一級建築士受験小説『地下機械室の手記』~配管を解決する呪文1FL-1

見るたびに親近感を覚えて癒される製図試験.comさんの1階プール図面。机の前に貼って眺めていたら、ある事実に気づいた。

MR(機械室)の室名表記の下にある「1FL-1」…何だろうと思って断面図を見たら、機械室の床面が他の1階フロアレベルより1m下がっている。これはもしや、プール下のピットまで温水循環させるために設けられた、配管用の段差なのではなかろうか。

プールと機械室を両方1階に配置するのは、地下を介した配管接続が必要なため、一般的には不経済・非効率といわれている。しかし、機械室の床を1m下げることでピットにPSを通しやすくなり、デメリットが緩和されるという裏技に見える。

プールから離して機械室を任意にワープできるとなれば、平面計画の自由度は飛躍的に高まる。コムさんが図面に表現した半地下機械室+1階プールの組み合わせは、もしかすると今年の課題における最適解ではなかろうか。

そもそも半地下室はありなのか?

建築基準法施行令1条2号を紐解いてみよう。ご存知のとおり「地階」の定義とは、

床が地盤面下にある階で、床面から地盤面までの高さがその階の天井の高さの三分の一以上のものをいう。

学科試験では基本中の基本だが、要するに地面への埋まり具合が天井高の1/3未満であれば、その部屋は地階とみなされない。今年の設問は「地上3階建て」なので、地下1階を計画したら当然アウトだろう。しかし、微妙に地面を掘った半地下室はギリギリセーフと考えられる。

1階床面に段差ができるので、バリアフリー的にはネガティブな発想だ。ただし、管理部門に限ってしかも機械室となれば、スロープを設けずやってしまってOKだと思う。

PSの横引きは長くなるが…

たとえ地下を経由したとしても、PSの長い横引きはデメリットが多かったはず。記述の練習でも、「漏水対策のためPSの横引きを短く…」とかさんざん書いた。

製図試験における判断は「あちらを立てば、こちらが立たず」というジレンマのオンパレード。プールの配管から水が漏れようとも、どうせ1階のピット内は湧水じゃぶじゃぶだと割り切れば、他の部屋への影響は少ない。

もしこの試験でゾーニング&動線が最優先だとすれば、設備面のリスクを多少許容してでも、「1階エントランス直結プール」のコンセプトを実現する大義はある。ただでさえ貴重な縦置きプールの間口を更衣室で2コマ取られるから、利用者にはどうでもいい機械室を分離して、代わりに監視員室を埋め込むのというのも筋が通る。

もし1階の階高6mなら

自分の場合は1階プール横置きだったので、長辺側に機械室を直接接続する余地があった。本番では実践できなかったので完全に後出しジャンケンだが、床面を1m下げてボイラーやろ過装置からプール下に配管しやすく配慮すれば、設備面の減点を少しは減らせたかもしれない。

床を下げられるのは天井高1/3までという制約があるので、1階が4mの階高だとx/(x+4)<1/3で地階とみなられず床を下げられる範囲は2m未満。施行令の「天井の高さ」というのが、梁下を指すのかわからないが、「平均の高さ」とするともう少し余裕を見ておいた方がよさそうだ。

今回、約200㎡の多目的スポーツ室まで、プール・更衣室Aと一緒に1階に収めるのは難しいと思う。もし仮にカフェとコンセプトを上階に退避させ、代わりに多目的室を1階に持ってくれば、機械室の天井高をアップする理由ができる。

仮に1階の階高6m、2階スラブの厚みを引いて機械室の天井高8.3mとすれば、地下室と見なされない床面はさらに1FL-2.5mくらいまで下げられる。何となくポンチ絵を描いてみた。

梁の高さなど安全側をみて掘り下げを浅くするとしても、これは1階プールの配管ピットと同じか、それより低いレベルだ。1階から2階のプールに水を押し上げるより、直結横流しできてむしろ効率的ではなかろうか。

根切りは最小限に

機械室を半地下にすることで設備面のデメリットは緩和できそうだが、例の地下水と基礎構造の「経済性」問題は激しく悪化する。

床面2.5m下げた機械室の下に、さらにべた基礎ピット…2.2mの地下水位は余裕でオーバーする。プールの基礎底盤がすでに地下3mに達しているので、今さらどうこう言っても無駄だが、機械室以外の1階部分は模範解答通り基礎底面2mの独立基礎とすれば、影響は最小限に抑えられるはず。

