年は日建学院さんに泣いてもらったから、今年は直前講座で課題をちょっと漏らしていいよ」とか。

昨年はツインコリドーだけでなく、空調設備の主流だったパッケージエアコン式も見事にはずされた。この規模のホテルにおいては、効率的・経済的にもっとも適切とみなせる空冷ヒートポンプパッケージしかないだろうという大方の予測に反して、指定されたのは中央制御のFCUだった。

日建課題を見ていた自分は、記述の空調設備に「パッケージ」としか書く練習をしていなかった。まるで一級の製図試験なのに、構造種別が突然木造や鉄骨造と指定されたようなものだ。

建築士の遺伝的多様性

これは現実の建築設計でなく、あくまで試験である。暗記一辺倒、地頭の悪いエセ建築士をいかにあぶりだすかという目的で、地下水や延焼ラインなど数々のトラップが仕掛けられている。

実務経験はないが暗記は得意な方なので、学科は最低限の努力で合格できた。しかし、同じやり方で製図の答案例を暗記しても、こちらは逆にパターン化されたコピペ解答を落とす仕掛けが散りばめられていた。

条件に応じて、プランでも設備でも構造でも、いくつもある引き出しの中から最善のソリューションを提案する能力こそが、試験元から求められているようだ。製図試験では、建築士が絶滅しないよう遺伝的多様性を維持する目的で、毎年必ず意外性のある課題が出てくるのだろう。

エスキース上達のプロセス

昨年のツインコリドーで挫折した経験からいうと、製図試験の解法パターンや設備のオプションは複数使いこなせた方がいい。

エスキースの上達度を測る指標のひとつが、「パズルでなくゾーニングで解けるようになったか」という話がある。製図試験の知識がない初年度生は、まず指定された部屋をバラバラに並べ、次に各室を通れるよう廊下をつくるというやり方になりがちである。

しばらく課題をこなすと、最初に特殊用途・共用部門・管理部門のゾーン分けを行ってから、利用者・管理者階段を結ぶ廊下をつくると図式が明快になることに気づく。先にプランの骨格をつくってから、残りの余白に部屋を収めていくという方式である。

作図のプロセスと同じで、ただやみくもに上から書いていくのではなく、複数の横線・縦線をグループ化してまとめて書くのが早いのと同じである。部門と廊下で構造化されたプランに部屋を当てはめていけば、あとから動線の問題で悩むことがない。

デザインパターンの使い分けが必要

さらに練習を積むと、部屋の大きさや採光・眺望指定など条件に応じて典型的な配置パターンを当てはめ、そこからプランを崩して個々の課題に合わせていくというやり方に進化する。

今年のスポーツ施設で言うと、「運動室など辺長比指定がある大空間を求められた場合は、プール横置きにして隣に並べるとうまくいく」とか、そういう局所最適化のテクニックが終盤で身につく。

試験本番では採点項目の重要度を推測し、「今回はこの定石パターンを諦めて、こちらを採用した方が採点者にうけそう」という価値判断を積み重ねることになる。そこでツインコリドーしかボキャブラリーにないと、条件違反を覚悟で吹抜け回廊の2階客室を計画するしか術がない。

それが合否を左右する至上命題であれば、いかに洗練されたプランを書いてもランク3に直行という、悲しい現実が待っている。デザインパターンのような構造化された知識は必要だが、状況に応じて複数の手法を使い分けられる、高度なスキルが要求されている。

パターンは手段であって目的でない

例えばもし将来、3層複合施設の課題で「クロスコリドー」というパターンが主流になれば、試験元はあえて封じる課題を出題してくるかもしれない。アプローチも眺望もすべて特定方向を指定して、実質的に片廊下かL字型でしか解けないプランとか。

基本の7mグリッドを出発点にして、外構の余白と室面積から局所的に6~8mに伸び縮みさせる「スパン調整」というのも、古くからあるデザインパターンのひとつだ。いずれこの解法が普及しすぎると、5mとか9mでないと解けない課題が出てくるかもしれない。「間口4.5mのプール10個、すべて北向き」みたいな。

結局のところ、図形的な解法パターンの暗記とは予備校課題向けのスキルで、試験本番ではあてにならないものなのかもしれない。大手の予備校といっても課題をつくるのは一握りの上級講師だろうから、どうしてもバリエーションが似通ってくる。何題も解いていれば、自然と上司に受けるプランがわかってくるというような、社内処世術みたいなものだ。

解答例の暗記でない、建築士としてもっと本質的な技術を磨かないと、今後ますます複雑化しそうな試験課題に対応できない気がする。デザインパターンは試験勉強の有効な手段であるが、決してその習得だけを目的としてはいけない。