実務経験ゼロでも大学院に行けば一級建築士の受験資格をもらえた時代

昨年、一級建築士の一次学科試験に合格したが、二次試験の製図はランク3で落ちた。昔は翌年だけ学科免除の特典があったはずだが、今は2年間の猶予があるらしい。受験資格を厳格化した分、再受験組の負担を少し減らした感じだろうか。合格率はほぼ一定になるようコントロールされているので、年によって有利/不利ということはない。

学科試験については実務経験がなく独学でも、過去問の解答暗記で受かることがわかった。製図試験も実務とはかけ離れたパズルゲームや注意力・忍耐力テストのようなものとわかったので、しぶとく続ければいつか受かりそうな気もする。

一体どういったバックグランドの人間がこの試験を受けているのか、少し詳しく説明してみよう。かつては設計事務所で本物の実務経験がなくても、受験資格を得られた時代があったのだ。

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大学院で受験資格が得られた時代

大学の学部は建築学科だったが、大学院から情報系に転向した。一応学部での経験を生かした建築っぽい研究活動をしていたので、大学院の2年間が実務経験として認められた。念のため試験元に研究成果の論文など資料を提出したが、特に詮索されることはなかった。掲載先が建築学会でなくても問題はなかったようだ。

その後、姉歯事件を発端とする建築士法改正で基準が厳格になり、設計事務所での実務やインターン経験がないと受験資格をもらえなくなった。それ以前の卒業生にはルール適用されないようなので、ぎりぎりセーフだ。今回も申請フォームで過去の受験番号を入力すれば、問題なく申し込みできて受験票も届いた。


万が一の際は生命に関わる職種なので、消費者としては資格の基準が厳しい方が安心だ。しかし最近問題になっているのは建築家のスキルというよりモラルの方なので、締め付けを厳しくしても業界の体質が変わるとは思われない。

給与ゼロでも働く根気が試される

現場で汗を流さないと受験資格をもらえない今の若い人は大変だと思う。学生時代、設計関連のバイト募集を見て現場事務所まで面接に行ったら、「タダでもやってくれますか?」と聞かれて唖然とした。

奨学金を細々とやりくりしている貧乏学生だったので、時給ゼロのバイトはさすがに無理だと思った。当時は設計事務所に就職しても、社会保険どころか最低持久なんて存在しないという話はざらだった。

それでも修行と思って下積みを積んだ人だけが、生き残っていける世界なのだろう。別に建築学科に限らないが、親が富裕で仕送りをふんだんにもらえる学生は学業に専念できるという格差がある。もっとも大学にも行かず独学を貫いた安藤忠雄のような例外もあるので、逆境がマイナスになるとは一概にいえない。

受験に実務が必須になったのは面倒だが、もともとブラックな労働環境なので早めに実態を知っておくのも悪くないだろう。性格的に向いてない、センスがない、稼げないとわかれば、見切りをつけて転職する学生も少なくない。さいわい設計演習で培われるマーケティング・プレゼン能力は潰しが利くので、広告代理店に勤めて稼いでいる知り合いも多い。

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実務経験ゼロのゆとり世代受験生

結果的に自分は設計の実務経験を積まずペーパーワークだけで受験資格を得ることができた。ある意味、ゆとり世代の建築学生といえる。

日雇いの土方バイトはさんざんこなしたので、工事現場でタイルカーペットや什器類を運ぶのは得意だ。測量のバイトで、ダムに水没する廃村や荒野でひたすら標石用の穴をバールで掘るという、シュールな仕事をこなした経験もある。しかし普通のバイトで設計の実務経験を得ることはできなかった。たまに設計事務所で勤めても、自分が得意だった映像編集やCADのオペレーションばかりやらされたものだ。

どのみち設計のセンスはなかったので、特技を生かしてIT系に転職したのはよかったのだろう。フリーランスになって所得は下がったが、自由な暮らしを満喫している。もし20代から15年も過酷な設計事務所で下積みしていたら、体を壊すか精神を病んでいたと思う。貯蓄や資産形成とも無縁だっただろう。

資格試験は実務に関係ない

実務経験がないと設備や施工の専門用語がわからず、試験勉強もやりにくい。しかし学科試験は暗記で対策でき、実技試験も今どき製図版で手描きする特殊なパズル問題みたいなもの。どちらも最低限の常識を問われるが、実務能力を担保するものではない。

40代以上の建築家には意外とこういう人も多いので、住宅の設計を頼むなら要件の厳しくなった若手建築家に依頼した方が無難かもしれない。雨漏りや設計不良のトラブルを避けるなら、下手なデザイナーズより勾配屋根を架けてくれる工務店に相談した方がいい。

有名建築家の作品でも、地下水が染み出たり通路崩落したりするスキャンダルはたまにある。施主側としては、くじ引きで結婚相手を選ぶようなものかもしれない。コンペの応募に資格は要求されるが、同時に過去の実績が重視されるのは、そういう理由があるのだろう。