悩ましいのは、1/200断面図でのアイデア表現方法だ。本来であれば、プールと3層吹抜け、風除室あたりを含んでカットするのが、図面として見栄えがいいだろう。プールと吹抜けのどちらにも採光・通風の矢印を書けて、パッシブデザインをアピールできる。

製図試験.comさんの図面も、広い吹抜けを計画しながら、あえて地味な機械室で断面を切っているのは、やはり地下ピットの構造を見せたいからだとご察しする。

南北方向に4スパンで切れば、空きスペースに断面図2つ書けないかなと思ったが、そのために記述のイラスト欄があるのを思い出した。図面の方では、パッシブそうな吹抜け断面を見せておいて、記述の略図で機械室だけ床下げしている工夫を伝えればいい。

プールも地下に配置する案

機械室を半地下にすることで設備計画上プラスになりそうだが、実はプールも地下に埋設するとメリットがありそうに思われる。先日プールの設置階構成を整理していて、地下1階というパターンにも気づいたが、あまりに突飛だったので触れなかった。

各校の課題を見ながら、なぜ一つもプール室を地下配置する答案例が出てこないのか、不思議に思った人も多いはず。事前告知の要求図書は「1・2・3階平面図」。当然地下1階の平面図は出てこないので、仮に作図で表現するとしても、地下設備機械室と同じ点線・面積表記だけで済む。

今年の課題、スポーツ施設で根幹に関わる温水プール。それを地下に落とし込めて点線バッテンで省略するとは、手抜きもはなはだしい。あれほど終盤、変則課題を打ち出してきた日建学院でさえ、地下にプールを置く解答例は用意していなかった。

もし試験本番で絶望的にエスキースがまとまらず、仮にプールの設置階自由・地下機械室もありだとしたら、プールを地下に設ける案もひそかに考えていた。おそらく全体の床面積に地階は含まないだろうから、上階は自由にレイアウト、吹抜けし放題。そしてプールは点線表記のわずか1分で作図できる。

ジョークの通じる採点官でなければ、間違いなく印象は悪い。図面未完成、即日ランク4を回避するためだけの、緊急大作戦といえる。

地下プールに地中熱をダイレクトゲイン

一方、パッシブデザインの記述例を眺めていて気付いたのだが、地中は年間一定温度に保たれているので、プールの空調と相性ぴったりではないか。

温水プールの室温は一年を通して約30度。夏場以外はほぼ暖房が必要になるから、空調エネルギーの消費量は大きい。もし冬場にアースチューブを経由して15度程度まで温めた外気を取り入れられるなら、かなりの省エネ効果が期待できる。

それならむしろ、プール自体を地中に埋めてしまうのはどうだろう。地盤に接した壁から直接ぬくぬくした温度が伝わってきて、床暖房のようにプールサイドを温めてくれそうだ。学科の設備は苦手だったので幼稚な表現しかできないのは残念だが、年間を通した温度差を計算すれば、きっとメリットの方が大きいはず。

プール1階にして水深分の1mでも地面に埋めれば、多少は地中熱の恩恵にあずかることができるのでは、とおぼろげながら考えていた。しかしもう少し調べてみると、地中熱は深さ10mくらいまで潜らないと安定しないようだ。

答案例によくあるアースチューブの表現だと、せいぜいGLマイナス2mの地下ピットに突っ込んでいるだけに見える。実際はそこからさらに地下10mまで、曲がりくねっているということなのだろうか。

根切り土はコンセプトルームで再利用

もちろんプールを地中化する場合も、掘削量が半端なくなるのは目に見えている。旧プールの良質な埋め戻し土や、N値=30の強固な砂礫層…掘り起こした土砂を何とかする別のアイデアでも考えないと、厳しく追及されそうだ。

地域住民の健康増進と世代間交流に寄与する、こんなコンセプトはどうだろう。

「台風や水害にそなえて、親子で土嚢づくりを楽しむイベント開催」

嵐の前に、役所の職員さんが必死に土嚢をつくっているのを手伝ったことがある。1日がかりの重労働だったので、これを楽しくイベント化して住民総出でやれば楽しめると思った。

町ごとにチームを組んで「時間内に何個土嚢をつくれたか競争」なんて企画すると、きっと子どもたちが張り切ってくれそう。材料の土は南の公園にたくさん積んである。

基礎構造の経済性に配慮するなら、こんなネタもありだったのではないかと思う。2年続けてコンセプトとともに出題された「地盤条件と基礎構造」は、今後も記述の定番になりそうだ。来年の受験生は、こんなふうに地中からコンセプトを考えてみるのはいかがだろう。